魔法少女規格 -Magic Girls Standard-   作:ゆめうつろ

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chapter 1-01

 魔法少女システムには、それを運用する為の人間が必要である。

 つまりは少女の部分が必要になる。

 

 無人機化やホムンクルス、あるいは兵士の改造などによる少女化など様々な代替手段が考えられ、一部は既に実用化されているもののやはり一番安いのは孤児などから志願者を募った「人間の雇用」だった。

 

 それがアライアンスを初めとした多くの勢力で運用される「魔法少女傭兵」だ。

 当然ながら中には人道に反する扱いを受けたり、拉致され被検体となった者がいる。

 

 

 オレもまたそうだった、改造によって記憶を失い、過去を失い、帰るべき場所を失った。

 もしもその組織がアライアンスによって潰される事がなければオレはずっと被検体のままだっただろう。

 

 残されたのは被検体№9(ナイン)という名と命だけ。

 アライアンスの保護施設で教育を受けながらも、何のために生きればいいのかわからず無為に日々を過ごしていたオレを救ってくれたのもまた、魔法少女であった。

 

 アライアンス最初の魔法少女であり、今尚最強の座にいる魔法少女「ソニックインパルス」の戦闘映像、それがオレに力への憧れを与えてくれた。

 魔法少女の資格者となるには「ライセンス」が必要であり、「適性の検査」「模擬戦闘」「面接」の三つの試験を突破する事により、アライアンス勢力下での魔法少女の活動を認められる。

 

 オレは難なくそれを突破し、適性によりレイディアント社からの採用通知と「ファーヴニルモデル・サイレントインパルス」の支給を受ける事が出来た。

 

 初めて飛んだ空は、驚くほどに美しかった。

 そこでオレは初めて自由というものを知った。

 

 

 だが当然ながら、魔法少女システムの提供を受けるという事は「仕事を与えられる」という事でもあった。

 初仕事の時の事は良く覚えている、輸送機で運ばれる中、まるで時間が永遠に引き延ばされたかの様な緊張の中にあった。

 新人であるオレをサポートする為に雇用された「先輩」はそんなオレを見て、「あーわかるわかる」といった感じで穏やかに笑っていた。

 

 簡単な仕事ではあった、アライアンスの勢力下にある犯罪組織や反政府団体などの始末、なんなら魔法少女すらいらない楽な仕事とは説明されていた。

 

 今思えばオレは限りなく運が悪かったのだろう。

 そこはユニオンや他勢力へ技術や情報を流出させる裏切り者どもの巣窟だった。

 防衛戦力への対応中に突然、制圧部隊からの通信が途絶え、施設の壁を吹き飛ばして現れたのはユニオンの魔法少女だった。

 

 それも最悪な事に、アライアンス側にかなり警戒されていた魔法少女の一人だったと聞く。

 ただの治安維持任務と思っていたオレ達が敵うわけもなく、部隊は壊滅、敗走する者は残らず殺されていく。

 

 そんな時だった、彼女がやってきた。

 響希ハヤテ、ソニックインパルスの魔法少女であり、アライアンス最強の魔法少女だ。

 

 部隊の不利を悟ったレイディアントの指揮官が自費で依頼して、間に合わせたのだ。

 

 その戦いは圧倒的だった、色とりどりの魔法をブレードとその身のこなしで捌き、突然姿を消したかと思えばユニオンの魔法少女の後ろを取り、丁寧に武装を破壊して剥いでいく。

 そして生かしたままに戦力を削りきり、施設に居た生き残り諸共に捕虜とし、後続部隊に引き渡して去っていった。

 

 帰りはアライアンスに所属する傭兵が憧れ、畏れる最強の魔法少女の戦いを目の前で見て、生きて帰れた事で持ちきりだった。

 

 オレは憧れた、アレだけ強ければきっと、誰よりも自由に、誰よりも幸せに生きられるのではないかと。

 だからオレは目指した。

 

 幾多の戦場を潜り抜け、屍の道を踏み越え、力を磨いていった。

 だがその度に思い知らされる現実、死に掛けた事など数え切れず、ユニオンの魔法少女に敵わず背を向けて逃げた事だってあった。

 

 そしていつの間にか、オレは今の自分に満足してしまっていた。

 傭兵としての安定を取ってしまっていた。

 

 恥にならない程度、名誉を求めない程度になってしまっていた。

 

 公園のベンチに腰掛て、時間を無為に過ごす。

 

 体を機械に置き換えて、それをファッションとして着飾る者もいれば、オレと同じ様な魔法少女や傭兵、あるいはただただ平穏に過ごす一般的な労働者……様々な者達が自由に行きかうのをただ眺めていた。

