魔法少女規格 -Magic Girls Standard-   作:ゆめうつろ

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chapter 1-02

『エンジェルモデル』

 それはこの世界で最も普及している魔法少女モデルだ。

 日本で開発、配備された世界で最初の魔法少女モデルであり、他には開発に出資・参加していた組織や他国政府などに提供された。

 

 適性はほぼ不要、必要な機能が全て揃っており、コストも低い、シンプルでスタンダードな使い心地、そしてなにより途方も無い拡張性があり、今現在も無数のバリエーションを生み出し続けている。

 

 魔法少女システムの構造はこの時点でほぼ完成しており、コアと拡張用のコネクタユニット、内部のインナースーツの三つにコアに搭載された「バリア」「シールド」「パワーアシスト」「フローティング」の基本機能魔法を搭載。

 そして動力とするのは「人造の神」だ。

 

 

「私達「ナユタ」は古くからこの「人造神格」を運用して妖魔や怪異、時には神にも立ち向かう巫女と神官の組織でした。ですが時代の移り変わりと共にまあ、その粗方殺しつくしたというか……敵が減ってしまいして研究者としての側面が強くなっていきまして、自分達が使ってきた「人造神格」の力を調べる為にこの『魔法少女システム』は作られました」

 

 レンタルガレージの中、整備の為の機材を組みなおしながら目の前の少女、ハレルは嬉々と語る。

 普段使いの端末に、加工用の出力機、投影用のモニターに、コア加工の為の素材を積み上げる手際はあまりに華麗だ。

 

「ですが血の気は多いし倫理感は無いし、基本的に神に喧嘩を売るような連中の集まりです。まあ出るわ出るわ裏切り者に離反者、その一部はアライアンスやユニオンへ行ったりしてこの魔法少女の技術を広めていったわけです」

「つまりお前達ナユタが全ての元凶という訳か」

「まあそうですね。とはいえ遅かれ早かれ技術の流出は決まっていましたからね。結果としてエイゲツのお兄さん……ああ、神官で魔法少女システムの「開発者」の人がちょっとメンタルをやっちまったのと、過激派が大分減ったぐらいで済みましたよ」

 

 全く悪びれる様子なく作業を進める彼女を見てるとナユタという組織のイメージがなんとなくつく、技術の進歩の為には犠牲は仕方ないという奴だ。

 間違いなく、ルールで縛らないと平気で危険物を作り出すし、ルールの穴をついてくるタイプの奴らだ。

 

 

 オレが思い浮かべるのは「OASISテクノロジー」の連中だ、アライアンスの中でも特に生体技術に特化している企業で、生体再生や改造手術などといった多くの医療技術を生み出した。

 実態としては幻獣や生物兵器の培養でよく事故を起こして被害を出す傍迷惑な連中だ、もちろん後始末はオレ達、傭兵に丸投げだ。

 

「悪い人ばっかりではないですよ、倫理感が無いだけで」

「それを一般的に悪い奴というんだ」

「まあ、それはおいておいてセッティングは完了したので、さっそくアセンブルを行いましょうか!」

 

 そんなことはどうでもいいと話を投げ出し、ハレルは端末を起動、ホログラムモニターに浮かぶのは魔法少女モデルの設計データだ。

 

「第二世代型モデルってご存知ですか?」

「フォームチェンジを初めとした拡張性を更に高めたモデルだろう?まだそんなに出回っていないと聞いている」

「そうですね、アライアンスやユニオンでも一部のテストタイプが出てきたばかりという感じですよね。ベルトやコアに電子魔法陣を組み込んでタッチだけで魔法を使える様にしたりとかぐらいですかね、今の所は」

 

 魔法少女システムが登場・普及し既に3年経っている、となればある程度扱いに慣れて技術も蓄積してくるというもの。

 新型の開発もまた進み始めているという噂もよく聞く。

 

「これはエンジェルモデルの第二世代型です。既存機のコアにアップグレード処置を施したもので、一部の組織ではもうこれにアップデートが始まってます……が、私はこの程度の無難なパワーアップで満足したくありません」

