義弟は猫耳と共に   作:海月 水母

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最終話 これからも、君と共に

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「お茶、淹れてきたぞ。」

 

「ありがとう、なゆた。……うん、美味しい。」

 

カップを両手で持ち、ずずず…とすする。ふう、と一息ついた僕を「年寄りくさいな」と笑いながら、なゆたが隣に腰を下ろした。

カップの中身は、例によってマタタビ茶。この味もいつの間にか癖になっていたようだ。

 

 

古命神社の裏、物置を併設した客間の縁側に、僕らは並んでいた。

ふたりして靴を脱ぎ、縁側から足を投げ出す体勢。ちなみになゆたは今日も巫女服姿だ。

風が木々の葉を揺らし、小鳥のさえずりが遠くから響く。

…やっぱり、ここは落ち着くな。

 

 

 

「…全部、解決したんだな。」

 

 

本題を切り出すなゆたの言葉はそっと、そよ風のように僕に届いた。

湿っぽくならないよう、気を遣ってくれたのだろう。…彼女は、本当に優しい。

 

 

「うん。…ちゃんと、終わらせられたよ。」

 

「まさか本当に、霊の未練を果たしてやれるとはな。雲を掴むような話だと思っていたが…大したもんだよ。」

 

 

なゆたはそう言って、空を見上げた。

風が、優しく吹き抜ける。黒髪と巫女服の裾が揺れ、ふんわりと良い香りが鼻をくすぐった。

 

 

「聞かせてくれないか。…私にも。」

 

 

空の青を写し取ったその目は、天へ召された魂に思いを馳せているようだった。

 

 

 

……………

………

 

 

 

なゆたにも、事の顛末を全て話した。

御春くんに宿った霊との、最後の時間。”彼”が果たした、再会のこと。

話す度に、あの時間が蘇る。…その度に、胸のあたりが小さく震えるような気がした。

静かに話を聞いていたなゆたは、僕の話が終わると一度目を閉じ、また空を見上げながらゆっくり開いた。

全てを飲み込んだ、真っ直ぐな目。…こうして、すぐに全てを受け止められるなゆたの強さは、やっぱりすごいと思う。

 

 

「家族に会いたい。……それが未練の正体、だったのか。」

 

「……………」

 

「…陽介?」

 

 

……そう。あの子が遺した『やりたかったこと』。

それがずっと、僕の心に引っ掛かっていた。

 

 

「なゆた、知ってる?…野良猫のオスは、より多くのメスとの間に子供を作ろうとする、って。」

 

 

それは自分の遺伝子が後世まで続く可能性を、より高めるための()()。だからオスの野良猫は多くの場合、子供が出来ればメスの元を離れていく。

つまり、普通であれば一匹のメスに拘ることはしないはずだ。

 

 

「……けど、あの子は違った。ずっと同じ一匹を、想い続けてた。」

 

 

その事実を目の当たりにした時の驚きは、猫の生態を知っていたからこそ尚更のものだった。

本能よりも深いところで、あの子の"想い"は続いていた。それを思い知ったときの心の震えが、今また思い出すと同時に蘇ってくる。

 

 

「だから…すごいなぁ、って………」

 

 

…自分でも声が、言葉が、震えているのが分かる。油断すれば目尻が緩んで、熱いものが零れそうで……無意識に歯を食いしばり、裾を掴んで耐えていた。

 

とん、となゆたの肩が触れてきたのは、その時だった。

人一人分ほどあったはずの僕となゆたの距離は、いつの間にか肩と肩が触れ合うくらいの近さになっている。…静かに、なゆたが近づいてきたのだと気づいた。

 

 

「陽介、前にも言ってたな、兄になるから強くなりたいって。…だから、今も我慢してるのか?」

 

 

言われてはっ、と気づく。今日まで知らず知らず、涙を耐えていた自分自身に。

側に御春くんが居るようになってから、自分でも気づかないまま、涙を見せないように振る舞っていたことに。

 

 

「お前は確かに、"兄"になった。だからこそ強くあろうとする気持ちは、否定しないさ。…でも、それで私と陽介の間にあるものが変わった訳じゃない。…私の前でくらい、我慢しなくていいんだよ。」

