闇物語-星のカービィ クロス・ダークネス-   作:であであ

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最終話 私たちは新たな運命を辿る

「久しぶり。ひなた、かのん。」

 

「お、花来た!」

 

「花ちゃん久しぶり〜。」

 

近所の喫茶店、結われた長い黒髪を揺らしながら小走りでこちらに向かってくる花を、それに気づいたひなたと香音が快く迎える。涼しい店内を優しく駆け抜けて、爽やかな雰囲気の外の席に着けば始まるのは久々の女子会だ。

 

「お仕事はどう?順調?」

 

「うん、やりがいはあるよ。余ったケーキ貰えるしね。」

 

花は高校卒業後、地元のとあるケーキ屋で働き始めた。色とりどり、様々な形のケーキが並ぶ雰囲気の良い店。お菓子付きがこうじて、卒業後は大学には行かずに、すぐ様そう言った職種に就くと決めていた。そんな話をしている最中も、彼女は特大サイズのパフェを注文している。

 

「そう言う2人はどうなの?やっばり、大学の課題って大変なの?」

 

「う〜ん、確かに大変だけど、これも将来のためだからね。それに、もうすぐ実習も始まるんだ〜。」

 

「保育士さんだっけ?」

 

「うん!早く子供達に会いたいな〜。」

 

「私はレポートとかやっぱ苦手だな〜…。体を動かすのが一番!」

 

「ひなたは将来何になりたいの?」

 

「う〜ん…、分かんない!」

 

「ひなたらしいね。」

 

高校卒業後、ひなたと香音は同じ大学に進学した。ひなたは体育学部、香音は教育学部と、互いに進路も将来の夢も違うが、それでも互いに疎遠になどなりはしなかった。

 

「そう言えば、今日乃愛来ないの?」

 

「あ〜、乃愛ちゃんお仕事入ったみたいで、急遽来れなくなっちゃったの。」

 

「そうなんだ。久しぶりに会えると思ってたから、ちょっと残念。」

 

「でも、乃愛ならよくテレビで見かけるからな。凄いよな〜モデルなんて。」

 

乃愛は高校在学中モデルのスカウトを受け、卒業後は進学せずに芸能界へと入った。そこまで爆発的人気者という訳ではないが、それなりにお仕事は貰っているようで、今はモデル業の他に、女優としての活躍も見られ始めている。

 

「それで、小依は…。」

 

「あいつはいつも通り来れないだろ。ってか、今日本にいるのか?」

 

「よりちゃん、今グリーンランドにいるんだって。昨日、『夜なのに暗くならない?!何で?!』って写真が送られてきた。」

 

「逞しすぎるな…。」

 

小依は高校卒業後、将来凄い職業に就くために、今の内に色々経験したいと言い、1人世界へと旅立っていった。自分探しの旅も兼ねているようだ。昔から周りに持て囃されたいと言っていた小依、今も根本的な性格は変わっていないようである。だが、周りの皆はそんな小依にむしろ安心感を覚え、同時に尊敬している。

 

「いつか、皆んなでまた会いたいな!小学生の時みたいに、きっと楽しいぞ〜!」

 

「うん!そうだね。」

 

「うん。」

 

今は皆バラバラだけど、それでも心は通じてる、あの時の友情が消えることなど決してありましない。ひなたの言葉は、永遠のそれを約束しているようにも感じられて、香音と花の2人もそれに笑顔で応える。だが、ふと何かに気付いたように、ひなたの笑顔が少し薄くなるのを2人は見ていた。

 

「みゃー姉も一緒だったら、もっと楽しいのにな…。」

 

「…そうだね…。」

 

「お姉さんの誕生日、もうすぐだったよね?お線香あげにみんなでひなたちゃんち行って良いかな?その後は、みんなでお姉さんのお祝いしよう!」

 

「…おう、そうだな!よーし!これから忙しくなるぞ~!」

 

「まだ早いよ、ひなた。」

 

元気よく声を張り上げるひなたを見て、いつもの調子に戻ったと微笑み声をかける花。しかし、その張り上げた声は響くことなく、虚空に消えていく。彼女の笑顔も、どこか切なげなものに見えた。だがその時、彼女ら3人に向かって響く、ある少女の声がした。

 

「あー!あれってもしかして、未来のひなたちゃんじゃない!?」

 

「ほんとだ!確かに、成長したひなたちゃんって感じがする!」

 

「その隣にいるの、成長した花じゃないかー?」

 

「じゃあ最後の一人は、未来のかのん?」

 

「それでそれで、成長した私は?大人の女性になって、宇宙一可愛くなっちゃった私はどこ!?」

 

「みんなに注目されて、ちやほやされてる大人の私はどこ!?」

 

「ちょっとみんな!慎重に行動してって言ったでしょ~!」

 

