魔法少女規格 -Magic Girls Standard-   作:ゆめうつろ

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chapter 4-03

 制御室まで辿り着いたものの、コンソールを覆ってしまっているエネルギー結晶、これを除去しなければ話が進まない。

 

「それで、どうやって剥がすんだ?」

『物理的手段での排除も爆発の危険性があります。別の方法での対処を推奨します』

「とは言ってもな……ハレル、お前の意見は?」

「別に物理的に吹き飛ばしても大丈夫でしょう、機能停止していようと安全装置もないのにこんな巨大設備は運用できない筈です」

『私の分析では40%の確率でコンソールは破損し、最悪の場合この施設の崩壊を招くと考えます。危険です』

「外に逃げられない以上、吹き飛ばすのは無しだ。それよりも……この暗闇と空間異常の原因を解決して、結晶を退かす為の手段を探したほうがいい」

 

 さすがに逃げ道もないというのに爆発や崩壊を招く手段は取る気にはならない、それも40%というかなりの高い確率だ。

 異常の原因がどうしようもなかった時の最後の手段にするべきだ。

 

 ハレルも本気でこれを吹き飛ばそうなどとは考えないだろう。

 

「ただ私として元凶探しよりは手軽だと思うんですがね……」

「四割の確率で吹き飛ぶのは手軽とはいわない」

 

 訂正、こいつは割りと本気で吹き飛ばすつもりだった。

 

「もっと慎重にやるつもりはないのか」

「一々気を遣ってたら永遠に進めませんよ、多少強引な手段も時には大事だと思います」

「はぁ……まあいい……とにかく、探すとなるとまた頼むことになるぞシルフィード」

『おまかせください』

 

 本当に便利な奴だ、確かにこいつがいるだけで負担は大分減っている。

 アライアンスやユニオンにも本格的に導入されれば魔法少女の運用もまた変わってくるだろう。

 

 そうなるとネットワーク運用や魔法少女同士の電子戦まで考えなければならなくなる、が逆にスタンドアローンのままにしておくのも悪くない。

 なんにせよ、一人で戦うよりは遥かに効率的になるという事だ。

 

 振り返り、元来た扉の方を向いたその時、空間の歪みを見て取った。

 

『時空の歪みが発生、何かが現れます。注意を』

 

 即座にマシンガンを手にし、現れた黒い穴の様なモノを注視する。

 そこから飛び出してきたのは蛇、いや竜だ。

 

 口を開けて突っ込んできたそれをオレ達は回避する。

 しかし現れたのは一匹だけではない、続けてもう二匹、こいつらには言葉が通じる気がしないとマシンガンの引き金を引いて動きを逸らさせる。

 

 あわせて三匹の蛇竜が部屋の壁に沿うようにオレ達を囲んでいた。

 

「これが黒幕、という感じではありませんね。おそらく下っ端でしょうね」

「奇遇だな、オレもそう思う」

 

 なるほど、全く感知できないのもその筈だ、こいつらは今の今までこの空間の中に居なかった。

 空間の歪みや異常こそ検知できるが、別の空間や次元に隠れて何をしているかまではオレでもわからない。

 

 しかし向こうは何らかの手段でずっとこちらの様子を伺っていたのだろう。

 

 だがまあ……向こうも運が悪い。

 

「試し撃ちにはちょうどいい」

 

 クルスクレイクのショットガンに持ち替え、蛇竜に銃口を向ける。

 

「ナインさん、言いだしっぺはあなたなんですから結晶を爆破しない様にしてくださいね」

「わかってる」

 

 ぱっと見、蛇竜どもは透けており、オレからは空間の歪みがそのまま動いているように見える。

 

『解析完了、複数の次元に同時に存在する為、通常の攻撃ではダメージが分散されてしまいます。しかし向こうも干渉の為にはこちら側に姿を固定します。つまりは向こうの攻撃にあわせてカウンターの形を取るのが有効でしょう』

 

 シルフィードの分析を参考に弾丸を生成、貫通性能の高いモノを選ぶ。

 そして一匹目の蛇竜が首をもたげ、こちらに飛びかかり、姿を現すのに合わせて引き金を引く。

 

 強烈な衝撃と共に放たれた散弾が蛇竜の頭を粉々に吹き飛ばし、惨たらしく肉片へと変えた。

 力なく床に転がり落ちる死体をかわし、二体目の蛇竜が突っ込んでくるのを回避しつつ二発目は「グレネード」弾を形成、開いた口の中に直接撃ち込んでやり、突進を回避。

 

 背後で風船の様に膨らみに吹き飛んだ仲間を見て、距離を取っていた三匹目は開いた口内を赤く輝かせる。

 それは「ドラゴンブレス」だ、回避してもいい……が結晶に当たればまずいかもしれない。

 

 脳内に流れ込む「取り扱い説明」を従い、オレは三発目の弾丸を生成。

 竜の口から放たれた炎に真っ向からぶつける様に「闇」を銃口から放つ。

 

 炎を掻き消し、邪竜を包んだ闇はその肉体を蝕み、生命エネルギーを食い尽くして「塵」へと変えた。

 

「ナインさん、今のは」

「ダークエネルギー弾、というらしい……簡単に言えば生命に対する反物質で、命あるものには等しく効くそうだ」

「やっぱりロクなものじゃありませんね……それから次からそれを使うなら言ってくださいね?危うくナインさんを撃ちそうになりましたよ」

 

 冗談だろうとハレルの方を向く、突きつけられた銃口は今なお青白く光っていて、オレは今まで見た事のないその表情と真剣さに思わず冷や汗をかいた。

 

「あ、ああ……そうするが、さすがにそれは過剰反応じゃないか?」

「……言っておきますが、あなたのその銃は正直に言って、私でも手に余る危険なモノです。それに今みたいな攻撃をするのに対価がないなんてありえません。シルフィード、バイタルチェックを」

『生命エネルギーが短時間で多く消費されています、特に三度目の攻撃は5%程の消失を検知しました』

「そんなにか?実感は無いが?」

 

 なるほど、命を削る武器か。

 確かに強力だが、使い所を考えておかなければな。

 

「……基本的に私達の世界で生命エネルギーを消費する機会はありません、せいぜい肉体の衰弱にしたがって無くなっていくぐらいです。一部の魔術師や巫女なんかは生命を対価とする術式を使う程度でしょう、だから実感が湧かないだけです。わかりやすい所では私達の様な巫女や魔法少女でも3割なくなれば動きに支障が出て、半分も無くなれば生命活動に支障がでます。なのでその武器は極力使わない様に」

「でも回復機能もついているぞ?アンカーショット形態にすれば……」

「使用は控えてください、いいですね?」

 

 反論しようと思ったが、流石に光る銃口を突きつけられては言えないな。

 しかしハレルが何故こうも過敏に反応するのか、少し不思議に思った。


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