 

 

――それが、私と陽介の”繋がり”だから。

 

なゆたの言葉が、温もりとなって僕を包む。抱きしめるように優しく、柔らかく。

気づけば幼馴染の肩に我が身を預け、目元に湛えた感情の粒を溢れさせていた。

 

僅かな時を共に過ごし、二度目の最期を見届けた”彼”のこと。

思い出すだけでぽろぽろと溢れるこの気持ちは、ただ悲しいというだけでも、単なる感動というだけでもない。

…結局、言い換えることのできないままの感情。けれどなゆたは、それさえも読み取ってくれていた。僕の心を透かしたように、なゆたの言葉が紡がれる。

 

 

「霊と関わるということは、霊を取り巻いた様々な感情と向き合うということだ。複雑で、絡み合って…そういう思いの()()()が、霊をこちらに留まらせる。一筋縄で解けるものじゃないからこそ、私達のような存在がいる。だが…」

 

 

なゆたの言いたいことは分かっている。

本来なら、御春くんに憑いた霊のこともなゆたが解決するべきだったのだと。

だからなゆたは、曲折の果てに彼女の代わりとなった僕が、交錯する感情の渦にいることを慮ってくれているのだろう。

 

 

「大変だったな。お前も、御春くんも…。」

 

「…ありがと、なゆた。………でも、僕はこれで良かった、って思ってるよ。」

 

 

潤んだ瞳のまま、僕はなゆたに笑いかける。

この世界に一つ、確かに存在していた絆。

何かが違えば本当に無関係だったかもしれない、生死も種族も越えて知った絆。

 

繋がりを信じる心が、どれだけの強さと奇跡を起こせるか。

僕達ははそれを見た。そして、言葉では言い表せないくらいの勇気を貰ったから…

 

だから……大変なこともあったけど、全てを総合して僕は"良かった"と言いたい。

…これもお人好しだと、笑われるだろうか。そう思いながらなゆたの方を見る。

 

 

「"良かった"か……ほんと、お前らしいな。陽介。」

 

 

確かになゆたは笑っていた。ただそれはお人好しを笑うようなものではなくて…

僕の気持ちを肯定するような、彼女らしい真っ直ぐな瞳で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お待たせしました……。」

 

 

おずおずと控えめな声が僕らに呼び掛ける。

振り向いた瞬間なゆたはほう、と満足げに頷く。

対して僕は、思わず息を呑んでいた…目にしたものに、心を奪われてしまったから。

 

 

緊張ぎみに握った手を胸に当て、僅かに頬を染めた御春くんが立っていた。…その身をなゆたと同じ、紅白の巫女服に包んで。

朱色の袴の裾がふわり、と揺れる。少し大きめの白衣は御春くんの掌を覆うくらい、萌え袖のようになっている。

頬には一房、編み込まれた黒髪が垂れており、いつもの御春くんより大人びた印象を受ける。

 

そう、御春くんは神社に来てから、なゆたの提案でこの装束の着付けをしてもらっていたのだ。

衣装も、髪型までがらりと変えてもらった御春くんだけれど、…まだ恥ずかしく、自信もない様子だった。

 

 

「ど、どうですか…?変じゃ…ないかな…。」

 

 

落ち着かない様子で三つ編みを弄り、頬を赤らめている御春くん。

横を見れば、なゆたが視線で僕を促してきた。

小さく頷き、迷うことなく御春くんに返事を返す――

 

 

「とっても似合ってる。…かわいいよ、御春くん。」

 

 

真っ直ぐに御春くんを見つめながらそう答えると、御春くんは一瞬目を見開き…すぐに嬉しさと恥ずかしさの入り混じった、真っ赤な笑顔で笑いかけてきた。

 

 

「ありがとうございます、お兄ちゃんっ!」

 

 

まるで僕の言葉が、何より嬉しいプレゼントであるかのように。

 

お兄ちゃん。

まだ呼ばれ慣れなくて、少しくすぐったい気持ちになってしまうその呼び方。

けれど同時に、以前よりずっと御春くんを近くに感じられる呼び方でもあって…

僕の笑顔まで、朱色に染まってしまう。

お互いの赤らんだ頬が可笑しくて、御春くんと向かい合ったまま笑い合う。

 

