スキルアウトと地球の記憶   作:マルチスキルドーパント

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風紀委員とスキルアウトに囲まれて

 

 

 

 

 

 

(何でなのですかッ!! 納得がいきません……!)

 それは、助けに向かった翌日に起きた。

 学校を脱走してでも助けに行ったのに到着後にはもぬけの殻。

 水浸しの地面と、水流の後が残っていただけだった。

 おかしい。兄が自分で連絡したのに、なぜいない。

 結局周囲を捜索して、加害者と思われる連中を捕まえ、連行した。

 事情を吐かせると、どうも同じ学校のスキルアウトと一緒にいたらしい。

 風紀委員の権力で調べた。外見から割り出したデータベースに、その名前はあった。

(月川雫……? 過去、傷害の被害に四回、恐喝に七回、殺人未遂に……三回!?)

 ドーパントに変身したらしい相手は、同い年の月川雫という生徒。

 なんと彼女、過去に凄惨ないじめにあっていた被害者だったのだ。

 見ているだけで恐ろしい。警備員にも顔を知られているスキルアウトのようだ。

 それは、悪い意味ではない。同情される意味だ。

 彼女はスキルアウトでありながら、逆に一般生徒に陰湿ないじめを長年受けていた。

 内容は酷いものだ。大抵が能力を悪用した人殺し未遂。

 柳は目を疑った。なぜ、こんなものが罷り通る。

 彼女は幼少より、学園都市に暮らしているレベル0。

 親はなく、捨て子のようなモノで、施設育ちだった。

 その頃より、既にいじめは始まっており、小学校に入る頃には目に見えていた。

 だが、彼女は珍しい才能こそあったが開花せずに教師はことなかれで無視した。

 学園都市の悪習、レベルのみを優背する方針のせいで。

 最初の事件は、プールに能力を使って突き落とされて、挙げ句に溺れさせられた。

 子供の遊びで彼女の訴えは聞かれずに加害者の能力者は無罪放免。

 溺死寸前まで追い込まれて、結局自力で命からがら脱出した。

 二度目はもっと酷い。高所から落とされて落下。

 一週間、意識不明の重体。これも能力者は無罪放免で、寧ろ雫が悪者扱いされていた。

 三度目は……柳は思わず目を見開いた。

(空間移動能力者による、首の血管を切断……?)

 テレポーターと呼ばれる能力者に、首もとにガラスの欠片を転移させられ血管が切断。

 その前に利き腕を同じ方法で潰されており、拷問を受けていたそうだ。

 彼女はこの時中学生。

 高いレベルの能力者と低いレベルの能力者が混在する学校の放課後に起きた、殺人未遂。

 幸い、当時の風紀委員がいじめの現場に遭遇、今度ばかりは見逃さずに全員引っ捕らえた。

 その時ですら、加害者は雫が悪いと主張したが、無論これ程行けば通らない。

 そいつらは全員、更正施設にぶちこまれ、流石に二度と帰ってきていないようだ。

 そういう風に風紀委員が訴えて、学校側にそうさせていた。

 雫は高名な医者にかかって、何とか一命こそ繋いだが数ヶ月生死の境をさ迷って生還。

 その頃にスキルアウトに堕ちたと記されている。

 テレポーターが転移した物質は送られた座標の物体を押し退ける。

 この場合、ガラスの欠片を体内に直接送られた雫は、一生消えない傷ができたことになる。

 首の傷は名医が治療したが、腕の傷は敢えて残したという。雫の希望で。

 最新の報告のある事件は……。

(去年ですか。高校一年の夏に、同級生の発火能力者に右頬を焼かれ、大ケガを負っている……)

 レベル2程度の有象無象が、彼女のいじめに参加して、皆で取り押さえて嫌がる雫の顔を焼いた。

 今の学校の前。彼女も、現在の学校には転入している。

 その時の傷も彼女が望んでガーゼで隠しているが、残っている。

 その他細かい被害は数えきれないほど受けていた。

 更に……。

(これって……白井? 何でこの人の所に白井の名前が……?)

 後輩の知っている名前があった。以前に関わりがあった模様。

 然しこれはデリケートな問題になりそうな予感がする。少なくとも柳は口出ししたくない。

 見なかったことしていこうと、ここは触れないでおいた。

 その彼女は今の学校でも相変わらずいじめを受けていたが、兄が転入する頃に激変。

 なんと、反撃して加害者全員を病院送りにしたようだ。

 その時は逃げてしまっており、怪我をしたバカが何か言っていたが後日別の警備員が処罰していた。

 前科があったと聞いているが、本当にどうしようもない。

 その時にはドーパントに変身したように書かれている。つまり、錬太郎がガイアメモリを渡したのだ。

 なぜ? とも思うがそこはいい。雫の状態も悲惨としか言えない。

 問題は、その雫と錬太郎が協力して連中を追い払ったこと。

 気に入らない。スキルアウトと一緒にいる兄の判断が。

(どうして、家族を頼ってくれないのですか……!? 赤の他人のほうが、あたしたちよりも信用できると言いたいんですかお兄ちゃんは!!)

