魔法少女規格 -Magic Girls Standard- 作:ゆめうつろ
外に繋がると思われる出入り口は全て黒く塗りつぶされ、神殿は完全な闇に閉ざされていた。
おそらくこれは本来の防衛機構ではない、何者かの手が加えられたモノであり、解決するには元凶を探すしかない。
この暗闇そのものはオレ達にとっては脅威とはならない、だが元凶とは別に居るかもしれない先客には注意しなければならない。
「とはいえ、こんな冒険をいつもやってたのか?」
「はい、いつもこんな感じですよ」
オレが気を張っている一方でハレルはまるで自然体、この程度の事では動じないのか、それともただ単に暢気なバカなだけか。
どちらとも言い切れないが、とにかく慣れてしまってはいるらしい。
『解析完了、この空間は外とは切り離されています』
「知ってますよ」
『ユニオンの二人の助けは期待できません』
「最初から期待してませんよ」
『切り抜ける自信が随分とお有りで』
「お前達は何をやってるんだ、まったく……で、他には何か?」
『はい、また法則がおかしくなっている為かソナーを初めとした各種センサーの効果が低下しています、十分に気をつけてください』
なるほど、また異界か。
となるとここにもまた別世界から来た住人が住んでると見てもいいかもしれない。
「ありがとうシルフィード、引き続き調査を頼む」
『わかりました』
「……ナインさん?私よりシルフィードを信用してません?」
「それはなぁ……お前よりも素性がハッキリしている、それに自分の命を預けている道具を信じずして傭兵はやっていけない」
「作ったのは私ですよ」
「シルフィードは別だろう」
「まあそうですけど」
この時代に組織で制式採用されているかというのは判断基準としてはかなり堅実だ、性能だけでなくコスト・可用性・整備性も含まれるからだ。
可用性は大事だ、少しでも生存率を上げる為には特に。
「だがまあ、お前のことも信用はしている。その気が無ければ態々こんなところまでついては来ないだろう?」
「……どうして私の依頼を受けてくれたのですか」
「興味と……力だ」
「力……?」
「そうだ、お前が最初に見せた設計データ、このカーバンクルのコアに、対環境シールド、ライフル、お前が作る武器や道具、そして知識や情報に、オレはこれまで以上に強くなれる可能性を感じた」
オレはどうあがいても戦う事しかできない傭兵で魔法少女だ、その生き方しか知らない。
生き残る為には力が必要だ、それはきっと何処もいつの時代も変わらない、オレ達の世界も、この地獄と化した終末世界でも、力が無ければならない。
ユニオンの魔法少女、デーモンのクルスクレイク、この世界にはびこる巨大な怪物、そして、目の前にいるハレルもまたオレよりも強い存在だ。
別に最強である必要はない、だが誰にも踏みにじられないだけの強さが欲しい。
「自由に生きて、自由に死ぬ。それを叶える為の力が手に入るかもしれない、そう思ったからここまで来た、それだけだ」
少し喋りすぎた、だが今はまだルールとしがらみに縛られるだけの傭兵だ。
今は仕事を果たす以外に優先するべき事はないだろう。
話しながらも歩き続けているが事態は一向に改善しない、神殿とだけあってやはり広さが随分とあるのか廊下が長すぎる。
空間異常で無駄に拡張されている訳でも、無限に同じ場所を歩き回ってる訳でもなさそうなのは救いだが。
「シルフィード、今どれぐらい歩いた」
『移動開始から10分経過、移動距離400メートル程度です』
「少し立ち止まっていたからそんなものか」
『いいニュースです、500メートル先に熱エネルギー反応を検知しました。外見からのデータとあわせると神殿の丁度中心となります』
暗闇の性質か、まだ見通せないがどうやら何かはあるらしい。
本当にそれがいいニュースなのかはまだわからない。
「そういえば内部構造のデータは貰っていないのかハレル」
「ないですね、あくまで名前と位置……後は機能説明と権限ぐらいです」
「ここはどんな意味を持つんだ」
「第一神殿から抽出されたエネルギーを加速して格神殿まで送信する役目だそうです。ここを起動すれば残りの5つの神殿全てにエネルギーパスが通る……と思われます」
向こうが動力炉とすればここは総合送電所か、他全部が同時にパスが通るとなると予備のラインが引かれている?
しかし、それにしてもそんな重要な施設だというのに神殿の警備は手薄すぎないだろうか?人間ではないだろうがこう……人の手で警備していたのだろうか?防衛システムの自動化などはないのか?
アライアンスの発電設備や工場設備は複数種の警備システムを導入しているし、ユニオンの施設も随分警備が手厚かったのが印象に残っているのだが。
しらばらく歩き、ようやく行き止まりに辿り着く、壁の様に見えるがそれは巨大な石の扉だった。
「流石に入り口からそのまま直通というのも変な話だ」
「第一の神殿すら流石に制御室は下層でしたからね」
「それで、これはどうやって開けるんだ?」
「見たところ制御コンソールも無いし、おそらく機能停止しているので……」
「わかった、オレがやる」
まあ神々がアレアスティアの様に人間サイズになってるとは限らないし、扉を開ける専門の番兵でも居たのかもしれない。
形状は両開き、問題はこいつを引っ張るのか、それとも押すのか、見たところドアノブはないし、床に引きずった跡もない。
「多分大丈夫だと思うので押してみてください」
ハレルに言われるままパワーアシストの出力を通常のまま両方の押し込む、まるで壁を押しているような感じだ。
だが徐々に出力を上げていけば間違いなく動いてはいるのでこれで間違いはないようだ。
隙間から空気が噴出し、ゆっくりと扉が開いた。
中々に重い扉だが、セキュリティ意識はやはり低い様だ、おかげで鍵を探すなどの手間は省けたが。
ついでに開けた途端に敵が襲ってくるなんてこともなくて助かった。
「大丈夫、そうですね。誰も居ませんし、熱源の正体は……この結晶の様です」
扉の向こうには緑色の結晶に覆われた祭壇があった、前の神殿でも見たコンソール迫り出したままだ。
「何の結晶だ」
『分析の結果、星のエネルギーが固形化したものと考えられます。かなり安定していますが強いエネルギーを加えると爆発する可能性があります、注意してください』
なるほど、星の欠片か……なんともロマンチックだ。
だが爆発する危険性があるとなれば話は別だ、どうしたものか。