仮面ライダーゼロワン 自滅のサンダーボルト   作:仮面ライダーさん

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ゴリラじゃないゴリラ、ドードー、キリン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブレイク……ダウン!

 消耗するという意味もある、滅亡迅雷の仮面ライダーが変身するとき、何度も耳にしたその機械の声は。

 澪という少女が、本当に死にたいと思っている心境を表しているようだった。

 仮面ライダー雷に酷似する姿。然し、その胸にはアサルトウルフと同じくアークへの接続端末がある。

 警戒する刃は気付いた。あのリングに嵌まった紅いレンズは……色の濃淡が変わっては、鼓動をしている?

「なんだこの音……? あの子か?」

 心音にも聞こえる、規則正しい継続的なその音は、帯電しているドードーレイダーと名乗る澪から届く。

 不破にも聞こえ、不気味な少女に彼は銃口を下げようか迷う。

 やはり、恥を承知で頼んでよかった。刃は横目で見て思った。

 飛電インテリジェンスの社長のように、話し合いで解決しようとしないだけまだいい。

 彼女は最初あったときから危うげな雰囲気の女の子だった。

 暗い闇を抱えて、誰にも話せない、信用していない目をしていた。

 実際こうして見ればよくわかる。彼女の周囲には、マトモな大人がいないようだ。

 それが、自分であり、天津垓という人物であり、不信感しか抱かないのは仕方無い。

 ZAIAは、そういう会社だから。

 そんな彼女には恐らく、言葉は通じない。

 説得に応じる前に、適度に叩き潰してしまった方がいい。

 その方が結果的に消耗しないで済むと踏んでいた。

 不破は単細胞のゴリラだが、割り切りがあの社長よりは出来る。

 一緒に一時期的とはいえ、戦ってはいない。信用出来る男と見込んでいる。

「らしいな……。不破、分かっていると思うが」

「話は見えないが、あの子は民間人なんだろ。なら、俺の戦う相手じゃない。ZAIAも、飛電インテリジェンスも無関係の、ただの子供。そういうことにしておく。顧客だろうが何だろうが知るか。勝手に癇癪起こすお子さまには、一発キツいのをぶちこんで反省させてやるよ」

「バカかお前は!? そういう意味じゃない!!」

 ……信用できるがこいつは単細胞のゴリラだった。

 殴れば分かるとか、そういう意味ではない。

 確かに全く知らない不破からすれば、突然癇癪を起こすお子様にしか見えないだろう。

 分からなくもない解釈だが、刃は慌てて訂正する。

「あの子は……死にたいといっているんだ。叩けばなおのこと、思う壺だ。手加減して宥めろ」

「出来るかそんなもん。子供には叱るのが一番だ。レイダーなんぞになりやがって、全く。自分の意思なら怒らねえと何時までもああ手合いは……」

 価値観の違いか、不破の根性論か。

 小声で揉めている二人を尻目に。

「なに、喋ってるのよ。来ないなら、此方から……!」

 と、澪は襲いかかろうとして。

 不意に、そのまま一歩を踏み出して倒れた。

 前から、力なく。

「澪ちゃん!?」

 ドサッと、乾いた軽い音がする。

 ドードーレイダーは、帯電したまま横たわった。

 鼓動が、徐々に弱まっているのに不破が気付く。

「おい、お前……まさかそれ初めて変身したのか!? バカ野郎、早く変身を解除しろ!!」

 叱るように怒鳴る不破。

 駆け寄って助け起こす刃も抱き上げ、

「ぐっ!?」

 紅い電撃に弾かれる。思わず離してしまうと、ノロノロと起き上がる澪。

「うっさいなぁ……。ねえちょっと、アーク……戦いかたの前にマトモに動けるようにしてよ……。このままじゃ悔いしか残らないんだけど……?」

 独り言のように、アークという名前を出して要求している。

 ゾッとする刃と不破。彼女は今、アークに接続している。

 悪意の根源とも言える、あの存在に。なのに、ハッキリと自我を保っている。

「澪ちゃん、今アークって……。もしかして自分から接続しているのか!?」

 フラフラしつつ、刃の言葉など聞いていない澪。

 駆け寄る彼女に腕を振るう。軌跡から走る紅い雷撃。

 咄嗟に腕を交差させて防ぐ。然し、防御したのに貫通した。

「うわっ!?」

「刃、そいつを侮るな! 名前が違うがそいつは滅亡迅雷の仮面ライダーと同じだ!!」

 不破が前に立って、追走するそれらから彼女を庇った。

 以前食らって慣れているとか前に出て言うが、少なくとも痛みはあるだろうに。

「不破!」

「黙って聞け。その場に居なかったお前は話しか知らんだろうが、あれは前に俺がアサルトウルフで倒したはずの奴なんだ。……確かに撃破したはずなんだがな。そっちの社長がドードーゼツメライズキーを回収していたとは驚きだぜ。挙げ句に子供にそんなもんを渡すか。どうかしているぞ」

