ソードアートオンライン ~創造の鬼神~   作:ツバサをください

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 この話を一話で纏めようとしたのですが……無理でした。

 今回、かなりの駄文になっているかと思われます。ほのぼのとした感じを書くのが苦手なので、何かアドバイスなどいただけると嬉しいです。

 誠に身勝手なのは承知していますが……よろしくお願いします。


第二十一話 釣りをしよう(前編)

◇◆◇

 

 釣糸を湖に垂らしてから早一時間が経った。未だに何の反応も見せないウキに苛立ちを覚え、自然と釣竿を握る力が大きくなる。いくら我慢強い俺でも限界の時が近づいてきていた。

 隣から大きな欠伸が耳に入り、そちらに目を向けるとやってられんとばかりに釣竿を放り投げたキリトがごろりと寝転んで眠っている。

 キバオウという名のクズ野郎を殺してから数日が過ぎた。第三者から見れば、別に殺す必要はなかったのではないかと思うだろう。

 確かにそうだ。だが、あのクズ野郎の他者を蹴落として成り上がろうとする態度が、両親と同じく茅場晶彦の部下だったある男と似ていた。

 故に殺意が芽生え、殺すこととなった。そして両親と茅場晶彦がいなくなった今、奴はどうしているのだろうか……考えたくもない。頭を振って奴のことを意識外へと追いやる。

 あれから俺とシリカは攻略の合間にキリトとアスナがいる第二十二層を訪れるようになっていた。

 いや、正確には彼らが俺達を招待しているのだ。それも約二日に一回という高頻度。折角結婚したのなら、もう少し二人だけの時間を取ればいいと思うのは俺だけなのだろうか。

 そして現在、俺とキリトは食糧調達の為に《釣り》のスキルを設定して湖に釣糸を垂らしているわけなのだが、二人合わせて一匹も釣れていない。それどころか、何かが食い付く様子すら見受けられない。

 

 「……俺ももう無理、限界。茅場の叔父さん釣りの難易度高く設定しすぎでしょ……。」

 

 今もプレイヤーの中に紛れ、この世界を楽しんでいる両親の上司に向かって文句をつけながら釣糸を引き上げる。案の定、釣り針に付けていた餌は消えており、空しく銀の光を放っていた。

 それを確認した俺はキリトと同じように竿を放り投げて寝転ぶ。日本で言えば十一月頃になるであろう今の気候で外で居眠りすれば風邪になる可能性があるが、この世界に風邪など存在しない。

 少し肌寒い風に煽られながら鉄の天井を見上げていると、突然どこか見覚えのある年輪を刻んだ顔が俺の視界を覆っていた。

 

 「釣れますか……って、君は新原さんのとこのお子さんではないですか?」

 

 「……そうですよ。お久しぶりです……西田さん。」

 

 「おお、やっぱりそうでしたか。確か……三年ぶりですかな?いやー、まだ小学生だった創也君も大きくなりましたなぁ。」

 

 肉付きのいい体を揺らして西田さんは笑う。彼は全くと言っていい程に出会った三年前から変わったところがない。この世界に来て大きく変わった俺とは対極にあたる感じだ。

 西田さんは「隣、失礼します」と言ってキリトとは反対側の俺の横に腰を下ろし、やや不器用な手つきでメニューを操作して餌を付ける。

 それを確認し、今度は慣れた様子で竿を振り、釣り針を湖に沈めた。確か西田さんは釣りをこよなく愛す人だった筈だ。だから現実と同じところだけはぎこちなさが無いのだろう。

 

 「それにしても、創也君にも友達ができたようで嬉しいですわ。休憩の時間に華菜さんから何度も話をされていたもんですから……。」

 

 「……母さんは過保護でしたから。横で眠ってる彼とは嘘の仮面を外して関われる友人です。他にも、何人かいます。俺の過去を知ってもなお、受け入れてくれた人達が……。」

 

 「なんとそれは……。その子達を大切にしないといけませんなぁ。あと、創也君の過去というところはどれ程まで話したのですか?」

 

