最強ヤンデレ不良青年に捕まってしまいました   作:小金井はらから

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第十一話『愛してる、愛してる』

★最強ヤンデレ不良青年に捕まってしまいました 第十一話『愛してる、愛してる』

 

 目を覚ますと、私は温かい体温に包まれていた。

至近距離に、郁也さんの顔。

郁也さんが、私をぎゅうっと抱き締めたまますうすうと規則的な寝息を響かせている。

 抱き合って、同じベッドの上で眠って。

お互い着衣の乱れはなく、制服姿のまま。

重要なことを言っておくと、いやらしいことは何もしていない。

 それでもこの状況が何だか恥ずかしくて、自分の顔が赤くなるのがわかる。

好きな人に『好きだ』と告げられて、キスをして、一緒に眠って。

繰り返すけれど、いやらしいことは何もしていない。

 カーテンの向こうの陽は、とっくに高くなっている。

もう朝が来たらしい。

お父さんとお母さんに心配をかけないよう、寝る直前に友達の家に泊まる、とメールを送っておいたけれど、あの嘘は通じたのだろうか。

 良くわからない背徳感に緊張して、顔を覆いたくなったけれど、私を強く抱き締める郁也さんの腕がそれを許してくれない。

本当に寝ているのかと、疑いたくなるくらい。

 それでも、何とかベッドから抜け出そうと試みる。

身を捩らせて、やんわりと郁也さんの腕を解こうとして。

 そうやって、もう少しで彼の腕の中から抜け出せそうになった頃、急に郁也さんが強い力で私を抱き寄せてきた。

振り出しに戻ってしまい、恐る恐る振り返る。

郁也さんは目を開けていて、ひどく苦しそうな顔をしていた。

その表情を見た瞬間、ずきりと胸が確かに痛む。

 

「どこ、行くんだよ……っ」

 

 声も、表情と同じく苦しそう。

ずきずき、ずきずき。

私の心臓が、ひどく痛い。

 

「どこにも行くな……っ」

 

 縋るような声に、心臓をぎゅうと直接掴まれたような気分に陥った。

そこから胸に広がるのは、彼への確かな愛しさ。

私は、郁也さんを安心させるかのように彼の頬に手を伸ばし、ゆっくりと触れる。

 

「……大丈夫です。私、どこにも行きません」

 

 郁也さんの瞳が揺れる。

伸ばした手を、そっと握られる。

 

「……郁也さん」

 

 名前を呼ぶ。

私が抜け出そうとした、本当の理由を告げる為に。

 

「……お腹、空きませんか?」

 

 私の言葉に、郁也さんはきょとん、と目を丸くした。

 

 

 

 

 テーブルに並んだ朝食を、郁也さんは物珍しそうに見ていた。

即席で作ったトーストとオムレツだったけれど、気に入ってもらえるだろうか。

郁也さんの食の好みを知らないから、何とも言えない。

 私がどこか緊張するような気持ちでそわそわしていたら、郁也さんはジャムの塗られたトーストを齧り、オムレツを口に運んでいく。

少し、郁也さんの瞳が輝いているような気がした。

 

「……あったけえ」

 

「あったかい……?」

 

 郁也さんがぽつりと洩らした声に、首を傾げる。

 

「……人の手料理食ったの、すげー久しぶり」

 

「そう、なんですか?」

 

「ああ。飯とかいつも適当に済ませてたし。……だから、あったけーなって。あと、ふつーに美味い」

 

 ストレートに褒められて、自分が赤面するのがわかる。

嬉しいやら、恥ずかしいやら。

気に入ってもらえたなら、これから何度だって作りたい。

料理の勉強、もっとしなきゃ。

 そう密かに決意して、照れを誤魔化すように私もさくっとトーストを齧った。

 

 

 

 