 説教のように言いながら事情を語る。

 雷撃を使い、二刀流の羽を模した剣を持っている。

 暗殺者のような多彩さはないが、アサルトウルフの猛攻にも耐えきる頑丈さがある。

 総合して、技の技術力は下がったが基本的性能は大幅に上昇している。

「おい、お前。名前は?」

 体勢を立て直し、立ち上がった澪に穏便になるように不破が訊ねる。

 帰ってきたのは悪口だった。

「ゴリラに教える名前はないわよ」

「ゴリラって言うんじゃねえ!!」

 最近ヒューマギアにすら真顔で貴方はゴリラですか? と二度も聞かれてキレた不破。

 子供にまで言われて反射的にキレる。

「大体俺には不破諌って名前があるんだよ!」

「ふーん……どうでもいいよ、どうせ殺すし」

 澪は聞く耳を持たない。名乗りもせずに、殺すと断言する。

「殺せるのか、そんな変身がやっとの状態で」

 やはり弱っているのか、鼓動が不規則になりつつあるのを二人とも聞こえ分かっている。

 聞こえないのか、澪は気づいていない。

 不破が挑発するなと後ろで言う刃に任せろとジェスチャーで示す。

「勝てる勝てないじゃない。死ぬか殺すか。あたしはそれだけでいい。あんたがあたしを殺せば、全部終わるよ」

「生憎とAIMSなんでな。子供相手に出来るかよ」

「じゃあ、あんた以外の人間を適当に殺ってくるわ。それじゃ」

 澪は衰弱しているのを自覚して、殺すのは無理と判断。

 敵対する気もない。詰まりは時間の無駄であり、澪の敵じゃない。

 そう判断して、自分の敵を探しにいこうとふらつく足で踵を返す。

 だが。

「なんだよ。意気込みは最初だけか。良いぜ、俺達に勝てば殺してやるよ、勝てればな」

 一転して、好戦的に不破はかかってこいと誘った。

 振り返る澪に、不破は言う。

「そんなに死に急ぐなら俺達にぶつけろ。俺達は歴戦の仮面ライダー。初回のお前とは経験値が違うんだ。拘りでもあるなら別だが、お前もレイダーになったんだ。戦いの中で死ぬのも悪くねえとは思わねえか。戦うならその瞬間だけ、俺はお前をレイダーとして相手取ってやる。少なくとも、アークなんぞの言いなりでただの人殺しになって死ぬよりは、カッコいいだろ?」

「…………まあ、死ねれば何でも良いけど」

「決まりだな。こいよお子様。俺達に勝ってみな。そうしたら、引導を渡してやる」

 不破は子供相手には戦わないが、誘いに乗るならレイダーとして普通に戦うと誘った。

 被害を最小限に留めるのには、最低でも澪を当初通りに叩き潰すのが一番早い。

 条件はハッキリさせた。死にたきゃ勝て。それだけでいい。

 視線を釘付けにして、この場から逃がさない。話を聞く気がないなら譲歩する。

 上手く考えた、と刃は感心した。成る程、ゴリラでもそういう思考はできるらしい。

「いいよ、ゴリラをぶっ殺せばいいんだね。上等じゃない。殺ってやる」

 澪は中央のレンズを紅く明滅させながら放電して、声に喜びと期待を込め、笑った。

「刃、お前も来い。あいつは本気で殺しに来るぞ。嘗めてかかると、今のお前じゃ死ぬ」

 仮面ライダーとしての、バルキリーの性能は既に遅れている。

 ドードー相手には初期ですら敗北しているのだ。

 幾度の激戦を経て雷にまで成長、発展したドードーレイダーには不利。

 不破はアサルトウルフなら、対抗はできるとプログライズキーを取り出した。

「お前も、身体は大丈夫なのか?」

 一時期多用したアサルトウルフ。

 刃の心配通り、此方も相当な負担を身体に強いる。

 然し不破は。

「こんなもん、鍛えて鍛えて身体を堪えられるようにすれば問題ねえ!!」

(やはり澪ちゃんの言う通りゴリラかこいつ……)

