スキルアウトと地球の記憶   作:マルチスキルドーパント

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姉妹たちの押し掛け

 

 

 

 

 

 

 翌日から、意味もなく学校に行くのを先ずは止めた。

 敵襲しかない学校生活は危険だと、高校の教師にも言っておきたい。

 なので、雫が代わりに向かって、職員室で錬太郎と通話して、変わった教師に直接事情を伝える。

 不登校になります。申し訳ないのですが連中が大人しくなるまで暫く身を隠します。

 そう、自分で言った。教師たちは学校での襲撃も所詮は子供同士と思っていたが今回は別。

 集団でリンチされそうになったと、警備員から一報が入っていたようだ。

 自分達もこれ程に膨れ上がると庇うのは無理と諦め、申し出を受理。

 授業などは隙を見て取りにくれば纏めて書類を渡してやると、保身半分事情を察して半分で許してくれた。

(先生たちは汚いよ……。大山君が襲われても知らん顔していたくせに、警備員から何か言われれば形だけの対策を取る。卑怯すぎるって、思えるのはわたしの気のせい?)

 スキルアウトが預かるとは言わない。言えば尚更五月蝿い。

 この保身的な対応に、先の雫の撃退も含まれるので思うことはあるがなにも言わない。

 どうせ、雫の事も気にしないで放置をしていた集団だ。

 外も中も、きっとこの大人の対応は変わらないんだろう。

 そういうのが、学園都市の大人と言うものであり、信じるに値しない。

 学園都市の科学者も教師も風紀委員も警備員も、全部信用したら苦しむ。

 雫は知っているから黙って去る。雫には教師もなにも言わない。

 そんなもんだ。都合の悪い雫のことなど、スキルアウトの仲間と錬太郎以外が、誰が心配してくれる。

(大山君は特別なんだ。わたしを救ってくれた、特別な外の人。学園都市に染まっていない、貴重な人。わたしに出来ることは、しなきゃ。恩人だもの。戦う、力をくれた……無力なわたしに、光をくれた人……)

 友情というのは、雫はあまり分からない。モーリッツは親友を通り越して仲間。

 この掃き溜めみたいな学園都市で一緒に生きていける仲間。スキルアウトの彼らは雫の全て。

 それすら擲って死のうとしたこともある。知っても皆は責めなかった。

 終わりたければ、終わっていい。終焉の希望は奪わない。

 風紀委員のような傲慢さで、痛みを知らない無神経な正義感もない。

 彼らは雫の行動を肯定してくれる。だから、安心できる。

(風紀委員は万人の秩序を守ればいい。わたしに関わって、来なければ)

 雫は風紀委員が大嫌いだ。スキルアウトだからではなく、個人的に。

 ああいう自分勝手な正義と学園都市に洗脳された常識を振りかざす連中など死ねばいい。

 消えてなくなれといつも思う。警備員もそうだ。塵になって二度と雫に関わるなと感じる。

 下らない。その手で救える範囲が狭いくせに、何を偉そうにスキルアウトに語ると言うか。

 雫はそういう人種も嫌い。正義感を押し付けて、何も分からないくせに正論を語る輩も。

 正しいから救う。守りたいから守る。勝手に言っていろ。雫はそんなもの求めない。

 求めていない余計な世話をして誇る鬱陶しい輩。そういう奴ほど後ろにいる誰かの顔を見ないから。

 そんなのを何度か経験している。あの風紀委員然り、あの男子高校生然り。

(わたしは仲間がいる。スキルアウトは、支えあうから頑張れる。こんな腐った学園都市の底でも)

 勝手に授業中でも出入りして、好きに動く。それが、雫の生活。

 他人の都合なんかもう知らない。夢も希望もないスキルアウトには、現実のみが残る。

 授業は受けても無駄だった。何年も空しい努力だけを続けて知ったのは強者の悪意だけ。

 諦めてしまえばいい。レベル0はレベル0。種など芽生えることはもうないと、高校生になれば悟れる。

 伊達に幼少からこの地獄で生きてはいない。誰よりも雫は現実を知っている。

 憧れは色褪せた。欲しかったのは未来じゃない。安全。それだけでいい。

 強いたげられる立場の雫にはそれが一番欲しかった。

 だから、錬太郎の能力を貰ったときは嬉しかった。

 もう、苦しまないで生きていける。能力者に怯えないで過ごせる。

 結果として、強大な力を授かった。でもそれを誰かに自分から振るうなんてカッコ悪い。

 身を守る銃を強盗に使うようなものだ。本末転倒。それは、送り主の錬太郎への冒涜と裏切り。

 雫は誓った。自分と仲間と居場所の為にしか使わない。

 他人が死のうが苦しもうが振るわない。矮小な雫に他者を手を伸ばす義理はない。

 弱者が利口に生きていくには、大人しくしていること。それだと信じている。

 降りかかる火の粉は吹き飛ばせ。迫り来る悪意は押し流せ。

 錬太郎も、そう言っている。自分勝手な人間しか学園都市には居ない。

 そう、彼女は思う。紛れもない、事実として……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、自宅の錬太郎は。

