ハリーポッターと忘却のハルピュイア   作:カネナリ

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五分も持たなかったなと彼は思いながら彼女の手を引いて歩いている

レイブンクローの塔を出るまではよかったのだがホグワーツの廊下には行き交う生徒たちがいる

微笑ましい又は妬ましい視線を一身に受けた彼女は早々に体を離してしまった

 

ローブ越しに伝わる彼女の体は程よく引き締まっている

だがしかしそれがより一層女の子特有の柔らかい体を引き立たせている

彼女はの体は温かく彼の体にジンワリと染みわたった

なにやら甘い香りが彼の鼻腔を擽った

 

彼が何を言いたいのかというと色々と幸せだった

その一言に尽きる

 

彼は人の視線をあまり気にしないが彼女には耐え難いようだ

むしろすぐに離れなかったことが不思議なくらいの恥ずかし具合いだ

彼女をそこまで奮起させた理由は分からず仕舞いだが彼は聞こうとは思わなかった

聞いたら彼女は泣いてしまうと彼は確信している

 

そんなこんなで三階建ての温室に辿り着いた

中には幾人かの生徒とずんぐりとした小柄な女性が植物に水をやっていた

 

ポモーナ・スプラウト教授だ

「薬草学」を担当している

 

スプラウト教授は入ってきた彼に気づき一年生は二階に行きな、と言い階段を指差した

彼は彼女と共に言いつけ通りに二階に上がった

普通の教室であった

 

知識はここで学び実施訓練は一階でする形であろう

三階には器具でも置いてるのだろうと思いながら一番後ろの席に着きトランクを置いた

 

終始無言であった彼女は彼の左に腰かけて机に顔を伏してしまった

両手を頭に置いて身悶えている

 

「(嗚呼っ、私ったら友達になんてはしたないことを。カチンときてついやってしまいました。し、しかもあんなに人目があるところで!でも、レンくんの体、鍛えられていて触り心地よかったなぁ。それにずっと嗅いでいたくなるような良い匂いがして……て、これじゃあ私変態さんじゃないですか!)」

 

成仏しかけているゴーストのような呻き声を発し髪を振り乱し始めた

彼はお、おい!突然どうした、と豹変した彼女を宥めて落ち着かせた

綺麗だった髪がぐしゃぐしゃになっている

 

「(嗚呼、またレンくんに迷惑かけちゃいました。やっぱり、私なんかが友達を持つなんて烏滸がましいこと、許されるわけないですよね。私、なんかが)」

 

瞬間、フラッシュバック

彼女の脳裏には幼き頃の情景が映し出された

薄暗く、じめじめとした嫌な記憶だ

彼女の足元には階段の踊場から転落した少女が横たわっている

 

足は関節とは逆の方向に折れ曲がり

右肩から腕の折れた骨が突きだし左腕はネジ切れている

仰向けの姿勢であるのに少女は彼女に後頭部を見せている

不思議なことに少女の遺体からは血の一滴も流れていない

たった十二段の階段を転げただけでは説明のつかない惨状であった

 

「…っ!」

 

彼女はここ最近思い出すこともなかったトラウマを明瞭に思い出してしまった

彼女の体は心臓を締め付ける痛みを発した

これ以上思い出さないようにと

 

彼女が踞ってしまった

様子のおかしい彼女は何か嫌なものでも見たのか体を震えさせている

胸元を握りしめて荒い呼吸を繰り返している

 

彼は彼女の頭を慰めるように撫でて乱れに乱れた髪を整えていく

 

こういう時にどう声をかけるのか彼は知らない

それに声をかけても無駄だろう

今の彼女の心に届くことはないのだから

 

よって彼は行動で示すことにした

左手は背に置き心臓のリズムで優しく叩いた

右腕は体の前に通して彼女の肩を掴んだ

所詮横抱きというやつだ

 

彼女の体は驚くほど冷たかった

先程感じた温もりはどこにもなく体の奥底から染み出てくる冷たいものに体を震わせている

 

