魔法少女規格 -Magic Girls Standard- 作:ゆめうつろ
少しの休息の後にクルスクレイクの領域となっていた塔を下りきり、オレ達は最下層へと辿り着いた。
外は汚染でひどい事になっていたが神殿の中は清浄な空気で満ちていて、行動するのには何の問題もない状態であった。
とはいえ他にも何か居る可能性も考慮し、警戒は怠らない。
外の亡者のワームしかり、脅威となりうるものは恐らくいくらでもいるのだから。
神殿内を照らす青白いエネルギーの粒子は最深部に近づくにつれ、その量と輝きを増していく。
ハレルによればこれは星の中を循環するエネルギーが漏れ出たもので、特に害は無いと言う。
そしてその粒子が溢れ出る場所、神殿の中心へとオレ達は辿り着いた。
「ジェネレーターシャフト……か?」
「でしょうね、やはり科学も魔法も行き着けば似た様なモノになる様ですね」
それはオレ達の世界でも見慣れたものだった、大型発電施設や原子炉に魔力ジェネレーター、それにエレメントハーヴェスター……様々なエネルギー設備によく似た形状をしていた。
だが一番の違いはそれが唸りも輝きも放たず、大地に空いた大穴から粒子が漏れ出しているだけといった状態だという事。
誰がどう見てもこれは停止しているという奴だ。
「それで動かし方はわかるのか?」
「ええ、簡単ですよ」
「動かして大丈夫なのか?二千年ぐらい放置されていたんだぞ?」
ハレルが近づくと床や天井から台が迫り出し、光を放ち始める、それはコンソールだ。
「アレアスティアさんから遺跡関連の操作権限は貰ってますので」
「初耳だ」
「あー……そういえばナインさんは巫女じゃありませんからね」
「……思い出してみれば女神さんとの初対面の際もお前は話が通じていたな」
「そういう事です、神と話をするのが巫女ですからね。それはともかく、アレアスティアさんに遺跡を使う為の権能は貰ってあるので心配は無用という訳です」
光る台の上にハレルが手を載せると床や天井に走るラインに光が走り、ジェネレーターからゴウンゴウンと聞きなれた重音が聞こえ始める。
「おお……星自体は元気ですね、表面が汚染でひどい事になってるだけで」
「そこまでわかるのか」
「ええ、これはすごい……循環管理システムとしての完成度がハンパじゃないですね……惜しむらくは私達の世界では使えない辺りですね」
一体何を言っているのか専門知識が無いオレからすればさっぱりだが、とにかくすごいものだというのはわかった。
星一つを完全にコントロールしてしまう、人類がそこまでの領域に立つのに一体どれぐらいの年月がかかるだろうか。
「これでまず、第一の神殿は起動できました……ですが、第二の神殿でパスが詰まってますねこれ」
「どういうことだ?」
「簡単に言えば七つの神殿全部が繋がった状態が正常なんですが、隣の神殿に何か詰まってて流れないんですよ」
思い浮かぶのは……先ほどの様な不法占拠している住人。
「つまりは次はそこを掃除しに行けばいいのか」
「そうですね、その前に私のライフル返してくださいね?」
「ああ……そうだったな」
クルスクレイクの銃とサブマシンガンを持っているオレと違いハレルは射撃武器がなくなっている状態だった、それはよくない。
「なかなかいい銃だった」
「それはどうも、これも私が作ったんですよ?」
「お前本当に何でもできるな……」
言葉通りいい武器だったのでその内、製造の依頼でもしてみようか。
一体どの程度の費用が掛かるのか、それとオレの依頼を受けてくれるかは別として。
「だが、その前に一度ユニオンの連中にコンタクトを取った方がいいじゃないか?第二神殿が起動すればそのままあいつらの拠点にまで流れ込むんだろう?」
「そうですね……いや多分問題はないと思いますが……まあ報告と連絡は大事ですからね、ちょっとコンタクトとって見ましょうか」
そういってハレルが何故か神殿のコンソールを操作し出すと、ホログラムのモニターが空中に現れる。
映るのは、フルラージュ・リコリス……つまりはナユタ・アカリの姿だった。
「もしもし、アカリさん?聞こえます?」
『聞こえるけれど、一体どんな手品を使ったの?通信機器は殆ど役立たずなのに』
「この星を管理する神殿の一つを起動して、そこの機能を使っています。そちらは今どちらで何を?」
『亡者の合体した巨人を始末した所よ、それで態々連絡してきた要件は?』
「神殿同士のパスを繋ぐのですが、一応アカリさん達の拠点もその繋ぐ神殿の中に入っているので、最深部のジェネレーター部分には次の連絡があるまで近づかないでください」
『わかったわ、どういう影響があるかわからないからでしょう?』
「そういう事です」
『了解したわ、それと……私達以外にもまだ誰か戦ってるみたいよ?さっきレーザー系の武器か何かで焼かれたモンスターの残骸があったわ』
「わかりました、その辺りも気をつけるとします」
オレ達以外にも、か。
ユニオンの二人と出くわしたと考えれば他の勢力の人間が居てもおかしくはないが……。
もしかするとクルスクレイクの様にまた別の世界からの来訪者の可能性もある。
できればこんな所で敵対するような相手でなければいいのだが。
「ああ、それとナインさん」
「なんだ」
「さっきはありがとうございます、おかげで無事にあのデーモンを倒せました」
「オレがいなくとも、どうにかなってたんじゃないか?」
「いえ、一度目は勝てても二度目は無理でしたね。だからありがとうございます」
「傭兵として仕事をしたまでだ」
「その傭兵の仕事だとしてもです」
仕事振りを評価されるのはいいが、感謝されるようなものではないのだがな……。
「まあいい……とにかく、次の神殿に向かうんだろう?」
「はい」
あくまでオレは雇われで、傭兵だ、それ以上の関係ではない。
そうなるつもりもない。
チャプター3はこれで終わりです、次は第二の神殿へ向かいます