 朝食を作っている時も、そうだったのだけれど。

食器を洗っている最中も、郁也さんは私の背中にべったり貼りついて、髪を撫でていた。

 私に触れていないと、落ち着かないのかもしれない。

そう思うと、どきどきして、でもやっぱり嬉しくて。

 それで、手が空いた今は。

ベッドにお互い座った状態で、ぎゅうぎゅうと抱き締められていた。

ちょっと力が強くて苦しいけれど、その苦しさすら愛おしく思えるのだから、私は相当手遅れなんだと思う。

 肩に顔を埋められて、ちょっとくすぐったい。

私はそんな郁也さんを抱き締め返し、ゆっくりと頭と背を撫でていた。

 郁也さんがこんなに甘えただったなんて知らなかった。

こういう姿を見られるのは私だけなのかな、と思うと素直に胸が高鳴る。

そんな時、郁也さんがゆっくりと顔を上げる。

彼の瞳は、真っ直ぐに私を映していて。

 

「……やっぱ、好きって言わないと不安になるもん?」

 

 その疑問に、首を傾げて。

そう言えば彼が私を好きだとようやく知れたのは、つい昨日のことだったのだと思い出す。

 不安。

それもあるけど、彼の気持ちがわからない自分が嫌だった。

 

「不安というか……言われると、嬉しい……です」

 

「……ふーん」

 

 郁也さんが、私を抱き締める手をゆっくりと解く。

それから、私の両肩に手を置いて。

私の目をじっと見つめて。

 

「円香、好きだ」

 

「……え……」

 

「好き、すげー好き。大好き」

 

 ぶわっと、全身が真っ赤になった気がした。

それくらい顔が熱くて、心臓がどかどかうるさくて、ドギマギして。

郁也さんは、どうしてこんなにも平然と愛の言葉を吐けるのだろう。

 

「……円香、愛してる。世界で一番、お前が好きだ」

 

 う、うわああああ。

もう駄目だった、白旗を上げたくなった。

 郁也さんが、こんなにも甘い愛の言葉を吐ける人だったなんて知らなくて。

こんなに自分が彼に想われていたことにも気付けていなくて。

 もしかして、自分は郁也さんからとんでもなく恐ろしい物を解放してしまったんじゃないだろうか。

キャパオーバーを起こしつつ、私はぼそりと呟いた。

 

「……私も……世界で一番、郁也さんが大好き、です……」

 

 ああ、駄目だ。

恥ずかしすぎて、郁也さんの顔が見れない。

 それでも、微かに郁也さんが笑う気配がして。

次の瞬間、そっとキスをされた。

誰かと想いが通じ合うと、こんなにも幸せな時間を過ごせる物なのか。

ぼんやりと、そんなことを考えた。

 

 

 

 

「……何で、帰んの?」

 

 玄関で帰り支度を整えた私を、郁也さんは複雑そうな表情で見つめていた。

その姿に、何とも言えない切ない気持ちになったのは、確かだけど。

 

「えっと……お父さんとお母さんが心配するので……で、でも……」

 

 郁也さんを懸命に見上げて、私は言葉を精一杯紡ぐ。

紡ごうとする。

 

「私、ちゃんと郁也さんのこと好きです。絶対、勝手に居なくなったりしません。郁也さんさえ良ければ、また、お家にお邪魔したいです。それから……私、もっと郁也さんのこと知りたいです。だから……これから色々、郁也さんのこと、教えてください」

 

 私がそう言うと、郁也さんは意外そうに目を瞬かせて。

ぎゅうっと私を抱き寄せて来た。

心臓が、跳ね上がる。

こんな物は慣れていない。

 そうか、そうなんだ。

愛され方を知らない私と同じように、郁也さんもまた、愛し方も、愛され方も知らないだけだったんだ。

 

「……やっぱ、帰したくない」

 

「い、郁也さん……」

 

「……でも、お前が困るっつーんなら、帰す」

 

 その言い方は、ずるいと思う。

私が何も言えず固まっていると、郁也さんはゆっくりと私を解放して。

 

「……また来いよ。そんで、また飯作って」

 

「……はい」

 

「……明日から、また公園来いよな」

 

「……はいっ」

 

 そして、郁也さんは私にそっと口付ける。

今までで一番優しい、キスの仕方だと思った。

時間がこのまま、止まればいいのに。

そんなことを思ったのは、初めてのことだった。


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