 風紀委員は仮にも秩序を守る組織。

 確かに不純な動機で続けていた。

 然し、一応でも正式な組織よりもスキルアウトを優先するのか。

 どうして、家族を頼ってくれないのか。そこまで嫌われているというのか。

(落ち込みますよお兄ちゃん……。あたしはそこまでバカじゃないのに……。お姉ちゃんなんか、こうなっているんですよ……?)

 因みに此処は、柳の配属されている支部。

 同じ学校の姉は翌日に何事か教師に聞かれて家族の窮地だったと素直に謝罪して説明。

 素行のよい姉と柳はレベル4だけあって、お咎めも無しに許された。

 まあ、それ以前に杠の場合はブラコンが認知されているので納得されたに過ぎないが。

 同席している杠は現在。

「お姉ちゃんはもうダメです……。弟君に嫌われるお姉ちゃんは、いっそスキルアウトになります……」

「杠先輩、無理です。ご自分のレベルを考えてください」

 後輩の風紀委員に、ツッコミを受けていた。

 然し、こんなことはしていられない。

 最早猶予などない。直ぐに行動を起こすべきだと思う柳。

「お姉ちゃん、帰ったら身支度してください。もう、あたしたちも手段を選べません」

「……んえ?」

 情けない顔でソファーに埋もれる姉を、パソコンを落とした柳は言った。

 スキルアウトと居る。気に食わないが、兄が決めたら否定はできない。

 きっと、兄のことをその雫という人物は理解しているんだろう。

 だから、命懸けで彼を助けたと信じたい。スキルアウトだとしても。

 だけど、プライベートは家族が守る。それが、姉妹の役目だ。

「無理矢理でもお兄ちゃんの家にいきます! 仕方無いでしょう、こんなことになれば! 四の五の言えた状況じゃないんです!」

 思わず外行きの呼び方を忘れて姉に叫ぶ。

 家族一緒に住めばいい。義理でも姉妹だ、問題などない。多分。

 学校には説明しておく。納得しないなら納得させる。

 兎に角、柳は杠に怒鳴った。

 錬太郎の部屋に行くから準備しろと。

 優等生を舐めてはいけない。その気になれば、学生寮を許可を得て出ていくことも可能なのだ。

 何せ正式な理由になる。家族がスキルアウトに狙われているので一緒に暮らす。

 相手は無能力者。方便にはなるだろう。なので、建前はある。

 本音? ただの焼きもち。ブラコンは自分以外を頼られると嫉妬する。

「そ、そうだった! お姉ちゃんは弟君を守らなきゃ! 落ち込んでいる場合じゃない!」

 立ち直りが早いことで。流石は重度のブラコン。

 見事に復活した溺愛の姉と共に。

 姉妹は行動を起こす。彼の自宅へ、許可を貰ってレッツゴー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 錬太郎は自分の部屋にいた。

 あのあと、ブタに変身して雫にお散歩されるペットのような感じで誤魔化して逃げてきた。

 注目されまくったが必要経費で我慢した。

 学園都市の非常識でも、人間がブタになるというような例外は少ない。

 おかげで、何とかギリギリ戻ってこれた。

 驚いたのは、雫の部屋と錬太郎の部屋は意外と近く、錬太郎はアパートで雫は近所の別のアパートだった。

 錬太郎の部屋はシンプル。入り口入って証明に部屋が広がり、直ぐ隣にはキッチンが小さくついている。

 家具は大抵中古の安物で、トイレと風呂は別だが小さい。ベランダも一応ある。

 ワンルームであり、室内もあまり広くはない。

 そこに、戻ってくるときに雫が呼んでいた仲間とやらが夜になる頃に集合していた。

 野郎三人、女子二人。のち一人が雫。

 招いた錬太郎は軽く夕飯を振る舞うと、意外と皆は友好的だった。

 スキルアウトと聞いてチンピラと思っていたが、初対面とは思えないほど野郎三人はフレンドリーだった。

 それぞれ、ハゲの巨漢が毒島、細いホステスみたいな優男が鈴木、老けているような髭面が上原という。

 毒島は大学生、鈴木と上原は高校生であった。

 唯一の後輩は、なんと海外の学生。

「はじめまして、大山先輩。アーウェント・モーリッツ・ヴェルディって言います。モーリッツで良いわよ」

 長いプラチナブロンドの髪の毛が目立つ、美少女と言うか。

 顔立ちの目鼻立ちが整いすぎて一瞬等身大の人形かと錬太郎は思った。

 癖のあるプラチナブロンドも綺麗だが、よく動くエメラルドに似た瞳は印象的だ。

 制服も有名な高校の派手なブレザーにロングスカート。

 然し小柄だった。下手すると妹よりも小さい。柳はそんなに発育のよい方じゃない。

 ……モーリッツと呼べと言うこの女の子は、成長期とはいえ、将来はあるだろうか?

