スキルアウトと地球の記憶   作:マルチスキルドーパント

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加入、スキルアウト

 

 

 

 

 

 その白銀の大きなシールドは、腕を庇うには十分な大きさがある。

 持ち上げるように拾い上げた雫は、睨み付ける。

 先ほど、押し流した連中も変異を解いたことで水流が途切れてずぶ濡れになりつつ戻ってきた。

 この寒い外でも、敵意は失うことがない。寧ろ余計に悪化したか。

「このガキ……調子に乗りやがって……!!」

 吹っ飛んだ一人が呻きながら起き上がる。

 戦意は一向に減らない。ある程度強大なパワーを見せてビビって逃げたのか数自体は減っている。

 それでも、武装した人数は10は超えている。

 雫とバリアドーパントになった錬太郎では、一見すると不利に見える。

「退けって言うのが理解できねえのか。次は容赦しねえぞお前ら」

 雫が牽制する前に、本人が言葉を発した。

 怒り狂う、我慢を強いられた被害者の声。

 やり方を自重しない、彼を羨望と嫉妬で焦がす弱者に対してハッキリと言った。

「いい加減にしろって言ってるんだよこのボケ。頭の中までレベル0とか言わねえよな?」

「あんだとっ!?」

 幸い重火器を持っているような物騒な連中はいない。

 それでも、能力を使い遠距離攻撃が可能な相手もいる。

 なのに、バリアドーパントは怯まない。

 挑発するように、本音をぶちまける。

「常識がねえのかって言ってるんだ。いきなり武器なんぞ持ち出して脅迫しようなんざ、やることがガキなんだよ。ちゃんと常識学んでから顔出せ。それすら出来ねえなら今すぐ帰れ。じゃないと本気でぶっ殺す」

「テメェ……!!」

 気に入らないなら力ずく。そういう発想が野蛮で迷惑と言っている。

 なのに言っても相変わらず聞かない。逆上する。聞く気がないと、雫は言った。

「……無理だよ大山君。こう言う人はね、自分が気に入らない展開になると直ぐに癇癪を起こすような人間だからさ。言うだけ無駄だし、本当に大怪我させておく? ……わたしは、やりたくないけど。相手が武器持ってるなら、過剰防衛になるかな」

 哀れむように言うと、益々怒り狂う相手方。

 そもそもなぜ、彼女だけ渡していると聞くと呆れたようにバリアドーパントは教えた。

「バカか。どこの世界に脅して追いかける奴に渡す人間がいるんだ。お前らは金を寄越せって自分よりも強い能力者に言われて素直に渡すのか? それならいいぜ? 俺も渡してやるよ。代わりに先ずは大能力者に脅されて笑顔で金を渡せよ? 無抵抗で、本心からな」

 暗に自分のやっていることを棚上げしないでほざけと糾弾。

 詰まりは、雫はそれ以外の方法で受け取った。そういう意味なのだ。

 願望のみで行動するようなスキルアウトや無能力者と一緒にするなと彼は言う。

「うるせえよ! つべこべ言わずに渡さねえと、こっちも本気で」

「殺せると思ってるのか。この俺を? おい、身の程知らずも大概にしろよ。誰を相手していると思っているんだ?」

 あまりにも相手が退かないので、とうとう錬太郎も脅しもダメなら学園都市の流儀で対応する。

 突然、冷えた声色で落ち着いたように口調を変えた。

「大山君……?」

「まったくよぉ、どいつもこいつも俺を侮っているんじゃないか? なぁ、月川。教えてやれ、お前が本当は何なのか」

「……」

 どうやら、戦いを避けたいのか脅しのやり方を変えたようだ。

 雫もすぐに分かったので、歩調を合わせる。

「……わたしは、ただのレベル0だよ。一応能力はあるけど、なんにも起こせない単なる底辺」

「嘘を言うな!! じゃあさっきのあれはなんだってんだよ!?」

 一人が責める。一閃で大半の相手を押し流す水流を起こす無能力者がどこにいる。

 矛盾しているという指摘は当然分かっていた。

「だからだってこと。わたしは『水流使い』っていう、水流操作の完全上位互換……だったんだよ。レベルが低すぎて、何もできないけど。でも本来は、水の操作に関して特化したそこそこ珍しい能力なの。習ったでしょ?」

