魔法少女規格 -Magic Girls Standard-   作:ゆめうつろ

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Campaign Mode Chapter 1
prologue


 ありきたりな言葉だが、戦場で最も重要なのは勝利し、生き残る事である。

 自らの為に生きる傭兵であるならば、特にだ。

 

 その為に必要なのは、正確な情報と勝ち馬に乗る慎重さ、そして力だ。

 

 誰よりも素早く動き、敵を見下ろして優位に立つ、時には背を向けて逃げる事も重要だ、臨機応変に対応しなければすぐに死んでしまう。

 

 レールガンの弾丸がシールドごと装甲を貫通し、爆裂した弾頭が戦車を屑鉄に変えて随伴していた歩兵を諸共に吹き飛ばす。

 この世界に絶対なんてものはない、だが力さえあれば、少しばかり生き残れる確率は上がる。

 

『さすが魔法少女だ、助かった!!』

 

 

 信頼性のある高性能な装備、最新鋭のテクノロジー、あるいは古き魔術……なんだっていい。

 己の信念に従い、金と名誉を得る、「生きる」為にならオレ達は何でも使う。

 

 汚染された砂塵で見通しのつかない彼方から「魔力性」の稲妻が次々と降り注ぐ、全面にシールドを展開しながら即座に側面に回避しつつビルを盾にする。

 銃声と爆音、叫び声の中から自分に必要な音から情報を選ぶ。

 

 

 問題はただ二つ、相手に当たるかと当たったとしてそれで殺せるかだ。

 ユニオンの魔法少女は腹立たしいながらとても優秀だ。

 才能に溢れる由緒正しき魔術師とやらが、コスト度外視の装備で来るのだから当然でもあるのだが。

 

 レールガンの残弾は問題無い、今回の戦闘においてこちらの魔法少女はオレ一人。

 残念な事に逃げれば相当な被害になる、別にどれほどに犠牲が出たところで顔見知り一人居ないから心は痛まない、けれどオレの信用は落ちる。

 逃げるにしてもある程度戦って役目は果たさなければならない。

 

 つまりは貰った金の分は働けという事だ。

 

 

『敵の魔法少女を目視!ポイントB5から東に向かうぞおっ!!』

 

 それはオレだけに限った事ではない、他の兵士もだ。

 斥候の情報を頼りに建造物を壁にしつつ移動、道中の索敵ドローンを蹴り壊し、ユニオンの歩兵の背後を取り素手で始末していく。

 

 ドローンは壊しておかねばこちらの位置が知られるし、敵は一人でも多く殺しておくだけでも後が楽になるし、報酬になる。

 

『ポイントE9に敵魔法少女!早くしろおっ!』

 

 ようやく敵の姿が見える、武器はライフルタイプ、色は紺色、髪はオレと同じピンク、その意匠が「花(フルラージュ)」でない事に一つ安堵しつつも先手と背後を取れた事を幸運に思う。

 

 距離は1.3km、照準は目視、引き金を引く。

 振り返った相手と目が合う。

 

 これだから魔法少女の相手は嫌なのだ。

 音速を超える弾を回避するのはやめてくれ、そしてそのまま反撃してくるな。

 

 向こうの狙いが甘かったおかげで当たらなかったが、魔力で出来た稲妻の銃弾が3発飛んできた。

 

 アレにナメた射撃は当たらない、後退しながら二射目は向こうを牽制するために使う。

 威力ならこちらの方があるのだから近づく必要はない、不安要素は削るに限る。

 

 インパルスタイプ譲りの自慢のステルス性と速度で移動しながらビルを遮蔽物とし、射線を切る。

 ここまで近づけば魔力で位置はわかるし、レールガンなら遮蔽物を貫通して攻撃できる。

 

 三射目の引き金を引く、コンクリートを破砕した音と共にバリアコーティングに着弾した甲高い独特の音が聞こえた。

 幸いにも命中したが、残念ながら壁越しで威力が低下した分大きなダメージにはならなかった様だ。

 

 まだ多少の手傷は負わせたが敵は動いている、四射目の引き金を引こうとする、が同時に魔力の高まりを感じる、急いで右方向移動し、視線を外さずに距離を取る。

 

 稲妻とは比較にならない光の奔流がビルを溶かしながら横薙ぎに振り払われるので上昇し回避、光線で溶断されたビルが崩壊していく。

 レールガンの様な高反動武器は特性上足が止まりやすい、となると射撃時を狙うのは当然。

 経験が活きた、あれに当たれば即死とは言わずともバリアコーティングで耐え切れるかといえばほぼ半々、それに間違いなくレールガンは吹き飛ばされていた。

 

 並の任務の報酬よりも高いこいつが壊されるのはとても困るのだ。

 まあ命とどっちが大事かといえば命を取るのだが。

 

 ともかくまだ終わってない、あのぐらいの威力ならおそらく向こうもまだ撃ってくる筈だ。

 先ほどよりも高度を取りながら次のビルを壁にする。

 かつては栄華を誇ったこの都市も汚染によって放棄され、交戦許可区域となっている。

 まあおかげで盾にはまだ困っていない。

 

「なによ……逃げ回ってばかりで!誇りはないのかしら……!」

 

 耳が相手のぼやきを拾う、威力は一人前のようだが、挑発は安すぎる。

 煽れば引っ張り出せるかもしれないが、能力の高さと実績とプライドの塊みたいな連中に火をつけると碌な事にならないから堪える。

 

 それこそ嫌になるほどに、奴らは優秀なのだから。

 息を止め、音と熱を拾う。

 戦況は不利寄り、味方の支援は、期待できそうにないが……目はある。

 残弾は3発、リロードしている暇はない。

 

 

