魔法少女規格 -Magic Girls Standard-   作:ゆめうつろ

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chapter 2-07

 その赤い刃は斬り結ぶ事すら許さない、一方的に万物を「侵し断つ」猛毒の刃。

 切り裂かれた残骸の断面は腐り落ちた様な有様だった。

 

 同じナユタの名を持つ二人の互いに一歩も引かない戦いをオレは見た。

 魔法少女同士の長時間の近接戦闘というのは戦場ではそうそう見ない、というのも大体が一撃離脱……あるいはすぐに決着がついてしまうからだ。

 

 振るわれる猛毒のブレードを決して受け止めず、かならずひきつけた上で回避するハレル。

 帯電したブロードソードに対してブレードを割り込ませる事で攻撃の手を止めさせるアカリ。

 

 技量というよりは駆け引きの戦いだった。

 しかし、それでも技量的にはハレルよりも相手の方が勝っていて、なんとか食らいついている様に見えた

 

「ここまでにしましょう」

 

 そして戦いは、ハレルがブロードソードを手放した事で突然に終わった。

 

「……どういうつもり?」

「アマネさんは言っていました、あなたに本気を出させれば……その場に居る全員が無事ではいられないと、それに私は別にアカリさんを追って来た訳でも、戦いに来たわけでもありません」

 

 二人の視線がこちらに向く、オレはエリルに向けていた銃口を下ろし、手を差し出す……が無言で振り払われてしまった。

 ユニオンの魔法少女はプライドが高すぎる。

 

「加えて言えばこれはアライアンスの依頼でも、ナユタのお役目でもなく「私個人」の依頼なので……因縁や確執なんかはあれど、出来れば本当に戦いたくないのでどうか武器をおさめて貰えませんか」

 

 ハレルが頭を下げるのを見て、向こうは少し考えた後に武器を下ろしてくれた、が納めるまでは行ってくれなかった。

 まだ警戒はしているようだ。

 

 しかし、一体二人の間にどんな関係があるのだろう。

 何故、ナユタ・アカリはユニオンに所属し、ここに来ているのか。

 

「……そうね、仮に今更私を追ってきたとしてこんな所までくる筈も無いわね。それにあなたが本気で私を討ちにくるなら「シラ」を連れて来るわね」

「そもそもナユタは今、かなり酷い有様になってまして、とてもではないですがあなたを討つのに出さざるを得ない被害を許容できないので……」

「いい様ね」

「それに、私としてもあなたの事は今も変わらず尊敬していますから」

「……余計よ、そういう所は変わらないわね……ハレル」

 

 今まで固い表情だったアカリが笑い、ようやく武器を納めてくれた事に安堵し、オレも武器を仕舞う。

 被害はブレードが一本と、エリルの魔法銃だけで済んだ。

 お互いに死んでないし、怪我もしていないから、互いに引き返せる所でケリがついてよかった。

 

 多くの場合、血が流れればそれだけで、止めるに止められなくなるものなのだから。

 

「う~~あたしの魔法銃がぁ……またドヤされるわ……」

 

 とはいえエリルはかなり落ち込んでいる、というのもユニオンの魔法少女の武器はオーダーメイドであったりカスタマイズなど一品ものが多いと聞いている。

 故に武器だけ壊すだけでもそこそこの損害となり、少しの間戦場に出てこなくなる魔法少女もいる。

 

 オレが時間切れ以外で戦場でユニオンの魔法少女を退けられたのは主力武器を壊すか、手傷を負わせるかのどちらかが殆どだ。

 ユニオンは重要な戦力である魔法少女や魔術師を大事にし、武器を失った者はほぼ確実に一度引く。

 それでも突っ込んでくる奴は相当にヤバイ奴か、プライドだけが無駄に高い奴のどちらかだ。

 

「撃ったオレが言うのもアレだが、ただのサブマシンだと油断したな」

「油断なんてしてないわ、ちゃんとバリアコーティングしてあったわ!帯電してるなんて予想できないじゃない!」

 

 ハレルの渡してくれたエレメントエンチャント装置は確かに有用な様だ、魔法銃は結構デリケートな部類の武器故におそらく着弾に加えて電気で内部構造がやられたのだろう。

 しかしバリアコーティング越しにダメージを与えられるとなると、これを歩兵に使われると厄介だなという気分にもなる。

 

 一番は被弾しないように立ち回る事だが防御方法も考えておいたほうがいいな。

 

「それであなたは何のためにこんな地獄みたいな所にいるのかしら?」

「環境浄化の為に使えるモノを探す冒険です」

「……そこも変わらないわね、余程あの子が忘れられ……えっ」

 

 アカリがオレの顔を見て何か驚いた表情を浮かべた。

 

「あ」

 

 そしてハレルがしまったという表情を浮かべる、それもかなりマズイといった表情だ。

 何故か知らないがすごく覚えのあるような気がする感覚だった。

 

「ねえ、あなたは?」

「ナイン、アライアンスの傭兵をやっている」

 

 早足で彼女はこちらに寄ってきてオレの方に手を載せた、その表情は笑顔だというのに逆らえない様な圧があった。

 オレの中の何かが警鐘を鳴らしているが、それが何かわからない。

 

「そう、思い出せる限り最初の記憶は?」

「あのアカリさん……!ちょっと!ちょっと待って!その人はただの傭兵さんで」

「黙ってなさい、ハレル」

 

 止めに来ようとしたハレルを殺気で有無を言わさず黙らせ、再びこちらに熱い視線を送る彼女に疑問が沸く。

 オレはナユタ・アカリと会った事などない、こちらが一方的に戦場で怖れられている「フルラージュ・リコリス」を知っているだけ。

 加えてオレもそんなに名の売れた傭兵ではない。

 だというのに彼女はまるで、オレを知っている様で。

 

「オレは2年以上前の記憶がない、もしかしてあなたはオレを知っているのか?」

「そう、そうよ……知っているわ。アレに雇われたのはいつ?」

 

 指差したのは本当にマズいという表情をして固まっているハレル。

 

「つい先日だが」

「よかったわね、ハレル。あなた死ななくて済みそうよ」

 

 勘か、強化された感覚か、鼓動が少し早くなるのを感じる。

 

「教えてくれ、オレの何を知っている?」

「そうね……あなたの過去とか」

 

 

 何故、ユニオンの魔法少女がオレの無くした過去を知っている?

 

 

 いや、思い当たる節はある……「過去」だ。

 ナユタ・アカリはかつてナユタに所属していたという「過去」がある、いつまで所属していたのかは知らないが、つまりその頃にオレを知っていた。

 

 そしてそれをハレルは知ってて黙っていたという事にオレは気付いた。

 

「ハレル、お前は知っていたのか?」

 

「……はい」

 

 ただただ困惑と疑念ばかりが積もる。

 だが同時に納得もあった、ハレルがオレを選んだのはオレを知っていたからだ。

 

 どうして黙っていたのか、一体オレの過去に何があるのか。

 オレはそれを知らなければならない。

 

 例え知らない方が良い事だとしても。




チャプター2はこれで終わりです、ナインとハレル、そしてアカリの過去の関係とか書きつつも冒険の続きです

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