「……いくら強くても使用者の事を考えないモデルは使い物にならないからな」

「わかってますよ!釘を刺さないでください!むしろ更に使いやすくする為の設計なんですから!」

 

 むっと不機嫌そうな表情を浮かべ、次のファイルが開かれる。

 そこに浮かぶのは「使い魔」の文字。

 

「日本でいえば式神、魔術師的に言えば使い魔、工学的に言えば人工知能。つまりは魔法少女をサポートする為のシステムです。ドローンや戦闘端末を使ったり、ハッキングや機器の運用補助、果ては戦闘中の助言なんかも視野に入れてます」

「……使い魔といえば魔法少女無人機とかのアレか」

「そうですねサーヴァント・オートマシン。魔法少女システムにロボットを少女と誤認させて動かすアレの元です。むしろアレほどには戦闘をメインとさせる訳ではなく、簡単に魔法少女の負担を減らすものです」

 

 おもったよりもまともな改善案だった、確かに戦場の魔法少女にはやる事が多い。

 索敵も武装や機器の操作も、戦闘の判断もほぼ自分一人でしなければならない事も多い。

 

 これが実用化すれば、確かに負担は大きく減るだろう……が。

 

「そうか、だがこいつがユニオンの手にも渡ればどうなる?」

「心配しなさるな、どうせ向こうも作ってるしアライアンスでも作り始めてるのでどの道、戦場で見る事になりますよ。所詮小娘一人が考えうる程度のカスタムは大きな組織ならどこでもやっているので気にする事はありませんよ」

 

 ハレルはそれが当たり前の様に言い切り、次のファイルを展開していく。

 わからない、オレにはこいつの目的がわからない。

 

「ナインさんにはね、一緒に旅について来て貰いたいのですよ。私には新しい世界で、新しい発見をする為の仲間が必要なのです。だからハヤテさんに聞いたのです、アライアンスで誰かいい感じの魔法少女がいないのですかって」

「それは……」

 

 響希ハヤテ、アライアンス最強の魔法少女からオレが一定の評価を受けているというのは初耳であり、変な気分であった。

 確かに彼女であればアライアンス内の魔法少女に注視しているのは当然であろうが、何故オレ程度の魔法少女がという気持ちもある。

 

「つまりは人間同士の戦いに飽きてそうな人を探してたわけなんですけどね、ちょっとした気分転換の旅行気分で。旅は道連れ、世は情けという言葉もありますからね。ついて来てくれませんか?新しい冒険に」

 

 ……?……!!

 

「……つまり護衛が雇いたいが払える金がないから魔法少女システムのカスタマイズを報酬にしたいという訳か」

「はい」

「それを最初はソニックインパルス、つまりは響希ハヤテに持ちかけたと」

「はい」

 

 オレは理解した、ハレルの人のよさげな笑み、これは。

 何も考えてないアホ面だった。

 

「……お前は身内からバカとか言われないか」

「失礼な、そんなことありませんよ!!」

 

 頭を抱える、一瞬でも警戒に値する存在だと思ったオレがバカだった。

 こいつはただのアホでバカだ。

 

 それも無駄に技術や力だけはあるタイプのだ。

 加えて放っておけばそれはそれで何をやらかすかわからない。

 

「……後払いでもいいからちゃんと金で払え、それを条件になら受けてやる」

「後払いでいいんですか!?じゃそれでお願いしますね!」

「説明はするから、ちゃんと契約書を書けよ?最初の期間は3ヶ月、更新するかはその時に決める」

 

 いざという時はこいつの実家に請求書を送れば問題はないだろう、

 にしても魔法少女だというのに年相応の気楽さには少し羨ましくなる。

 

 どいつもこいつも大人びている奴ばかりで、逆に新鮮だ。

 

「そういえばお前の歳はいくつだ」

「私は今年で15ですね~今は14です」

「ガキじゃねぇか」

「魔法少女なんでガキじゃありませんよ!」

 

 まったく厄介なガキに捕まってしまった、本当に恨むぞ、ハヤテ氏。

 

「とにかくまずは仮契約からだ、オレはまだお前を雇用主として相応しいか見極めきれてないからな」


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