彼は優しく、しかし力強く抱きしめた

母がいつもしてくれていたように、愛の心を込めて温もりを分け与えていく

 

それが効を成したのか彼女は段々落ち着いてきた

強く胸元を握りしめていた手は膝の上に置かれている

荒かった呼吸は平常に戻り緩やかな呼吸を繰り返している

 

そこにスプラウト教授がやってきた

長いこと教師をやっているからか彼女の様子にすぐに気づいた

 

「おやおや、その子大丈夫かい?」

 

彼は彼女の体調が優れないので医務室に連れていくことをスプラウト教授に話した

 

彼女を立ち上がらせた

右手にトランクを掴み左手を彼女の背に回しふらつく彼女の体を支えた

彼女の顔色はひどく青白かった

 

「医務室への道は分かるかい?」

 

彼は既に医務室への道を知っていることを伝えた

 

温室から出て城に入った

やけに長い廊下を歩いて医務室に向かう

彼女の足元は覚束なく視線は虚空をさ迷っている

放心状態である彼女がポツリと呟いた

 

「レンくんって、すごく優しい人ですね。私みたいな人にも親見になって接してくれますし。やっぱり、私なんかが友達に「その先は言うな」」

 

彼女が言ってはいけないことを口にしようとしていた

彼は彼女にそんなことを言われたら嘆き悲しむことになる

 

「その先を言ったら僕も、リラちゃんも、苦しい思いを味わうだけだ。僕とリラちゃんは既に友達なんだから、今更取り消すなんてことを僕はしてほしくない」

 

そう彼は彼女に言った

責めるようでされど懇願するかのような口調で彼女に言った

 

彼の言葉を聞いた彼女はポロポロと涙を流し始めた

 

「ご、めん、なさい、レン、くん。ごめん、なさい」

 

しゃくりあげながら彼に謝罪した

自分勝手な思いで彼を不快な思いにさせた

彼の思いを考えずに最低の言葉を発するところだった

自己嫌悪と彼への罪悪感に苛まれ彼女は今深い後悔の念に蝕まれている

 

そんな彼女を彼は許しそして謝った

強く言いすぎてしまった

心が弱っている人に追い打ちをかける卑劣な行為だ

真に謝るべきは彼の方だろう

 

医務室に辿り着く頃には泣き止んでいた

しかし彼女の目元は赤く腫れて泣いていたことがバレバレだ

 

扉を開け誰かいないか尋ねた

奥から女医さんがやってきた

 

「あらこの子、大分心が弱っているよ。取り敢えずベットに寝かせましょうか。貴方たちお名前は?」

 

彼女は答えれそうになかったので彼は彼女の名前と自分の名前を伝えた

女医さんに案内され空いているベットに彼女を寝かせた

 

彼女は弱々しい力で彼の手を握った

どこにも行かないでと言っているようで彼はなんともいじらしい思いに囚われた

両手で彼女の手を握り返してどこにも行かないよ、と彼女に言った

 

彼女は暗い表情を安堵の笑みに変えて安らかな眠りに着いた

これで彼女の心も落ち着いてくれるだろう

彼女の過去に何があったか知らないし知りたくもない

だけどいつかは彼女は彼に明かすだろう

その時は心から彼女を受け止めてやろうと彼は思った

 

「この子は幸せ者だねぇ。こんなに想ってくれる男の子が側に居るなんて。」

 

彼は放っといてくれとそっぽを向いた

 

「しっかし妬けるねぇ。そんな年で女の子を泣かすなんて。プレイボーイになるつもりかい?」

 

彼は誰彼構わず彼女に接するように振る舞うつもりはない

彼女だからこそこんなことをしているのだ

だってしょうがないじゃないか

 

 

一目惚れだったんだから

 

 




マダム=ポピー=ポンフリー先生は医務室で関係ないことをしているとダンブルドアでさえも追い出すような人だ。
先生は彼女の心理状態に彼が必要と判断したので、彼を追い出しませんでした。
それってつまり、彼女は…?

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