【二次創作】僕の英雄譚を覗かせてあげます‼︎【エクス・アルビオ】   作:ささくれガチ恋勢Ⅱ型

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第二十話です。レバガチャは楽しかったしアルスさんの3D感動しました。あんなもの見てしまったら応援するしかないじゃないの。


20. 人のために生き残る、人のために死ぬ

 連絡が取れない。先にアルスの通信が途絶え次に相羽とも連絡がつかなくなってしまった。

 

 黛は離れたところにある仮設基地の通信部屋からアルスと相羽に連絡をする役割を担っていた。

 

「頼む、早く繋がってくれ...。」

 

 彼を焦りが追いつめる。何度も接続を試みるが弾かれる。

 

 そこで気づいた。通信機以外の機器もまともに稼動していない。機器の挙動からおそらくだがジャミングされていることに。

 

 スマホを覗き見ると画面が荒れている。耐性を持っているから唯一稼動するジャミング測定器を使ってどこから影響を受けているか割り出した。

 

「基地の中...。」

 

 驚いた。あまりにも身近な場所であり、それは敵が接近しているか侵入していることを意味するからだ。

 

 これを解決すべく小型通信機とジャミング測定器とジャマー解除装置、そして護身用にもらった自動拳銃を持って通信部屋から出た。

 

「えっ.....。」

 

 少し歩いただけで恐ろしい光景が広がっていた。味方の兵士と教団兵達の死体と血しぶきが辺り一面に広がっていた。

 

 通信部屋は外からの音をほとんど遮断する仕様になっていたからかなり危険な状態だった。

 

 警戒して物陰から物陰に移るように移動する。

 

 恐怖心に支配されそうになるがなんとか耐えジャマーを探す。

 

 そしてジャミング測定器が最も反応を示した地点に到着する。場所は仮設テントの食堂で中にジャマーと思われる機械があってスリットから光が点滅していた。

 

「これか.....。」

 

 早速ジャマー解除装置を起動して解除作業に入ろうとすると、人が来た。

 

 すぐにジャマーが見える物陰に隠れる。入ってきたのは教団兵が一人。

 

(なんだ、装置の確認か?)

 

 おもむろに装置をいじりだす男。黛は立ち上がって拳銃の銃口を向ける。男には気付かれていない。

 

 撃っても構わない敵。なのに手が震えて狙いが定まらない。

 

 黛はどんなに能力があっても仲間を思う気持ちがあっても結局は一般人。同期に例外もいるが彼は例外ではない。

 

 加賀美の命を奪う、それが自分にできるかという言葉が伸し掛る。

 

 教団兵はまだ黛に気づいていない。まだ猶予はある。

 

 汗が止まらない。

 

(......ッ! あいつらだって頑張ってるんだ。)

 

 深呼吸して手の震えを抑え込んだ。

 

(俺だけ手を汚さないわけにもいかない。)

 

 そして引き金を引いた。腕から肩へ衝撃が伝わっていく。発砲の反動を初めて感じた。

 

 教団兵はその場に倒れ血を流して動かなくなった。

 

「....。」

 

 黙ったまま黛は腰を下ろしジャマーの解除作業に入った。

 

 そして解除に成功して小型通信機が動くようになった。通信機を調整するとようやく繋がった。

 

「ういは、聞こえる?」

 

[あっ、黛さん!]

 

 元気そうな返事と驚くような展開が彼女から伝えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルスの魔力が枯渇してきた。それなのに目の前には大量の屍と教団兵が武器を持って睨んできている。

 

「はぁ....はぁ......」

 

「子供だろうが関係ねえ! 死んでゆけ!」

 

 教団兵の一人が剣を持ってこちらに突っ込んできた。ここまでだろうか。

 

(.....ここは派手に死んでやる。)

 

 残った魔力を次の一振りに込めてせめて敵に傷跡を残そうとした。

 

 刀を両手で持ち、横に倒して構える。

 

 刀身に青い雷光が纏わりつく。

 

 そろそろだ。

 

「とおおおりゃあああああああ!!!!!!」

 

 一閃。突っ込んできた教団兵は即死、後方の屍や兵にもダメージがでている。

 

「最後の最後まで! バカにしやがって!!」

 

