ソードアートオンライン ~創造の鬼神~   作:ツバサをください

7 / 73
 タイトルからお察しの通り、ヒロイン登場です。

 オリジナル武器が出てきますが、私はネーミングセンスが壊滅的にありません。一応、由来などは後書きにて記載します。興味がおありでしたら読んで頂けると幸いです。


第七話 竜使いと鬼神

◇◆◇

 

 三匹の《ドランクエイプ》という名が横に浮かぶ猿人のモンスターと対峙する。そしてその内の一匹が手に持った混紡らしき物体を振り下ろす。

 それを難なくサイドステップで避けながら、今の片手剣《ロンリライアー》を抜く。そのまま混紡モドキを振り下ろした硬直で動けない猿人に《バーチカル》を叩き込む。《バーチカル》は初期から使えるソードスキルなのだが、それを喰らった猿人は容易くそのHPをゼロにしてポリゴン片となった。

 仲間が一匹容易く殺された様を見て一匹だけではダメだと考えたのか、今度は残った二匹同時に左右から襲いかかってきた。それもソードスキル後の硬直で動けないはずの瞬間を狙って。だが……

 

 「足りナイ……。モット来い……。俺の、殺意ヲ発散するニハ……まだ足りナイ……。」

 

 俺は唯一動く左手で細剣《スカービースト》を握り、硬直を無理矢理キャンセルする。最近では《スキルキャンセラー》の成功率がほぼ百パーセントになってきている。

 硬直から解き放たれた体を動かし、《ロンリライアー》を片方の猿人の顔面目掛けて投擲する。それに怯んだ隙にもう一匹の猿人に《リニアー》を立ち上げて突き刺す。これも初期のソードスキルなのだが、猿人の姿は一瞬で消えた。

 またもソードスキル後の硬直に体が停止させられそうになる。俺の空いた右手は背に向かう。そして、再び硬直がキャンセルされた。

 俺の右手には《デスクロス》という名の両手槍が握られていた。《スカービースト》を捨てて、両手で持った状態で《ディラトン》を立ち上げて最後の猿人を貫く。

 今度こそ俺は硬直で動くことができなくなった。《スキルキャンセラー》の弱点は両手で扱う武器のソードスキルを使用した場合、これ以上ソードスキルを繋げることができないこと。キャンセルするための手が空いていなければ、新たな武器を持つことができないからだ。

 

 「ふぅ……。だいぶ落ち着いたな。定期的にこの殺意を発散させねば、いつ俺が獣と化すのかわかったもんじゃないからな。」

 

 硬直が解けてから、俺は地に落ちている《ロンリライアー》と《スカービースト》を拾う。

 此処は最前線から遠く離れた第三十五層の通称《迷いの森》。一定時間で森の造りが変化してしまい、すぐに迷子になってしまうことからそう言われるようになったそうだ。これが正式なフィールド名なのかどうかは知らない。というかどうでもいい。

 俺は定期的に此処に来て、殺意を発散させている。とは言っても、相手とのレベル差がありすぎる為に一発で殺してしまうのだが。

 俺の殺意は、この世界で殺したようなクズ野郎と関わることで生まれ、加速する。だが何もなくとも、少しずつ殺意が蓄積されていくのだ。

 あの日の獣の俺を閉じ込めている檻には、もうひび割れが入っている。完全に塞ぐことなんてもうできなくなっているのだ。毎日毎日獣の俺が漏れだし、今の俺と混ざり合っていく。それは俺を少しずつ、だが確実にあの日の俺に近付けている。

 その進攻速度を少しでも遅くするために俺はこの森で殺意の発散をしている。獣の俺は殺意に呼応して行動が激しくなる。定期的に発散しておけば、急に暴れだすことはない。そして、この森にはほとんど人がいない。一瞬で迷子になる森に喜んで入る馬鹿がこのデスゲームと化したこの世界にいるだろうか。

 

 「……あっちに三匹いる。かなり近いな。それで最後にするか。」

 

 感じた気配のする方向に足を向ける。鬱蒼と生い茂る草むらを掻き分けて進んでいく。その猿人三匹はすぐに見つかった。

 俺はさっきと同じように三匹の猿人を殺し、落とした武器を拾う。そして一つの気配を感じとる。それはこの森に出るモンスターとは異なっている、つまり人間の気配だった。俺はその気配がした方向に目を向ける。

