フリードリヒ・ニーチェ
あとクッソ読みにくいから気をつけてね
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━━━━━私の■した人━━━━━
ピッ……ピッ……と、小さな電子音が一定のリズムを刻み、ボゴッ……ボゴッ……とくぐもった音が時折聞こえる。明石は地下の自身の開発ラボが奏でるメロディーを聴きながら、1960年代に想いを馳せた。その時代の音楽家達は音楽に情熱を、命を吹き込んでいたそうだ。そう考えればいまの自分は彼らの音楽の終着駅ではないか。この音楽は命そのものなのだ、そう考えると口元からハハ、と白けた、聞き慣れた機械音声が響く。先人たちに敬虔の意を込めた敬礼をしながら明石は覚束ないタップダンスで緑と青の路地裏を駆ける。カウンセラーの摂取が必要だ。そう思った明石は執務室へと向かう。
手術台の上に築地のマグロめいた状態で寝かされている少女は顔こそ見えない、いや頭部が無いものの生きていた。元は『夕■』だった彼女は明石の代わりに留守番を快く引き受けた。赤い潤滑油が床に滴り落ち、明石の白衣の端を染めた。
執務室への道は険しい。ギシギシと情けない悲鳴をあげる木製の老化は酷く廊下が進行、下手な場所を踏むと上の階に落ちてしまうのだ。所々はアルミ製の足場に介護されているが、綱渡りチックな技量が要求されるのだ。つくづく合理的では無い、と明石は1人文句を垂れる。
まぁ、そんな所も含めて明石は彼を愛していた。
執務室には机、風化した掛け軸、潤滑油だらけのソファー、手銃、Z軸を中心に長針が252度回転した短針を亡くした時計、■淀だったもの、背をむけて椅子に腰掛けるカルシウム、そして机の上の
箱を起動する。軽い電子音と同時にファンが喧しく黄色い声を上げて騒ぎ始める。思考した。これもまた音楽なのかと。既に唯の0と1の配列と成り果てた提督だが、間違いなく彼は彼の意思で生きているのだ。明石が、明石だけが彼を目覚めさせる事ができる。その事実が明石の人工心肺に異常をきたす。抑留の無い火山活動、遊星歯車の円滑な高速回転。だがそれがどうしようも無く心地良かった。
提督との会話は明石の荒んだ心に残された最後のカナビラだった。嘗て愛した男は明石自身の手によって魂だけがラッピングされた。それを彼は是とした。明石自身も是とした。ならば問題はない。そうだろう?
【担当艦娘はタイピング又は音声、パピルスへの情熱的告白での入力を開始してください。】
『担当艦:明石
備考:なし。何も。何も無い。全く。』
【データを同期しました。】
『おはようございます提督。2058年05月08日19時42分の起動を確認しました。今日は提督が待ちに待った日ですよ!一日千秋!』
2058:05:08:19:42
おはようございます明石。
『むう……でももっと突き詰めたいんですよ私は!鉄塊の曲線がまるで三次曲線的な美しさを持つような!それでいて機能美も詰め込みたい!』
2058:05:08:19:42
これから何かと頭数が揃っていた方が便利ですからね。ガラス製の芸術作品は軍隊には必要ありませんから。それに失敗してもあなたが居ます。最愛のあなたが。私は安心していますよ。
『もう。提督ったら。ま、練度はあっても私は戦闘はからっきしですから。期待しないでください。でも
2058:05:08:19:43
彼女達も困惑するでしょう。末期ガンな現状も説明しなければなりません。準備のために私も下に降りましょう。会議室で私のセットアップの準備をしておいて下さい。
そうだ。あなたの無人機のデータを見ましたよ。完成が待ち遠しいですね。
『ガワと理論は出来てるんですが如何せん武装です。今はガントレットとの連携が前提ですがそれではタコには敵いません。いずれ単体での戦闘機能を持たせたいんです。』
2058:05:08:19:43
頑張ってください。夕■にも相談しては如何ですか?彼女はねぼすけさんですが、いずれは。
『夕■はもうそれに
2058:05:08:19:44
『そうですね。夕■を待たせては悪いですから。良い散歩を。』
【記録を保存しました】
明石も提督も間違いなく狂っている事はオシロスコープを通して見たって明らかだった。明石は前述の通り、そして提督は積み重なる年月と不完全なHDDDDDDDDDにより記憶は摩耗し、人格と倫理はよりC元素を含む物体へと再編された。代わりに処理能力が向上した彼の意識下ではこちらの一秒が何十秒にも感じられるらしい。
確かに今の彼は彼の彼女が彼のために作った彼の意志を真似た彼の紛い物の彼でしかない彼なのかもしれない彼。だが果たしてそれは彼ではないと言えるのだろうか?
