魔法少女規格 -Magic Girls Standard- 作:ゆめうつろ
時間切れのブザーが鳴る、結局ハレルからスコアを奪われる事はなかったが、こちらも当てる事が出来なかった。
障害物が引っ込み、再起動した機械歩兵達が使用した武器を回収しながら自動で片付けを始める、手元に残っていた武器を返却するとハレルがこちらに歩いてくる。
「どうでしたかナインさん?普段通り動けました?」
「ああ、お前から一本も奪われない程度にはな」
「期待以上です。シルフィード、最適化は?」
『進めています』
「では、お仕事の話に入りましょうか」
こいつにとって竜狩り、模擬戦、そして新型コアの試験は……オレの実力を測る為のものだった。
つまりどこまでの仕事を任せられるかというのを自分の目で判断したかったのだろう。
異世界への資源開拓、新型モデルの作成……それらしい事は言っていたもののこいつは仕事の内容をぼかしていた。
それはオレにその仕事を果たせるか、任せられるか、まだ決心がつかなかったのだろう。
傭兵とは基本的に使い捨ての消耗品だ、多少の金で数を雇って、重要度の低い仕事に回される。
「正直に言うと人を雇うのって初めてで、特に魔法少女の傭兵さんとかってどの程度の仕事が出来るのかって、私は知らなかったのです。なので少し見極めるのに時間をかけてしまいましたが、私としては行けると思ったので改めてお願いしようと思います」
これまでの緩い雰囲気ではなく、大人びて引き締まった表情でハレルは告げる。
「この世界の為に、一緒に異世界へ冒険の旅に出てくれませんか?」
それは間違いなく危険な仕事だろう、想定外の出来事など当然、どんな敵が現れるかすらわからない。
純粋な戦闘力だけでなく知識、判断力、適応力、対応力……様々なモノが求められる。
本来なら傭兵に回ってくる様な仕事ではなく、政府内や企業連合内での調査隊が組まれる様なものだ。
せいぜい回ってくるとして、現地拠点の防衛の仕事ぐらいだ。
「何故オレ達アライアンスの魔法少女を選んだ?」
「私が外の世界の人達を知りたかったからです。ナユタは本来、かなり閉塞的で他の組織との仲もそれほどよくは無いのです、偶然にも師匠……アマネお姉様やエイゲツのお兄さんなどが個人的にハヤテさんと付き合いがあったのでアライアンスを選びましたが……何よりもあなた達は「誠実」だと聞いていましたので」
誰しもがそうとは限らないが、確かにアライアンスは自由と誠実さに重きを置いている。
例え相手が敵対するユニオンであろうと取引次第では必ず相応の対応をするし、身内であってもナメた事をすれば徹底的に叩き潰す。
「わかった。詳しい概要を聞かせてくれ」
「行き先は「第14世界」他の異世界同様にほぼ未開の地ですが「文明の痕跡」はあります。私と共にここを探索、遺物の調査、あるいは現地に文明があった場合「交流」「戦闘」になることもありえます。報酬はアライアンスを経由して「ナユタ」から払われます。期間は最低でも半年は見積もってますが場合によっては延長も考えます」
最低でも半年、ならばそれ以上掛かると見積もったほうがいいだろう。
それにしても未知の文明のある世界の調査とは初めてだ。
少しばかり興味がそそられるというもの。
「参加者は私とナインさんだけ、物資運搬ドローンはありますし、現地の拠点は既に一応用意されています。無人ですけどね」
危険な旅になるだろう、死ぬ事もありうるかもしれない……が今更だ。
どうせ傭兵である以上、どんな仕事でも常に死と隣り合わせだ。
「最後に一つだけ」
「何でしょう」
「その仕事は楽しそうか?」
「はい、私は楽しみにしてますよ」
ハレルの満面の笑み、それはアホ面でもマヌケ面でも取り繕った営業スマイルでもない。
ただただ純粋に心底未知を楽しみにした者の顔だった。
「いいだろう、引き受けよう」
「では……改めまして、私はナユタ・ハレル。日本政府とナユタに所属する「アーティファクト研究者」であり、ナユタの巫女であり、魔法少女です。よろしくおねがいしますね、ナインさん」
差し出されたその手を取る、それは契約の証だ。
オレは依頼された仕事に対して、初めて楽しみだと思った。
「ああ、よろしくな。仕事である以上、期待されてる分は働くさ」
トレーニングルームを後にし、オレ達は準備を開始する。
必要な装備の調達だ、とはいえ店を回ることなどなく、端末で発注し届く、拠点としているガレージで届くのを待つだけだ。
「第14世界は地球と似た環境ですが、他の異世界の殆どと同じ様に地図がまだ出来ていません。ちなみに空には「天井」があって打ち上げた衛星が激突してるのでどういう世界形状をしているのかもよくわかってないですね」
「天井があるのか」
「はい、もしかしたらかつて神々が作った世界、だったりするかもしれませんね」
「なら無礼がないようにしておかないとな」
念を入れ、武器は用意できるだけ買い込んでおく。
あまり乗り気ではないが近接用の武装も加える。
連射性が高く、装弾数も多いプラズマライフルに電磁ブレード、電磁ランス。
変り種ではボウガンもだ。
衣装も予備弾倉も多めにストックできるジャケットタイプを選ぶ。
「ところで、この新しいコアの名前はあるのか?」
「カーバンクル、かつて富と栄誉を求めた探険家達が探した幻の獣の名前です」
「皮肉か?」
「験担ぎです」
古き時代においても、人は新天地に富を求めて旅をして来た。
その多くは道半ばに倒れ、辿り着いたとしてもその先で衝突を引き起こしてきた。
オレ達の旅にも多くの障害が立ちはだかるだろう。
その先で見つかるものが大した物でないかもしれない。
だが夢を見ざるを得ない。
未知の素材や宝石、あるいはその世界においての伝説の武器、この世界の人間がまだ知らない何か。
持ち帰ってこれれば、間違いなく名誉となる。
何者でもないオレが名を残す事だってできるかもしれない。
「お前はそこに何があると思う?」
「私は……そこにあるのは結果だと思いますよ」
「結果か」
「旅をした結果という奴です」
よくはわからないが、なんとなくわかる気がする。
「どの道にしても、調査した結果は出ますからね。それを提出すればかなりの報酬になります」
「そうなのか」
「もちろん何かしらの物品やサンプルを持ち帰れば買い取ってもらえますし、何よりも新しい魔術のアイディアなんかになればそれだけでも元は取れると思っているので、気楽に、ポジティブにいきましょう」
ハレルは、見慣れてきた笑みを浮かべていた。
chapter 1、つまりは準備編はこれで終わりです。
次から未知なる世界に旅に出たいと思います