 

 「うぅっ……ピナぁぁぁ。私を……えぐっ……一人にしないでよぉ……。」

 

 その視線の先には、一人の少女がいた。光の差し込まない地に座り込み、青い羽らしきものを大事そうに抱えながら涙を流していた。

 

 「おいお前、大丈夫か?」

 

 俺は俺自身の行動に驚愕を隠せなかった。彼女は今まで出会ったことのない、いわば赤の他人だ。普段の俺ならば声を掛けることなく、その場を立ち去るはずだ。

 その筈なのに、俺は現在進行形で彼女に話しかけている。俺は俺自身が理解できなくなった。

 

 「ありがとうございます……助けていただいて。」

 

 「別に、たまたま此処を通りかかっただけだ。しかし何だそれは?」

 

 俺は彼女が抱えている青い羽らしきものを指差す。その羽は恐らくドロップ品なのだろうが、それを彼女は大切に抱えている。

 ……何を考えているのだ、俺は。何故、赤の他人である眼前の少女を見捨てずに更に関わろうとしているのだ。いつもならこんな事は絶対にあり得ないのに。

 そんな俺の思考を知るよしもない彼女はその羽を一度だけ叩いた。浮かび上がったアイテムの名は……『ピナの心』。それを見た彼女は再び目尻に涙を浮かべる。

 

 「泣くのは後だ。さっさとこの森を出るぞ。」

 

 気がつくと俺は彼女に手を差し出していた。本当に理解ができない。得たいの知れない『何か』が俺を突き動かしている。その『何か』が俺にはわからない。

 

 「どうして……出会ったばかりの私を助けてくれるんですか?」

 

 「うーん、俺にはわからない。でも、何故か放っておけないんだ。」

 

 「えっ……?今、口調が変わって……!?」

 

 彼女が俺に驚くと同時に、俺も俺に驚愕していた。それも先程の比ではない。それも仕方のないことだろう。嘘の仮面が外れ、本当の俺が顔を出してしまったのだから。

 彼女は、両親や家族のように信頼できる人間ではない。数分前に出会ったばかりの赤の他人だ。そして、キリトのように命まで賭けて俺と関わりを持とうとした人間でもない。本当に赤の他人なのだ。しかし、キリトと話していた時と同じように仮面は外れた。こんな現象は初めてだった。

 俺は驚愕を隠すように、外れた仮面をつけ直した。本当の俺は影を潜め、嘘で固められた俺に戻る。

 

 「……可能であれば忘れてほしい。さぁ、行くぞ。」

 

 「ふふふ……変な人ですね。あっ、私シリカっていいます。」

 

 「……ソーヤだ。」

 

 シリカと名乗った少女が俺の手を握った。それを確認した俺は彼女を引き上げて、立ち上がらせる。そして俺達は森の出口へと向かった。

 

 

 ◇◆◇

 

 無事に森から出て、居住区へと向かう。するとその門には俺が今現在、この世界で唯一信頼している少年の姿があった。

 

 「……いきなり呼び出してすまない、キリト。それに早いな。数分前に連絡した筈なのだが。」

 

 「別に謝ることじゃねーよ。それに俺もたまたまこの層にいたからな。早いのも当たり前だ。」

 

 キリトは俺を見つけると笑顔を浮かべた。もうその笑顔の裏には何も隠されてはいない。雲一つ無い青空のように、明るい笑顔だった。

 しかし、キリトの『たまたまこの層にいた』という発言が気になった。彼は攻略組の中でもトップクラスの実力を持っている。こんな低い層で油を売っている暇なんて無い筈なのだ。

 そして彼の視線が後ろにいるシリカを捉える。

 

 「君がシリカかな?俺はキリト。よろしくね。」

 

 「ああ、はいっ!よろしくお願いします!キリトさん!」

 