 雫は彼を構えながら言った。ハイドロコントロール。そう、彼女は呼ばれていた。

 意識するのみで周囲の水分を自在に操る水流操作の上位互換。

 最悪風呂場でも能力を使える、ハズのモノだった。現実はレベル0。

 名前だけで、努力したって成長しない悲しいものだった。

 授業でも習う、ありふれた水に関する能力者の中では特化した一芸があったのに。

 素質はあっても開花しない。それが、月川雫の能力だった。

「わたしは前提が操るだけならそれなりに意味があるんだって。自覚ないし実感もない。そうだよね、レベル0だもの。……けど、見たでしょう? あれが、大山君の能力……『星の記憶』。擬似的な多才能力と言われる、所以。わたしは大山君に救われたの。だから、敵対なんか絶対しない。するぐらいならもう一回死ぬ」

 最低限の素質があれば、あれ程のパワーを引き出せる。

 どんなに弱くても、強くなれる。夢のような能力。

 だが。

 

「でも、これは魔法じゃないから。結局副作用が……あるんだよ。無視できない、重大な欠点が」

 

 でっち上げ開始。以前あった似たような話から抜粋して付け加える。

 視線を落として、悲痛そうな顔に意識して変えて、仕方無いと言うように。

 本人は黙っているが、雫は体験者として言える立場。

 上手い話には代償は付き物。そういう感じに仕立てあげる。

「代償……?」

「うん。これ、麻薬なんだよ。一種の。使う度におかしくなっていくけど、本当にいいの? わたしみたいに、こんなになるよ?」

 恩人のためなら、自分の身体だって使ってやる。

 怪訝そうにする彼らに、制服の袖を捲って腕を見せた。

 ……おぞましい肌をしていた。

 縫合のあとだらけだった。夥しい傷跡が、彼女の細腕には刻まれている。

 見えていない錬太郎は分からないが、見ていた彼らは息を呑んだ。

「分かる? 大山君の能力を使うってことは、劇薬を体内に入れるのと同じ。ボロボロに内部も外部もなっていく覚悟があるんだよね? 最後には、死ぬ。脳死になって、学園都市の医療技術でも助からないぐらい、自分が壊れていく。精神もおかしくなる。結局頭が真っ先にやられるから当然だとしても。今まで何人か渡した人いるけど、その時は副作用は分からなかった。わたしが初めて、この間暴走したので判明したんだ。でも、スゴいよね学園都市。あそこまで大怪我したのにもう傷跡になったのは、流石って言うべきかな」

 ペラペラ嘘を言っている雫は、袖を戻して聞いた。

 以前あった、あの聞く麻薬よりも遥かに危険だけど、本当に良いのかと。

 意識不明程度じゃ終わらない。壊れていく自覚すらないまま、死ぬまでガイアメモリを依存して使う。

 理性が失われていき、正気を失い、認識が判別できなくなって、病院から出られなくなる。

 一気に死ねる訳がない。毒はゆっくりじっくり、身体を侵食していく。

 その恐怖に、堪えられるのか? と、問う。

「気持ちいいよ、自分がおかしくなっていくのは。わたし、スキルアウトなの。誰も心配しないから、死ぬときはの垂れ死ぬと思う。変死体になって、無縁仏行きも悪くないと自分じゃあ思ってるんだけど、どう? 大山君の能力は、毒のある多才能力。麻薬中毒になりたい? わたしはオススメしない。今はいいけど、夜になると……正気失って暴れちゃうの。下手したら人殺しだってするかも……」

「そういうこった。俺の能力をほしいんだろう? まさか、何にも支払いをしないで使えるとか思ってねえよな? 甘くねえんだよ、幻の能力者は。それでも良いなら、一時の夢を見せてやってもいいぜ。但し、死ぬときは勝手に死ね。俺は知らん。くたばることも、受け入れてから騒ぐんだな」

 雫の肌を分からない錬太郎は、便乗しておく。

 連中は勝手に戦慄していた。事の重大さを漸く理解したようだ。

 因みに、と雫は付け加える。

「大山君はこの範疇にないの。毒を持つ生き物は自分の毒じゃ早々死なないのは知っていると思うけど、大山君はリスク無しで使用できる事を忘れないでほしいな」

「俺だけ例外で多才能力に近いってことだ。まあ、あくまで作るのが本命なんで、俺自身は無能力者扱いだがな。やろうと思えば、この場で全員一方的に皆殺しに出来るが……試してみるか?」