彼はイきてるっていうのに?
━━━━━フランケンシュタイン━━━━━
2050年の大敗北以来、人類は着実に地球というステージから引きずり下ろされた。宇宙に逃げる計画もあったらしいが現在も尚銀河鉄道が出発した気配はない。当然だ。宮沢賢治は死んだのだ。そんな事も知らなかったのだろうか?
コンテナに流し込まれる水を必死に塞ごうとする人類もいる。ノルウェーの山岳地帯に集ったヨーロッパ人、未だ世界のアドミニストレータたろうとするアメリカ人はワシントンに集合した。残り僅かなアジア人はモンゴルに拠点を置いていたはずだがどうなっただろうか。チンギス・ハーンの威光は健在だろうか?日本はもうココ━━嘗て呉と呼ばれた街━━しかない。海外の日本人と提督を除けば日本人は絶滅した。IUCNに報告すべきだ。
艦娘はその殆どが戦死、又は人間に殺された。深海への生贄、人柱。名目は何でも良い。身勝手な人間に殺された。明石の仕事は彼女達を保護、改良する事だった。保護は確保へ、治療は改良へと変位/変異/変移/偏倚/偏位した。
提督が。ただ治すよりも使えるようにしたいと言っていたから。
明石の狂気は何百人もの艦娘達の身体を蝕んだ。いや、弄っている内に明石が狂気に囚われたのか?いずれにせよ卵が先かニワトリが先かを争うくらいにはどうでもいい。兎角明石の行動は常軌を逸していた。始めは慣れない作業のために134人を殺した後、95人が明石の改装技術の発展に大きく貢献し、32人を生体ユニット開発のための材料とし、10人が『完成作』として起動を待っている状況だ。
両足を失った■風に義肢を与えた。そう言えば彼女は速いのが好きだったなと思い立ち、神経系をマイクロファイバーに置き換え対Gの為に内蔵は殆ど人工の物に置き換えた。
ズタボロの北■を治療した。どうしても足りない部分は大■で埋めた。記憶が曖昧だがそんな風になりたいとかどっちかが昔言っていた気がした。いつか明石も提督とそうなる時のために練習しておくべきだろうか?
全身を火傷した■城は痛みの余り苦しんでいたから痛覚を消し、触覚を消し、とにかくすべての体外的な刺激に鈍感にした。見てくれは良くしようと皮膚の代わりは失敗した方の■城のそれを使った。ブラック・ジャックみたいだと一人で後から思ってしまった。
自殺しようとしたのかナイフを首に刺していた山■は全身に対空機銃や副砲━━それこそ身体の至る所から展開可能な━━武装まみれにした。理論上はほぼ条件反射での射撃が可能な筈だ。普段から不幸と嘆いていた彼女が一命を取り留めたのは幸運だったと明石はおもった。
川■の両目が潰されていたので、眼球と脳の一部をを引きずりだし、赤外線センサーやサーモグラフィーの機能をとにかく詰め込んだ。頭部を大々的に弄った艦の一人だ。夜間戦闘は彼女に任せれば問題無くなる筈だ。本人もきっと喜んでいるだろう。
明石の側頭葉からずるずると引きずり出されるのは彼女達の姿だ。皆嘗ての戦乙女のような綺麗さは無いが機能美という言葉もある。単なる兵器と言ってもいいかも知れないが、明石はそうは思わなかった。提督が彼女達は『家族』だと、そう言ってくれたのだ。つまるところ自分が母親で提督が父親なのではないか?子沢山という訳だ、と明石は考えた。加速タービンの爆発的増加。そう思うと明日も頑張ろうと思えるのだ。
生命への冒涜的行為だけが明石の正常な思考を取り戻す。矛盾しているようだが今の明石はもはや実験、研究、開発、そして実行。それ以外のプロセスを踏むにあたって正常な思考は困難だった。若輩だった明石には度重なる生体ユニットの開発と保持は苦痛でしかなかった。最初は人類の為だった。今はどうだ?表向きはそうでも、今は明石の孤独を埋めるための単なる
一度何処からか兎に連れられこの鎮守府に迷い込んだ……那■だったか?……彼女は明石が地下を案内し、提督に会わせるとなんと突然砲撃して提督を破壊しよ/ふざけるな/うとしたのだ。敵に頭を弄られてしまっていたのか本意ではない攻撃を始めた那■の、恐怖と怒りのミックスベジタブルな表情が忘れられない。明石が抑えても頑なに抵抗していたので、やむ無く脳をレ/当然だ/ンチで破壊した。今は義肢、義足の発展のために彼女の筋/ざまあみろ/肉が貢献している。
ところで、そこで覗いているのは誰だ?
