魔法少女規格 -Magic Girls Standard-   作:ゆめうつろ

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chapter 1-06

『ファーヴニルモデル』

 「強化変身」型魔法少女モデルで、人間から「魔法少女(ドラゴン)」へと変身する事からこの名が付けられた。

 使用する為にはレイディアントが開発した「適合手術」を受け、肉体を改造する必要がある。

 その為、魔法少女システム無しでも感覚や肉体の強化、高い負荷耐性を得る。

 一方で「竜殺し」とされる魔術や武器に対してダメージを負いやすくなるというリスクもあるが、レールガンやプラズマキャノンが運用されるこの時代においては誤差の範囲内である。

 

「機種転換というのは大変ですよね、これまで慣れ親しんでいた動きの癖と新しいモデルの動きが乖離すればそれは混乱や隙となってしまいます。なのでこの新しいコアはナインさんがこれまで使っていた「サイレントインパルス」に増設する形で取り付けようと思います」

「それは肉体にかかる負荷としてはどうなんだ?」

 

 新しく作られたコアを手にオレ達はレンタルガレージ備え付けのトレーニングルームに居た、挙動のテストの為だ。

 どんな装備も一度は必ず試しに動かしておかねば何が起きるかわからない、それが手作りのコアなら特にだ。

 

 ハレルの事は既にある程度評価しているし、ニヴルヘイムでの動きから少しは信用しても問題ない人物であろう事はわかってきた。

 だがまだ「信頼」していい人物であるかはわからないし、信じていても、それとこれはまた別だ。

 

「まあ長時間の戦闘を考えなければそんなに負担にはならないと思います、加えて武装配列次第でしょうか?それにどの程度調整が必要なのか、それを調べる為のテストですから」

 

 こいつが何を考えているのか、何の為にこんなことをしているのか。

 そんなことはまあいい、アライアンスの法にさえ触れず、互いに利益になるのならオレはこいつの要望通りには動いて見せよう。

 

 オレは傭兵で、こいつは雇い主なのだから。

 

「なら、はじめるぞ」

 

 サイレントインパルスのコアを待機状態から起動、加えて新しいコアを続けて起動する。

 いつもよりも力は漲る、が。

 

「気分はどう?」

「まあまあだ、少し体が重い」

「了解、調整用プログラムと使い魔を起動」

『おはようございます、私はシルフィード14。魔法少女システム搭載の補助人工知能の使い魔です』

 

 女性型の合成音声がコアから発せられると同時に重さが少し軽減される。

 

『パワーアシストとバリアコーティングの出力比率を調整、肉体的負担を軽減しましたがどうですか?』

「わるくない」

 

「これまでは戦闘中の内部データ調整は余程の魔術師でもなければ出来ない荒業でしたが、それを使用者や状況に合わせて自動的に行ってくれる存在、それが使い魔です。どうですかナインさん?」

「ああ、確かに便利だ。このシステムもお前が作ったのか?」

「いえ、これは普通にナユタとか日本政府の一部とかで使われている奴ですね」

「コンプライアンスはどうなってるんだ」

 

 こいつはもう少し自分の勢力の技術を秘匿する努力をした方がいいな。

 

「いいんですよ、どうせユニオンの魔術師の使い魔のデチューン品なんですから」

『アホを検知』

「いや、性能はいいようだ。しっかりアホを検知している」

『お褒めいただきありがとうございます』

「私はアホじゃないです!」

 

 この使い魔のシルフィードとは仲良くやれそうだ、少なくとも目の前の魔法少女よりはしっかりしている。

 

「ともかく!まずは基本挙動をお願いします」

「わかった」

 

 言われた様に、まずは跳躍・降下、前後左右へのステップに走行、フローティングによる浮遊と急上昇・急降下を一通り試す。

 どれも出力の上昇で初速が上がっている上に距離が伸びてしまっている。

 つまりいつも通りの感覚でコーナーを取ろうとステップをすればそのまま射線に飛び出してしまうだろう。

 

『出力を修正、バリアコーティングとフローティングに割り振ります。もう一度挙動をお願いします』

 