 

 

 

 

「それにしても…なゆた、どうして急にこの服を?」

 

 

僕の胸に背をつけ、抱かれるような体勢に自分から入ってきた御春くんを抱えながら、なゆたに質問を投げかけた。

御春くんに巫女服、確かにすごく似合っているけど、まさかそれだけが理由なはずはない。突然の提案、それにどんな意味があったのだろうと、気になっていた。

僕らを微笑ましげに見つめていたなゆたは、そういえば説明がまだだったな、と言い、御春くんに向き直って言った。

 

 

「…御春くん、よければうちの手伝いをしてみないか?」

 

「えっ…えぇっ…!?」

 

 

なゆたの口から飛び出た、突然の提案。御春くんだけでなく、僕まで目が丸くなった。

 

 

「でもぼく、神社のことなんて何も知らないし…」

 

「いや、手伝いといっても簡単なことだけだよ。遊びに来る感覚で、なんなら陽介と一緒に来るんで構わないさ。………。」

 

 

そこまで言ってなゆたは一度言葉を切り、いや、と小さく呟いた。

回りくどい言い方になってしまったな、と詫びるように眉を下げながら、少し真面目なトーンで再び口を開く。

 

 

「前々から考えていたんだ。…私なりに、してあげられることを。」

 

 

少し伏し目がちになりながら、今回は陽介たちにばかり負担をかけさせてしまったから、と呟くなゆた。

けれど再び顔を上げたとき、その目はまたしっかり前を、僕らのことを見ていた。

 

 

「今回のようなことが、二度と起こらないとも限らない。霊のこと、君の体質のこと…知っておくことが君自身のためになると私は思う。…ここに来れば、そういったことも私が教えてやれる。…だから、どうだ?」

 

 

こんなに可愛い巫女さんを手放す手も無いしな、と冗談めかして笑う。

…前々から、というのはきっと、以前に僕らが神社を訪れた後のことだろう。

御春くんとの衝突の後、その意思を尊重した上で自分に何が出来るか、なゆたも悩んでくれていたのだ。

 

ちらりと覗き込んだ、御春くんの視線と目が合う。

…その目は、既にしっかりと答えを持っていた。

にっこりと微笑み、感謝も込めて御春くんが応える。

 

 

「よろしくお願いします、なゆたさん。」

 

「…っ!ああ、こちらこそよろしく頼む!」

 

 

二人の握手を、僕は目を細めて見守った。

 

 

…こんな風に少しずつ、僕らを取り巻く環境も変化して、

その度に少しずつ、僕らは日常をまた歩みだしたんだと実感する。

 

なんてことのない、平凡だけど幸せな毎日。

それはきっと、”あの子”の分まで、僕らが生きるべき毎日なんだと、今は思ってる。

 

 

 

「生きなきゃな…生きている私たちが、しっかりと。」

 

 

帰り際、なゆたもそう言っていた。

それは霊と、”死”というものと常に向き合うなゆたが、常に心に刻んでいる言葉なんだとか。

様々な終わりに向き合うからこそ、その経験を自分たちの続いてゆく明日の糧にする。

それが霊を想うことにも繋がるのだ、と。

 

だから、僕も―――

 

 

 

ーーーーー

ーーー

 

 

古命神社を後にし、僕らは家路に着いた。

母さんと父さんと並んで晩御飯を食べ、御春くんと二人でお風呂に入って…あっという間に夜になった。

ほんの一週間ほど前から始まった四人暮らし。緊張していた頃が懐かしく思えるくらい、今ではこの毎日に安らぎを感じてる。

 

トイレを済ませ、寝室のある二階へ向かう途中、廊下で御春くんと鉢合わせた。

お風呂上りに乾かしてあげた髪をふわりと浮かせ、淡い青色に白の水玉模様のシャツパジャマ姿の御春くん。その表情は、どこか嬉しそうに緩んでいた。

 

 

「御春くん、どうしたの?」

 

 

