スキルアウトと地球の記憶   作:マルチスキルドーパント

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これからの方針

 

 

 

 

 

 石のつぶてが上空から降り注ぎ、上条当麻は呑み込まれた。

 土煙が舞い上がり、藍花悦は動きを待つ。

 随分と奇妙な能力を保持しているようだし、正しく天敵と言えるような無力化の存在は脅威だ。

 正しい判断を妥当にしたつもりだが、通じたか試してみた。

 暫くして、土煙が晴れる頃、石に埋もれた上条当麻が気絶してる状態で見えた。

 目立った外傷は無さそうだ。薄汚れてはいるが、四肢も繋がったままだった。

(生きてる。怪我も……あんまりしてないみたいだな。あの弾幕食らったのに。こいつ本当に人間か?)

 ピクピク痙攣しているので死んではいない。

 だが、気絶しているのでは話を聞き出せない。

 無抵抗の人間を襲うとなれば、流石にあの人が黙ってはいない。

 一応でも、こういう形での活動は黙認してもらってるだけで許されているわけでもない。

 これ以上は過剰な攻撃になる。仕方無く、戻ることにした。

 あの人に報告しておこう。上条当麻の友人にガイアメモリを知る人間がいる、と。

 再びフードを被って変質者に戻り、帰路につく。

 上条当麻も一時間もしないうちに回復して、嵐のようなレベル5の攻撃に大ケガしなかった幸運を噛み締めつつ、帰った。

 因みに大きな怪我もなくレベル5から逃げ切れるレベル0は、多分こいつだけだ。

 激戦を経て、直感的に防御と回避を組み合わせる最適解を出せる才能が上条当麻にはあるが、それを藍花悦が知るよしもない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 裏側では上条当麻が酷い目に遭っていた。

 そんなことは全く知らない錬太郎たちは、数日大人しくしていた。

 モーリッツや雫も連日宿泊しており、姉妹が受け入れなし崩しに暮らしている。

「わ、わたしは無傷なんだけど……」

「月川も同じスキルアウトでしょうに。個人行動をして、本当に無事でいる保証はありませんよ」

 おずおずとご厄介になるのは気が引ける雫は柳に言うが、却下される。

 そもそも野郎たちは、どうもガイアメモリを持っていないと知られているのか狙われない。

 主に女子たちが、腕っぷしも弱いしメンタルも弱いと言う事で狙いが定まっていると柳は分析する。

「毒島さんや鈴木、上原は何も起きていないそうです。ガイアメモリ、持っていないので価値がないんでしょう」

 一応何かあれば直ぐに近場の風紀委員に言えとスキルアウトの立場では抱えきれない問題は権力で庇うと、物理でダメなら組織力と、柳が頑張って話を通して警備員にも助力を漕ぎ着けた。

 そんな風に手探りで妹が頑張っているのに姉と来たら。

「はぁ……はぁ……もーちゃん、抵抗はしても無駄! さぁ、お姉ちゃんとお風呂に入るんだよ!!」

「みぎゃああああーーーーー!!」

 モーリッツが追い込まれていた。

 自制しない杠が、毎日世話を焼いているのはいい。

 柳が外回り、杠内回りなのもいい。

 ただモーリッツにセクハラするのは止めない。

 今日もお風呂に一緒に連れ込むと躍起になって部屋の隅っこに小動物を追い込んでいた。

「触るな! 近寄るなロリコン!! モーリッツはまだ綺麗な身体でいるのよ!!」

「お姉ちゃんが汚いとでも言うの!? 失礼だよ! これでも弟君以外に予定は」

「杠、黙れ。ゴキブリ突き刺すぞ」

「弟君、それはいけない」

 下ネタを言う前に阻止する。一室しか無いんだから騒ぐなと頭痛を覚える錬太郎がぼやく。

 コックローチを使うと脅すと柳まで反応するので言いたくない。

「お兄ちゃん、ゴキブリ使ったらニワトリ頭の殺虫剤をぶちこみますよ!?」

「緊張しそうな殺虫剤を構えるんじゃない。やらねえよ」

 キッチンで夕飯の支度をする柳に、体調が回復傾向の錬太郎はベッドから起き上がって言う。

 真面目に殺虫剤を構えていた涙目の柳は本当にゴキブリが嫌いなのである。

「お、落ち着いて杠さん……。リッツが嫌がって……」

 雫も緩衝材になるが、それで止まる杠ではない。

 鼻息荒く、怯えるモーリッツに手を伸ばしていた。

「その柔らかな肢体がお姉ちゃんを魅了するんだよ……触りたい、嗅ぎたい……」

「みぎゃああああああ! 頭の中まで変態ワードで埋め尽くされているよこの変態!? 言葉と思考が完全一致ってあんた最悪だ! 死ね!! 今すぐ死ね!!」

 モーリッツはパニックになって、バタバタ暴れて抵抗するが、体格は杠のほうに部がある。

 結局毎回、ぬいぐるみ宜しく回収されて抵抗むなしく……。

 

