最強ヤンデレ不良青年に捕まってしまいました   作:小金井はらから

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第十話『お前と死にたい』

★最強ヤンデレ不良青年に捕まってしまいました 第十話『お前と死にたい』

 

 あれから、俺は円香をしばらく抱きすくめていたけれど。

こいつに怖い思いをさせた奴らが大勢倒れ伏すこの場所にいつまでも円香を置いておくのも悪い気がして、円香の制服の乱れを直して、手を引いて俺は立ち上がった。

 

「……何もされてねえか」

 

 ぶっきらぼうに問いかけると、円香はこくりと小さく頷いた。

握った手は、未だに震えている。

 

「……服、脱がされただけです。……郁也さんが、来てくれたから……」

 

「……そうか」

 

 円香の手をぎゅっと握り、密かに安堵する。

こいつが俺以外の男に汚されていたら、今頃気が狂っていた。

 でも、安堵した筈なのに、奇妙な焦燥感が胸を渦巻いている。

円香は、本来陽だまりの世界で生きている側の人間だ。

俺みたいな、はみだし者とは違う。

 俺と関わらなければ、こいつがこんな思いをすることも、泣かせてしまうこともなかっただろう。

それでも、俺は。

円香を手放したくなくて、傍に置いておきたくて、ずっと一緒に居たくて。

――俺だけの物に、してしまいたくて。

 心に仄暗い感情が宿るのがわかる。

俺は円香を無理矢理引っ張るかのように、すたすたと歩を進めて行った。

 

 

 

 

 辿り着いたのは、俺の家だった。

何の変哲もない一軒家。

 でも、どの窓にも明かりは灯っていない。

どうせ親父もおふくろも仕事で、姉貴は彼氏の所なんだろう。

 昔から、そうだった。

極度の放任主義、いつも机の上に無造作に置かれている生活費。

誰も俺を愛しちゃくれなかった、人の真っ当な愛し方なんて教えちゃくれなかった。

 だから俺は、ようやく出会えた、こんな俺でも好きだと言ってくれる円香を、歪な形でしか愛してやれない。

それまでされるがままついて来た円香が、おずおずと問いかけてくる。

 

「……あの……郁也さん、ご両親は……?」

 

「……知らね。どうせ仕事だろ」

 

 雑に返して、俺は円香を自分の部屋に連れて行く。

散らかった部屋、閉め切ったカーテンの向こうはとっくに真っ暗で。

そんな世界で、俺は円香を無理矢理ベッドに押し倒した。

 円香が驚いたように目を見開く。

俺は今、一体どんな表情で円香を見ているんだろう。

暗い世界じゃ、何もわからない。

 けど、そんなことも気にしてられず、俺は円香にキスをした。

唇を強引に押し付け、もっと、もっと深くその先へ行こうと舌で唇をノックする。

耐え切れなかった円香が口をうっすらと開けたのをいいことに、俺は貪るようなキスを続けた。

 あいつらに襲われた恐怖が、全部どっかへ行くように。

円香の全部を、俺で上書きしたかった。

こんなことをしてしまえば、円香を襲ったあいつらと同類だってわかっちゃいたけど、割り切れなくて。

 しばらくして、唇をちゅぷっと離す。

円香が息を乱し、苦しそうにしていた。

こんなに長くキスをしたのも初めてだし、深いキスをしたのも円香が俺が浮気したと勘違いしたあの日以来だ。

 

「いく、や、さん……」

 

 円香が途切れ途切れに俺の名前を呼ぶ。

呼んでくれる。

本当は、それだけで満足しなくちゃいけないんだろうけど。

 

「……全然足りねえんだよ」

 

「……え……?」

 

 円香の肩を強くベッドに押し付ける。

骨が僅かに軋む音が聴こえる。

痛いのか、円香が僅かに呻きながらその身をベッドに沈める。

 

「なあ、どうすればお前は俺だけの物になるんだよ」

 

「郁也さん……?」

 

 潤み切った円香の瞳に、困惑の色が宿っていく。

そんな顔すんじゃねえよ。

いつもみたいに受け入れろよ。

 

「お前が欲しくて欲しくて仕方ねーんだよ。どれだけ手に入れても足りねえんだよ。俺だけの物にしたいんだよ。お前が俺以外の誰かの物になるとか、考えただけで頭イカレちまいそうになるんだよ」

 

 円香を捻じ伏せる力がどんどん強くなるのがわかる。

このままじゃこいつを傷付けるだけだってわかってる自分は確かに居るのに、何一つ止められやしなかった。

 

「俺は、お前と生きたいわけじゃない」

 

 生き死になんて、どうでもいい。

遅いか早いかだけの違い。

俺がたった一つ欲しいのは。

 

「俺は、お前と死にたいんだよ……ッ」

 

 俺が欲しいのは命も含めたお前の全部。

お前の残りの人生、全部俺の物にしたい。

終わる時は連れて行きたい。

お前が居ない世界でなんてもう生きていけないし、俺の居ない世界でお前が他の誰かと生きるなんて、許さない、許せない。

 愛しいはずなのにやけに苦しい感情に支配されていたら、そっと円香の細い腕が遠慮がちに俺の背中に回ってきた。

そのまま、弱々しく抱き締められる。

 ほら、お前がそうやって当たり前のように受け入れるから。

もっともっと、欲しくなるんだ。

 

「……円香」

 

 ぽつり、と名前を呼ぶ。

そして。

 

「……好きだ……っ」

 

 初めて、俺は好意をはっきりと口にした。

円香がはっと息を呑む。

 その動いた喉を、今すぐに絞めてしまいたい。

そうやって、円香を俺の物にしたい。

円香を俺だけの物にしたい。

円香。

円香、円香、円香、円香――。

 真っ黒い感情に、飲み込まれそうになる。

自分が自分じゃなくなりそうな頃、円香が弱々しい声を発した。

 

「……わた、しは」

 

 その澄んだ声は、確かに俺の意識に呼びかけてきて。

 

「郁也さんと……生きたい……」

 

 今度は、俺が息を呑む番だった。

俺と、生きたい?

 なあ、それってどういうことだ、どういう意味だ。

傍に居てくれるのか、一緒に居てくれるのか。

――ずっと、愛してくれるのか。

 おかしい。

胸が、ひどく苦しい。

 だってそんなこと、今まで誰も言ってくれなかったんだ。

そんなことを言われるのは本当に初めてで、どう反応したらいいのかわからない。

 衝動的に、円香にもう一度口付ける。

わっかんねえ。

悲しくも何ともねえのに、何故だか無性に泣きそうになった。


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