ハリーポッターと忘却のハルピュイア   作:カネナリ

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彼はガタガタと騒々しい音で目覚めた

仰向けの姿勢から上半身を起こして音の発生源に目を向けた

そこには激しい動きでのたうち回るかのように跳ねているトランクがあった

 

彼はトランクに猫を入れっぱなしであることを思い出した

彼のペットである猫の住み処はトランクの中だか基本的に外に居たがる

彼の猫に縄張り意識は有るのだろうか

 

取り敢えず彼は暴れるトランクを掴んでストッパーを外し蓋を開けた

住みづらいであろうトランクの中に一日も居たせいで不機嫌になっている猫が飛び出した

 

猫は彼の腕にぶら下がりガジガジと噛み始めた

だがまあ甘噛みだ

皮膚を突き破ろうとしていないのでそこまで不機嫌ではなさそうだ

実際猫は彼が抱き上げてやると途端に大人しくなり噛んでいた所を舌で舐めている

 

相変わらずのチョロさに彼は苦笑を浮かべたが放ったままにしたのは彼だ

ネビル=ロングボトムに思ったことを思い出してほしい

お腹も空いているだろうと思い彼は猫に魔力を与えた

 

彼の猫は魔力を主食とする魔法生物だ

彼が7回目の誕生日の日に召し使いが何処からか拾ってきた

真っ赤なモジャモジャの毛がフィグ(いちじくの花)みたいだったのでそれにちなんでフィッグスと名付けた

彼ながら捻りの無い安直な名だ

性別は分からないがおそらく雌だ、たぶん

ちなみに普通の猫の餌もネズミも食べる

 

彼がフィッグスを撫でていると飽きたのか彼の腕から先程まで彼が寝ていたベットに跳び移った

二、三度脚を踏みしめたあとゆったりと寛ぎ始めた

 

現在の時刻は夜明けから一時間ほど経った頃だ

起床時間まであと二時間もある

ここが高所なのもあるのか夏でも少し肌寒い

彼はフィッグスの機嫌が直ったらもう一度寝ようと思っていたが当てが外れた

 

彼は身嗜みを整えることにした

 

昨夜は疲れていたのでシャワーも浴びずに寝てしまった

ローブは流石に脱いでいたが普段着は昨日のままだった

彼は着替えをトランクから取り出し部屋に備え付けられているシャワー室に向かった

 

扉の先には二つの扉がまたあった

左は開き戸でトイレのようだ

右は折れ戸でシャワーがあった

狭い空間にタオルを置く棚と大きな四角い箱があった

彼はその箱を魔法の洗濯機であることを知っている

屋敷に置いてあった

 

彼は服を脱ぎ洗濯機にぶちこんでシャワー室に入った

 

シャワーを浴びて身を清めた

彼はどうやってここまで水を引き上げているのか排水はどうしているのか疑問に思った

魔法の一言で片付いたが

 

さっぱりした彼はタオルで体の水滴を拭き取り服を着た

部屋から出て廊下を歩き寮の談話室に行った

流石に起きている生徒は居ないようでとても静かだ

彼の足音と振り子時計のコチッコチッという音しかしない

 

壁には大きな張り紙が貼られている

ホグワーツの全体図のようだ

かなり複雑な造りをしているので迷いそうと彼は思った

 

彼は本棚に向かった

何か暇でも潰せそうなものは無いか物色した

「基本呪文集」が一~四年生分と「魔法論」に「魔法史」「変身術」が入門、中級、上級に「薬草と茸1000種」「魔法薬調合法」と順序正しく並んでいる

 

どうやらこの棚には四年生までの教科書しかないらしい

他の書物も似たようなもので殆ど屋敷の書庫で読んだものだった

 

隣の棚も見た

こちらはあまり重要視されていないのか雑に納められている

魔法生物の図鑑に占い学の教科書、論文の参考書というものがあった

だがしかし殆ど屋敷にある本だ

あまり興味を引かない

 

中には背表紙のない紙の束があるがわざわざ手に取って確かめるのも億劫だ

 

彼は自室に戻った

ベッドの上にはフィッグスが寛いでいる

彼はトランクからブラシを取り出しベットに腰かけてフィッグスを膝にのせブラッシングし始めた

 

幼い頃からパーマがかかったような毛を真っ直ぐにしようと頑張っているが未だに変化していない

無意味であることに気づき始めた彼だがフィッグスが気持ち良さそうにしているのでこれからも続けるつもりだ

 

彼が真心込めてブラッシングしていると時間があっという間に過ぎ去っていった

遠くから七回音が鳴った

 

「起きな!起床時間だ!」

 

二時間経ったようだ

カランカランとベルの音と聞き覚えのある声で起床を促している

こんなことまでするとは監督生は大変そうだ

 

目覚めの合図と共に物音が発生していく

隣の部屋から鈍い音が聞こえた

誰かが寝ぼけてベットから落ちたようだ

 

