魔法少女規格 -Magic Girls Standard-   作:ゆめうつろ

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chapter 3-03

 ユニオンの魔法少女の多くは自らの使う装備からコアの設定まで自分でカスタマイズしている。

 その為に他人に設定を委ねる事はまずありえない。

 

 まだこの世界で活動する為の対環境シールドを持たない二人の為に改修の為のデータを渡し、オレ達は一足先に探索に戻った。

 この世界の探索においては協力する事にはなったが、何も四人で固まって行動するものではなく、設備やデータの貸し借り、あるいは戦力が必要になった際に助けを呼ぶという形の協力に決まった。

 

 というのも、エリルが「頭おかしいのが三人もいるのが無理」と泣き付いた為だった。

 考えてみれば四人中三人が身内で固まってる中で一人だけ部外者だと居心地が悪いのは当然だろう、だとしても正直オレがおかしい奴に分類されているのは不服なんだが。

 

 

 そういう訳でハレルと共に地獄の様な荒野の上を飛んでいる訳だが、この世界の亡者は土から生えてくる様だ。

 前に火口にどんどん身投げする亡者は見たが、次から次へと亡者達が地面から生えてくる光景はある意味衝撃的だった。

 一体どれくらいの死者がこの地に埋まっているのか、それともオレ達の世界の様に死体がなくとも発生するのか、いろいろ気になる事はあるが……この量の亡者を相手しているとそれだけで時間がどんどん食われていきそうだった。

 

「それで次はどこに向かってるんだ?」

「これをみてください」

 

 ハレルから通信で送られてきたマップデータが目の前に現れる、それは女神アレアスティアから貰った地図に様々な注釈、ここまで通ってきた結果どうなっているか、そしてアークの守護領域範囲までが「最新のモノ」に書き換わっていた。

 

「お前いつの間に」

「私一人でやったわけじゃありませんよ?ねぇシルフィード」

『はい、私がやっておきました。まったく因縁も何も無くて手持ち無沙汰だったので』

「シルフィードの入ったカーバンクルのコアと私のエンジェルモデルはネットワーク接続しているので、見てきたデータを全部記録してるんですよ。それを貰った地図を元に再構築した結果です」

『運用補助システムとして当然の事ですが戦闘以外にもこうしたマッピングや情報の更新、果ては簡単な助言などにも対応できるように私達は設計されていますので、ご安心ください』

 

 なるほど、ハレルと話している間ずっと静かだったのはこういう事だったのか。

 

「ありがとう、助かったよシルフィード」

『どういたしまして、それだけでやった甲斐があります。それで次の目的地ですが、ユニオンの方々が拠点とした神殿以外にも同じ様な神殿が各地にあります、その数は全部で七。神殿内で得たデータによればこの星のレイラインに沿って建てられているそうです、現在向かっているのはその起点である「第一」の神殿です』

 

 レイライン、と言うのは確か龍脈などといわれる大地のエネルギーの循環の事だったと記憶している、魔術師の中にはこれを利用して莫大なエネルギーを運用する事が出来る者もいるというが、オレ達の様な魔法少女にとってはあまり馴染みのないものだ。

 

「多分よくわかってないだろうから捕捉で説明しますと、そのレイラインが多く交差する地点に神殿を建てる事で星をコントロールしていたんだと思います。そこに行く理由なんですが、この世界はあまりに問題点が多すぎてどこから手をつけていいのかわからないので、改めて「順番に沿って」行って見ましょうという事です」

 

 なるほどようやく合点が行った、この世界は管理するもののいない無秩序状態、管理者がいればある程度マシにはなっていくし、現状維持でもそれ以上に酷くなる事はそうそうない。

 

「つまりは出来そうならその神殿を掌握して、立て直し出来る様にするわけか」

「まあでも私達がやるわけじゃないですよ?アレアスティアさんにやる気があるのなら出来る様に情報を持って帰るのぐらいです、むしろそういった神殿の周りはおそらく激戦地になった筈ですから、そこを漁るのがメインです」

「一瞬見直しかけたのにな……」

「神々の殺し合いなら恐らく相当な呪いのついた武器なんかが転がっていて、それがレイラインを経由してこの星を汚染している……と考えればむしろ水源に置かれた汚染源を取り除くという意味ではそれが優先されませんか?」

「やっぱり見直したわ」

 

 こいつは本当に考えているのか考えてないのか怪しくて、どう判断すればいいのか本当に困る。

 少なくとも理には適っているし、オレはそこまで思いつかない上にそもそも雇われだからな。

 

「そうしたらまた採掘の間の守りをすればいいのか?」

「ええ、またお願いします。昔は逆だったんですけどね」

「オレはあんたの親友じゃない」

「違いますよ、私が見張り番だったという事です。そんなに不機嫌にならないでくださいよ」

「そんなことはない」

 

 誰だって知らない他人の影を見られても困るだろう。

 いや……オレが無駄に意識してしまっているだけか、どうせこいつは何も考えていないのだろう。

 余計な一言を言うのも、聞いても居ない情報をペラペラとしゃべるのも、そういう癖か。

 

「それよりもだ、この世界に浄化に使えそうなものがなかったならどうするんだ?」

「まあ普通に強そうな武器とかだけ貰って、残りはアレアスティアさんに渡して帰るだけですよ。遺物は好きにしてもいいって言質はとりましたからね」

「そうだが……もっとこう、あるだろ!?」

「ありませんよ、あってせいぜい私達の世界にまで影響しそうな多少ヤバそうな奴を始末しておくぐらいじゃないですか」

 

 最初にこの景色を見た反応といい、良識というものはないのかこいつには、少なくともアークに住んでいる人間達が出て最初に見るのが、この地獄みたいな世界と考えるとオレでも少し可哀想だと思うぞ。

 

「……えぇー?」

「なんだ、その笑いを堪えた顔は」

「私はびっくりしてますよ、戦場で敵を冷酷に刈り取るアライアンスの魔法少女が、そんなに慈悲深いとは」

「馬鹿にしているのか」

「バカにはしてません、ただ……ただ……そう、昔を思い出しただけです」

「だからオレはお前の親友じゃ……」

「昔の私自身を見ているみたいだなって」

 

 絶対に無いな、こいつに思いやりや良識のあった時代なんて想像できない。

 

「ま、そんなことよりもう直ぐ見えてきますよ、「泉」の神殿が」




・ナユタ・アカリ(フルラージュ・リコリス)

【挿絵表示】


・エリル・フィア・エルルート(グローリアス・モデル)

【挿絵表示】

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