 ハッタリだ、こんなもの。

 皆殺しにできるかどうかなど、知らないし試すつもりもない。

 だが、コイツらも所詮は底辺の同類。

 数さえいれば勝てると侮るようなら、こういう脅しでもしないと意味がない。

 何せ相手は幻の能力者。存在しないと言われた多才能力。

 そんなのが、殺すと脅せば大人しくすると……思っていたのだが。

「上等だぜッ……! 元よりリスクなしじゃあ手に入ることはないと思っていた! 説明ありがとうよ! お陰さまで、腹も括ったぜ畜生! やってやらぁ!! 殺せるもんなら殺してみろよ多才能力! 尚更欲しいってもんだぜ!!」

(ダメだこりゃ……)

 全員、覚悟を決めてしまった。

 追い払う算段が相手の腹も括った準備を手伝ってしまったようだった。逆効果。

 武器を構え、ならばその幻の能力を見せてみろと叫ぶ。

 死ぬ覚悟がないと思っていたのか。そんな次元はとっくに通過しているのだ。

 命懸け上等。奪うしかやり方が思い付かないらしい彼らは頭の中まで本当にレベル0。

 そこは穏便に済ませるなどとは思わない。

 鬱憤の溜まっている底辺の共食い。やり方は暴力が真っ先に思い付くような集団。

 救いようがない。錬太郎の感覚ではさっぱり理解できなかった。

 喋っているうちに、バリアドーパントの能力が少し分かった。

 雫が時間稼ぎをしてくれたのでその間に分かる範囲を手探りで調べた。

 基本的には、シールドのような防具に近い。

 バリアを展開して、攻撃を拡散、流動させる。

 直接の場合は衝撃を緩和して受け止める。暴発すると、さっきみたいになるようだが。

 見えないバリアとはまた珍妙な。しかも、このドーパントにもスロットがある。

 しかも、二つ。文字の間の空間に蓋をされていた。

 ここにどうやら、ガイアメモリを装填すると見た。

 折角相手が覚悟を決めた。じゃあ、実験台になってもらおう。

「良く言ったな。良いだろう、なら洗礼を与えてやる。……月川、ガイアメモリを俺に入れてくれ」

「えっ?」

 偉そうに言えばこういう手合いには、少なくとも侮られることがない。

 と、思った錬太郎。実際は自分が嫌う奴等と大差がないのが、悲しい。

 突然言われた雫。然し完全に信じている彼女は言われた通り、ボタンを押してシールドの前面の上のスロットが開いていたので差し込む。

 すると。

 

 ――ウォーター! マキシマムドライブ!!

 

「へっ……?」

 マキシマム……ドライブ?

 何そのどう聞いても最大出力。

 呆ける雫。然し、シールドの前では近辺の大気中にある水分が凝縮されて、圧縮されて、眼前に丸く集まっていた。

 巨大な水球になったそれは、見ていた全員が呆気に取られるほどのサイズに成長。

 不思議と重さを感じない雫は、どうするべきか迷う。

 これをぶつけるのか。どう見ても死にそうだけど。

「だから言っただろ、俺を侮っているってな。月川、良いよ。やっちゃえ」

「う、うん……」

 本人も大変驚いていたが、毅然とした態度で攻撃を指示。

 構えたシールドから、勢い良く水球は発射され、慌てて逃げ惑う彼等の背中に直撃して、破裂。

 再度の激流になり、皆を押し流して数秒後にはその場には誰も居なくなっていた。

 戸惑ってた雫も、その火力には絶句していた。

「月川、悪かったな。猿芝居に付き合ってもらって」

「気にしないで。適当なことを言っただけだし」

 追いかけてきたバカが居なくなったことで、変異を解いた錬太郎は鎮座する建築材に腰かけた。

 朗らかに笑う雫は、少し距離をあけて座った。

「これで少しは懲りてくれればいいけど」

「……無理じゃない? 学園都市はそんなに甘くないよ。大山君が思っている以上に、レベル0のああいう感情は根本にあるんだ。言って素直に理解できるほど、叩かれて言うことを聞けるほど、この場所は優しくない」

 妙に実感が篭っている声で雫は教える。

 簡単な問題じゃない。絶対にこのあとも続くと断言する。

「警備員も、風紀委員も宛にはならないよ。あの集団は個人は守らない。秩序を守るだけの存在を過信してもしっぺ返しを受けちゃう」

「頼れる大人は居ないのかよ……」

 ガックリ項垂れる錬太郎。じゃあ、誰を頼ればいいのだ。

 自衛するしかないのか。こんなストレスマックスで胃痛がお友達になりそうな生活をしろと?