僕が声をかけると御春くんは両手の指を口の前で合わせ、小さく微笑みながら教えてくれる。

 

 

「さっき、父さんと母さんにおやすみを言いに行ったとき…父さんにまた、頭撫でてもらったんです。」

 

「………!」

 

「ぼくが撫でていいよって言ったときの父さん、驚いてたけど…本当に嬉しそうでした。」

 

「そっか………。」

 

 

御春くんのためとはいえ、そのことで一度ギクシャクさせてしまったのは僕だったから…そのことは、負い目として心の中でずっと感じていた。

…だから、そんな気持ちもこのとき静かに救われたように思えた。

 

 

「…良かった。」

 

 

…気づけばほっ、と肩から力が抜けていた。

御春くんに笑いかける表情も、いつもより緩んでしまう。

嬉しくて、幸せで…今日はもうすぐ終わりそうなのに、御春くんとのこの時間をまだまだ終わらせたくなくて…

 

 

「御春くん、また…一緒に寝よっか。」

 

 

ついそんな、甘えん坊な提案をしてしまう。

兄の僕からこんなこと提案してもいいのかな、とも思ったけど、御春くんはすぐに嬉しそうな表情を浮かべてくれた。

 

 

「お兄ちゃんといっしょ…うんっ、もちろんです!えへへ…」

 

「ふふっ…ありがとう。…今度は、御春くんのお部屋行ってもいいかな?」

 

「ふぇっ!?ぼ、ぼくの…?」

 

「うん。ほら、最初に二人で寝たときは、僕の部屋だったからさ。」

 

 

…あれは、御春くんに憑いてた猫の意識が、半ば暴走してのことだったけど。

いつになく積極的なあの時の御春くんを思い出すと、まだちょっと胸がむずむずして、顔が熱くなる感覚が蘇る…。

…御春くんも思い出してしまったのか、赤くなった頬を俯かせながらごにょごにょと答えてくれた。

 

 

「わ、わかりました……。…いい、ですよ。」

 

 

御春くんに手を引かれ、そのままドアをくぐる。

そういえば初めて入る、御春くんの部屋。

クローゼットや勉強机、ベットの位置なんかは僕の部屋と大体同じ。

あまり飾り気のないシンプルな部屋だけれど、その中で唯一ベッドの上だけは、クマやペンギン、ライオンなんかのぬいぐるみが幾つも飾られた、可愛らしい世界になっていた。

ぬいぐるみの一つに手を伸ばし、それを抱きながら眠る御春くんを想像する。

…想像するだけでも可愛くて、自然と笑みが零れそうだった。

 

と、ぬいぐるみの山の影に、何かが見えた。…なんとなく見覚えのある布の先が。

あっ、と御春くんが息を呑む声が聞こえた気がしたけど、構わず”それ”を引き抜いた。

…出てきたのはやっぱり、だけど首を傾げたくなるものだった。

 

 

「これ…僕が失くしてたパジャマ…?」

 

 

…確か、御春くんと仲違いしてしまった日あたりに失くしてしまい、どこを探しても見つからなかったものだ。

当時はそれどころじゃなかったけど、なゆたにもぼやいた記憶がある。

それがどうしてここに…と思ったけれど、見つかった場所から考えて犯人は一人しかいない。

 

 

「もしかして…御春くんが…?」

 

「うぅぅ…っご、ごめんなさいっ…!」

 

 

「あの日、お兄ちゃんにひどいこと言っちゃったから、顔を合わせづらかったけど……どうしてもお兄ちゃんの匂いが恋しくって…それでその、気づかれないように…。」

 

 

…僕のパジャマを持っていってた、ということだったんだ。

 

 

「ごめんなさい…もっと早くに返さなきゃいけなかったのに…。こんなことばれたら、お兄ちゃんに嫌われちゃうって思ったから…。」

 

 

胸の前で拳を握り、力なく謝る御春くん。…今にも泣き出しそうなくらい、瞳に涙を湛えて。

…ふっ、と小さく息を吐いてから、僕は御春くんに笑いかけた。

 

 

「御春くん、大丈夫だよ。…僕は別に怒ってないし、御春くんを嫌いになんてならないよ。」

 