自身の落ち込んだ気分とは対極にある少女たちの陽気な声が聞こえて、姿が近づいてきて戸惑うひなた。だが、最後のその声に反応し顔を上げると、その光景にひなたは自身の目を疑った。そして、今にも消えてしまいそうな、か細く震える声でその名を呼ぶ。

 

「…みゃー姉…?」

 

「う、うん…。そうだよ…、おっきくなったね…、って言えばいいのかな?」

 

成長した自分の妹の姿に、みやこもどう接すればよいのか言葉が詰まり気味になってしまう。少し照れ臭くなってしまい、俯きかけたみやこに、大きくなったひなたが勢いよく抱き着いてくる。そして、その瞳から流れる大粒の涙に気づいたみやこが、心配そうな声音で泣きじゃくるひなたに語り掛ける。

 

「ど、どうしたのひなた…!そんなに泣いて…。」

 

「みゃー姉…、みゃー姉…!また…、また会えた…!」

 

「また…?またって、どういう事…?私はずっと、ひなたと一緒に…。」

 

泣きじゃくるひなたの心理も、言葉も理解できないみやこが怪訝な表情をしてひなたに問いかける。そして、その問いかけを遮って出てきたひなたの言葉に、みやこは呆然とするのだった。

 

「…みゃー姉、死んじゃったんだよ…?2年前に…、事故で…。」

 

嗚咽交じりに絞り出されるひなたのその言葉に、意味を理解した過去の面々が言葉を失う。2年前、突如不慮の事故で命を落としたみやこ。大学での講義中に連絡を受け、すぐさま駆け付けたひなただったが、その時見たのはすでに顔面に白い布をかけられたみやこの姿、その隣で彼女に縋りつくように泣きわめく母親の姿だった。自分が生まれた瞬間からあたりまえのように側にいてくれた存在が、今日を境に自分の隣から永遠に消えてしまうなんて。ひなたはその喪失感と激しい絶望から、暫くの間引きこもる生活が続いた。ひなただけではない、彼女の友達、彼女を取り巻く周りの人々も、ひなたと同様深い悲しみに襲われた。そして、みやこの死から2年、今は少し落ち着いたように見えるが、それでも心に刻まれた傷は完全に癒えたわけではない。それを話している間にも、ひなたの涙は瞳からこぼれたまま。だが、全て聞き終えた後の天使みやこの表情は、不思議と落ち着いているように見えた。そして彼女は、まさに天使のまなざしともいえる優しい瞳でひなたを見つめると、

 

「…ひなた、私は死んだりなんかしないよ…。ずっと、ひなたの側にいるから…。」

 

「…嘘だ…!みゃー姉は死んじゃうんだ…、私を残して…!」

 

「…ひなた…、私天使になったんだよ…。私の、私たちの運命は変わったんだよ…!」

 

「え…?それって…。」

 

「そうだな、俺たちが辿っている運命は、この時代が辿ってきたものとは既に大きく変わっている。」

 

「そうだぞ!それに、今後みゃー姉に危険なことがあるってわかったんだ。だからその時は、私が全力で守る!」

 

「そうだね!私たちもみゃーさんが死なないように助ける!」

 

「お姉さんがいなくなっちゃったら、お菓子食べられなくなっちゃうし…。」

 

「は、花ちゃん、そこなの…?」

 

「みんな…、ありがとう…!」

 

2年間、決して癒えることのない深い絶望に苦しんでいたひなた。その暗かった表情が、過去から訪れた希望の天使たちによって、明るい笑顔に変わる。この笑顔は、大人になっても変わらないものだとその様子を見ていたアンクは「よし!」っと両手を叩いて高い音を響かせる。

 

「そろそろ、この時代に掛けられた呪いを解いてあげよう!」

 

「うん!いくよ…!」

 

純白の天使が掲げた輝く弓矢から放たれる光の帯。それがこの時代の人々を、ひなたたちを包み込み、その絶望さえも優しく浄化していく。そして、それと同時に世界に白い亀裂が巡る。それは空にも地面にも宙にも巡り、見れば先程まで優しく微笑んでいた未来のひなたと花と香音は姿を消していた。そしてその瞬間、世界が割れて淡いピンクの空間に包まれる。足がつくはずのないそこに地面はなく、フワフワとその空間を漂っている。

 

「な、なんだー!?どうなってるんだ、みゃー姉!?」

 

突然の浮遊感に動揺するひなたがみやこに問いかけるが、みやこからの反応はない。手足を動かさず力なく漂うみやこには殆ど意識がなく、また天使の装いや翼も光の粒子となり消え始めていた。

 

「大丈夫だ、きっと天使としての役目を終えたのだろう…。俺たちも間もなく、元の時代に戻る。」

 

「な、ならみやこさんは私がお姫様抱っこで元の時代に…!」

 

