死にゲー愛好者の死ねない異世界難行   作:トマトとまっと

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初めての戦記モノです。是非とも感想などのフィードバックをば。

では、どうぞ。


邂逅、そして契約。

その男は、死にゲーが大好きだった。

 

死ぬほど死にゲーが好きだった。その舞台となることが多いダークファンタジー世界も、心底大大大好きであった。

 

ダークファンタジーとタイトルが付けば、すぐさま涎を垂らしてホイホイついて行くぐらいに大好きだった。

 

男の名は、次々(じじ)ジャック。嘘みたいな本当の名前である。当初はジジイという不名誉なあだ名をつけられたが、現在は『J』が三つあるという事から、『Jスリー(ジェスリー)』に落ち着いた。名前の通り、彼はハーフであり、専ら海外の生活に適応している。

 

だからか、両親が転勤してきた際、日本の生活に中々馴染めずに悩んでいた。その時に出会ったのが、日本のサブカルチャーである。

 

彼は一瞬でドはまりした。泥沼に頭から突っ込んだのだ。そこからは早かった。死にゲーの達成感、ダークファンタジーの世界観に心酔し、今に至る。

 

 

ーとまあ、これが僕のありふれた過去である。

 

この数年で随分と様々なジャンルを開拓したものだ。ラノベ、アニメ、その他諸々を食い漁り、好みを決めて行ったことを昨日のように覚えている。

 

その行きついた先が、死にゲー実況プレイヤーだ。趣味でやってるだけだけどね。だが、それが僕の狂い始めた原因の一端になったかもしれない。

 

死にゲーとは名前の通り、死ぬことが大前提のゲームである。故に、命に対する価値は極めて低く、多大なる困難を克服するために死にまくる。要するに、何をしても勝てばいい訳だ。

 

『ループ戻り』とも言えるジャンルに心を囚われた僕は。ある日、一線を踏み越えた。

 

たしか、真冬の雪がヒラヒラと降る夜中だった。仕事でミスをやらかし、長年好きだった女性にこっぴどく振られ、両親が交通事故に合い、姉が急性白血病だと発覚した日だ。

 

よくもまあ、こんなえげつない事が立て続きに起こるものだと、頭の何処か冷静な部分で呟いた気がする。

 

こうして、気が付けば真夜中の雪道を一人でトボトボと歩いていた。その時である。街頭のすぐ下に、黒スーツの異様にひょろ長い男性が現れた。

 

うつむいた顔は見えず、長い黒髪がカーテンのように垂れさがっている。

 

この時点で気が付くべきだったのだ。何かヤバいと感じ、逃げるべきだったんだ。

 

しかし、思考能力が著しく欠如し、心が荒れ狂っていた当時の僕は、ドラゴンに裸で挑む死にゲーの騎士のように大股で近づいた。

 

本当にアホだった。何をしていたんだよ、あの時の僕?死ねばリスポーン、なんて甘い話があるハズも無いのに。

 

ツカツカと歩み寄った僕に対し、黒スーツ男は全く反応を示さなかった。僕は反応しない彼に無性に腹が立って、酔っ払いみたいに大声で叫んだ。

 

「オイ、なんだってんだよ!人が目の前に立っているってんのによォ。」

 

男はピクッと動いた。のそり、と緩慢な動作で彼は顔を上げるとー

 

()()()()()()()こちらを見つめた。そう、本来顔がある所に、『()()()()』が在った。

 

『のっぺらぼう』なんかじゃあなかった。アレは、深淵と言うべきものだった。見た瞬間に心臓が鷲掴みにされる、原始的な恐怖がそこにあったんだ。

 

悲鳴すら上がらぬまま、僕はそこに立ち尽くした。走れ走れ、と足を命じてもビクともしない。何が何だか分からないまま、その怪物は白く長い指を僕に向けると、トンッと僕の胸を押した。

 

身体に全く力が入らないままに僕は後ろ向きに倒れ、白い光が網膜を焼いた。暴走トラックかよ、と呆れる暇も無く僕の肉体は潰された。

 

 

 

 