 

 ドームの天井の照明がすっかり薄暗くなって夕暮れ時。

 今のオレは、この街の様に閉ざされた世界で、今ある自由だけで満足してしまっていた。

 

「隣よろしいですか?」

「かまわない」

 

 オレの隣に一人の魔法少女がやってきた。

 青い目、紺色のロングコートの様なジャケット、水色の髪、手に持つのはライフルケースだった。

 おそらくジャケットの下に魔法少女衣装を着ているのだろう。

 

 だがそれだけじゃない、この距離でなら分かる。

 こいつは内側まで魔力が浸透してる、つまりは魔法少女でありながら魔術師だ。

 アライアンスにも魔術師は居る、だがその数は驚くぐらい少ない。

 

 ユニオンならまだしもアライアンスで魔術師である魔法少女はほぼ居ない、唯一例外が企業の上役であったりだ。

 恐らくアライアンスの魔法少女じゃない。

 

「何処から来た?」

「え、ああ。日本からですよ」

 

 日本、ユニオンにもアライアンスにもあまり肩入れしていない中立勢力の国家か。

 確か日本の魔法少女は政府直属が殆どの筈だったと聞いている。

 見るところ護衛どころか仲間すらいない、一人だ。

 

「旅行か」

「いえ、仕事ですよ。……ああいう奴です」

 

 指差した先には街頭モニターに浮かぶ「資源開拓事業」の求人広告。

 文字通り「異世界」へと有用な資源を調査・採掘しにいく仕事だ。

 

 開拓には「未知」という大きな危険が付き纏う、それだけでなく同業者との衝突や横取りの危険性もある。

 とはいえ、危険が伴うとしてもそれを止める事は出来ない。

 もはやこの星の資源は枯れ果てつつあるのだ。

 

 未だにアライアンスとユニオンが戦争を続けられるのは、こうした資源開拓が行われているからだ。

 

「うちの政府も調査や採掘はしているんですけどね、まあちょっとそこが顔の合わせたくない身内が多くて……こうしてアライアンス側まで出てきたって訳です。

「それはいいのか?仮に有用なモノを見つけられたとしてもそれを国まで持ち帰れるとは限らないぞ」

「あ、別に私が探しているそれは日本に持って帰る必要はないし、なんならアライアンスやユニオンが使ってくれるとありがたい奴ですね」

 

 少女がポケットから携帯端末を取り出し、一つのファイルを投影する。

 

『環境再生浄化計画』

 そこには簡潔にそれだけが書かれていた。

 

「まあほら?汚染はどこもどうにかしたいですからね?」

「なるほどな、納得がいった……それでオレに近づいたのは」

「雇われませんか?報酬はそうですね……新しい力、なんてどうですかね?」

 

 投影されるファイルが変わる、そこに浮かんだのは魔法少女の衣装、それも一つや二つではなく凄まじい数の画像ファイルが表示される。

 

 オレは呆れた顔をしているだろう。

 

「こっちが本題だろ」

「そうともいいますねー」

 

 こいつは仕事を隠れ蓑に設計した魔法少女システムをテストしたいだけなのだ。

 日本から態々出てきたのも、恐らく予算が下りなかったか、計画の承認が得られなかったからだ。

 

 俗に言うマッドサイエンティストかそれに類するアレだ。

 そんなに目を付けられてしまうとは運がなさすぎる。

 

「ちなみに拒否してもいいんですよ?その場合……まあ面白い事になってもらいますけれど。主に私の魔法で」

「事実上の脅迫はやめろ、わかった受ければいいんだろう」

「やっぱり期待した通りでしたね、ナインさん。さすがハヤテさんが選んだ魔法少女です」

 

 今、とても聞き捨てならない名前が聞こえた。

 ソニックインパルスである時こそ有名であり、戦場でその姿を見る事のある響希ハヤテだがプライベートで関係のある人間、というのは極端に少ない。

 

「いい加減名乗ってもらえないか、一方的にだけ知られているのは気味が悪い」

「そうだねー名乗り忘れてたよ。私はナユタ・ハレル、まあちょっと身内経由でハヤテさんと知り合ってね~いい感じの傭兵さんの推薦を頼んだらあなたの名が出てきたわけなのですよ」

 

 ナユタ・ハレルと名乗った魔法少女はその人懐っこい笑みと裏腹に、どこまでも透き通った青い瞳でこちらを見つていた。

 




ナイン/ファーヴニルモデル・サイレントインパルス

【挿絵表示】


ナユタ・ハレル/エンジェルモデル・アズール

【挿絵表示】

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