◇西暦2011年 9月28日 アメリカ合衆国
「準備はどうだ?」
「万全だ。1週間後には開始できる」
アメリカのとある州。
その場に存在するビルにて、複数の人間達が会合を持っていた。
彼らは皆、アメリカ合衆国ではそれなりの資金力、政治的権力を持っている者達ばかりである。
しかし、アメリカを事実上、牛耳っているシモンズ家率いる“ファミリー”とは敵対関係となっているので、そういう意味では反政府勢力とも言える。
だが、ファミリーからすると、彼らを排除すると、同時に自分達も致命的な損害を負いかねない存在であった。
特にファミリーの中心であるシモンズ家には、ラクーンシティを始め、8年前に崩壊したアンブレラ、更にはその翌年に起きたテラグリジア・パニックの真実を、更にその翌年に当時、NGO(非政府組織)の対バイオハザード部隊だったBSAAに暴かれた結果、そのBSAAに吸収されたアメリカ合衆国の対バイオハザード組織であるFBCに関わる後ろめたい情報が多々あり、それを彼らは握っていたのだ。
強引に排除することなど出来るわけがない。
もっとも、同時に彼らもまたアメリカ合衆国で最大の勢力を誇るファミリーに目を付けられているが故に、この国で好き勝手を出来る訳ではない。
実際、そこを勘違いした“大馬鹿者”は何人も消されている。
「幸いなのは、奴等が中東での核爆発にてんてこ舞いになっていることだな。そうでなければ、こんなスムーズに計画は進むまい」
会議に参加している内の一人がそう言うと、一同は皆揃って頷いた。
そう、3ヶ月前。
丁度、のび太がカナダで島田透に対する復讐を行ったのとほぼ同時期に中東で核爆発が起き、作戦地域に居たアメリカ海兵隊員が3万人も消されるという事態が起きた。
当然、世論は大騒ぎとなっており、それを治めるためにファミリーはてんてこ舞いであり、そのお蔭で彼らのこの計画を実行段階まで持っていくことが出来た。
「しかし、その後に我々の方も少しばかり不祥事による被害が出たがな」
一人の男が忌々しげに言う。
それは中東での核爆発カナダのバイオハザードから1ヶ月が過ぎた頃の話だった。
彼らが支援している反バイオテロNGO組織『テラセイブ』の本部で催されたパーティの席で謎の特殊部隊からの襲撃を受け、テラセイブの主要人物が誘拐されるという事件が起きた。
最終的に事件は解決したものの、彼らと交渉していたテラセイブの幹部であり、FBCの残党ニール・フィッシャーがその事件の首謀者の一人であった為、自分達に火の粉が降り掛かってくるのを恐れて、彼らはその処理に奔走する羽目になったのだ。
幸い、世論はの注目が中東での核爆発に依然として集まっていた事によって事なきを得たが、お蔭で8月下旬に発動する筈だったこの計画が10月上旬まで延期させられる羽目になっていた。
「今更言っても仕方ないだろう。2ヶ月の遅れで済んだことを良しとするべきだ」
「・・・そうだな。だが、それはそうとロシアの動きは大丈夫なのか?我々の計画ではあの国の動きが大きく関わってくるぞ?」
男達の一人が懸念を示す。
そう、彼らにとってはロシアが動いてくれない方が嬉しい立場であり、その為の交渉もロシア政府としてきたが、近年はスターリンを辛抱する超国家主義派こと、インナーサークルが台頭してきた為、ロシア内部の雲行きが怪しくなってきていた。
そして、アメリカに所属する勢力がロシアの近くで騒ぎを起こすとなれば、当然のことながら彼らは動く可能性が高い。
そうなった時、ロシア全体が動いた挙げ句、ロシア軍が介入してくるという事態だけは彼らとしては絶対に避けたかった。
「・・・それは手早く済ませるしかあるまい。この期を逃せば、シモンズの連中に計画を嗅ぎ付けられる恐れがある」
「そうだ。やるしかない」
男二人の言葉に、懸念を示していた者達も黙り込まざるを得なかった。
こうして、計画の遂行は決まった。
そして、この6日後の10月4日の深夜。
北欧のとある国で戦火が巻き起こることとなる。
後に“グレードランド王国領土獲得戦争”と言われる物語の始まりだった。
◇西暦2011年 10月5日 早朝 北欧 スカンジナビア半島北部
「うぅ・・・寒い」
のび太はM4カービン(M320グレネードランチャーが装着)を抱えながら、あまりの寒さに震えていた。
のび太がそう反応するのも無理はない。
何故なら、ここはドイツはおろか、4ヶ月前に訪れたカナダのオーセールよりも更に北に位置する緯度にある地なのだから。
「なんだって、こんな土地を獲ろうなんて考えたんだ?」
そう、実は昨日、のび太の知らない間に新設されていたグレードランド王国軍(仮)が、この土地の本来の持ち主であるノイスアイランド共和国を侵攻する形で戦争が始まったのだ。
のび太はグレードランド王国側に与しており、この侵攻作戦に参加していた。
そして、宣戦布告から一夜明け、のび太は敵に警戒しながら最前線付近に居るという訳である。
しかし、ここはのび太も感じている通り、物凄い寒い土地。
こんなところを獲って何か意味があるのかと、のび太は疑問に思わざるを得なかった。
実際はそこが獲りやすい土地だったのと、このノイスアイランド共和国が近年、東スラブ共和国程ではないが、政府の圧政により、反政府勢力が蔓延りまくっている土地だったからなのだが、流石にそこまでのび太が知るよしはない。
「しかも、こんな軍隊よく造れたな」
のび太は味方であるグレードランド王国軍を見渡す。
グレードランド王国軍の装備はヘリは
戦闘ヘリこそ旧式のAH─1コブラであるが、歩兵の装備などはこれまたどうやって調達したのか、M4カービンやM16などの高価な西側諸国の装備ばかり。
はっきり言って準先進国並みの軍隊装備であり、軍備に関しては比較的後進国のノイスアイランド共和国軍はひとたまりも無いだろう。
もっとも、今まで対峙したのは数の少ない国境警備隊程度なので、向こうの軍隊の実力の程はまだ分からなかったのだが。
「しかし、これだけ大っぴらにやって大丈夫なのかな?」
のび太はこれだけの軍事行動に懸念を示す。
ちなみにその懸念は国際社会からの非難ではない。
軍事侵攻という大それた事をやらかすのだから、グレードランド王国(仮)上層部もそれぐらいは考えているであろうことはのび太にも分かる。
では、何を恐れているのかと言えば、それはやはりロシアの介入だった。
ここは地理的にロシアとかなり近い。
故に、その気になれば他国とはいえ、ロシアでも介入してこれそうな場所であり、もしロシア軍が本格的に介入すれば、グレードランド王国(仮)の目論みは阻止されるであろうことは容易に想像が着いた。
しかも、元が日本人であるのび太にはロシア人=暴力的というイメージがどうしても拭えないのだ。
まあ、付き合ってみればそういった人間ばかりではないことも分かるが、それでものび太の心底にあるその感情を完全に拭い去る事は出来ずに居た為、どうにも最終的に介入してくるのではないかという疑念が強かった。
特に戦いが泥沼化したりすれば、間違いなく介入してくる。
そんな予感がした。
「・・・まあいっか。僕が考えることじゃない」
どのみち自分は傭兵に近い立場なのだ。
考えても仕方がないと、のび太はその思考を止めることにした。
・・・それが正に上の人間の恐れていたことであると知らないまま。