 向こうも二度も同じ手は食わないだろう、上昇し、相手の上を取って引き金を引く。

 いくらシステムや魔術で強化されていても人間の感覚である以上、私達でも縦の動きは横や前後の動きよりも少し捉えにくくなる。

 

 シールドで逸らされたとはいえ狙い通りに当たった。

 

 教本通りの動きとは言うが、間違いなく効果的だからこそ教本に書かれるのだ。

 二射目を欲張らず急いで降下、稲妻が頭上を通り過ぎる。

 防御も狙いも正確すぎる、腕前が高すぎる。

 なんでユニオンの魔法少女どもはこんなに凶悪な性能なのだ。

 

 だが、加速して降下しながらも狙いを定める。

 これでどうか落ちてくれと願いながら引き金を引く。

 

 再びビルを貫通して破砕音と着弾音が聞こえた。

 だがそれはバリアコーティングではなく、シールドへの着弾音だ。

 

「ウソだろ!?」

 

 驚愕を思わず声が出てしまう、シールドは確かに強力だが強度を出す為にエネルギーを多く放出し、消費する。

 その為に魔法少女であっても瞬間的に出すのが基本、出しっ放しは損であり、逆に不利となる。

 

 つまりはこちらの攻撃が読まれ、ピンポイントで防がれた。

 

 即座にフローティングの指向性を上に向け、急上昇。

 体にバカみたいな負荷が掛かるし意識が飛びそうになるが耐える。

 真下をビルを貫通して光線が薙ぎ払う。

 

「やりましてよ!」

 

 あのクソアマ本当にバケモノか。

 残弾は一発、これ以上後退しても状況はどうにもならない、選択肢は一つ。

 崩壊し、降り注ぐビルの残骸を回避しながら加速して、距離を詰めつつ照準を合わせる。

 

 これ以外に手はない。

 目が合う、距離1メートル。

 

 ピピピと、通信機のアラームが同時に鳴る。

 

 互いの銃身がぶつかり、止まる。

 

 

『時間だ、善戦したが今回は我々の負けだ。引くぞ魔法少女』

『時間です、統一軍の兵士は戦闘を終了し帰還してください。追撃の必要はありません』

 

 互いの通信さえも聞こえる距離。

 ルール上、戦いは終わりだ。

 撃てば相手を殺せるが、名誉を失う事になる。

 そういう規則なのだ。

 これは人間同士の戦争であり、この時代の戦争にも最低限度守るべきルールがある。

 

 不服そうな顔でこちらを睨み付けるユニオンの魔法少女との間に沈黙が流れる。

 

「撃てれば、わたくしの勝ちだったのに」

「そうだな、撃てればな」

 

 命拾いしたのはオレだ、こいつの言うとおりレールガンの銃口は逸らされていて、相手のライフルの銃口はオレの頭を捉えていた。

 この距離ではバリアコーティングの防御があろうと死ぬだろう。

 

「……エリル・フィア・エルルート、わたくしの名前ですわ。あなたも名乗りなさい」

「No.9(ナイン)、それ以上の名前は無い。ただの傭兵だ」

「ユニオンに来なさい、あなた程の技量があれば引く手は多くありましてよ」

「甘いな、あんたは。だけどそれは出来ない、アライアンスの自由(くうき)が気に入ってるんだ」

「……やっぱりあなたもそういうのね、なら次は必ず討ちますわ。ユニオンが作る平和(ちつじょ)の為にも」

「なら次は勝つさ」

 

 もう会う事もないかもしれないし、また会う事があうかもしれない。

 魔法少女の戦死する確率は他の兵士に比べて格段に低い、とはいえ戦場に絶対はない。

 むしろ現在の戦場では危険性から、特に優先して攻撃対象となる。

 それに戦場となる場所を違える事も考えれば、互いに二度と会う事の無い確率の方が高い。

 

「それでは、また」

「ああ、またな」

 

 オレは背を向けアライアンスの撤退地点まで撤収する。

 不思議と、奴とはまた会う気がした。




簡単な説明
・アライアンス
巨大な企業連合、自由を掲げるが実力主義

・ユニオン
魔術師協会などが原型の統一結社、秩序による平和を掲げるが権威主義でもある

・世界
資源の枯渇と汚染により荒廃しまくっている、アライアンスとユニオンの二大勢力が覇権を争っている

・戦争
指定区域内で行われる、汚染を広げるタイプの武器は禁止されついでに戦闘時間は10分でルールは消耗戦、どちらの勢力も互いを滅ぼしつくすつもりはない。ついでに魔法少女は衣装を着なければいけないというルールもある。

・魔法少女
魔術師よりも才能がいらず、簡単になれる上に手軽に必要な魔法が使える。戦車砲とかにしないといけないレベルのプラズマキャノンやレールガンなどの武器を運用できる上に頑丈で機動力もある、おまけに驚くぐらい低コストなので滅茶苦茶流行ってしまった。
一応パワードスーツ運用の砲撃だったり魔術師、同じ魔法少女でなら倒せるが戦争に使う場合は互いにルール整備するぐらいに厄介

基本機能
・バリアコーティング
歩兵火器や瓦礫程度なら致命傷にならない上に汚染や環境に対しての防御力を持つ、魔術師や戦車なども使えるがそこそこにエネルギーを食う。高出力になれば防げるものも増える
・フローティング
飛行能力、魔法少女の機動力。既存の航空力学に囚われない挙動が可能でものによっては単独で大気圏離脱したりもできるが、バリアコーティングがないとひどいことになる
・パワーアシスト
バリアコーティングと複合で発動する、武器を振り回したり反動を抑える他に格闘にも使える、戦車を屑鉄にできるし、パンチで歩兵は血煙になる
・シールド
魔力を放出してガード、相応にエネルギーを食う。たまに飛び道具を受け止めて跳ね返す変態がいる

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