早弁の誘惑に耐え抜いた戦士達に待ちに待ったお昼休み到来。
男子生徒達はキャプテンで有る好野のクラスに集まりお昼ごはんを共にする。
だが其処で悲劇が起きる…
「……」
俺は自分の弁当を開けた瞬間言葉を失う…
二段弁当の内、1段目は白米が敷き詰められ梅干しが添えられた極一般的な日の丸弁当。
そう、此処までは良い…
問題は2段目の……本来なら主菜、副菜と色とりどりに配置されるオカズの段に土色をした歪
「好野君…何でやんすかそれ?」
「……生姜」
俺のカミングアウトに思わず吹き出しそうになる部員達。
だが寸での所で堪える。
いやもう…ひと思いに笑ってくれよな…
「そ、それが生姜でやんす?」
矢部君が物珍しくジロジロと観察する。
確かに普通の家庭なら生の生姜とか先ず見ないからね。
『えっ? キャプテン。それどーやって食べるんッスか?』
「どーやってって…丸かじりに決まってるだろ?」
『いや、初めて見たんで分かん無いッスよ!?』
まあ…そうだよな普通。
普通生姜のイメージって、お寿司屋さんのガリとか摩り下ろして薬味もしくは刻んで生姜焼き、後は牛丼の紅生姜が一般的。
てか母さん酷いよ…せめて皮は剥いといてくれよな…
「クソッ…!」
もう面倒だから“皮”事かぶりつく!
『∑!?』
うっ…口いっぱいに生姜の味が…
そしてボリボリとした音が辺りに響く。
「お、美味しいでやんすかソレ…?」
「…食べる?」
遠慮するでやんす…と、やんわり断れた。
「∑うわっ好野君! 何食べてるのそれ!?」
「生姜」
早川姉妹とはるかちゃんも俺の弁当に目を見開き驚愕する。
気付けば周りは食事を済ませており、俺だけが全く箸が進んでいない。
「ボク…初めてみたよ…」
「私も…」
そりゃそうっしょ。
俺も一目で分からなかったもん。
「あっ…ちょちょっとお姉ちゃん部室に案内して来るから!
後ハイ! これお姉ちゃんの入部届!」
俺の机の上に入部届を置き、苦笑いで顔を引きつりながらあおいちゃん達女子陣が退室する。
『キャプテン!ファイッ!』
「オイラ達が付いているでやんす!」
ありがとう皆…
・
・
・
「いや……あはは」
「ストイックな子なんだね。好野君って…」
あれが本当の食トレ…
僕も男の子に勝つにはあれ位―
「それは駄目!!」
「えっ!」
僕の思考を遮る様にいきなり妹からの指摘の声が入る。
「お姉ちゃん、絶対に真似しようとしたでしょ?」
「うっ…」
図星を突かれ、葵は言葉を詰まらす。
「どうせ“アレ”をメンタルトレーニングか何かだと思ってるんでしょ?」
「う、うん…」
葵は只首を縦に振るのみ。
「はぁ……
お姉ちゃん、ボクはあんなお昼ごはん食べるお姉ちゃん見るの、ぜっーーーーたいにヤダだからね!」
妹の力強い発言、そして曇り無きパープルカラーの瞳が僕を真っ直ぐ見据える…
「わ、分かったよあおい…」
「うん! 素直なお姉ちゃんは大好きだよ♪」
僕が了解した事に笑顔が戻る妹。
「あおい凄い…何で分かったの?」
「まあ…なんとなくかな?
てか好野君、お姉ちゃんにあんなゲテモノ料理見せるなんて許せない!」
「まあまあ」
・
・
・
「んぐ……っしゃ!」
最後は白飯で流し込む。
―勝った…!
俺はやり遂げたぞ…!
『カッケーーー! キャプテン!』
「男の中の男でやんす!!」
部員達から拍手喝采。
「サンキュー皆!」
俺は最高の部員達を見に入れてたぜ!
そして家に帰ったら1言、2度とこの最悪のメニューは止めてくれよと言うつもり。