 シリカはキリトと握手を交わす。彼女はやや緊張しているようだった。体は強ばり、声がやや少しあの森の時よりも高く、上ずった声になっている。

 俺がキリトを呼び出した理由は一つ。シリカが大切に抱えていたあの羽の事について聞きたいと思ったからだ。

 彼女が持つ《ピナの心》は彼女がテイムしていたモンスターが死んだ時にドロップしたそうだ。通常、HPがゼロになって死んだものはプレイヤーモンスター関係無く全てポリゴン片となり、爆散する。だが、その羽だけは残ったというのだ。

 俺はクエストやイベント等の細部に詳しくない。だがキリトは違う。彼はこのデスゲームの奥深くまで知っている。イベントの発生条件やクエストの受注可能な場所等々、情報屋顔負けの情報を持っている。

 情報屋は金さえ払えば簡単に情報を教える。だが、俺はそんな情報は信頼どころか信用すらできない。悪い癖だ。疑心暗鬼と言っても過言ではない程に、誰かを簡単に信用しない。

 それに、今回はシリカが持つアイテムに関する事だ。俺ではない。それならば、信用すらできない情報を楽して得るよりも、多少信用できる情報を労力かけて得る方が向いている。

 ……本当に何故、ここまでするのだろう。シリカはそこら辺を歩く人間と同じの筈だ。なのに、俺は彼女を放っておけない。『何か』が今の俺を動かしている。その『何か』がわかれば、俺はこうして悩むことなんてないのだろうか。

 

 「ソーヤさん?大丈夫ですか?」

 

 「すまない。少し考え事をな。」

 

 「何ボーッとしてんだ、ソーヤ。そうだシリカ、例のアイテムを見せてくれないか?」

 

 シリカは俺を見る。失礼な話だが、彼女はキリトを少し警戒しているようだった。少し怯えたような視線、確認を求めるような態度をしている。

 俺はそんなシリカの頭に手を置き、笑顔を浮かべて頷いた。それを見たシリカも頷き、キリトに《ピナの心》を渡した。

 今までの俺では考えられなかったことだ。いや、今の俺でも考えられないか。他人を信用させることをするなんてな。ましてや、笑顔を浮かべるなど。俺はどうかしてしまったのだろう。シリカといると本当の俺がキリト以上に簡単に表れてしまう。

 この短時間で二回も嘘の仮面が外れた。確実に『何か』が影響を及ぼしている。だがその『何か』の正体がわからない。今言えることは、今の俺は『何か』によって動いている、それだけだ。

 

 「シリカ、このアイテムがあればピナを蘇生させることができる。それには第四七層にあるフィールドダンジョンの《思い出の丘》に使い魔の主人が行くことで手に入るアイテムが必要なんだ。」

 

 「そうなんですか……。情報を教えてくれて、ありがとうございます。私、頑張っていつかピナを生き返らせてあげます!」

 

 「それなんだが……このアイテムはあと三日で《ピナの形見》に変わってしまう。そうなってしまったら蘇生はできない。」

 

 シリカは希望から一気に絶望へと叩き落とされ、その瞳からはハイライトが失われ、何も写していないようだった。

 一瞬希望をもたせてから絶望に叩き落とす、この手法は相手に深い絶望を与える。信用しようとした誰かに裏切られるとはこれと同じことなのだ。

 

 「シリカ、これを装備しろ。これなら多少はレベルを底上げ可能だ。それに、俺達も一緒に行く。こうすれば何とかなる筈だ。」

 

 俺はエギルに買い取って貰おうと思って持っていた、幾つかのアイテムをストレージから取り出す。何をやっているのかと思った頃には、トレードウィンドウにそのアイテムが入れられていた。

 まるで誰かが俺の体を操っているような感じだ。誰が動かしていることはわかっているのだが、その誰かの正体がわからない。『何か』の正体は一体何なのだろうか。

 

 「本当に、どうしてここまでしてくれるのですか?私達は赤の他人の筈なのに。」

 

 「あの森の時に言っただろう?何故かは知らんが、お前を放っておけないんだ。まぁ、その正体がわかればまた話す。」

 

 「そういや、何で俺も?お前一人で十分だろ?」

 

 「キリト、この辺に用があるんじゃないのか?お前がこんな層にいるのはおかしいだろ。」

 

 「……相変わらずソーヤは恐ろしいな。」

 

