魔法少女規格 -Magic Girls Standard- 作:ゆめうつろ
それは死の星、というに相応しい光景だった。
荒れ果てた神々しき都市の残骸には灰色の雪が降り積もる。
旗は朽ち果て、砕けた鎧は積みあがり、守るべきものを失った盾は半ば埋もれ。
墓標の様に大地に突き刺さった槍は呪いを放ち、その周囲には亡者と化した何かが徘徊する。
これが神々の世界の成れの果て。
オレ達の世界のありえるかもしれない末路。
一方でハレルは目を輝かせていた。
「すごいですね!神器と呪いの大安売りです!」
こいつにはどうやらこれが宝の山に見えているらしい。
「もっとこう他に感じ入るものはないのか」
「ありませんね」
はっきり言い切るハレルの顔には迷いがない。
つくづく思っていたがやはりこいつは危ない奴なんじゃないだろうか?確かに神様と話が出来る程の能力はある様だが、本当についていって大丈夫な奴だろうか?
もしかしてハヤテ氏はコレを知っていてオレを身代わりにしたのではという疑念が浮かんできた。
さっそくその辺りに埋もれている瓦礫を掘り出しては比較的無事なモノを見つけて積み上げるハレルの姿はとても楽しそうだが、その一つ一つからおぞましさや神々しさを感じるギャップが酷い。
「それで、お前は何を基準に回収していくんだ?全部は回収しきれないだろう?」
「そうですね、まずは汚染を防げるものを探してます。それを加工して防護システムを構築します、じゃないと魔法少女システムの対汚染防御でも危うい可能性が高いですからね」
そうしてハレルが掘り出してこちらに向けたのは白と金の丸盾……だが酷く破損している上に汚れがついていてその本来の力は大きく失われている様に感じる。
だがこいつなら加工して再利用可能にするのだろうな……。
アレアスティアの権限でオレ達用の「外への扉」を設置して貰い、そこへ世界を繋ぐポータルの設置された無人拠点の区画をそのまま移動してもらった。
方舟というだけあって、ブロック構造となっており、操作によってある程度は自由が利くとは言っていたが、簡単に島一つの配置が変わるというのはそれはまたすごい技術であった。
神という存在の格の高さを再認識すると共に、そんな神々でも争い、破滅するという事に無常にして無情を感じていた。
「それにただ貰って行くのもアレなんでちゃんとアレアスティアさんの世界で役に立ちそうなものが最優先ですね」
「その辺りの良識はあるんだな……」
「あなたは私をなんだと思ってるのですか」
「サイコ女」
「それほどでもない」
確かにこれだけモノが無造作に転がっていれば、中にはきっとあの神様がまだ使いたいものもあるかもしれない。
とはいえ、オレにわかるのは武器かそうでないかと、呪われてるかどうかぐらいだ。
都市の残骸の周りを徘徊する亡者を見れば、あれはとりあえず呪われているなとはわかるし、無造作に転がっている黒くての禍々しく捻じ曲がった槍も恐らく邪悪な部類だろう。
「オレは触らないほうがいいか」
「そうですね、周囲の警戒だけお願いします」
しかし、何故こいつはこんなに怖いもの知らずなのだろうか。
戦いの中で生き残る為に「怖れる」事を知り続けてきたオレにとってはわからない。
ただ単に考え無しという訳ではないだろう、幾ら強くともそれはそれで死に一直線だ。
ゆらゆらと虫の様に寄ってきた亡者の一体を見る、腐敗を通り越して、朽ち果て、何故動いているのかすらもわからないミイラだ。
元の姿すらも思い浮かばないそれをブレードで横薙ぎに両断して介錯してやる。
かつては戦士だったのか、鎧を纏い、折れた剣を持っているそれも、もはやそれは脅威ですらない。
劣化によって簡単に砕けてしまった。
こうなっても過去の栄光に縋るのか、それとも彼らの中では戦いは終わっていないのか。
それすらもわからない程に薄れ果てているのか。
その有様にオレは自分に改めて戦う意味を問う。
生きる為だけならば他にも道はあった、ただの労働者であろうともアライアンスの勢力下でなら生きるには困らない。
自由と強さへの憧れ、それがあったはずだ。
目の前の囚われた鎧の亡者に刃を突き立て、電流を流して焼く。
まだ燃え上がる何かが残っていたのだろうか、炎の塊となって朽ち果てる。
この繁栄した世界を滅ぼした神々の争いの切欠は誰が最も最上位の神に相応しいかという議論からだったと、かの神は言った。
神は我が強い為、それはもう醜い有様だったそうだ。
議論は殴り合いへ、そして武器を持ち出して殺し合いへ。
些細な切欠が破滅への道へとなった。
実際に滅びた世界を見てみれば、オレも考えてしまう。
この荒れ果てた大地に眠る愚かな神々とオレ達の世界の人類は何が違うのかと。
「ハレル、お前は何の為に戦っている?」
「なんですか急に」
「いいから答えろ」
「ははーん、もしかしてこの世界の惨状を見て自分の戦う意義を見失いかけていますね」
ハレルは笑いながらそう答え、ムカつくアホ面でこちらを見ていた。
顔の拳を一撃くれてやりたい気分になったが、これでも雇用主だと堪える。
「言っておきますが、私は戦う以外の選択肢がないから戦ってるのです。敵が何であれ「命」あるものは戦わずして生きられない、生態から始まり主義・主張・信仰に正義に理念……多様性がある以上、絶対にどこかでぶつかりますからね。回避する手段もなくはないし、戦う事で受ける損害もあるでしょう、ですが戦う事でしか勝ち取れないものがあります、だから私は戦うのです。それが私達「ナユタ」が数千年に渡って受け継いできたものなのですから」
思ったよりもしっかりした回答が出てきて少し驚いたが、戦う以外の選択肢がないから戦うのか。
よく考えればそういう家の生まれでそういう者達を見て育った結果なのだろうか。
オレも記憶を無くす前はそういう人間だったのだろうか。
「というかナインさん、随分ナイーブというか夢見がちですよね。傭兵ってもっと何も考えて無くて戦えればそれでハッピーか人を撃つのが趣味みたいな人種の仕事だと思うんですけど」
「失礼すぎるなお前、オレはこれでも考えて傭兵をやってるんだ」
「アマネお姉様は傭兵なんて考え無しで無礼なのが売りって言ってましたが」
「本当に失礼な事しか言えないのかお前は」
悩みなんて無い、そんな様に見えるハレルのあり方が少しばかり羨ましく見えた。