 今度は五人の教団兵と二体の屍が同時に襲いかかってきた。

 

 不思議と恐怖も悔いもなかった。もう助かるような状況ではないが自分とした約束を守れたのだから。

 

 床に倒れたアルス。

 

「死ねえ!」

 

 鮮血が舞う。

 

 肉塊が床に転がる。

 

「なっ!?」

 

「新手か!」

 

 五人の教団兵は動かなくなり屍は壁に叩きつけられて埋まってる。

 

「大丈夫ですかアルスさん!?」

 

「ふぇ?」

 

 アルスは生きている。目の前にいる一人の女が守ったのだ。

 

「フレン....?」

 

「そうですそうです! フレン・E・ルスタリオです!」

 

 女騎士のフレンがアルスに頼もしい笑顔を向ける。

 

「ふ...ふれん.....」

 

「わあ!? 泣かないでくださいよアルスさん! そういうところもかわいいけど!」

 

 非常事態なのにいつも通り能天気なフレン。茶番がそこそこ長かったのか痺れを切らした教団兵が数人突っ込んできた。

 

「また女か! しかも異世界人とみた! 土足でずけずけと我らの世界に上がり込んでくるんじゃあないぞ異世界のハエ_______うぐぅ!」

 

 二人を罵った兵が吹き飛んだ。さらに後方にいる敵が一気に何十人も倒れた。そこには派遣されたコーヴァス直属の騎士団の中の数十人が立っていた。

 

「でもかよわい女の子を甚振って流させた涙を見ても嬉しいわけないだろ...!」

 

 フレンの怒りに震えた声。

 

「てめえら全員あの世でアルスさんに土下座し続けやがれ外道共ッ!」

 

 フレンが一瞬で敵の群れの中心に飛び込んだ。すると周りの敵が血しぶきを上げながら打ち上げられていく。他のコーヴァスの騎士も傷一つ負うことなく敵勢力を淡々と処理していく。

 

「フレン殿、アルス殿の保護を。」

 

「すまない!」

 

 フレンは敵を切り払いながらアルスのもとへ走る。

 

「一旦逃げますよ! アルスさん!」

 

「おわぁ!」

 

 フレンに優しく抱きかかえられる。所謂お姫様抱っこだ。不思議な気分になるアルス。

 

 廃駅から脱出し、近くの洞窟に駆け込んだ二人。

 

「とりあえずここにアルスさんはいてください。私もいます。あとこれ飲んでください。体力も傷も魔力も完全回復するポーションです。」

 

「あ、ありがとう....。なんでここに来たの...?」

 

 ポーションを受け取ってそれを飲むとアルスは本当に完全回復した。

 

「政府から頼まれたんです。一応『バーチャル』世界の日本とコーヴァスは仲良くやっていこうということで二つ返事でオーケーってなったんですよ。そして今アルスさんの元に来れたのはここからより奥の地点で待っていたらシェリンさんが走ってきて伝えてきたんですよ。」

 

「えっ!? なんでシェリン!?」

 

「隠れてアルスさん達をずっと監視してたって。私たちがいることも把握してたみたいです。」

 

「そうなんだ..。ういはちゃんは?」

 

 相羽はフレンを含む騎士団と同じ場所にいた。

 

「ういはさんは一部の私の仲間と一緒に同じ場所で待ってるから大丈夫です!」

 

「ならよかったぁ....。」

 

「.........なんでアルスさんはあそこにいたんですか? そしてなんで一人になっても逃げなかったんですか?」

 

「.....ボクだってみんなを護りたいんだ。ボクにも力があるのになにもしないっては無理だよ。自分と約束したんだ。なにがあっても逃げないって。命に危険が及んでも絶対に護りたいものは護るって。」

 

「そうなんですか...。」

 

「うん....。」

 

「最低ですね。」

 

「え?」

 

「約束を守るなら自分との約束と一緒に私との約束も守ってくださいよ! まったく!」

 

「えええ!? ちょっと待ってボクたちなんか約束してたっけ!? 身に覚えがないよ!!」

 

「当たり前じゃないですか! 私があなたの知らないところで勝手にした約束ですから!」

 

「なんだよそれ! 約束じゃねえじゃん!」

 

「いいや、まぎれもなく約束です! 約束しましたよ! 私があなたを護るからあなたは絶対に死なないようにするって約束です!!」

 