 それからアイテムをシリカに無償であげ、早速三人でパーティーを組んだ。攻略する明日で良いと思ったが、シリカが早く組みたいと言っても聞かなかったのでパーティーを組むこととなった。何故彼女がそれほど急かした理由は直ぐに理解できた。

 居住区に入って数分で多くのパーティーやギルドからシリカが誘いを受けたのだ。聞くところによると、彼女は珍しいフェザーリドラの子供を使い魔にしたということで、ちょっとした有名人らしい。それ故に彼女をマスコットとして欲しがるパーティーやギルドが多数いるということだ。

 全く反吐が出る。シリカをパーティーに誘う人間達には下劣な考えを持っている者すらいた。それに気づかずに一つ一つ丁寧に断っている彼女を見ると、その魔の手にかかってしまわないか心配してしまう。

 ……俺は何故シリカを放っておけないのだろうか。加えて、ふと気がつくと彼女のことを考えてしまうことが多い。出会ったばかりの筈なのに、近くにいても安心できてしまう。俺をここまでしてしまう『何か』の正体とは何なのだろうか。

 そんな無駄な事を考えながら、シリカとキリトの後をついていく。彼女が美味しいチーズケーキを売っている飲食店を紹介してくれるそうだ。すると、赤髪の女性が俺達の行く手を遮るように立ちはだかった。

 

 「あらぁ、シリカじゃない。無事に森を抜け出せたのね。良かったわね。」

 

 その女性は嫌味を含んだような声で話しながらこちらに歩み寄ってくる。その時、キリトの表情が僅かに変化し、険しくなったところは見逃さない。恐らく、彼がこの層にいる理由に関係しているのだろう。だったら、ろくな人間ではない。

 俺はシリカとその女性の間に割り込む。女性は視線を俺に移し、嫌味たっぷりの顔で俺を見る。そして女性が嫌味を言う前に、先に言葉を発して無理矢理口を閉じさせる。いじめでよくある暴言ばかり吐くクズ野郎を封じ込める手段だ。

 

 「嫌味を言うだけなら退け、ババア。」

 

 「バ……!?いきなり飛び出てきて何言っているの、このガキは!」

 

 先手を打たれたクズ野郎は新たな暴言を吐いてやろうと焦る。そうなった時の人間は素直だ。手に取るように何を考えているのかわかる。それほどに態度や口調に変化が現れるのだ。そうなれば後は簡単、考えていることがわかっていることを嫌らしく伝えてやるだけで封じ込めることができる。

 

 「大方、彼女の使い魔がいないことを弄ろうとしたんだろう?それも嫌味たっぷりのその声でな。そんなんで人を弄って楽しいか?お前はそんな事もわからない阿呆なのか?俺達にはお前のようなクズ野郎に関わっている暇なんて無い。わかったら退け、ババア。」

 

 「……随分無礼な口を利くガキね。一度痛め付けないとわからないのかし……」

 

 「能書キはイイ、サッサト退け。」

 

 また一つ、獣の檻にひびが入った。漏れだした獣は俺をあの日の俺へと確実に近付ける。殺意が加速する。価値観が定着する。思考が冷徹に切り替わる。

 

 「ひっ!!……わかったわよ。退けばいいんでしょ、退けば!」

 

 少し漏れでた殺意が周囲に広がる。それにあてられた女性は恐怖に顔色を染め上げ、その場から立ち去った。

 しかしこれで終わりとは到底考えられない。歪に曲がったプライドを持ったいじめっ子が、こんな簡単に終わることはないのは知っている。近い内に再び出会うだろう。

 

 「あの、ありがとうございました。ソーヤさん。」

 

 「気にするな、俺が勝手にしたことだ。」

 

 俺は無意識にシリカの頭を撫でていた。数秒後にそれに気付き慌てて手を離したのだが、彼女はどういうわけか残念がる表情を見せていた。

 

 

 ◇◆◇

 

 「さて、キリト。またお前何か隠してるだろ。俺はお前があのクズババアと出会った時に表情を険しくしたことを知っているぞ。」

 

 「どこまで細かく見てんだよ……。」

 

 隣のベッドにうつ伏せになり、ウィンドウを弄っていたキリトはため息をつく。攻略組の彼がこんな層にいれば普通何があったのか疑問に思うだろう。そこから少し考えれば誰でもわかるはずなのだが……。