「ぐすっ……ほんと…ですか…?」

 

「うん、本当。…でも、ちょっと妬いちゃうかな。」

 

「えっ…?……わぁっ!?」

 

 

まだ少ししょんぼりとしていた御春くんの身体を引き寄せ、すとん、と膝の上に抱き寄せる。

細い腰に手を回し、少し力を込めて抱く。

 

 

「今日はさ、本物の僕がそばにいるから…それじゃダメ?」

 

「………!……はいっ。」

 

 

御春くんはそのまま僕の腕を掴み、顔を埋めて小さく呼吸を繰り返す。

息遣いが、規則的にかかる熱っぽい吐息が心地良い。

 

僕の手に自分の手を重ね、御春くんが小さく呟く。

 

 

「あったかい…。ぼく、やっぱり大好きです…お兄ちゃんも、お兄ちゃんの匂いもぜんぶ……。」

 

 

…その言葉が嬉しくて、つい御春くんを抱きしめる手に力が入る。

苦しいですよ、と言いながらも、御春くんは笑ってた。

 

 

 

 

お兄ちゃん、と呼びかけられたのは、しばらく御春くんとくっついていた後だった。

お互いの体温を交換するくらいくっついて、ようやく二人で布団に潜ったところだ。

声の方を見れば、さっきより少し真面目な表情を浮かべた御春くんと目が合う。

ゆっくりと、御春くんが口を開く。

 

 

 

「ぼく、良かったって思ってます。…"あの子"がぼくに憑いたこと。」

 

「大変なこともたくさんあったけど…そのお陰で、お兄ちゃんとも早くに話せたから。普段の、引っ込み思案なぼくだったら、…きっともっと時間掛かっちゃったと思うんです。」

 

「それに…"あの子"のこと、最後まで見届けて……大切な人を大切だって思う気持ちが、ずっと強くなった気がします。父さんも、母さんも、なゆたさんも。……何より、お兄ちゃんのことも。」

 

「それを教えてもらえたから…だから、良かったって…思うんです。」

 

 

 

………御春くんが言葉を紡ぎ終わるまで、僕は黙って聞き続けた。

やがて話し終えた御春くんは、真っ直ぐに向いていた僕への視線を少し逸らした。

 

 

「すみません…もしかしたら、お兄ちゃんとは違う考え方かもしれません。…お兄ちゃん、元は僕に巻き込まれただけですもんね…。」

 

 

そう言いながらも、外した視線は寂しそうで……

 

 

「…御春くん」

 

 

だから…

 

 

「僕も、おんなじ気持ちだよ。…今回のこと、良かったって思ってる。」

 

 

その言葉と一緒に、まためいっぱい御春くんを抱きしめる。

 

 

…僕がなゆたに語ったのと、可笑しなくらいに御春くんは同じ気持ちを抱いていた。

兄弟として、家族として、大切に想う人として…たくさんのことを学ばせてもらったから。

大変なことも、辛かったことも、全て御春くんとの繋がりに変えられたから。

 

 

「お兄ちゃん……」

 

 

胸の中で、小さな声が響く。

抱擁を少し解き、見下ろせば、半分くらい顔を埋めた御春くんが、まだほんの少し不安を浮かべて僕を見上げている。

 

 

「お兄ちゃんは…これからも、ずっと隣にいてくれますか…?」

 

 

…答えを悩む理由なんて無かった。

その願いを抱いていたのは……僕も同じだったから。

 

 

「僕も、御春くんとずーっと一緒にいたい。…ずっと隣に、いさせてくれますか?」

 

 

僕からも、同じ質問。

…すぐにふにゃっとした笑顔が、縦に振られた。

 

今度は、御春くんから僕のことをきゅっ、と抱きしめる。

その柔らかな髪に指を通し、僕も御春くんの頭をぎゅっ、と抱き寄せる。

お互いの暖かさを感じながら、いつしか僕らは微睡みの中にいた

 

 

……………

………

 

 

僕は生きていく。

 

明日も、明後日も、その先もずっと。

 

僕の隣を選んでくれた、小さくて愛おしい温もりと共に。

 

大好きな、御春くん()と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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