 襲撃を受けていた。

「お兄ちゃんの家に到着です。お姉ちゃん、お兄ちゃんと一緒に荷物を搬入してください」

「了解ッ! 弟君と同棲なんだよー♪」

「同棲じゃねえよ色ボケ杠」

「お姉ちゃんの事だけ酷くないッ!?」

 義理の姉妹が押し掛けてきた。

 先の騒ぎを聞いて、モーリッツの言う通り本当に来てしまった。

 頼んでもいないのに、このブラコン姉妹は……。

 権力を無駄遣いして、特定したらしい。

 余計なお節介とは言えないが筋は通したようで、正式な許可を自分の学校から貰っている。

 証明書まで持ってきた。自慢気に見せる杠に、頭痛を覚える錬太郎。

 追い返す訳にもいかないが、三人で暮らすには手狭すぎる。

 が、気にしないと姉妹は言って、勝手に荷物を搬入。

 慣れない独り暮らしよりも、家族水入らずで暗そうと言われる。

 尚、スキルアウトに加入したことも調べがついていると柳は言った。

「安心してください。レッテルで連行したりなどしません。お兄ちゃんに叱られて目が覚めました。お礼を、言わないといけませんから」

「そうだよ!! 弟君を守ってくれた月川さんという人にはお姉ちゃんは感謝しかないんだよ!」

 因みにあの騒ぎの後で二人も駆けつけたと言うし、その前のあれこれも躍起になっていたそうだ。

 裏方で、二人は彼の為に尽力した。それを言われて、益々追い返せない。

「酷いこと言って、悪かった。柳も、杠も」

 知らない間に、家族に迷惑をかけていた。

 雫があの場ででっち上げも言ったことも聴取で聞き取りをしていた。

 副作用などまだ分からない。釘を差すという意味では有効かもしれないが、逆効果にもなり得る。

 慎重にしていけと二人は言った。

「分かった。肝に命じる」

 錬太郎も、その辺は定住してそこそこになる皆に従おうと思う。

 兎に角荷物を入れていくと、ふと柳は言った。

 くれぐれも、一部の風紀委員には近寄るなと。

 一部の風紀委員には柳で言う杠のように、外部の協力者がいる。

 そういう連中は基本的に、学校の校則以外では縛られることが少ないので能力を率先してスキルアウトに使う。

 手出しはしないと思うが、危険なのが何人か居るので注意しろと。

「特に、常磐台の超電磁砲には近寄らない方がいいです。あいつは学園都市の上から三番目の怪物ですから、スキルアウト相手じゃ話なんか聞きません。見かけたら直ぐに逃げてください。感電死します」

 柳は、ある一名を例題に言った。常磐台中学と言う超のお嬢様学校に通う化け物。

 学園都市の最上位、超能力者というレベル5の規格外の一人。

 電撃を使う能力者では間違いなく最強だが、同時にスキルアウトには恐らく聞く耳持たず。

 一部じゃレベル5は人格の破綻した人間しか居ないと言われてさえいる。

 レールガン。そんな通り名の中学生が、風紀委員の味方にいるらしい。

「聞いた話じゃ、一部では英雄扱いされていますが、素行はあり得ません。自販機を蹴飛ばして破壊している、知り合いとはいえ一般学生に怒って電撃を浴びせる、一度でも敵対すると誰であろうが超電磁砲をぶちこんで周囲を巻き込み派手に破壊する、なぜか分裂したように授業中なのに外で見かけられる……。噂はいくつもありますが、どれもこれも常識外ですよ。レベル5の中では、比較的マシな分類とよく聞きますが、それですらこれです。後は空を走って飛ぶ序列七位、そもそもどこの誰か分からない都市伝説の六位、同じく常磐台に通う最高の精神系能力者の五位、めちゃくちゃ美人で凛々しいそうですがめちゃくちゃおっかないという四位、二位は詳細は不明で一位は最近小さい子供をつれ回すロリコンだとか言いますし……」

「大丈夫か学園都市……」

 風紀委員に聞こえてくる話ですらこれらしい。

 ろくな人材が居ない気がするのは錬太郎の気のせいか?

 それが秩序を維持する組織に手伝いをすると言うが、お前が先ず秩序を守れと言いたくなる。

 特に自販機を蹴飛ばして破壊しているとかやっていることがスキルアウトと同じだった。

「お姉ちゃんは実際会ったことあるけど、普通の子だよ。御坂さんって言うんだけどね、弟君みたいな多才能力みたいなモノなんだって」

「違いますよ。あれは、ただの電撃使い。汎用性が他に比べて広いだけです。お姉ちゃんは直ぐにお兄ちゃんと比べて……。別枠ですよ別枠。ガイアメモリとは全く違いますし、そもそもガイアメモリは道具。お兄ちゃんは精製能力が主だったものだって言ったじゃないですか」

「そだっけ?」

 顔を知っている杠は、御坂というその超電磁砲の能力者は、普通と言っていた。

 この極度のブラコンの姉が言うのは信用できないと思うのは何故だろうか?