「みゃあああああああああ!!」

 

 という悲しい悲鳴が風呂場から聞こえてくる。連れ込まれて可愛がりを受けていく始末。

 お風呂上がりに、寝巻きに着替えた杠と抱き締められ白目を剥いて口から泡をふくモーリッツの光景も慣れてきた。

 ぐったりとしているぬいぐるみ。

 姉は良いがモーリッツのストレスがマッハでヤバい。

 いい加減、自宅療養も飽きてきた。体調も良くなってきたし、本格的に対処を考える。

 夕飯を囲みながら、日課になってきていた五人での食事を始める。

 今日は柳のカレーだった。

「モーリッツ的にはやっぱ相手をぶちのめす対処療法しかないと思うよ。どうせ追跡できないと思うし、警備員より厄介な事に変わりがない。自衛していくのが今の方法かな。一応、モーリッツには根本的な解決法は無いことはないけど危ない橋を渡るから信用できない相手には頼みたくないんだよなぁ……」

 警備員の技術でも勝てない闇は何処にでもあり、外で言う極道みたいなもんだとモーリッツは言った。

 俗に言うマフィアに狙われたと分かりやすく例える。カレーを食べながら。

「モーリッツはどうにか出来るのですか?」

 柳が怪訝そうに聞く。風紀委員としては聞き捨てならない。

 渋い顔の彼女に、真横から身体を触ろうと黙って手を伸ばす杠の手を錬太郎が叩き落とすのを見ながら答える。

「モーリッツは別に、悪い連中とは極力つるんではないよ。ただ、知り合いにね……胡散臭いって言うか、キナ臭いことしている女子高生いるんだよ。思考を聞いて、マジっぽいんだ。まあ、適当に盗み聞きした程度だから、ホントかは分かんないし、向こうはモーリッツのことそこそこ信じているみたいだけど、モーリッツは全然信用しない一方的な関係だけども。頼めば、やってはくれると思う。多分」

 また、お得意のインスタントな交遊関係。

 そういう裏家業みたいなものを生業にしていそうな怪しい奴がいて、結構友達思いと思われるので利用できそうとは言う。

「リッツ、それ仕返しされない……?」

 雫の懸念通り、バレたらもっと現状が悪化する。

 杠も同感とは言うが。

「でもさ、現状モーリッツたちじゃどん詰まりじゃん。利用できるものは利用しないと、死ぬの先輩だよ? モーリッツたちも今回みたいに邪魔だからお掃除、なんて扱われたらたまったもんじゃないっての。風紀委員にだって限界あるし、警備員だってマフィアに勝てないよ。リスク抱えるなら、イーブンだよ。味方のリスクのほうがマシだと思うね」