 戦う専門家として、食事と睡眠とトレーニングで根本の身体を極限まで強化して鍛えた。

 結果的に大丈夫になった。どういう意味だ。負荷に堪えきれるとかそういう問題じゃない。

 不破はそう言っているが理屈はたぶん違う。本人がそう思っているだけ。

 刃は思う。要するにプラシーボ。単細胞による思い込みで無意識でダメージに鈍化していると見る。

 もっと言うと無事じゃないが身体が思い込みで多用してもその内慣れてしまったので痛みを感じない。

 不破らしい理由だと呆れていた。

「そんじゃ行くよ。ぶっ殺してやる狼ゴリラ!!」

「とうとう混ぜやがったな!?」

 軽く準備運動をしてから、いきなり走ってくる澪。

 言った通り、普通に対処する不破は銃撃で応戦。

 被弾するも、澪は気にしない。火花を散らして殴りかかる。

 防御をしない。捨て身だった。回避もないので全部当たる。

 なのに勢いが止まらない。

 雷鳴を四方八方に撒き散らして、自爆するように直線的な軌道で突っ込む。

 あまりにも広範囲に電撃を走らせるために、周囲の地面が抉れる。

 予備動作の大きいパンチは空振りし、その隙に渋々迎撃する刃が無防備な背中を撃った。

 滅茶苦茶な雷撃も見て動けば避けるのは容易。

 無差別に放っている余剰火力と見た。事実、一撃も入らない。

 白煙をあげて直撃するも、澪は全く気にしてない。

「しっかり堪えろよお子様! 俺の本気は痛いじゃ済まねえぞ!!」

 ショットライザーからプログライズキーを引っこ抜き、隙を見て準備していたアサルトウルフに装填、トリガー引く。

 

 オーバーライズ! レディーゴー! アサルトウルフ!

 

 何時も社長に噛みついては叩かれるアサルトウルフ。

 流石に彼には不利でも、今回ばかりは有効だろう。

 群青の色になった装甲に、同じアークのリングを胸に刻む、生き残る術がない狼の姿。

 全身に火器を仕込んだ、戦うための不破の本気。

「同じリング……? どうして? こんな可愛くないゴリラの方のゆるふわにアークが……」

「動揺してるのそっちか!?」

 刃に背を向けて、初めて怯む澪。

 刃が思わず叫ぶ。

 彼女は不破の姿に動揺していた。但し理由は不破のような可愛くないゴリラとかいうマジで酷いものだった。

 尚、澪がちょくちょく言ってるゆるふわとは、魔法少女的アニメのマスコットキャラクター。

 デフォルトされている可愛らしい白いテディベアであり、こんな物騒な全身に火器を仕込んだ狼でも無ければ単細胞のゴリラでもない。

「お前は俺に喧嘩を売ってるのか!! 俺はゴリラじゃなくてウルフだ!!」

「五月蝿いゴリラ! おっさんが言うならゴリラなんでしょ!! 良いから死ね!!」

 一言も言ってない。天津垓、珍しく風評被害。

 キレた不破の腕の銃弾と肩の爆撃を同時に澪に叩き込む。

 澪も若干、元通りになりつつ雷撃でアサルトウルフにぶちこむ。

 ドードーレイダー、アサルトウルフの双方の全力攻撃。

 硝煙と黒煙で見えなくなる。その間、刃はあるものを発見した。

 よく見るとドードーレイダーのベルトには大量のホルダーがあり、澪の貰っている予備のプログライズキーが刺さったままだ。

 レイドライザーは一度に一つしかゼツメライズキー然り、プログライズキーを差し込めない。

 まだ、彼女のレイダー姿は武器を持ってない。なら、今がチャンス。

(電撃に強いプログライズキー……。なら、あいつを使う!)

 開発顧問をしていた以上はプログライズキーはそれなりに詳しい。

 ドードーレイダーにうってつけのちょうどいいのがある。

 澪も律儀に持っていたので、素早く接近して拝借。抜き取った。

「ゴリラに負けたら恥だ、死ぬ前の恥!」

「俺は狼だ、ゴリラじゃねえ!!」

 聞いちゃいない二人のやり取りを内心実は仲良くないかと一瞬思う刃。

 さっさとショットライザーの中身を取り替え、加勢する。

 

 エレクトロリック!

 

 電撃のプログライズキーは持っているが、こいつには大容量のバッテリーが内蔵されている。

 電撃を自分のパワーにできるなら今でも戦える。

 描かれた絵柄はキリン。そう、こいつの名前は……。

 

 ショットライズ! スパーキングジラフ!!

 

 回転した銃弾を受けて装備変更。

 胸部のアーマーがキリンの模様になり、頭部には電極のように二本の角が生える。

 首回りにも模様の入った追加装甲が仕込まれる。

 手の甲と脛にもキリン柄の模様が入った、これこそが。

 仮面ライダーバルキリー、スパーキングジラフ。

 ドードーレイダーの天敵、電撃が通じないキリンなのであった。


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