【完結】我が名はヴォルデモート卿   作:冬月之雪猫

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第十話『邪悪』

 誰も信用してはいけない。誰も頼ってはいけない。

 その事をアルバス・ダンブルドアに強く意識させる事が出来た筈だ。

 これにより、彼は一人ですべての対処を行わなければならなくなる。

 生徒を守る。ハリー・ポッターを守る。魔法界を守る。ヴォルデモート卿を討伐する。

 

「出来る筈がない! すべてを守り切る事など不可能だ! だが、貴様はすべてを守らなければならない。それが正義というものだろう。正義が貴様を雁字搦めにしていくぞ。そして、いずれは身動きが取れなくなるだろう!」

 

 ヴォルデモート卿は勝利を強く確信していた。

 同じ立場に立ったとして、この状況を覆すビジョンが全く見えなかったからだ。

 

「さて、それでは魔法界の掌握の方にシフトしていくとするか」

 

 分霊の方のヴォルデモートが言う。

 

「親は子を愛するものだ。なあ? 君達」

 

 彼の視線の先には捕らえられた生徒達の姿があった。

 ここは秘密の部屋。ホグワーツの地下深く。千年以上もの間、ヴォルデモート卿以外は誰も発見する事の出来なかった空間だ。

 

「絶望するがいい。君達の死が悲惨である程、他の生徒達の親は現実を強く認識してくれる筈だ」

「や、やだ……」

「……たす、けて」

「お、お母さん……お父さん……」

 

 震えている子供達にオリジナルの方のヴォルデモート卿は杖を向ける。

 まずは苦痛の表情を作らせる為に磔の呪文を唱えた。

 

「あが……がが……」

「たずげ……あぐ……」

「いや……こんな……あがっ」

 

 死を甘露と思える程の苦痛によって、彼らの顔には絶望が刻まれていく。

 そして、その首に杖が向けられる。

 

「セクタム・センプラ」

 

 嘗て、配下であったセブルス・スネイプが考案した呪文。

 生物を切断する為の闇の魔術である。

 子供達の首は胴体から切り離された。

 

 第十話『邪悪』

 

 闇祓い局の局長であるルーファス・スクリムジョールは事態の重さを踏まえて全職員を引き連れてホグワーツにやって来た。

 一刻もはやく生徒達をホグワーツから隔離しなければならない。その為には護衛が必要となる。新入りを含めて、全員でやって来たのはその為だ。

 

「生徒達はどうしている?」

「……現在、校長の指示ですべての生徒を大広間に集めております」

 

 スネイプの言葉に「そうか」と頷きながら、スクリムジョールは同時に班分けを行っていた。生徒の護衛と同時に脅威の調査と討伐も行わなければならない。

 彼自身はこの後ダンブルドアと話し合う必要があり、その前に出来る事をしなければならないと判断した為だ。

 

「……ルビウス・ハグリッドはどこにいる?」

「現在は大広間で生徒達の護衛に回っております」

「彼は前回秘密の部屋が開かれた事件の犯人だった筈だが?」

 

 正気を疑うかのようなスクリムジョールの眼差しにスネイプは顔を顰めた。

 

「これほど残忍な真似をあの男に出来るとは到底……」

「それでも疑惑のある者を生徒に近づけるわけにはいかない。即刻、大広間から隔離したまえ」

「……かしこまりました」

 

 頷くと共に歩く速度を上げるスネイプ。彼を先に行かせ、スクリムジョールは後ろに控える副官のガウェイン・ロバーズに班の内訳と今後の動きについて話した。

 セブルス・スネイプ。彼もハグリッド同様に要注意人物の一人だ。なにしろ、ダンブルドアが弁護した事で無罪となったものの、彼には嘗て死喰い人の嫌疑が掛けられていた。

 ハグリッドを隔離させた後、彼の身柄も監視下に置かなければならない。

 ガウェインが守護霊に配下への司令を託して飛ばした後、彼らは大広間に辿り着いた。

 

「ま、待ってくれ! スネイプ先生! お、俺はちげぇんだ! あ、あん時だって!」

「……今は大人しくしていろ!」

 

 丁度スネイプがハグリッドを連れ出す所だった。生徒達は不安そうに彼らを見つめている。

 遠ざかっていく背中を見届けた後に大広間の中に入る。

 その瞬間、四方から炎があがった。

 

「何事だ!?」

 