 シルフィードの指示に従い、もう一度同じ動きを繰り返す。

 今度は初速は変わらないものの飛距離が短くなった事で行き過ぎる事がなくなった。

 とはいえ完全に慣れるにはしばらく時間が掛かりそうだ。

 

「どうですかナインさん?」

「しばらく動かしてみる必要がある」

「わかりました、ならここの備え付けの模擬戦プログラムを使いましょう」

 

 ハレルが部屋の端の移動して機材を操作する、トレーニングルームというだけあってここにはホログラムとコンクリートブロックで出来た障害物による戦闘訓練プログラムが備え付けられている。

 

 壁や床からせりあがる障害物、ビームセントリーに機械歩兵にドローン達。

 機械歩兵やセントリーを停止させる為のビームピストルと電子ナイフなどが入ったウェポンボックスが各所に設置されている。

 それを使い、敵を殲滅しろという事だが、どれも頑丈だが壊してしまえば弁償なので気をつける必要がある。

 

 スピーカーから開始のブザーが鳴ると同時に標的が動き出して配置につく、企業製品とだけあって思ったよりもこいつらの戦術はしっかりしており、狙いも正確だ。

 

 撃ってくるのは少しの質量があるビーム弾だけ、生身でも少し痛いで済む程度の威力しかないがバリアコーティングに接触すれば独特の被弾音が鳴る為にすぐわかる。

 

 オレもこのトレーニング用の機械歩兵相手に最初の頃は20発30発と被弾したものだ、が。

 

 まずドローンを目視で狙いを定めて4機沈黙させる、トレーニングピストルは弾数が12発、各所に落ちているマガジンか、倒した機械歩兵などから奪って弾を補充しなければならない。

 

 フローティングで壁から迫り出した障害物の裏に張り付いて隠れながら、真下を通った三体一組の機械歩兵の頭を撃ち抜いて停止させるとそのまま急降下し、武器を奪う。

 威力は変わらないが連射式のライフルだったのでそのまま障害物の迷路を感覚頼りに走り抜ける、ガシャガシャと機械歩兵特有の足音を聞き分け、進行方向を確認。

 

 背後を取ってライフルで背中を撃ち抜いて三体のチームを停止させる、残りはセントリー2基と機械歩兵一組だ。

 発砲音を聞いてこちらに向かってくるのを待ち伏せるのもいいが、セントリーの位置を探す必要もある。

 

 コーナリングチェックをしようとした瞬間、ビーム弾が飛んできたのでそれを回避。

 おかしい、機械兵士なら感覚に引っ掛かる筈なのに。

 加えて恐ろしい程に正確な射撃、これはまさか。

 

「お前かハレル!」

「ご名答ですね!」

 

 あいつ!戦闘プログラムを対人モードにしていたのか!

 しかもハンデの味方ミニオン有りと来た!

 

 魔力までは見ていなかったオレのミスだ、改めて魔力感知まで加えると確かにハレルはそこにいた。

 逆言うとそれ以外では見つからない様にステルス化していたのだ。

 

 つくづく食えない奴だ。

 

 そうなっても勝利条件は変わらない、戦力を全て無力化するだけ。

 対人モードなら部屋のセンサーが被弾を確認して勝敗を識別するブザーを鳴らす。

 先に三点取った方の勝ちだ。

 

「ああちなみに、私はプレイヤー2なのでよろしくおねがいしますね!」

 

 風を切る音と共にカンと何かが壁にぶつかる音がした。

 グレネードだ、即座に上昇して被弾範囲を回避、投げてきた方向に向けて同じくグレネードを投げ込むが、ビームで撃ち落されて起動しない。

 

 続けて飛んできたビームを回避しつつ再び遮蔽物に隠れる。

 本当によくやる、侮れない相手だ。

 

『いい動きです、ナイン』

「そいつはどういたしまして」

 

 中々のプレッシャーだ、実際に戦場ほどではないが臨場感がある。

 感覚を研ぎ澄まし、勝ちに行く為の手段を考える。

 

 だが勝つのはオレだ。


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