 そんな空気を感じて、雫は言いにくそうに一瞬迷うが、恩人の窮地を黙っているほど彼女は薄情じゃない。

 思いきって、彼に提案してみた。

 

「お、大山君! スキルアウトに入ろ!! わたしのいるスキルアウト!」

 

「俺に不良になれと言うのか!?」

 

 同じチームにお誘いしてみた。

 案の定不良と言われるが、そんなひどいことはしていない。

 必死に弁解する雫。

 主に雫のいるスキルアウトは、夜遊びとサボりがメインでありモットーは、無関係な他人に迷惑をかけない。

 故にスキルアウトのなかでは大人しいどころか目立たない、地味な集団であった。

 一般的なスキルアウトみたいなことはしないと。

 雫は言った。味方になる。みんな雫の仲間であり、既に錬太郎の事を雫を通じて知っている。

 ここもスキルアウトの縄張り……というか仲間の親が経営する場所。許可は貰ってあるのだ。

「い、一緒にいれば庇えるよ! それに、学校よりも楽しいし安全だと思う!」

「……いや、然し……」

 もう学校も敵しかいない。それも事実。

 四六時中狙われるよりも、いっそ逃げてしまえと言う雫の言い分。

 それでも世間体があるので迷う錬太郎。魅力的ではあるが、猜疑心がある。

 一生懸命に説得し、何やらその頃遠くでサイレンの音も聞こえた。

 警備員と風紀委員のお出ましのようだった。

「あっ、そう言えば予め教えておいたんだった」

「変なところで律儀だね!? それじゃ大山君も補導されちゃうよ!?」

「俺も!?」

 暴れたことで恐らくはご同行と言われて、被害者であっても遠慮がないのが連中。

 頼りにならないくせに、こう言うときだけ偉そうにするようだ。

「と、兎に角逃げなきゃ!」

「おう! 取り敢えず、月川の事を信じる! スキルアウトでも何でもいいこの際!」

 バタバタしている二人。慌てて逃げ出した。

 やましいことはしてないが、向こうが判断するかは別の話。

 学校も外もダメ。あの二つは全ては護れない。

 だったら、のうスキルアウトしかない。大人しくするならそれでいい。

 平穏さえあれば。平和でさえあれば。

 雫のお誘いに、最後は錬太郎も了承した。

 五人ほどの集まりらしいが、今はそこにご厄介になることにして、現場から二人は隠れて逃走したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ほぉー? あれが、つっきーの言う無能力者の多才能力の人ねえ……)

(ガイアメモリ? 地球の記憶? なにそれ分かんない)

(モーリッツが見る限り、本当に外の人な訳か……。怪しい部分もないし)

(……モーリッツが強能力者って、あの人知らないか。つっきー言ってないみたいだし)

(まあ、でも……つっきーのこと間接的に救ったわけじゃんこの人。何も知らないみたいだけど)

(んー……信じても良いんだろうけど、モーリッツ的には男は信じたくない。仲間以外)

(自己紹介しろ? つっきー、この人本当に大丈夫なんだよね……?)

 

「はじめまして、大山先輩。アーウェント・モーリッツ・ヴェルディって言います。モーリッツで良いわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 解説。

 コックローチガイアメモリ。

 皆様ご存知ゴキブリの記憶を内包した例のあれ。

 無駄に高性能、無駄に量産性が高い見た目以外は完璧なガイアメモリ。

 ゴキブリは速くて当然。しぶとくて当然。キッチンの黒き旋風は伊達じゃない。いいね?

 

 コックローチドーパント。

 ゴキブリ。ゴキブリが人間になったドーパント。

 超高速で学園都市を駆け回る害虫。手のひらから粘性の液体を飛ばす。

 この早さは学園都市のビリビリもビックリ、気持ち悪くて即座に攻撃するレベル。

 尚、殺虫剤に弱いと言う致命的な弱点あり。あと、外見が生理的に嫌悪するので女子に嫌われる。

 アーウェント・モーリッツ・ヴェルディ、及び大山錬太郎が使用する。片方は女の子……あれ?

 解説終了。


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