 取り敢えず、その風紀委員などには近寄らないことと言ってから、危険人物という意味でまだ一人。

「あとは、アーウェント・モーリッツ・ヴェルディ。この人物も気を付けてください」

「……はいっ?」

 ……今、何て言った? モーリッツ?

 錬太郎は思わず聞き返す。なぜあの後輩の名前が出てくる?

「知り合いですか?」

「いや、顔知ってる。ってか、俺助けてくれるスキルアウトの一人」

「…………」

 柳はマジか、という表情になった。驚きが浮かぶ。

「モーリッツが何だって?」

「いえ、風変わりな学生でして。何がしたいのか、風紀委員も理解できないんですよ彼女」

 変人で予測できない事をしそうで、怪しい。

 柳は風紀委員も、警備員も警戒している学生と教えた。

 雫は何も言ってなかったが……もしかしたら言いたくないのかもしれない。

 と、好意的に錬太郎は解釈した。

「彼女……アーウェント・モーリッツ・ヴェルディは、一応私立長谷川高校のいう所の同系統の能力者が通う学校の最もレベルの高いレベル3なんですよ。スキルアウトは大抵レベル0なのですが、彼女は色々なスキルアウトのチームに混ざっては、手助けしている能力者でしてね。スキルアウトの方の味方と聞いています。何度も警備員と風紀委員とは揉め事を起こしているんです。特に彼女が何かした訳ではなく、あくまでスキルアウトに情報を流す形で手伝っていた……そんな感じです」

 スキルアウトに情報を流しては、またフラりと消えていく。

 スキルアウトの間じゃ情報を求める場合は、モーリッツもよく頼られているとか。

 それでいて、一般学生にもコネクションがあり、一般学生も時々助けているようでもある。

 彼女は連行されるようなことはしない。その情報を知ったスキルアウトがバカをする。

 情報と言えど、大したモノじゃなくどこに誰がいて、どんなことをしているかとか、簡単なものだけ。

 決して機密を取り扱うなどの情報を持っているわけでもない。

 自分も一般学生の癖にスキルアウトの生活を好んで続ける、そんな変人。

 故に何がしたいのか、理解できない。

「へー……」

「お兄ちゃんも、彼女が何をしたいのか分からないと思いますが、まあ今ですので言いますが悪人じゃないですよ。小物ですけど」

 柳も随分と好き勝手に言っている。

 能力は精神感応。テレパスと呼ばれる受信専用で相手の思考を聞くらしい。

 苦労しそうな能力だった。

「弟君もそういう子は、どう付き合うかは考えてね? 危なくなったらお姉ちゃんに何時でも言うんだよ。焦がすから」

「おい、自重しろそこの怪獣」

 杠は悪くは言わないが、信じるかどうかは自分で決めろと言っていた。

 詰まり、一方的に思考を聞かれることを踏まえて、という事であると後で彼は知ったのだった。

 そんなこんなで、風紀委員の味方も無事に錬太郎の部屋に住み着いた。

 当然、スキルアウトと科学反応を起こすのは言うまでもなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 人物解説。

 大山杠。

 本作品オリジナルヒロイン。変態の枠。

 錬太郎の義理の姉であり、同い年。再婚した際に姉になった母の連れてきた娘。

 高校入学に合わせて学園都市に住んでいる。

 とにかく性格に問題があり、ブラコンとシスコンの極めつけのような人物。

 家族に対する溺愛が激しく、頭は良いが中身はバカ。挙げ句変態。

 錬太郎と結婚するのは自分だと本気で思っているので、色々な意味で危険。

 実際義理の姉であるので可能らしく、異性として既に彼を意識している。

 お姉ちゃんであることを常に意識しているので意外と何でもできる。そもそもなにか言われると喜んで行う。

 但し焼き餅が激しいので、怒らせると面倒臭い。あと無視しても拗ねる。

 これでも大能力者。能力は発火能力。

 大して珍しくもない炎を起こす能力だが、レベル4故に過剰な威力で全身何処でも発火できる。

 特に得意技は口から火炎を特訓して鍛えた肺活量で一気に吐き出す。通り名は怪獣。

 広範囲、射程も長く幅もあり、その辺の道路の道幅程度ならば覆い隠せる。

 温度も怒ると上昇し青白くなる場合もあったりする。

 双子の姉であり妹の柳はもう少し自制心がある。

 関係ないが外見の成長は姉のほうがずっとよいとのこと。

 解説終了。


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