「.....え?」

 

「アルスさんはみんなを失いたくないからここにいるんですよね! 私だって同じです! 私だってみんなを失いたくない!」

 

「みんなの中にはアルスさんも入ってます! それはみんなも同じ! 黛先輩もういはさんも騎士団の皆もアルビ........」

 

「ってアルビオはいまなにしてんだあああああ!!!!!」

 

「ちょっと待って、騎士団の皆ってどういう______」

 

「弱くてもみんなのために頑張ろうとするかわいいくて微笑ましいかわいい師匠がピンチだったのにあの英雄ときたら! もう少しでアルスさん死ぬとこだったんだぞあのクズ英雄!」

 

「えっ、ちょ騎士団の皆って______」

 

「アルスさん! アルビオは今どこにいるんですか! あいつのことぶん殴りに行ってきます!」

 

「話を聞けええええ!!!!! えびせんぱいは最近になってから音信不通だよ! どこいったかなんて僕も知らないよ!」

 

「なっ!? あの野郎こんなときになにやってんだよ!」

 

「あと騎士団の皆もってどういうこと!?」

 

「それはですね! コーヴァス騎士団でアルスさんともう一人の配信者(ライバー)さんを布教したら騎士団のなかで二人のファンクラブが別々でできたんですよ! 今回来たのはアルス親衛隊の方です!! すごくないですか!!!」

 

「ああ.....そう....なんだ.......。そうだ、列車はどうなったの!?」

 

「列車は一番危ないであろう車両だけ逆走してます! もう少しでここを通過すると思います!」

 

「マジかよ...。」

 

「私ちょっとさっきの駅を様子見してきます!」

 

「ボクも行くよ!」

 

「アルスさんはここで_____」

 

「約束は守らないとダメなんでしょ? フレンとした約束は破るつもりないけどボクが自分とした約束も破るつもりはないよ!」

 

「それ言うのは反則ですよ....。」

 

 

 

 

 

 

「異世界のウジ虫がァ!!」

 

 テツヤのビットが矛となってドーラ追い続けドーラはジェット噴射で高速移動してそれを躱す。そのまま方向を切り返してビットを一部焼き払う。

 

 そして攻撃をかいくぐってきた花畑に顔を殴られる。

 

 彼にとってかなり不利な状況であった。ビットはドーラに破壊され花畑に隙を突かれる。

 

 ちなみにベルモンドは今この場にいない。別件でどこかへ消えていった。

 

 それでも二人の強敵に追い詰められている。

 

「クソッ....クソクソクソクソクソクソクソォ!! クソッタレェ!」

 

「うるさいわよ。」

 

 花畑に鳩尾を蹴り抜かれた。呼吸ができない。

 

「シガハラテツヤ。これ以上の抵抗はやめるんじゃな。お前の身内の情けだ。」

 

「うるせえよ火遊びババアッ....! 異世界人は悪だ。てめえらは悪なんだよ!」

 

「私達からしたらあんたの方が悪だよ。結局陣営ってのは善悪決められるものじゃないんだよ。」

 

「オカマも黙ってろ! しぶとく生き残ってんじゃねえ!」

 

「まだやるのか? やめとけ。お前の身が持たねえぞ。」

 

「そんなのどうでもいいんだよ! だが、ここまでみたいだなぁ! 見ろぉ!」

 

 テツヤは指をさした。その先には_____

 

 

 

 ビットを積載した車両が逆走して戻ってきていた。

 

 

 

 そしてテツヤは車両の中のビットを起動して直接奪い取った。

 

「全員皆殺しだ。」

 

「兄さん!」

 

「おい!?」

「なっ!?」

 

「ッ!? ナオ....!?」

 

 物陰で隠れていたナオコが飛び出してきた。

 

「そこでなにしてんだシガハラァ!」

 

「ここは危険だシガハラどの! 早く戻れ!」

 

 花畑とドーラが戻れと怒鳴る。

 

「兄さん! もうやめて!」

 

「ナオ....。」

 

「これ以上ナノマシンを使ったら身体が持たないよ!」

 

「だからそんなのどうでもいいんだよ!」

 

「よくないよ! 私が許さない!! 今ならまだ間に合うから!」

 