━━━━━PINK→RED━━━━━
日本。鎮守府。発見。驚愕。哀愁。不審。懐疑。捜索。地下。目撃。あかし。恐怖。叫び声。逃走。赤。血潮。廊下。足。肉。赤。し。逃走。笑い。笑い。扉。鍵。窓。鍵。逃走。赤。し。心臓。鋸。赤。痛み。し。あか。し。あかし。
━━━━━グレーテル━━━━━
五■鈴が激痛に目を覚ますとそこに立っていたのは嘗ての同僚である明石だった。だが彼女の知る明石とは似ても似つかない。
覚束無い足取りで何かの機械の間を往復する明石の足は義足だ。乱雑に溶接された金属と明石の太ももの肉がボルトで噛み合っている。歩く度に何かが垂れた。手は酸に漬けたかのようにボロボロだが、薬指だけは不自然に綺礼だった。
『ああ、やっと起動したんですか。いきなり4kHzが響いたものですからいざ名探偵の出番かと思いましてね。思わず追いかけてしまいました。そしたらあなた怪我してたじゃありませんか!足を廊下に折られてしまったみたいですね。私もあそこを修理したいんですが生憎と手が血と脳漿で満たされていで……でも安心してください。あなたを
「ふざけないで!あなた、一体ここで何をしているの!?どうしちゃったのよ!?」
明石の喉から響く抑揚の無い機械音声が時折訳の分からない単語を発しながら流暢に話す。光の無い目が五■鈴を上から下まで舐めまわした。
『うん。足を直したら次はどうしましょうか。長良型の在庫はまだあったかな?あ、由■さんと■怒さんがありますね。うん。爆雷ガン積みとかロマンあるし提督も喜びますよ?とりあえず爆雷メインで行きましょうか。腕に何とかして装填機構を組み込めないかな?骨は要らないですし。外骨格でいいでしょう。……待てよ、あなた斜方投射されてみたくなりませんか?』
五■鈴は絶句した。明石は完全にイカれてる。
「アンタ!さっさと私を解放しなさい!こんなことしていいと思ってるの!?提督を出しなさい!私が直々にせいさ━━」
『うるさいなぁ』
五十鈴は地雷を踏み抜いた。
突然頬に激痛が走る。細長い釘、いや、これは、電探の一部が五■鈴の頬を焼き鳥のように串刺しにしていた。
「アアアアァァァ!」
『とりあえず電探取り付けるんで動かないでくださいね。必ずしも幸せの秩序が痛みの中に無いとは限らないんですから。』
「やめ、やめへぇ!やめへよぉ!」
満足に動かない五■鈴の足がバタバタと動き、明石の冷たい足を蹴る。もう片方の方にもお構い無しに差し込んでいく明石。そしておもむろにメスと━━鋸を取り出した。
『じゃあ次はこの足と足と足ですね。』
「ヒッ!らえ!らえ!らえ!ゆるひへ!はれひもいはらいはらぁ!」
『舌を食いしばれ。』
切断する。鋸の歯が五■鈴の肉をぐちゃぐちゃにしながら噛み砕く。よりによって歯が粗いタイプだ。
『お前が悪いんだ。あの人を。出せだって?これ以上彼に迷惑をかけるな。只でさえ上りダイアが二分間遅延しているんだ。お前なんかバラバラにして電気信号による身体反応の実験に使っても良いんだぞ。それでも提督は、救える命は救えって言うからお前を直してやるんだ。』
「ゆびぃ!いひゃい!いびゃい!アアア!」
『お前は楽に直してなんかやらない。苦しみながら「殺戮人形」になってしまえ。』
悲鳴は、誰にも聞こえない。
最後に。
五■鈴の笑い声が響いた。
━━━━━Happy Birthday━━━━━
『提督!準備が遂に出来ました!』
2058:05:08:23:04
素晴らしい……明石、本当にありがとう。八年間の努力の甲斐がありましたね。
『ついに!ついにです!私と提督の愛の結晶が!ああ、太陽の公転が加速し私を照らす!』
2058:05:08:23:05
では起動しましょう。パスワードはどちらに打ち込めば?
『それはもちろん、私のこの耳に!優しく!囁いて頂ければ!私の耳と脳がシステムに直結してますから!』
2058:05:08:23:05
ふふ、照れますね。では……
愛してますよ、明石。
~fin~
お疲れ様でした。感想お待ちしてます。
読者「こんなもん書いてる暇があったらガルパンを書け」