 「俺に関することだけですよ……。流石に両親のことを話すとなると、茅場の叔父さんのことまで話さなければいけなくなりますから。……西田さん、昔の話は此処まででお願いします。横の彼が起きそうです。」

 

 俺がそう言いながら後ろを振り返ると、丁度目覚めたキリトが眠い目を擦りながら上体を起こしているところだった。

 キリトは西田さんの存在に気づいた瞬間に仰天して飛び起き、観察するような眼で彼を見る。その眼は彼のことをNPCではないかと思っていた。

 まぁ無理もないだろう。恐らくだが西田さんは、若者しかいないとまで言えるこの世界では最高齢に位置すると思われる年齢なのだから。

 

 「キリト、NPCじゃないよ。れっきとしたプレイヤーだから。」

 

 「あ、す、すみません。まさかと思ったものですから……。あの、俺はキリトっていいます。最近上の層から引っ越して来ました。」

 

 「これはどうも。私はニシダといいます。此処では釣り師を、日本では東都高速線という会社の保安部長をしとりました。名刺が無くてすみませんな。」

 

 西田さんの自己紹介にどこか引っかかる部分でもあったのか、キリトは何かを察したような顔をする。俺は彼が何故そんな顔をしたのか考え、納得した。

 《東都高速線》はこの世界の創造神である茅場晶彦とその部下だった俺の両親がいた《アーガス》と提携をしているネットワーク運営企業なのだ。

 その為、今俺達がいる世界のサーバーに繋がる経路も手掛けている。このことは《アーガス》についてちょっと調べれば出てくる情報なので、知っているプレイヤーはかなり多い筈だ。

 複雑な表情をしているキリトが口を開こうとした瞬間、西田さんのウキが勢いよく沈む。俺がそれに気づいた頃には既に彼は腕を動かしてビシッと竿を合わせていた。現実世界での経験もさることながら、《釣り》のスキルの数値も相当なものなのだろう。

 

 「うぉっ!デカイ!!」

 

 「……こんな大きなものも釣れるのか。」

 

 身を乗り出して魚影を見つめる俺達の隣で西田さんは悠然と竿を操り、あっという間に一匹の青い魚を釣り上げる。魚は数回跳ねた後、ストレージの中へとその姿を消した。

 

 「お見事……!」

 

 「いやぁ、此処での釣りはスキルの数値次第ですからなぁ。」

 

 西田さんは照れたように笑い、頭を掻く。しかし、直後に何かに悩むような顔を浮かべた。

 

 「ただ、釣れるのはいいんですが料理の方がねぇ……。刺身などにして味わいたいもんですが、肝心の醤油がなければどうにもなりませんわ。」

 

 「あ……えっと……。」

 

 西田さんの言葉を聞いたキリトが俺を見る。アスナが製作した醤油の味がする液体のことを話そうか迷っているようだ。

 初めてアスナの醤油モドキを使った料理を食べた時は驚愕を隠せなかった。この世界に醤油があったのかと思わざるを得ない程に醤油の味がしたのだ。

 どうやって作ったのかというシリカの問いに答えたアスナ曰く、「調味料が味覚再生エンジンに与えるパラメータを全て解析して作った」とのこと。それを聞いた俺は彼女は相当食に飢えていたのだろうと思ったのは内緒だ。

 こちらに目を向けたままのキリトに、話しても大丈夫だと頷く。西田さんはゴシップに興味がなく、たとえキリトとアスナの正体を知ったとしても周囲に話すことはせず、「時には休むことも必要ですからな」などと言うだろう。

 

 「……実は醤油にとてもよく似ている物に心当たりがあるのですが……」

 

 「なんですと!ぜ、是非その物について教えてくれませんか!」

 

 やや興奮気味で身を乗り出し、キリトの両肩を掴んだ西田さんの眼が輝いて見えたのは気のせいではないだろう。

 

 

 ◇◆◇

 

 西田さんを連れて帰って来た俺達を出迎えてくれたアスナとシリカは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべてログハウスの中に招き入れた。

