魔法少女規格 -Magic Girls Standard-   作:ゆめうつろ

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今日二回目の更新です


chapter 1-03

 ニヴルヘイムとは北欧神話の中の九つの世界において霧に覆われた暗き地、あるいは死者の地ヘルヘイムと同一視される場所の事だ。

 ここはその「ニヴルヘイム」と名付けられた文字通り「異世界」だ。

 

 物理法則が異なれば魔術の法則も異なる、気温は低く大気組成もまた生物が活動するには不向きといえる。

 防護服を着た魔術師や無人探査機、そして魔法少女でもなければまず満足に動く事すらままならない。

 

 最初にここを見つけたのはユニオンの前身となった組織だった、汚染による居住地の不足から新天地を探す計画の中でこの世界を見つけたものの、人間が住むには向かない環境だと簡単な調査だけ行われ放置されていた。

 その後、世界間転移技術を完成させたアライアンスが再発見、それなりにコストをかけた調査が行われ、資源採掘地として有用だという事で開発が始まった。

 

 だが同時にユニオンもこの地に目を付け、この地の資源を巡った抗争が始まった。

 現在ではそれなりの人数の人間が居住スペースを作り暮らしている。

 

 薄暗い空へと伸びる塔「エレメントハーヴェスター」が今日も元気にこの地から資源を採掘していた。

 

 とはいえこの世界にも生命は存在する、竜や獣、植物……かつてオレ達の世界に満ちていたモノに近い生物がひしめいている。

 それらはどうにも気性があらく、採掘施設などを襲う事もあるが……魔法少女や魔術師、あるいは無人機が持つ武器のテストにはうってつけの相手となっていた。

 

 オレ達がやってきた時には丁度、襲撃があった後らしく、職員や魔術師達が仕留めた獲物の解体を行っていた。

 魔術的な素材として優秀なのだそうだ。

 

 

「うわーすっごい……人間の業の深さを感じますね」

「オレはお前の方が怖いよ」

「私は師匠とその無茶振りが一番怖いですね、後はそんなに」

「大した奴だ」

 

 新型の銃器によって穴だらけにされた巨大な猪の死体を一瞥する、その傷はまるでくり貫かれたように蒸発していた。

 連射式のプラズマガンか何かだろう。

 

「そういえばうちの実家の近くにも猪はいましたね……ちょくちょく襲われて人死にが出るんですよね」

「対策はしてないのか」

「ショボい火器じゃ通らないんですよね、最近プラズマライフル使えるマタギの魔法少女が就任しましたけれど、どうなってるのかはまた今度調べておきます」

 

 地球の自然は殆ど汚染により失われた、かの様に思われるが、実際の所そうでもない。

 星全体で見ればまだ自然は残っている……だがそれが「人間が生存可能である環境」であるとは限らない。

 神域・聖域化などと呼ばれ、魔力や化学汚染、あるいは何かしらの神秘の力が働き、非常に強力な生物種が跋扈する領域となる汚染区域もまたあるのだ。

 

 このニヴルヘイムの動植物がそういった聖域の生物とよく似ている事から、ここはかつて地球と地続きであったのではないかという論もある。

 もっとも、アライアンスにとってもユニオンにとっても、ただの資源採掘所としか見られていないという悲しい現実があるのだが。

 

「それにしてもタイミングが良くなかったですね、試し撃ちが出来ると思ったんですが」

「少し遠出すれば直ぐにでも的は見つかるぞ」

「いえ、「今は」やめておきましょう。この世界もなんだかんだ言ってアライアンスもユニオンも「全部」は知らないのでしょう?」

 

 ハレルの言うとおり、アライアンスやユニオンが完全に把握できているのはせいぜいそれぞれの基地から30キロ圏内だ、電波状態が極限まで悪く、それ以上は単独調査になり不測の事態が起きやすい。

 