「あぁ、それは同感だわな。杠も柳も助けてくれるけど、相手が悪すぎるわ。出来るなら、博打で良いから攻勢に出たいぜ」

 錬太郎もあんなのはゴメンと、賛同する。

 現状一般生徒もスキルアウトも敵だと言うのに殺し屋まで来ていたら心労で死ぬ。

 しかも、捕まえても意味がない。進まない。

 ならば、僅かでも良いからどうにかしないと袋のネズミと錬太郎は腕組みして唸る。

「お兄ちゃん、ですが……」

「分かってる。他に手立てがあるならそっち優先する。これは最後の手段にしておきたい」

 迂闊な自滅は防ぐ意味で、ジョーカーのようにしておこうと留めておく。

 それよりも、今はもっと身を守れる手段が欲しい。

「……ガイアメモリに慣れるしかないのかな」

 副作用を知らない姉妹には秘密にしているので、雫も余計なことは言わない。

 でも、自衛するならガイアメモリによる応戦が確実で妥当とも思う。

「戦えるの? またドーパントになったら、追い込まれちゃうよ?」

 心配そうに杠が言うが、ドーパントに変異されて困るのは先ず、錬太郎が内容を理解していないこと。

 分からないまま、ばら蒔くから後手になるのだ。

「作ったら弟君は効果を試さないとダメじゃないかな。そこが問題だと思う」

 杠にしては珍しく的を射た発言。

 その通りだと素直に非を認めつつも言い返す。

「じゃあ杠も協力してくれよ? 先ずはゴキ……」

「ことある事にお姉ちゃんに黒い油虫を突き刺そうとするの止めてね。お姉ちゃん悲しくて泣いちゃうよ」

 わざとらしい嘘泣きの真似をする杠。

 ウザいので切り捨てる錬太郎。

「勝手に泣いてろ三重の拗らせた変態」

「弟君が反抗期だよなーちゃん……」

「お姉ちゃんがモーリッツを弄ぶからでしょうが」

 妹からも見捨てられていた。マジで姉は落ち込んでいた。

「あはは……」

 苦笑いの雫は追求しないでおいた。

 閑話休題。ガイアメモリの把握、及び三人の基礎的な実戦の経験不足。

 それが、最も課題になるべき問題だと皆は話し合った。

「詰まりは、トレーニングすりゃあいいわけじゃん? ドーパント並みに強い人と」

 モーリッツが食べ終えて、膝の上に誘拐しようとする杠から逃れて雫の膝の上に避難して言った。

 戦いに慣れるために、身を守る特訓をする。錬太郎は自分の力を把握する。

 何となく、解決策が見えてくる。乗り気じゃない雫も、目的は今は忘れろと杠は言う。

「いいんだよ。どんなことであれ、皆が無事なら。流儀はそれぞれで好きに決めるべき。別に此方から襲いかかる訳じゃないし、前提が抗戦だから。抗うことに怖がらなくていいの、月川さん。いざとなればお姉ちゃんもドーパントになれるし、一緒に戦う」

 個人的な考えは縛らない。思うようにして、互いに助け合えば。

 雫はそう言う杠に意外そうな顔をする。モーリッツはそれどころじゃない。

 あのロリコン、今自分でドーパントになれるとか言った。

 どう言うことか錬太郎に問いただすと。

「あー……学園都市に入る前な。まだ、ガイアメモリの事をわかってないころに一回、俺達ドーパントになってるんだよ。実家で。だから、杠も柳も能力者になる前だっけ?」

 と、初耳の事を言っていた。

 因みに副作用は出ていないので、恐らく健全なメンタルをしているのだろう。

 羨ましい限りであると二人は思った。

「そうですね。中学の時期でしたよ。そう言えば、今のあたしの能力とあの時のガイアメモリって、似たようなもんだった気がしますが気のせいでしょうか?」

「んー? その辺はよくわかんない。って言うかお姉ちゃんそもそも何になったっけ? ドーパントになれるのは覚えているけどなに使ったかは忘れちゃった」

 姉妹は何を使ったかはあまり覚えてないそうだ。

 覚えているのは錬太郎が悪夢のゴキブリとなって姉妹に殺虫剤を受けて死んだことぐらい。

「お兄ちゃんがブタになったときはゴキブリになったときぐらいのショックでした」

「ペットガイアメモリのことか? あれそう言うもんみたいだから無茶言うなよ」

 数少ない作用のわかる安全なガイアメモリなのだ。

 責められても困るとじとっとした目で見てくる柳に肩を竦める錬太郎。

「二人ともドーパントになってたんだ……」

「道理でドーパントに偏見ないわけだ。経験あったなら早く言ってよね」

 驚きの雫がドーパントの先輩だったとはじめて知る。

 モーリッツもだったら最悪ドーパントになって相手してくれと言うのでそれは機会があれば。

 今は、ともあれ戦いの心構えを作るために、特訓の準備をしようと言う結論になった。

 そして、後日……。

 

「あぁーっ!! 常盤台のミコチュー!!」

「ぶはっ……。あの人、この前のミコチューさんだよね、大山君……」

「ぷっくく……止めろ月川、あいつが面白電気ネズミにしか見えなくなる……」

「出会って早々人を指差してミコチュー言うなっ!! そこの二人は笑い堪えるな!」

 

 杠が、最高の特訓の相手をお願いしたと言ったが、まさかの常盤台のミコチュー参上。

 御坂美琴という、話も通じるし理解もするし協力もしてくれる、確かに最高の特訓の相手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガイアメモリ解説。

 アイスエイジガイアメモリ。

 詳細不明。

 

 フレイムガイアメモリ。

 詳細不明。

 

 UFOガイアメモリ。

 詳細不明。

 

 解説終了。


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