「もう遅いんだよ...。すでに俺は大量殺戮者になってんだよ...。そんなやつがまともに生きてていいわけないだろ?」

 

「それこそどうでもいいよ! 私は....私は!」

 

「一緒に______」

 

「無理だ。」 

 

 即拒否された。慈愛に満ちたような声だがあまりにも冷たい。

 

「無理じゃ_____」

 

 それでもナオコは粘ろうとするがテツヤは冷たくあしらう。

 

「無理なんだよ。」

 

「もう無理なんだよ...。」

 

 最後の言葉とともにテツヤの周りで黒いナノマシンの竜巻が巻き起こる。ビットが空を斬る音が鼓膜を揺らす。

 

「今すぐここから消えろナオ...。」

 

「兄さん!」

 

「やめろテツヤァ!」

 

「うるさい!」

 

 テツヤが叫んだ瞬間ビットは巨大な鞭のようになり花畑を殴り飛ばす。

 

「チャイカ!?」

 

「次はてめえだ。」

 

 次はドーラめがけて大量のビットが襲いかかる。

 

「こんなもの...!」

 

 ドーラはビット程度のものであれば簡単に燃やせる。だが量が多すぎる。炎でバリアをつくるのが限界で気を抜けばビットに飲み込まれてしまうかもしれない。だが彼女は違和感を感じていた。

 

(精度がかなり良くなってる?)

 

(さっきまでの獰猛な攻撃じゃない、機械的な攻撃...?)

 

「たぶんあいつ制御できてないよね。」

 

「おわぁ!」

 

 花畑の声がした。足元から。足元を見てみると地面の中から花畑が頭だけ出していた。

 

「お前、ちょチャイカそれどうなってんだよ!? 気持ち悪すぎだろ!」

 

「地面の中を泳いだのさ。文字通り。」

 

「余計気持ち悪いなオイ。」

 

「ぴえんってね。」

 

「で、どうなってると思う?」

 

「所謂、暴走?ってやつかな。たぶん急がないとね、」

 

「テツヤ死ぬよ。」

 

 花畑がそう告げた直後、テツヤがうめき声を上げ始めた。

 

「うぅ...うがぁあああああ......」

 

 ビットがテツヤを包み込むとそれを核にして2mほどの人型に収束した。

 

『ギュオオオオオオオオンンン!!!!!』

 

 咆哮のような音が響く。

 

「いやまじの暴走っぽくない?」

 

「まずいッ!」

 

 ドーラがジェット噴射で加速してナオコを物陰に移動させた。

 

「シガハラどの! ここで待っておれ!」

 

 彼女をおいて再び暴走したナノマシンの塊となったテツヤの元に向かうと花畑と手を組みあって力比べしていた。

 

 暴走している状態だと形が全く崩れないようになっていた。

 

 テツヤが花畑を投げ飛ばすと腕を変形、杭のようにするとそれを伸ばして花畑に打ち込んだ。

 

 間一髪それを掴みダメージを回避した花畑。腕を蹴って形を崩壊させて逃れる。

 

 再形成の隙を狙ってドーラは拳に炎を込め加速した勢いのまま叩き込んだ。だが若干装甲が凹んだだけだった。

 

『ギュゥゥゥゥゥゥゥンン.......』

 

 唸り声を上げた後、ドーラの脳天に腕を振り下ろした。

 

「があぁああああっ!!!」

 

 地面に叩きつけられるドーラ。追撃でテツヤは彼女を踏みつけようとするがドーラはすぐに避け立ち上がった。

 

 テツヤから距離をとる花畑とドーラ。すぐに接近してドーラを殴り飛ばして花畑にも殴りかかる。

 

 花畑は同じく拳で拳を何度も迎え撃つ。

 

 二人のラッシュ勝負。鈍い打撃音が辺りに響き渡り空気が歪む。

 

『ギュオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!』

 

「ぐるああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 ラッシュ勝負、ついに花畑の一撃が胸部装甲に炸裂。装甲が抉れてテツヤの姿が露わになる。

 

 そしてテツヤが喉から絞り出すようにして花畑に話しかける。

 

「........殺.....せ.............俺...を.....。」

 

 どうやら制御は本当にできていないようだ。

 

「ッ!!」

 