 アライアンス・ユニオン共に資源開発の為に施設の拡張を行いたいという欲はある、だが人手が慢性的に足らず、並の人間は世界を移動したストレスで直ぐに潰れるので長期的には働けない。

 それが現状が維持されている理由である。

 

「なるほどな、で。そもそも何のためにこのニヴルヘイムに?」

「素材集めの為に竜を狩ります」

「魔法少女モデルのコアを新造するつもりか」

 

 竜、それは架空の存在とされていたがこの世界を含め、多くの異世界に存在する特殊な生物種だ。

 魔術的素材としての価値は高いが、相応に強く魔法少女でも油断できない相手だ。

 

 オレの使用しているファーヴニルモデルもまた竜を素材とした魔法少女モデルだ。

 それは生体適合によって、竜種の優れた感覚・身体・魔術的な能力を人間の体に取り込む事で自身もまた竜になる為のもの。

 

 つまりはハレルは新しい魔法少女モデルを作る為に竜の素材が欲しいようだ。

 

「魔法少女モデルもピンからキリ、それこそ機材すらなくても携帯電話端末一つあればエンジェルモデルのコアを作る事もできましょうが、やはり相応に強いモデルを作りたいなら相応の素材があった方が楽というものです」

「いや携帯電話端末でコアが作れるのは初めて聞いたが……」

「ナユタの巫女や神官なら出来ますよ?師匠以外は」

「それってつまりお前にも出来るという事か」

「はい」

 

 少し頭が痛かった、確かに魔法少女システムの「コア」は比較的簡単に作れるとはいえ、それなりの知識と専門技術が必要だとは聞いた記憶がある。

 それに専用の加工やカスタマイズの機材も必要だと。

 

 つくづく規格外、むしろ規格を開発した側だが……ナユタという組織は何かおかしい。

 

「なんなら私の使っているモデルも自家製ですよ、エンジェルモデルのカスタムですが」

「既製品で悪かったな」

 

 滅茶苦茶得意げに胸を張るハレルに頭が痛くなる。

 

「でも私が竜狩りって言った瞬間にコアの新造に行き着いたナインさんもすごいと思いますよ?結構みんな自分の使うモデルのクセなんかは知ってるのにシステム基幹部とか素材までは知らないって感じでしょう?」

「戦場で使える知識はそれなりに知っているつもりだった、お前と言う非常識と出会うまではな」

「それほどでも~」

「皮肉だよ」

 

 さすがはナユタといったところか、こいつの技量や知識はやはり本物だろう。

 先日アライアンスに問い合わせた情報からこいつが本物のナユタ・ハレル、つまりは魔法少女システムを開発した組織の一員である事の裏づけは取れた。

 

 正規の手段でアライアンスに入ってきた為、普通に立ち入りの記録に残っていたのが決め手だった。

 

 もっとこう、訳アリらしく裏口や非正規の手段で入ってきたと思っていたのだが。

 

 それはともかく、一つ気になる事が出来た。

 

「それでそんな天才のお前の作ったエンジェルモデルと市販のエンジェルモデルはどう違うんだ?一応一緒に行動するのだから戦力の把握は必要だろう」

「あ、そうですね。まあ出力から違うのでエンジェルモデルというよりその原型である「ヘブンスハート」というモデルに近いのですが、限定的にですが不死の生物を殺したりできます」

 

 また頭の痛くなるワードが出てきて、オレは突っ込みたくなる衝動を抑え殺した。

 

「そういう特殊すぎる能力でなく、もっと普段使いする能力を聞かせて欲しかった」

「それなら、簡単な武装の組み立てとかいわゆるフォームチェンジ機能で他の魔法少女コアと連結させたりとか」

「さっきよりはマシだがまた変なワードが聞こえたぞ」

 

 オレは早くもこいつとの仮契約を解消して別の仕事を探したくなってきた。

 ユニオンの連中とやりあう戦場が恋しい気分だ。


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