彼はフィッグスを膝からどかして立ち上がった

彼の髪は乾いてきているが乱雑に拭いたせいでぐちゃぐちゃになっていることに気づいた

 

身嗜みはしっかりしていないと召し使いに怒られてしまう

これはいけないと感じトランクからドレッサーと椅子を取り出した

適当なところに置いて引き出しから櫛を取り出し髪を整えた

ある程度整ったので櫛を仕舞った

 

シャワーから時間が経っているのであまり意味はないが保湿剤入りのクリームを顔にむらがないように塗りたくった

手を拭ってハンドクリームも手に塗っておく

召し使いに教え込まれた作業は手慣れた手つきですぐに終わった

 

「おい新入生!朝食は大広間だ。さっさと来いよ!」

 

監督生の怒鳴り声が聞こえる

わざわざ教えてくれるとは親切な人だ

彼はローブを羽織って立ち上がった

 

彼はトランクを右手で持ち上げすぐに降ろした

これを持ち歩くのは苦行である

かといってトランクを置いていくのは無理だ

トランクの中には色々と入れすぎている

勝手に使われたら困るものもあるし教科書も入れている

 

彼がうんうん唸っていると魔法を使えば良いのではと考え付いた

というよりも重い物を運ぶときにいつも使っている

なんだか気が立っているようだ

こんな些細なことを忘れるなんて思いもしなかった

 

彼はホルダーから杖を取り出し《浮遊せよ(ウィンガーディアム・レビオーサー)》、と唱えた

トランクはふわりと浮き彼の太腿辺りで静止した

彼の右手が丁度くる位置だ

 

彼はトランクを右手で掴んだ

魔法を行使し続けるのは魔力と集中力が必要だがもっと辛い訓練を召し使いに課せられている

この程度の魔法なら余裕である

 

彼は談話室に行った

先程来たときとは打って変わって騒がしかった

先輩方は大広間に向かうようで鷲のドアノッカーを潜っている

 

彼と同世代の少年少女達がつい先程起きたのだろう寝癖をつけて慌て先輩方の後を追っている

彼女の姿は見えない

先に行ってしまったかと思ったが奥から彼女の匂いがしたので少し待つことにした

 

談話室には先程来た時には無かった大きなボードが六つ壁に貼られていた

一年生から七年生のスケジュール表のようだ

監督生の人が貼ったのだろうか

ご苦労なことである

 

彼は一年生のスケジュール表を見た

今日の授業は「妖精の魔法」「薬草学」「変身術」の三つだ

地図も見て大体の場所を覚えておくことにした

 

振り子時計の短針が8を指し示した

彼女が女子寮の扉から出てきた

ボサボサの髪を必死に手で慣らしている

彼は彼女に挨拶をした

 

「あ、おはようございますレンくん。エヘヘ、友達と挨拶出来るだなんて夢みたいです」

 

彼女は嬉しそうにはにかみながらこちらに挨拶を返した

彼はすごい寝癖だね、と彼女に言った

 

「うう、そうなんですよ。髪のお手入れをせずに寝てしまうと、こんなことになっちゃうんです。しかも普段より酷いことになってますし」

 

彼女は恨めしそうな声で嘆き髪を撫で付ける

昨日みたいなサラサラな髪質になるのは時間がかかりそうだ

彼は友達である彼女が困っているのを見て手助けをせねばならぬという使命感を感じた

よって彼は彼女の背後に回り頭に左手を乗せた

 

「ふぇ?」

 

彼女が間抜けな声を出したが気にせず手の平に意識を集中させた

すると彼女が耳を真っ赤にしてワタワタと忙しく動き始めた

 

「ああぁの私昨日からシャワー浴びてなくて油でベトベトだし汚いし色々とアレだからそのえとえと、あうぅぅ」

 

動かれると集中出来ないので彼は彼女の耳元に口を寄せて動かないで、と囁いた

ついでに臭いも嗅いだ

甘い香りがした

 

彼女はビクッと体を震えさせたあと硬直し大人しくなった

大人しくなったので彼は左手に魔力をためて《清めよ(スコージファイ)》、と唱えた

 

彼の左手が触れた箇所が滑らかになっていく

トランクから離した右手を添えて彼女の髪に手櫛を通していく

一通り通してやれば昨日のようなサラサラヘヤーに戻っていた

寝癖でボサボサだった面影は全くない

魔法というものは便利である

 

彼はトランクを掴んで彼女の前に立ちこれで元通りだ、と彼女に言った

当の彼女は顔を真っ赤にして目を回している

口は半開きで間抜けな顔を彼にさらしている

彼の声も聞こえていないようだ

 

彼女は一体どうしてしまったのだろうか

取り敢えず彼は彼女を眺めながらこちらに戻ってくるのを待つことに決めた

 




監督生の一言
「レイブンクローに成ったからには迷子になる、なんて情けないことはしてはならん。道を覚えてもらうぞ」

なお、着いてきていない奴が二名程存在する模様

4/6 誤字修正しました

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