 ピナは西田さんの姿を発見したとたんにブレスを吐こうとし、シリカに怒られて今は俺の頭の上で反省させられている。一体ピナはどこまで過激になっていくのだろうか。そして反省場所が俺の頭とはこれ如何に。

 

 「そういえばキリト君、このお客様は?」

 

 事情を聞き、シリカと一緒に料理をしているアスナがそう問いかける。ウィンドウをせわしなく操作する彼女の首には大きな涙の形をしたクリスタルがつけられていた。キリトとアスナの初めての子どもであるユイの心が宿ったオブジェクトである。

 ユイはなんとプレイヤーのメンタルケアを行う《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》のAIだったのだ。

 しかしデスゲーム開始時にプレイヤーとの関わりを禁止され、モニタリングすることしかできなくなってしまったらしい。プレイヤー達の負の感情を見続けた彼女はエラーを蓄積させて崩壊し、壊れていった。

 そんな時にキリトとアスナを発見し、彼らに会いたいという自我が芽生えた。だがそれをゲームシステムの管理を行う《カーディナル》は許さず、消去されかけたところをシステムに介入したキリトによって間一髪で救われた。彼曰く、今もユイの心はあのクリスタルの中にあるそうだ。

 

 「あ……忘れてた。こちら、今日出会った釣り師のニシダさん。で……えーと……。」

 

 「何を迷ってんのキリト。普通に嫁さんで良いと思うよ。もうシステム上とはいえ結婚しているんだし。」

 

 俺の言葉にキリトは顔を赤くしたが、それが妥当だと判断したのか、まだ赤みが収まりきらない顔でアスナを紹介する。

 それから俺がシリカとピナを紹介し、料理が完成したので食卓へと向かったのだが、此処で重大な問題が発生した。椅子が四つしかなく、一つ足りないのだ。

 どうしようかと頭を悩ませ始めた俺達に再びシリカの特大爆弾が投下された。

 

 「あの、私はソーヤさんの膝の上に座りますから大丈夫です!」

 

 「えっ……?シリカ、今何て言った?」

 

 「だから……私がソーヤさんの膝の上に座れば椅子が足りるじゃないですか!」

 

 「……シリカ、それ本気?」

 

 羞恥心からか、シリカの顔は林檎のように真っ赤になっている。今彼女の上にやかんを乗せればお湯が沸かせそうである。

 正直そんな恥ずかしいことはしたくないのだが、状況をみる限りそれしか方法は無さそうだ。

 獣の思考回路で結論を出した俺は若干顔に熱を感じながら近くの椅子に腰を下ろすと、膝の上をポンポンと叩く。するとシリカは赤い顔をますます赤くして恐る恐る俺の膝の上に座った。

 顎の下あたりにあるシリカの頭からヒーターのように熱が発せられていることを感じ、恥ずかしければ無理にしなくてもいいのにと内心思う。今回の爆弾は初回の時と同じように自爆という結果になったようだ。

 それから俺はシリカを膝の上に座らせたまま、アスナ作の魚料理を味わった。のだが、今の状態のせいでどんな味だったのか記憶に残ってはいない。

 さらにキリト夫妻と西田さんがニヤニヤしながら時々俺達のことを見ていた為、余計に食べることに意識を向けることができなかった。

 そうこうしている間に食器は空になり、満足げな表情でお茶モドキを口にした西田さんは長いため息をついた。

 

 「……いやぁ、堪能しました。まさかこの世界に醤油があったとは……。」

 

 「あ、これ自家製なんですよ。良ければお持ちください。」

 

 アスナは台所から小瓶を持ってくると、それを西田さんに手渡した。使用した材料を話さなかったのは正しい判断だ。あの醤油モドキに使われている材料を初めて聞いた時には、胃の中がひっくり返りそうになったものだ。

 恐縮している西田さんに「こちらこそ美味しい魚を分けていただきましたから」とアスナは笑顔を向けながら……

 