 目を見開きながら炎の発生源を見る。そこには杖を握る生徒の姿があった。

 彼らは同じ呪文を唱えていた。

 炎は巨大な蛇を象り、天蓋を燃やしていく。

 

「彼らを取り押さえろ!」

 

 スクリムジョールの命令に部下の闇祓い達が即座に動いた。

 生徒達の頭上を飛び越え、悪霊の火を放った生徒達の身柄を拘束していく。

 

「フィニート!!」

 

 確保に向かった者以外の闇祓い達が一斉にフィニートを唱え、悪霊の火を停止させた。

 炎がかき消える事を確認すると、スクリムジョールは生徒達を自分の下に連れてくるよう命じようとした。

 そして、大広間の中心に奇妙な物体が現れている事に気づいた。

 悪霊の火から逃れる為に生徒達は大広間の中央部から退避していたのだ。そこに四角い箱が置かれている。

 

「なんだ……、あれは……」

 

 明らかに異常な事が起きている。

 スクリムジョールは箱を無視して生徒達を大広間から出そうとした。

 けれど、その前に生徒の一人が箱に向かって杖を向けてしまった。

 箱が開く。すると、そこには再び箱が入っていた。

 真紅の箱だった。そして、その上には3つの丸い物体が載っている。

 その正体に気づいた時、誰もが悲鳴を上げた。

 

「……なんという」

 

 歴戦の魔法戦士であるスクリムジョールでさえ、その悍ましい光景に吐き気を覚えた。

 箱は血と肉で満たされ、その上には子供の生首が3つ並べられていた。

 そして、誰もが凍りつく中で箱が開かれた。

 血液と肉片が破裂して飛び交い、周囲に居た生徒達や教師が血に塗れていく。

 そして、壁に血の文字が刻まれていく。

 

  逃げる事は許されない

  子供達の命が惜しければアルバス・ダンブルドアの命を捧げるが良い

  さもなければ更なる血が流れる事となるであろう

 

 とても正気を保てる状況では無かった。血を浴びてしまった子供達の多くは気を失い。それ以外の子供達も泣き叫んでいる。

 六年生や七年生の生徒の一部だけはどうにか耐えようとしているが、彼らの表情にも恐怖が色濃く刻まれていた。

 子供達だけではない。教師はおろか、闇祓いの中にもパニックを起こしかけている者がいる。

 

「ど、どうします?」

 

 ガウェインが問う。

 

「決まっている……。生徒を逃さねばならない!」

 

 これほどまでに残忍な行為に及ぶ者の言葉など信じられる筈がない。

 仮にダンブルドアの命を捧げたところで殺戮は加速するだけだろう。

 スクリムジョールは険しい表情を浮かべながら思考を巡らせていく。

 

「ガウェイン、局員を全員集めるのだ。一刻の猶予もない! ダンブルドアには事後承諾となるが、今直ぐに生徒の避難を開始するぞ!」

「ッハ!」

 

 スクリムジョールの指示に敬礼を返すガウェイン。

 全幅の信頼を置いている副官の返事に満足すると、スクリムジョールは彼に背中を向けた。

 やらなければならない事が山程あるのだ。

 

「アバダ・ケダブラ」

 

 緑の光が彼の体を撃ち抜いた。

 

 ◆

 

 ガウェイン・ロバーズから魂を戻し、ハリー・ポッターに戻ったヴォルデモート卿は恐怖に引き攣る演技をした。

 彼にとって、闇祓い局は取るに足らない組織だ。けれど、鬱陶しい組織でもあった。

 故に一計を案じた。

 局長のスクリムジョールが死亡し、副官であるガウェインが犯人となる事で闇祓い局の権威は完全に失墜する。

 ガウェインの言い訳に耳を貸す者などいないだろう。なにしろ、彼は現行犯だ。紛れもない殺人犯なのだから。

 これで生徒達の恐怖は極限に到達した筈だ。彼らはダンブルドアの死を望み始める。

 ダンブルドアが死ねば、今度は罪の意識が彼らを絡め取る。

 咎人と正義の味方。魔法界は割れる事だろう。その時こそ、ヴォルデモート卿の完全復活を宣言する時だ。

 

「……ど、どうなっちゃうんだろう」

 

 アーニーが泣きそうな表情を浮かべている。

 

「怖いね……」

 

 ヴォルデモート卿はプルプル震えた。


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