 現在俺達は第三十五層にある宿の一室にいる。理由はとても単純なもので、一度ホームに戻るのが面倒臭かった。たったこれだけだ。

 本当はそれぞれ個別に部屋を取りたかったのだが、空きが二部屋しかなかったので、俺とキリトが同室となった。

 

 「まぁ、お前には隠す必要もないことだしな。俺が此処にいる理由は話すよ。だけど、シリカには黙っておいてくれないか。今から俺が話す内容は、彼女が知るべきではないことなんだ。」

 

 「……別に構わないが。」

 

 キリトのその言葉に疑問が浮かぶ。彼が今から話すのは俺に話しても問題ないが、シリカは知るべきではない内容。それに加えて、攻略組のキリトとあのクズババアが関連する内容……悪い予感がする。そして、その予感は見事的中した。

 

 「俺は今《タイタンズハンド》というオレンジギルドを追っている。そしてそのリーダーが今日出会ったあの女性……ロザリアだ。そして俺はそのギルドメンバー全員をこの結晶で牢獄送りにする為に、この層にいるわけだ。」

 

 そう言ってキリトは青色の結晶を取り出した。それは俺達がよく使用する青色の結晶……転移結晶よりも深い青色をしている。その結晶には見覚えがあった。

 回廊結晶。一度に多くのプレイヤーを移動させることができるもので、移動先も自分で決められるという優れた代物だ。そして、優れた代物だけに値が張る。俺も初めて見た時には目を疑った。

 それをキリトが持っているとは予想外だった。しかし先程の彼の発言から、誰かからの頼み事でこの層にいるのだろうという結論に落ち着いた。キリトはお人好しなのだ。それもかなり重度の。

 

 「……そうか。無理に聞いてすまなかった。」

 

 「大丈夫だ。もし、ソーヤに話さなくとも直ぐにバレてしまうと思うからさ。んじゃ、また明日な。」

 

 「ああ、また明日。」

 

 そうしてベッドに潜り、眠りにつこうと思った時にコンコンとノック音がした。先に気付いたキリトがもぞもぞとベッドから這い出て扉へと向かう。そして彼は一人の少女を連れて戻ってきた。

 その少女は言うまでもなく、シリカだった。彼女曰く、明日行く第四七層のことを聞いておきたいとのことだ。俺もベッドから這い出し、ベッドに腰掛ける。シリカも部屋に一つだけある椅子に座った。それを確認したキリトはあるアイテムを取り出す。

 

 「それは?」

 

 「《ミラージュ・スフィア》というアイテムさ。」

 

 シリカの質問に答えながら、キリトはウィンドウを操作する。その直後、アイテムが光りだして大きなホログラフィックが映し出された。それはアインクラッドの第四七層の全体を表示していた。

 キリトは一つ一つ指差しながら、丁寧に解説している。だが俺の意識は扉に集中していた。シリカが部屋に入ってきてからだろうか、一人の人間の気配がする。恐らくだが、盗聴でもしているのだろう。

 キリトも気付いたようで、解説を中断して扉を睨んでいた。そして、扉を一気に引き開けようとする彼を手で制する。盗聴者はまだ俺達が気付いていないと思っているようだ。その証拠に動く様子がない。

 これは好都合だ。俺は殺意を盗聴者に向ける。扉の向こうの気配は怯えた反応を示し、恐怖からか震えだしてしまった。

 人間は突然殺意を向けられたりすると、殺意の大小問わず恐怖に包まれる。そしてその恐怖は体から自由を奪い、逃げたくとも逃げられないようにしてしまう。あの日の餓鬼どももそうだった。全員が恐怖で震え、涙を流していた。

 

 「オ前のリーダーに伝エロ、盗聴者。最後の晩餐ヲ楽しんドケとな。」

 

 それだけ言うと、向けていた殺意を解いた。とたんに階段を慌ただしくかけ降りる音が響いた。




 オリジナル武器名の由来

 《ロンリライアー》
 《lonely》と《liar》と足して割ったもの。(孤独)と(嘘つき)

 《スカービースト》
 《scratch》と《beast》を足したもの。(傷)と(獣)

 《デスクロス》
 《cross over death》をもじったもの。(死を越える)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。