魔法少女規格 -Magic Girls Standard-   作:ゆめうつろ

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chapter 2-06

 世界はそれこそ無数にある、その内でオレ達が立ち入れるもの、あるいは知る事が出来るものなどほんの一部でしかない。

 

 だが同時に、繋がりやすい世界というものもある。

 アライアンスとユニオンが異なる世界でぶつかり合う事があるのも、それが原因だ。

 

 こうした異世界で魔法少女同士の戦闘が起きるのも、少なくはない。

 そして互いの勢力間の監視が届かない場所では、ルール無用の殺し合いになりがちだ。

 

 

「加減をする必要がないからと言って、汚染を撒き散らすのか奴らは」

「いえ、コレでも向こうは加減してるでしょうね、おそらくまだ此処でやる事があるのでしょう」

 

 瓦礫を壁に武装のセッティングをする、使い物にならなくなったブレードを捨て、それぞれの武器を対魔法少女用にセッティングしているうちにも、向こうは絶え間なく赤い毒の花を降り注がせ、周囲を赤い煙で覆っている。

 

「これをサブマシンガンの銃身に取り付けてください。エレメントエンチャントシステムの試作品です」

「オレのは通常弾、あまり効き目は無いぞ。どうなる?」

「魔力フィールドによって帯電して、バリアコーティングを削ります」

「なるほどな」

 

 ハレルから渡された三本の発振機がついたオプションをサブマシンガンの銃口を中心にする様にして装着。

 一方でハレルの武器であるアサルトライフルは各部から青白い光が漏れており、明らかに通常の武器ではないであろう事が予想される。

 

「本当にアサルトライフルなのかそれ」

「アサルト・バスターライフルともいいますね、こうみえても魔法銃ですよ」

「どのぐらいのペースで撃てる?」

「可変なのでそちらにあわせます」

「よし」

 

 互いに対魔法少女戦闘準備は整った、幸いこちらは対環境シールドシステムのおかげで防御力も上がっている。

 敵は今の所二人、フルラージュ・リコリスのナユタ・アカリともう一人、エリル……かはまだわからないが同じタイプの魔法銃を使っている者。

 

「戦闘開始だ」

 

 隠れていた瓦礫が吹き飛ばされるのを合図にオレ達は飛び出し、まず返礼のレールガンを撃ち込む。

 こっちの女神様のおかげでこの世界の法則に調整できている為、寸分の狂いもなく狙い通りに弾体は飛び、神殿の一部を吹き飛ばして衝撃波で煙を上げた。

 

 その一瞬の隙に全力で前進、距離1700メートル、ハレルがオレよりも早いのが少しショックだったが予定通りに距離を詰めていく、

 

 しかし向こうもバカじゃない、進行方向を読んで花弁弾を先置きして飛ばしてきていたし、加えて少し威力の落ちた稲妻が次々と飛んでくる。

 オレは地面スレスレまで下降、ハレルはさらに高く上昇、二手に分かれながら次の攻撃の手を選ぶ。

 するとオレに向いていた攻撃は一気に止み、障害物の少ない真上に上がったハレルに攻撃は集中する。

 

「お前の予想通りだな、シルフィード」

『お褒めいただきありがとうございます、しかし激突に注意してください』

 

 それはシルフィードの判断だ、正直オレとしては下に降りるのは嫌だったが、シールドがあるから問題はないという指示にしたがった結果だ。

 

 オレの居る地上側は薄汚れた瘴気によってエネルギーが霧散しやすく、さらにはヘドロの様な粘体がこちらに向けて触手を伸ばしてくる。

 それが狙いにくさとなって、向こうは撃ってこなくなる。

 

 だがその分、狙いが集中しているハレルはどうかといえば平気で先読みして稲妻も花弁弾も容易く回避しつつ、前進していた。

 

「とんでもないなアイツ」

『あれでも、それなりに死線を潜り抜けているとされています』

 

 一方で向こうは変わらずに神殿の位置を取ったまま動かない、というのも恐らくまだこの世界に完全に適応しきれていないか対環境シールドが無いのだろう。

 つまり神殿以外は安全な足場として機能していないと読む。

 

