最強ヤンデレ不良青年に捕まってしまいました   作:小金井はらから

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第十二話『真子ちゃんにお任せ! その2』

★最強ヤンデレ不良青年に捕まってしまいました 第十二話『真子ちゃんにお任せ! その2』

 

「よう、お前、星原の女だよな?」

 

 ある日、いつもの公園に行こうと歩を進めていたら、また怖そうなお兄さん達に囲まれてしまった。

以前とは違う顔ぶれだ。

 どれだけ私は無防備なのだろう。

この前の工場跡地での出来事を思い出し、身が竦む。

びくびくと怯え、震える私の姿を見て、お兄さん達はより一層笑みを深くした。

 そのうちの一人が、私に手を伸ばし掛けた、その時。

 

「ちぇすと!!」

 

「ぐあっ!?」

 

 私に触れようとしていたお兄さんの身体が、突然横に吹っ飛んだ。

そのまま、ごろごろとお兄さんの身体は地面を転がっていって、きゅう、と伸びる。

目は完全に白目を剥いていて、気絶をしているようだった。

 ――郁也さん?

でも、今聞こえたのは女の人の声。

 私が恐る恐る視線を上に上げると、そこには背の高い活発そうなお姉さんが立っていた。

このお姉さんには見覚えがあった。

以前、郁也さんと親しげに歩いていたお姉さんだ。

 

「何してんの、あんたら? 大の男がよってたかってこんないたいけな女の子いじめるなんてさ。かっこ悪いよ?」

 

 お姉さんは、挑戦的な笑みをお兄さん達に向ける。

そ、そんなこと言ってお姉さんは大丈夫なのかな。

お兄さん達を逆上させたりしないかな。

私がおろおろしていると、お兄さん達は怒りで顔を真っ赤にしながらお姉さんに飛び掛かっていった。

 

「てめえ、いきなり何しやがる!」

 

「調子に乗りやがって!」

 

「やっちまえ!」

 

 それでも、お姉さんの余裕の笑みは崩れることがない。

お姉さんが、颯爽と構える。

 かと思えば、あっという間にその手でお兄さん達の手を振り払って、薙ぎ払って。

次々とお兄さん達を投げ飛ばして、ダウンさせてしまったのだった。

 全ては、一瞬の出来事だった。

お兄さん達の無残な姿が広がる世界の中で、お姉さんは私に手を差し伸べてくれる。

 

「へへん。伊達に鍛えてないもんね! 君、大丈夫? 怪我は無い?」

 

「あ……ありがとうございます……」

 

 至近距離で顔を見て、思わず照れてしまったけれど、それでも私は彼女があの時のお姉さんだと確信して顔を上げる。

 

「貴方は、あの時の……」

 

「……ん? どこかで会ったかな?」

 

 お姉さんは、不思議そうに首を傾げる。

私は慌てて、言葉を紡いだ。

 

「えっと……前に、郁也さんと一緒に歩いているの見て……」

 

「……いくやさん?」

 

 お姉さんが、眉を顰める。

怪訝そうな、何かを考え込んでいるような表情。

でも、見る見るうちにその表情は好奇の色に染まって。

 

「……あ! 君、もしかして星原の彼女!?」

 

「は……はい。そうです……」

 

 第三者に彼女、と認められると何だか恥ずかしくて、私は俯く。

……そっか、私、もう郁也さんと恋人同士なんだよね。

嬉しいんだけど、何だかむず痒い。

 

「へえ……星原、こういう子がタイプだったんだあ……あ、そうだ! 星原にちゃんと告白された!? まだ『好き』って言われてないんだったら、私からあいつ殴っておくよ!?」

 

「だ……大丈夫ですっ。この前、その……ちゃんと、言ってもらえました」

 

 好きどころか、愛してると言ってもらえた。

身も心もどろどろになるような愛の言葉を、沢山沢山かけてもらえた。

思い出すと顔が熱くなるのがわかる。

やっぱりまだ、誰かに愛されているという感覚は慣れない。

 

「そっか……そっかそっか……ねえ、君、名前は? 聞いてもいい?」

 

「あ……えと、高橋円香、と申します……」

 

「円香ちゃんね! オッケーオッケー。あ、私、杉浦真子! 星原とは腐れ縁。でも私ちゃんと彼氏いるから! 星原とは何でもないから、そこは安心して?」

 

「は……はい」

 

 そう言って、杉浦さんは私の両手を握ってぶんぶんと上下に振ってくる。

見た目通り、活発な人。

こういう人の方が、郁也さんは話しやすいのかな。

そんな暗い考えが一瞬脳裏を過ぎったけど、彼の愛情を疑いたくはなかったから、そこまでにしておいた。

 

「ズバリ聞くけどさ、星原のどこに惚れたの?」

 

「あ……えと……」

 

 思えば、最初は郁也さんのことが怖かった。

でも、一緒にいるうちに、だんだん彼の存在は私にとって当たり前のようになっていって。

私が彼に惹かれたのは、きっと。

 

「一緒に居て……安心するから、です……」

 

 私の答えに、杉浦さんは目を丸くして。

くすっと、おかしそうに笑った。

 

「……あははっ。星原とおんなじようなことを言うんだ。君達ってさ、結構似た者同士なのかも」

 

 私と、郁也さんが?

似た者同士。

何だか上手く、しっくり来ない。

 私が考え込んでいたら、ぽん、と頭の上に手を置かれた。

そのままわしゃわしゃと、杉浦さんに頭を撫でられる。

 

「まあともかく、星原のことよろしくね、円香ちゃん。あいつケンカばっかりだし何考えてんのか良くわかんないこともあると思うけど、多分、人の愛し方をあいつ自身が良くわかってないだけだと思うんだわ。……きっと、円香ちゃんへの気持ちは本物だからさ。信じたげて」

 

「……はいっ」

 

 私は、こくりと頷き、微笑んでみる。

郁也さんの私への気持ちが、本物。

そう第三者にはっきりと言われたことが、たまらなく嬉しかった。

 杉浦さんもまた、嬉しそうに私の頭を撫でてくれる。

郁也さんが、人の愛し方をわかっていないと言うのなら。

私と関わっていく中で、それをゆっくりゆっくりわかってほしいな。

そんな未来を、思い描いてしまったのだった。

 それにしても。

活発そうな杉浦さん、そのイメージを助長されるかのようなショートカット、スタイルだって良い。

郁也さんを疑いたくないのに、しゅん、とまた少し自分の気持ちが落ち込むのがわかる。

 

「……私、杉浦さんみたいになりたかったです」

 

 とうとう本音が喉の奥から洩れた。

やだ、何で私こんな卑屈なこと言っているんだろう。

何とか取り繕おうと思って口を開いたと同時に、杉浦さんはきょとんとした様子で、また私の頭を撫で回してきた。

 

「何言ってんの。星原は円香ちゃんだから惚れたんだよ」

 

「……私、だから?」

 

「そ。……懸命に星原を受け入れようとする円香ちゃんだから、星原も好きになったんじゃないかな。だから、今のままで、ありのままでいいんだよ」

 

 杉浦さんは、そう言って優しく笑ってくれる。

今のままでいい。

そう言ってもらえるとは思っていなかった。

こんな私でも、自信を持っていいのだろうか。

 ……でも。

郁也さんが好きでいてくれる私を、好きになりたいという気持ちが芽生えたこともまた、本当のことだった。


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