最強ヤンデレ不良青年に捕まってしまいました   作:小金井はらから

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第二話『頭を撫でる』

★最強ヤンデレ不良青年に捕まってしまいました 第二話『頭を撫でる』

 

 翌日。

私の膝で何故だか眠っていたお兄さんに殺害予告を受けた私は、怖くて怖くて授業どころではなかった。

 彼は、『明日も来ないと殺す』と私に言っていた。

公園に行かなかったら、私は彼に殺されてしまうのだろうか。

 自分が死ぬ。

遠い先の出来事だとばかり思っていた運命が身近に迫っていることに、身の毛がよだつ。

 でも、行った所で何をされるんだろう。

怖そうな人だった。

人を見た目で判断してはいけないとは思うけど、知らない人に警戒心を抱くに越したことはない。

 暴力を振るわれる可能性もある。

金銭を要求される可能性もある。

 本当なら、家族や警察に相談した方が良かったのかもしれない。

だけど私が勝手に行動することで、誰かに被害が及ぶのだけは避けたかった。

痛い目に遭うのは、私だけでいい。

そうは思っているけど、怖い物は怖くて。

 ――何も起きませんように、何も起きませんように。

私は、放課後になるまで必死に祈ることしかできなかった。

 

 

 

 

 来た。

来てしまった。

びくびくしながら辺りを見回す。

 昨日の公園。

昨日のベンチまで辿り着いて、私は恐る恐る腰を下ろした。

緊張で、心臓がどくどくばくばくかつてなく騒がしいビートを刻んでいる。

 あの人は、来るのだろうか。

来た所で、私は何をされるのだろう。

痛いことが、怖いことが待っているのかもしれない。

そう思うと、身が竦んで、じわりと視界が涙で滲んだ。

 そうやってしばらく恐怖で震えていると、ざっざっと土を踏む音が聞こえてきた。

びくっと過剰反応して、俯いていた顔を上げると、目の前には昨日のお兄さんが立っていた。

背が高い、目つきが怖い。

彼から放たれる威圧感が、肌を刺すような殺気が、怖くて怖くて仕方がない。

 私がすっかり怯え切ってるのを、お兄さんは無表情で見下ろしている。

かと、思えば。

 

「……え……?」

 

 お兄さんは、私の膝に頭を預けて寝そべり始めた。

そのまま、彼は当たり前のように目を閉じる。

昨日と同じ体勢、昨日と同じ構図。

完全に、頭が混乱するのがわかる。

 

「……あ……あの……?」

 

 声を掛けた時には、既に遅し。

お兄さんは、すうすうと寝息を立てて夢の国へと旅立ってしまっていた。

 ……何で?

頭の中が、疑問符でいっぱいになる。

 何で、私は知らないお兄さんに膝枕しているんだろう。

何で、お兄さんはわざわざ私の上で寝ているんだろう。

何が何だか、全くもってわからない。

 しばらく、お兄さんの顔をじっと見下ろす。

完全に安心しきった顔。

どういうわけか、完全に私に身を委ねている。

起きている時の、ぴりぴりとした殺気が寝ている時は感じられないことに、少しだけ安堵した。

 怖い物は、怖い、けど。

 

「……子ども、みたいだなあ……」

 

 そんな呟きが、喉の奥から洩れた。

無意識の産物だった。

ほんの一瞬、彼のあまりに安らかな寝顔に――どこか、温かい気持ちを覚えてしまったのだ。

それ自体、おかしなことなのだけれど。

 だって、私はこの人の名前も素性も何も知らない。

彼が何を思って私なんかの膝で寝ているのかもわからない。

それでも、無防備に眠る彼の今の姿に、嘘は無いと思ってしまったのだった。

 片手が、自然に動く。

私の手が、彼の髪をゆっくりと梳く。

私はどういうわけか、彼の頭を優しく撫でてしまっていた。

 ……何しているんだろう、私。

いやいや、こんなのおかしい、絶対おかしいよ。

この状況に流されているにも程がある。

 はあ、と溜息を吐きかけたその時。

――彼の目が、開いていることに気付いた。

見られている。

というか、凄く睨まれている。

 自分の顔が急激に青褪めるのがわかった。

ああ、私、なんてことをやってしまったのだろう。

きっと、頭なんて撫でて彼を不快にさせてしまったに違いない。

 

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 

 とにかく、私は平謝りをした。

情けないことに、それしかできなかった。

正直、ちょっと泣いていたかもしれない。

 でも、お兄さんは特に声を荒げることも、怒ることもせず。

ただ、より一層目つきを険しくさせて。

 

「……別に、怒ってねえし」

 

「……え?」

 

「っつーか、続けろ。今の。寝やすい」

 

 そう言って、また彼は目を閉じる。

しばらくすると、また規則正しい寝息が聞こえてきた。

 ……ええっと。

続けろ、ということは、頭を撫でろということだろうか。

困惑しつつ、また彼の頭をなるべく優しく撫でる。

彼はもう、何も言わない。

陽がゆっくりと傾いていく。

 私は一体いつ、解放されるんだろう。

そうは思ったけれど、彼に解放される日なんて一生訪れないのではないだろうか?

そんな物騒な考えが、一瞬脳裏を過ぎってしまった。

 この予感が当たるのかどうかは、さておき。

――これが、私・高橋円香が非日常に片足を突っ込んだ瞬間だった。


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