眼が痛くなるぐらいに()()空間だった。上も下も分からず、四肢の感覚すらない。

 

本当は絶叫しているのだが、自分の声すら耳に届かない。嫌だ、訳分からない、どうして僕が、と陰鬱な思いが呪詛のように頭を駆け巡る。

 

唐突に、僕の静寂は破られた。赤い眼が闇に浮かび出たのだ。

 

『我は管理者。個体名、マルバス。汝に裁定を言い渡す。』

 

僕の身体のあるべき所にその巨大な視線が重なると、肉体が闇に実体化した。僕はその事実に歓喜しながら、震える声で『マルバス』に問い詰めた。

 

「ど、どういうこと。僕、なんでココにいるの?何故、なんでこうなったのかも分からない!」

 

マルバスは起伏のない、無感情な声で僕に答えた。

 

『汝は裁定に従え。選ばれしモノよ、世界4444号:パンゲアにて十二の難行を成し遂げよ。難行は世界4444号の存続にかかわるものであり、拒否は認められない。その一助となる力を得るため、捧げるモノを一つ選択せよ。』

 

有無を言わせない命令に、僕は無意識に従う。いや、従わざるを得なかった。抗えるとか問いかけるとか、そんな次元の威圧じゃあない。マルバスの宣告は、それほどまでに力にありふれていた。そう、僕の全存在を千万回焼却しても余るぐらいに。

 

「な、何を選べるのでしょうか?どういう『力』が得られるのでしょうか?」

 

僕は気絶しそうになる自分を懸命に鼓舞し、マルバスに問う。ここで何も聞かずじまいで話を進めたら、絶対に後悔するという確信に似た直感が、僕の胸にあった。

 

『眼を捧げるモノは魔眼を、脳を捧げるモノは叡智を、四肢を捧げるモノは膂力を、心臓を捧げるモノは不死を得る。他は同様。』

 

「………」

 

僕は思わず、早鐘のように波打つ心臓に手をやった。『不死』。困難な試練に立ち向かう時、これほど頼もしい能力があるだろうか?

 

死にゲーのベテランとしての感覚が囁いている。『心臓を捧げよ』と僕を急かす。だが、ここで焦ってはならない。僕は『不死』にも様々な種類があると、経験則で知っているのだ。

 

「どういう『不死』が得られるのでしょうか?」

 

『痛覚はあるが、肉体は不滅。死しても灰より蘇る。死因により肉体が適応することもあり得る。』

 

僕は唾をのみ込んだ。『適応』?どういう事だろうか?まるで僕の疑問を察したかのように、マルバスは答える。

 

『適応とはすなわち進化。幾度も焼かれば、肌を燃えず。幾度も潰されれば、骨は割れず。これぞ適応なり。』

 

マルバスの説明を聞き、僕は確信する。どれほど惨くても、これぞ僕の求める『力』なんだと。これぞ僕の本領を発揮できる、諸刃の剣だと。だから、僕は勇気を振り絞って、マルバスに告げる。

 

「僕は『心臓』を捧げます。」

 

刹那、地獄が訪れた。激痛などという、()()()()()()()()()()()。世界が『痛み』という感情一色でどす黒く塗りつぶされ、覚悟なんぞ簡単に消し飛ぶ。僕は叫ぶ。ただひたすらに絶叫する。指の一本、髪の一本まで狂うほどに『痛い』。

 

そして、痛みもまた、刹那の間に融け消えた。僕の胸に赤黒い穴が空き、心臓のあるべき所にただの伽藍洞のみ残る。おそるおそる手で触れようとすると、その穴は僕を()()()()()()()()()()

 

「ふぁああああッッ!!?眼が、僕の胸に大きな眼がァ!!?」

 

慌てふためく僕をよそに、マルバスは淡々と告げた。

 

『契約は此処に成った。誓約の証に、汝の胸に我が現身を残す。』

 

マルバスの言葉を肯定するかのように、拳サイズの金眼はギョロリと蠢いた。たちまち胸の穴はふさがり、先ほどの眼を思わせる刻印のみが僕の胸に残る。

 