 花畑はその声を聞いてより拳に力を入れた。

 

「ウオリャアアアアアアア!!!!」

 

 渾身の右ストレート。だが届く前に装甲が修復されてしまい、阻まれてしまった。危険を感じたのかすぐに横に跳んだ。

 

 再び暴走したテツヤの右腕がブレード状に変形し花畑がいた場所を薙ぎ払う。そこは綺麗にえぐり取られていた。

 

『ウグググ......ゴガガガガガアアアアアアァァァァ!!!!!!』

 

 そして背中からブレード上の触手が何本も生えた。

 

 花畑は姿勢を低くした。そうしなかったら今頃触手の餌食になっていただろう。

 

 だが触手で横から殴られて吹っ飛ぶ花畑。

 

「うぅ...。」

 

 声を上げながら立ち上がる花畑。

 

「大丈夫ですか花畑さん!?」

 

「ちょ!? まじかよおい!」

 

 まさかのシガハラが隠れていた岩に激突したようだった。岩は砕けてシガハラの姿は晒されている。

 

 そして花畑の目の前には両腕を無数のパイルバンカー状の武器に変形して今打ち込もうとしているテツヤの姿が。

 

 避けられない。避けてもシガハラが助からない。

 

「まぁいいけど。ばっちこい!」

 

『ギュオオオオオオオンンン!!!!』

 

 パイルバンカーを射出、辺り一面が土煙に覆われる。

 

 そして煙が晴れたとき花畑は、

 

 全身串刺しになり血を流しながらも完全に止め切ってシガハラを守りきっていた。

 

 そして体をひねってパイルバンカーを破壊する。

 

 拳で軽く打ち上げてテツヤを浮かせる。そして人の名を花畑は叫んだ。

 

「ドォォォォォォラァァァァァァ!!!!」

 

 離れたところからかなりのスピードで接近し浮かぶテツヤの下にドーラが潜り込んだ。

 

 方向転換をしてテツヤを遥か上空に押し上げた。

 

「うおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

 途中でテツヤから手を離し、一人でより上へ飛ぶドーラ。離れた後、視線を下に向け直し跳び蹴りの体制になる。

 

「すまんのシガハラどの。でもこれが限界だ。」

 

 ジェット噴射で急降下。その途中でそのままの勢いのまま足をテツヤの胸の装甲に突き刺しより速いスピードで急降下する。

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

 容赦はしない、男の最期の覚悟なのだから。

 

 ついに地面に激突、爆発が起きる。

 

 爆煙が消えた後、そこには巨大なクレーターがあった。クレーターの一番深い位置に体が燃え盛るドーラと体のほとんどが黒くなっているテツヤがいた。

 

 彼女のもとに花畑とシガハラが駆けつけてきた。

 

「兄さん!!」

 

「....ナオ.........」

 

「しっかりしてよ兄さん!」

 

「はは......」

 

「ナオ、最期まで迷惑かけちゃったな。ごめん。」

 

「正直もうだめだァ。これ以上喋れん。」

 

「もう.....いいから........。」

 

「.....胸を張れ。お前は過去にとらわれない立派な生き方をしてたろ。」

 

「兄さん....。」

 

「ははっ、妹の膝枕も悪くないなぁ......。」

 

「兄さん.......!! 兄さん...!!!」

 

 もうすでに息はなかった。あまりにも短く残酷な別れだった。

 

「.....すまなかった。本当に。」

 

「いや、これで良かったのかもしれません。兄は一生罪を背負う生き地獄じゃなくてこう逝くことを選んだんですから。」

 

「すごく良い寝顔です。これを見られただけでも.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崖の上で修行僧のような男が下の光景を眺めている。

 

「君が噂のトーシャ、かな?」

 

 後ろから声をかけられる。

 

 ベルモンドの声だった。

 

「.......見えているのか。望んだ相手にしか姿が見えないようにしてあるが。」

 

「そりゃあね。俺は普通の人間じゃないよ。」

 

「見ればわかる。」

 

「.........君は何を望むんだい?」

 

「望むことはない。」

 

「そうかい。君は今回はもう何もしないんだろう?」

 

「ふん。」

 

「じゃあおとなしく君の前から消えることにするよ。」

 

「........。」

 

「じゃあね。」

 