「松本さん、平泳ぎでみゃーさんに近づかないで!」

 

「力の代償で、暫く寝込むと思うが、みやこのことしっかり面倒見てやるんだぞ。」

 

「おう、任せて!」

 

「しばらくお姉さんのお菓子食べられないなぁ…。」

 

「安心して花ちゃん!私が作ってあげるわ!」

 

「よりちゃん、危ないから平泳ぎで移動しないで~。」

 

「そして、俺も皆んなとはお別れだ。本来であれば、俺と皆んなは出会うはずではなかった。事実、その運命をたどって行きつくのが先ほどの未来だ。」

 

「そっか。だから未来の私たちは、この人誰ー?みたいな顔してたのか。」

 

「だが、皆んなと過ごした時間は本当に楽しかった…!これから未来がどう変化するのか、楽しみだ…!」

 

戻る時代は同じだが、互いの居場所はそれぞれ異なる。この空間はそれを言葉なく示しているようで、アンクとみやこたちの間に抗えない距離が生まれる。それに抗おうと、再び平泳ぎをし始めた松本と小依の姿が少し面白いが。

 

「アンクお兄さん!私たちのこと守ってくれてありがとー!」

 

「あぁ!もうトラックの後ろを走ったり、裁縫ばさみ持って飛びついたり、爆発に巻き込まれたりしたら駄目だからなぁー!」

 

「爆発は私たちにはどうしようもなーい!」

 

普通に喋ってはもう声の届かない距離、互いに声を張り上げて言葉を交わし合う。そして最後、いつもの姿に戻ってフワフワと漂うみやこを優しい瞳で見つめるアンクが静かに言葉を紡ぐ。

 

「俺たちを…、世界を救ってくれてありがとう…。みやこ、君こそが本物の天使…、本物の主人公だ…。」

 

フワフワと力なく漂う。不思議ととても心地が良い。世界はどうなったのだろう、これから私はどうなるのだろう。何も考えられない。とても眠い。誰かが私に語り掛けている。何て言っているのか分からない。でも、何故だろう、悪くない気分だ…。

 


 

柔らかい布団の感触、暖かい日の光に包まれて、緩やかに意識が覚醒する。だが、まだ朧げで、まるで今まで夢を見ていたかのように感じる。そうだ、自分は夢を見ていたんだ。天使になった自分が時を超えて、世界を救うと言う壮大な夢を。そんなことを考えていると、小さな足が床を叩く馴染みのある音、そして勢いよく自室の扉が開け放たれる音が、みやこのまだ微睡み気味の聴覚に刺激を与える。

 

「うおぉぉぉ!みゃー姉起きたのかー!」

 

「あ…、おはようひなた…。」

 

「おはようみゃー姉!ええと…、4日振りだな!」

 

「4日…?!…ね、ねぇ、ひなた…、私、長い間夢を…」

 

「夢じゃないぞ、みゃー姉!」

 

「え…?それって…」

 

「じゃあなみゃー姉!学校行ってくるー!」

 

「あぁ…!う、うん…、いってらっしゃい…。」

 

再びドタドタと足音を立てて、家から飛び出して行くひなた。そんな彼女を、自室から半分体を出して見送る。ドアが閉まり、次第に足音も小さく、ドア越しに見える彼女の影も段々と薄くなっていく。

 

「あれって、夢じゃなかったのかな…。」

 

1人静かに呟いて、あの時のことを思い出す。今となっては、まるで昨日見た夢を思い出すかのように、記憶は朧げで現実味がない。そして、そんなことを考えながら、再び眠りにつこうとベッドの方を振り返ると、

 

「あ…。」

 

そこには、陽の光に優しく照らされ、輝く天使の弓矢があった。

 

《了》




*補足1
みやこが天使になって世界を救ったのは勿論夢などではなく現実です。あの時使っていた弓矢は、みやこが天使の力を失った今でも残り、僅かではありますが彼女たちにささやかな恩恵を与えるでしょう。あの時の記憶は少しずつ薄れていき、またいつも通りの日常を過ごすことが出来ます。

*補足2
アンクたちが向かった未来は、死の運命になど書き換えられず、魅區もアンクもみやこたちに出会わなかった未来です。彼女たちの運命が書き換えられたのは意図せず突然起きた事象なので、未来には反映されず、未来から見た過去ではこのような出来事は起きていません。従って、未来のひなたたちはアンクのことを知らないのです。(こう言うのドラえもんにあったはず…)

という訳でついに第6章ついに完結しました!パチパチ(゚∀゚)今までで一番長い章になったんじゃないですかね。『私に天使が舞い降りた!』を見ていた当時から、ずっとあの世界に入りたいと思っていたので、疑似的にですが夢は叶いましたかね(笑)次は第7章に行きます!是非これからも『闇物語』をよろしくお願いします(^人^)

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