『次に器たるヒトを選べ。パンゲアにおける肉体を選ぶのだ。』

 

「え!?僕の肉体じゃあダメですか!?」

 

反射的に問い返し、ㇵッと我に返る。バカか、僕は!相手は『神』みたいなヤツだぞ!自分を呪うが、幸いマルバスが特に気分を害した様子も無い。

 

『世界の規律に違反する。汝の現肉体は器の脳にアップロードされ、必要に応じ現界可能。その際、器は汝の現肉体に変化する。』

 

マルバスの言葉にいくらか肩の荷が下りた。僕が自分自身の肉体にアクセスできないとか、悪夢だからね。だが、まだ疑問点は残る。

 

「普段は『器』と『僕』、どちらが主導権を持つのでしょうか?」

 

そう、マルバスの言葉から『器』が人間であることは分かる。僕と違う、別個の生命体。主導権がなかったら、色々と不都合だ。

 

『汝が主導権を保持する。器と交渉の余地あり。原則、器と主従関係にあり。』

 

なるほど、僕にとって実に都合が良い。あくどい笑みが漏れかかるが、慌てて顔を引き締める。

 

『器』と言ったってれっきとした人間だ。きちんと腹を割って話に臨まねばなるまい。たとえ僕が偽善者であったとしても、まだ人間性を捨てる気は毛頭ないのだ。

 

キリリと自身の表情が引き締まっていることを確認し、僕はマルバスに続行の意を示した。

 

闇におぼろげなスクリーンが現れ、『器』候補の名前、性別、経歴、能力、容姿、性格が映し出されていく。僕は一人一人の情報に目をしっかりと通し、当たりをつけていく。

 

間違いがあったとしても、チェンジとかできないだろう。慎重に選ばねば、と僕は再度気を引き締めた。

 

しばらく時間が経った頃、僕はある少年に目を奪われた。年齢7歳、スラム街在住の戦争孤児で、他の孤児をまとめ上げている小さきリーダー。夜叉族の血を引いており、特徴として並外れた動体視力、運動神経に怪力を持つ。

 

確かに立派だが、僕の興味を引いたものは性格欄だ。冷静沈着で思慮深く、忍耐力と博愛に優れる。夜叉という言葉を聞いて全く連想できないほど、よくできた性格だ。そして、()()()()()()()()()()()()()()。これだ、と僕は直感した。

 

早速マルバスにお願いをし、彼と直接会話できないかと聞いた。ダメ元で聞いたが、なんとマルバスはあっさりと了承した。なんでも、僕の気に召さねば後で記憶を抹消できるらしい。

 

『………どこだ、ここは。きみは、だれだ?』

 

半透明なまま少年は召喚されると、舌足らずながらも落ち着いた口調で僕に問う。こんな意味不明な状況でも、僕なんかよりはよっぽど肝が据わっているらしい。うん、間違いなく逸材だ。さて、交渉といこうかな。

 

僕は簡潔にマルバスとの会話の内容をまとめ、彼に器の話を持ち掛けた。予想通りに彼はしばらく物思いにふけ、たった三つの条件を僕に提示した。

 

一、彼の率いる孤児たちと、彼らに似た境遇の者たちを極力助ける。

一、戦う時は、必ず人道に背かぬ戦いをする。

一、難行を克服できる力を、貪欲に求め続ける。

 

僕は新たなる『器』、いや、相棒(運命共同体)に手を差し伸べる。

 

「了解だ。これからよろしく頼むよ。」

 

少年はフッと頬を緩めると、年にそぐわぬ微笑みをこぼした。

 

「こちらこそ。名は『アルバ』と呼んで欲しい。」

 

僕は彼の申し出に、快く頷いた。

 

「ああ、アルバくん。僕のことは気軽に...そうだな、ジェスリーとでも呼んでくれたまえ。」

 

沈黙を貫いていたマルバスがその重い口を開く。

 

『契約成立確認。全行程終了。選ばれしモノ、使命を果たせ。』

 

彼の反響する言葉を最後に、黒き空間は白き光で塗りつぶされた。

 

さあ、難行を始めよう。

 

 

 

 




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