 「キリト君は一匹も釣って帰って来たことがないんですよ。」

 

話の矛先をキリトに向けた。さらに……

 

 「そういえば、ソーヤさんも釣ってきたこと無かったですよね?」

 

その矛先は俺にも向けられる。何も言い返せない俺とキリトは憮然としてお茶モドキを啜った。

 

 「この辺の湖は難易度が高すぎるんだよ。」

 

 「……全く、茅場晶彦は釣りの難易度設定を間違えているんだよ。あんなの、釣れる訳がない。」

 

 「いや、そうでもありませんよ。難易度が異常に高いのはお二方が釣りをしていたあの大きな湖だけです。」

 

 「「な……。」」

 

 西田さんの言葉に俺とキリトは絶句した。そうなると俺達は《釣り》のスキルが低いのに、最難関の湖で釣りをしている無謀な奴らだったという訳だ。

 アスナは腹を押さえてくっくっと笑い、シリカも笑いを堪えている。彼女らが笑うのも無理はない。それほどに俺とキリトは馬鹿なことをしていたのだから。

 

 「何でそんなことになっているんだ……。」

 

 頭を抱えるキリト。因みに俺の頭には未だに元気を取り戻さないピナが居座っており、それができなくなっていた。相当ご主人に怒られたことが精神的ダメージとなっているようだ。

 

 「実はあの湖にはですね……ヌシがおるんですわ。」

 

 「「「「ヌシ?」」」」

 

 おうむ返しに聞き返した俺達に向かって西田さんはニヤリとしながら眼鏡を押し上げると、そのヌシについて話した。

 ある時、西田さんは道具屋でやたら値段が高い餌を見つけ、物は試しとそれを購入したがどこで使おうともさっぱり釣れなかった。

 そして様々な湖で試した結果、俺とキリトが釣りをしていたあのやけに難易度が高い湖で使うものなんだと思い当たったそうだ。

 その推測は的中し、直ぐにヌシと思われる魚が食いついた。しかし西田さんの力では釣り上げることは失敗に終わり、竿ごと持っていかれてしまった。

 失意の中で消えていく魚影を見た西田さんは驚愕を隠せなかった。何故なら、その魚影は両手に収まりきらない程に大きかったからである。

 あれは別の意味でモンスターだと西田さんはその時を思い出すようにそう締めくくった。

 それを聞いたアスナの目から輝きが放たれた。シリカも今の状態では顔が見えないが、恐らく同じような感じだろう。そしてその予想は間違っていなかったと数秒後に証明される。

 

 「「見てみたいなぁ……。」」

 

 アスナとシリカからそんな声が発せられた。西田さんは「そこで相談なのですが……」と俺とキリトに視線を向ける。

 

 「お二方、筋力パラメーターの方に自信は……?」

 

 「まぁ、そこそこは……。」

 

 「……俺もキリトと同じぐらいにはありますが。」

 

 俺達の回答に西田さんは満足したのか、首を大きく縦に振った。

 

 「それならお二方にそのヌシを釣り上げてほしいのです。あ、ご心配なからず。ヌシが食いつくまでは私がしますので。」

 

 「……果たしてそんな事ができるのかな……。茅場晶彦はこの世界を可能な限り現実には近づけているとは思うけど……。」

 

 「面白そうです!やりましょうよソーヤさん!!」

 

 顔に『楽しみだ』と大書したシリカが振り返りながらそう言った。……のはいいのだが、俺の体を背もたれにしている密着状態で俺の顔に向かって振り返れば……

 

 「んぅ!?」

 

自然と唇が触れ合ってしまう。

 それを失念していたのか、シリカはその瞬間にぼっと顔を真っ赤にして気を失ってしまった。今日は彼女の自爆が多い。まぁ、そんなおっちょこちょいなところも好きなのだが。

 

 「……キリト、やってみる?」

 

 「そうだな……正直俺も見てみたい。やりますか。」

 

 それを聞いた西田さんは満面の笑みを浮かべて、そうこなくてはと笑った。


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