最強ヤンデレ不良青年に捕まってしまいました   作:小金井はらから

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第八話『真子ちゃんにお任せ!』

★最強ヤンデレ不良青年に捕まってしまいました 第八話『真子ちゃんにお任せ!』

 

「星原、あんた最近機嫌良くない?」

 

 朝、サボろうか眠ろうかふけようか考えながら欠伸を噛み殺しながら歩いていたら、クラスメイトの杉浦真子(すぎうら まこ)に声を掛けられた。

中学から高校三年生に至る今までずっと同じクラスの腐れ縁の仲であるこいつは、こんな俺にも気安く話しかけてくる。

男勝りでさっぱりした性格のこいつとは、話しているとまあ気が楽っちゃ楽だけど、円香と一緒に居る時程安心感を得られるわけじゃない。

 円香と一緒に居る時はもっとこう……胸が温かくなる。

そうなるってことは、相当あいつが俺にとって特別な証拠なんだろう。

 

「……知らね。そう見えるってことはそうなんじゃねーの」

 

 寝ぼけ眼を擦って適当に返事をすれば、杉浦は当たり前のように俺の横に並んで歩く。

それから、俺の顔を意外そうに覗き込んで来た。

 

「え、そんなまんざらでもない反応するってことはほんとに機嫌良いわけ? 明日は槍が降るかもねー」

 

「……うるせーな」

 

 チッと大きく舌打ちして歩幅を大きくする。

でも、こんなんでこいつが怯まないことぐらいわかってた。

円香相手にこんな態度でも取れば、びくびくと怯えられてしまうだろう。

あいつに怯えられんのは、むかつくって言うより嫌だ。

 円香と言えば。

この前杉浦と俺が一緒に居る所を見て俺が浮気しているのだと勘違いしたらしかった。

 そのせいであいつはあの公園に来なくなって、俺は何かに駆り立てられるようにあいつを探し回って。

あれだけ誰かに執着したのは、あれだけ心がざわざわと落ち着かなかったのは初めてだ。

あいつの身に何かあったんじゃないか、そう思うと気が気じゃなかった。

俺をあそこまで焦らせることのできる人間は、世界で円香ただ一人だと思う。

 だから。

 

「……っつーか、並んで歩くな。誤解される」

 

 忌々しげにそう言い放つと、杉浦は首を傾げた。

 

「は? 誰に? 私に彼氏いることぐらいみんな知ってんじゃん」

 

 そう、杉浦には彼氏が居る。

交友関係が広い杉浦がその彼氏に常日頃猛アプローチを受けているのは、うちの高校じゃ周知の事実だった。

でも、それは『うちの高校』だけの話だ。

 

「彼女に、誤解されるんだよ」

 

「……彼女? 誰の?」

 

「俺の」

 

 そう言った途端、杉浦がぴたりと固まった。

面倒だから、そのまま置いて行こうとすたすたと俺は歩いて行く。

けれど。

 

「――っと、待った待った待った!! あんた彼女いたの!? いつから!? っていうかケンカの『ケ』の字と睡眠の『す』の字にしか興味なかったあんたに彼女!?」

 

「……うるせー……」

 

 杉浦はすぐに復活した。

運動神経抜群の杉浦は、ダッシュで一気に俺の前まで躍り出て詰め寄ってくる。

鬱陶しくて、俺は顔を逸らした。

 

「どんな子? 可愛い?」

 

「おとなしい。可愛いんじゃねーの。知らんけど」

 

「うちの学校の子? 私が知ってる子?」

 

「多分ちゅうがくせー」

 

「へー……って、多分? 中学生?」

 

 俺を質問責めにする杉浦の雲行きが怪しくなった。

表情が、怪訝そうな物に変わっていく。

 

「……星原。告白したのどっちから?」

 

「いや、してねえしされてねえけど」

 

「は?」

 

「キス、したら嫌がられなかった」

 

「はい?」

 

「だから、それって別に俺と付き合ってもいいってことだろ」

 

 杉浦が、また固まる。

さっきのフリーズとはまた違う気がした。

めらめらと、炎のような怒気――いや、殺気を感じる。

かと思えば。

 

「……っ、この、バカタレーーーーッ!!」

 

 殴られた。

頬をグーで。

別に痛くも何ともねえけど、気に食わないと言えば気に食わない。

 

「……何しやがる」

 

「何しやがる、はこっちの台詞! あんた何考えてんの!? 屑! 最低! 性犯罪者!!」

 

 何でそこまで言われねえといけねえんだ。

俺がむっとしていると、杉浦は頭を抱えて長い長い溜息を吐き出した。

感情が忙しいやつ。

 

「星原。良く聞いて。あんたの言う彼女ちゃんは多分凄く困ってる。気持ちは言葉にしないと伝わらない。彼女ちゃんはあんたに怯えている可能性が高い」

 

「あ? 怯える?」

 

「あんた目つき悪いしガラ悪いし嫌な噂も多いからその彼女ちゃんはあんたにキスされてビビり散らかして泣く泣くあんたと一緒に居ると思われる」

 

 円香が、俺にビビっている。

そう言われればそうかも、しれないけど。

でも、それを認めてしまうのは何だか腹が立った。

そんな中、杉浦が問いかけてくる。

 

「……っていうか質問なんだけど、星原はその彼女ちゃんのどこを好きになったの?」

 

 理由。

つったって、そんなの。

 

「……寝る時にたまに使ってるベンチで、あいつが寝てて」

 

「……うん」

 

「退かすの面倒だったから、そのままあいつの膝で寝たら」

 

「……う、ん?」

 

「居心地、良かったから」

 

 あいつと居ると、上手く呼吸ができる気がする。

良くわかんねーけど、言葉には纏められねーけど。

 

「……好きになる理由なんて、それだけで充分だろ」

 

 俺が円香を好きなのは確かなんだから、それで良かった。

円香と関わるうちに、もっと一緒に居てえなって思うようになったし。

これが、好きってことなんだろ。

 

「……星原。あんた今日彼女ちゃんにちゃんと告白した方がいいよ……」

 

「……告白っつっても」

 

 一旦言葉を切り、俺はまた歩き出す。

 

「人の真っ当な愛し方なんて、知らねーし」

 

 だって、そんなもの誰も教えてくれなかっただろ。

独り言のように呟いた声を拾った杉浦が、ばしんと俺の背中をいつものように叩いてきて、ちょっと煩わしかった。


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