 その場からベルモンドの姿はなくなった。しばらくするとトーシャの姿も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐぅ....いっだ! 痛ででででででででで!!!」

 

 ゆっくりと立ち上がるエクス。体のありとあらゆる場所に傷ができて骨も結構折れてる。 

 

 周りを見ると列車は線路から脱線、横転していた。どう見ても悲惨な大事故だった。

 

「やっと目ぇ覚ましたか。」

 

「ッ!?」

 

 無理やり体を起こし声のした方向に向けてファイティングポーズをとる。

 

「まだ生きてたんですねニルさん。」

 

「おいおいおいおい待て待て待て! 別にもう俺に敵意はねえよ!?」

 

「なんだ、そうなんですか。」

 

「おう。正直俺の負けだしナノマシンも完全に使えなくなるしどうやら計画も失敗に終わったみたいだしな。ほら、お前の剣だ。」

 

 さっきまで死闘を繰り広げていた相手のニルから剣を受け取る。

 

「ああまじでつかれたあああああ!!!! もうなにもしたくねえよぉ!」

 

 力が抜けて座り込むニル。

 

「まじでわかります。しばらく旅行に行こうかなぁ。」

 

 エクスはそれに共感している。

 

「おっ、そろそろ来るぞ。」

 

「ん? 誰がですか?」

 

「教祖様だよ。教祖様。」

 

 ニルが指をさした方を見ると一台の車がこちらに走ってきているのがわかった。

 

 そしてニルの近くで車が止まった。  

 

「どういうことだニル。」

 

 キレ気味で出てきたのは丸刈りで長い髭を生やした男だった。

 

「あれが教祖ですか。」

 

「そうそう。」

 

「ニル、おまえはとんでもない裏切り行為を働いた。我々の神に誓っただろう? かならず『審判の日』を迎えるってな。」

 

「んなもん形だけに決まってんだろ。」

 

「ふざけ_________」

 

 教祖と呼ばれる男は言葉を言い切る前に下半身の力が抜け、その場に正座するように座り込んだ。

 

「なっ、貴様どういうつもりだ!」

 

「久しぶりの一仕事だ。あんたみたいな畜生久しぶりに見たからな。被害者の無念を晴らすためだ。」

 

 そう吐き捨てるとニルは槍を大きく腰をひねって振り上げた。

 

『執行日不明、執行場所不明、被執行者リョウコウタ・ケンジ。私は今ここで彼を執行します。今から私が行うのは命を奪うこと。被執行者を最期に人間としての意義を取り戻させ、被害者の無念を晴らすべく執行します。その際、私は高貴な執行者として処刑を行うことを誓い______」

 

「貴様! 何をするつもりだ!」

 

「ニルさんは処刑人の家系なんですよ。いま唱えてるのは彼の血統独自のものです。つまりあなたは死ぬんです。」

 

「なっ! まっ、待て! 私を殺すなど____」

 

 教祖ことリョウコウタは必死に命乞いをする。最期まで見下した態度で。

 

「___________執行者、ニル・ガルズ。執行します。」

 

 槍を斜め横に腰を回して振り下ろす。リョウコウタの首は落ちた。

 

「よし、こいつの魂はもらったしこの世界でやり残したこともねえ。俺はずらかるぞ。」

 

「そうですか。好きにしてください。」

 

「じゃあな。」

 

 エクスに背中を向けて歩いてしばらく経つと土埃が舞って晴れた時には彼の姿はもうなかった。

 

 エクスはリョウコウタの遺品である携帯電話を見る。そこにはまとめると教団側の敗北、崩壊したことが書かれていた。

 

 自分達の勝ちだ。

 

「.........今日はピザ食べようかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[っていう感じでなんか勝っちゃったみたいです!!]

 

「えぇ........急展開すぎない?」

 

 元気そうな相羽の報告で黛は困惑した。




第二十話でした。これにて今回の長編『黒砂編』は終わりです。長編名は特に思いつきませんでしたので適当です。
いやぁ例の師弟のコラボ、あかんわ。ニヤニヤが止まらないし大笑いしまくって表情筋が天元突破しましたね。

おまけ:今回登場したオリジナルキャラクター、執行者ことニル・ガルズの名前は北欧神話のグングニルとミズガルズからとったものです。

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