 そうすれば地の利がある分、オレ達が少しだけ有利だ。

 レールガンを再び構え、二射目の狙いを付ける。

 この距離になってようやく敵の姿が見える、黒い着物と赤い髪の魔法少女がおそらくリコリス、そしてもう片方はやはりというかエリルだった。

 まさかこんな所で再会するとは思わなかったが、今度こそ勝つ。

 

 瘴気の薄い上空のハレルへ攻撃を続けるリコリスとエリル、優先度としてはやはりリコリス、ユニオンの魔法少女の中でもトップクラスの脅威度と聞いている。

 それにオレのブレードを一瞬で使い物にならなくしてくれたあの花弁弾は確実に脅威だ。

 

 リコリスの足元をレールガンで撃つ、正直に言えば直撃させても問題はなさそうだが、ハレルが「殺す気ではない」のだから遠慮しておこう。

 

 破砕音と共に足場が吹き飛び、「着弾の衝撃」がバリアコーティングに接触した音がする。

 つまりは狙い通りだ。

 

 その間にもハレルは神殿まで辿り着き、エリルにアサルトライフルの銃口を向けながら、停戦を提案していたが、次の瞬間に煙の中から巨大なブレードで斬りかかって来たリコリスを回避してブロードソードを構えていた。

 

 見惚れそうなほどにスマートな動きに驚きながらもオレも遅れて50メートルまで近づき、サブマシンガンへと武器を持ち替えて牽制射撃。

 エリルの魔法銃を上手く撃ち抜く事に成功したが、向こうは驚愕しながらもハンドガンを取り出してこちらへ反撃しながら神殿の柱を壁に隠れてしまった。

 

 そしてハレルを支援しようと目を向ければそこでは大質量のブレードが振り回される近接戦闘が行われていた。

 リコリスの赤いブレードは瓦礫をまるでケーキのクリームの様に切り裂き、それをブロードソードで受け止める様に見せかけたフェイントで回避するハレル。

 

 オレは即座にリコリスに向けてサブマシンガンを撃つが、向こうはそれを容易くブレードを盾にして防ぐ……が一瞬動きを止めれればいい、エリルが柱から半身を出して、ハンドガンを撃ってくるのでこちらは回避する。

 

 ユニオンの連中が使ってくるハンドガンは大体が特殊弾頭、油断して当たろうものならどんな事になるか予想がつかない。

 

「エリル嬢!別に今日は戦争に来たわけじゃないんだが!」

「でもこれだって仕事よ!それに今度は倒すって言ったわ!」

「そもそもこんな荒地に何の仕事だ!」

「言うと思ってるの!?」

 

 崩れ落ちた天井の残骸と柱を壁にエリルと撃ち合いながらも言葉を交わす、すぐに攻撃をやめてもいいのだが、出来るだけ優位な状態で止めなければ後ろから撃たれかねない。

 

「後は兵器の実験なら他所でやってくれ!ここには住人がいるからな!」

「住人って亡者の事かしら……!」

「いや、ちゃんとした生きた人間と神様だ!安全地帯に住んでる!」

「……それは良い事を聞いたわ!でも違う仕事よ!」

 

 ピンを抜く音が聞こえる、グレネードだ。

 だが投げてこない、いや!

 

 風切り音と共にそれを狙い撃つが、グレネードは空中で爆発した。

 目くらましだ。

 

 爆風を切り裂き、ショートソードを持ったエリルが目の前に現れる、オレはジャンプして拳を振りぬいてエリルの顔を殴りつけた。

 バリアコーティング同士の衝突音と共にエリルはバランスを崩したまま床に叩きつけられ、転がったのでそのまま距離を詰めて銃口を顔に向ける。

 

「今回は俺の勝ちだな」

「……サブマシンガンぐらいで」

「通常弾かどうか試してみるか?」

「……っ!」

 

 一方でまだハレルとリコリスの戦いは続いていた、加勢に行きたいがあの中に割って入れる余裕はないし、エリルを放置しておくわけにはいかない。

 

「本当に今日は魔法少女同士でやりあう気分じゃないんだ、あんたの同僚を止めてくれるか?」

「無理よ、あの人の方が階級が高いわ」

 

 

 はぁ、と思わず溜息が出た。

 アレはハレルにどうにかしてもらうしかなさそうだ。

 

 一応は勝ったというのに、なんとも負けた気分になりながら二人の戦闘を見届ける事にした。


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