「おい、誰の体型と背丈が小学生だ。悪かったわね合法ロリで。攻略する? モーリッツ的にはお断り」

「リッツ、落ち着いて……。顔に書いてあっても言わない方が……」

 錬太郎は顔に出ていたらしい。不機嫌そうな顔でモーリッツに言われた。

 そもそも高校の一年生はギリギリ違法ロリである。手出し厳禁。

 雫がリッツと愛称を呼び、モーリッツもつっきーと呼ぶ辺り、相当仲良しなのだろう。

 取り敢えず錬太郎は謝っておいた。

「人を外見で判断するのはいけないんじゃないの先輩。そんなんじゃ、学園都市でやってはいけないよ」

「忠告が痛み入るな。さっき痛感したぜ」

 毒島、鈴木と上原はスキルアウトとして仲間入りを認めているが、モーリッツは何やら警戒している。

 これが、当然だと思う。普通、事情を聞いても厄介者を受け入れるとは思えない。

 何せ、錬太郎は噂の多才能力と思われているようだし。

「参ったもんだ。おかげでどこいっても襲われて、生きた心地がしねえよ……」

 などと、もう安心したのか愚痴り始める錬太郎。かなり精神的に疲れていた。

 もういっそ、家から出なければ平和かと思わずこぼすが。

「そりゃどうかな、先輩。つっきーが言い訳しても、そんな簡単に諦めがつくような生徒じゃないんだな、学園都市の最底辺は。モーリッツ的に、先輩の平穏は無いわね。家に居ればぶっ壊して入ってくる」

「単なる強盗じゃねえか!?」

「聞く限りは先輩にはそれだけの価値があるんさ。モーリッツですら、そう思う。下手するとマジで命ないよ?」

 錬太郎の存在は強盗をしてでも手に入れたいと思わせ、確実に動かないなら襲ってくる。

 逃げ回るか、最低でも抗えとモーリッツや雫、野郎も口を揃える。

 夕飯を食べ終えて、相談をしている彼にモーリッツは腕組みして教えた。

「先輩、自分で言ったけど身内に風紀委員いるっしょ? 家に居るときは一緒にいなよ。家族なら説得できるでしょ?」

「あいつらの見識が直ってればな。発想が向こうも大差ねえんだけど」

 モーリッツはズバズバとモノを言う。

 まるで、此方の悩みを見抜いてるように。

 知った情報から的確に言うので会話も楽でよかった。

「風紀委員はそんなもんだよ。つっきーも不細工もホステスもヒゲも、風紀委員嫌いだしね」

「風紀委員好きなスキルアウトは居ないと思うよ?」

「モーリッツ的にも風紀委員は無いわ。あれは天敵だから」

 それぞれアダ名で呼ぶモーリッツは、錬太郎に的確にアドバイスしてはくれる。

 警戒しているようで、若干刺々しいのを感じた。

「先輩の場合はああだこうだって言えないじゃん。先ずは日々生き残ること。このままエスカレートしていけばその内ガチで命懸けになると見た。モーリッツの予感が外れてくれれば万々歳なんだけど、多分無理」

「嫌な予言するなよな……」

 遠慮ない指摘に、然し有難い。

 分かりやすく、どうすればいいか教えてくれる。

 モーリッツは良い奴な気がしてきた。

 参考にすると、素直に聞けたのはモーリッツの可愛い割りに毒舌だからか。

 買顔に出ていると、モーリッツに耳打ちされた雫が笑いながら言った。

 慌てて表情を引き締める。

「モーリッツは可愛いんですー。つっきー程じゃないけどさ」

「絶対リッツの方が可愛いよ、うん。わたしじゃ勝てないって」

「謙遜しないのつっきー。モーリッツ的につっきーは最高よ」

「えぇ……?」

 本当に仲良しで、何だかじゃれあいを見ていて飽きない。

 野郎三人もスキルアウトにも色々あるから、好きにしていこうといってくれた。

 取り敢えず、先ずは不用意に学校にいくのを止める。

 準備してから、行くべし。錬太郎は皆のアドバイスを考え、過ごしていく事にした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人物解説。

 アーウェント・モーリッツ・ヴェルディ。

 本作品オリジナルヒロイン。スキルアウトのメンバーの後輩。

 一応こう見えてレベル3の能力者。但し理由あってスキルアウトに堕ちている。

 学校もそこそこ良い環境だがモーリッツは行きたくない様子。

 数少ない、能力者でありながらスキルアウトを好んで生活している変人。

 スキルアウトの仲間が一番大事であり、新入りの錬太郎はまだ信用していない。

 口癖はモーリッツ的に。使用するガイアメモリはゴキブリや公害などの量産品。

 因みに喧嘩などは結構強い。流石にそげぶには勝てないが、女の子にしては上々らしい。

 解説終了。


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