仮面ライダーゼロワン 自滅のサンダーボルト 作:仮面ライダーさん
天津垓は、異変に気づく。
部下が都合の悪い行動をしている。刃だ。
彼女は澪を引き連れ、何処かに向かっている。
彼女は甘かった。天津垓は、自身の不利益になる事は徹底的に避ける潔癖主義。
ならばどうして、部下の管理ができないと思われる?
(おやおや……どうにも、彼女は教育が足りないようだ)
優雅に急遽入った取り引きなどしている場合ではない。
いや、これも重要な役割であるが。何せ、もうひとつ有益な駒が手に入る。
飛電インテリジェンスに思想は近いが、胸の底には強烈な悪意を抱いている。
悪くない。この憎悪、アークには適していると垓は判断する。
矛盾した行動をしている、偶然なのか澪の学校のクラスメイトが、何処から聞き付けたのかレイドライザーの購入を検討したいと商談してきた。
言い値で買う。金持ち特有の雑なお会計で、ぼったくりでもなんと倍額を出して購入したのだ。
計算通り。垓は内心笑う。
あいつを使ってレイドライザーをばら蒔いた価値があった。
このお仕事勝負において、目撃者を出した価値があると言うもの。
巷では仮面ライダーとは違うものを使い、ヒューマギアと戦う謎の存在がいると噂を流しておいた。
人間がヒューマギアに負けない為に、若干悪用したがそこは都合よくお得意の情報操作で握り潰した。
ZAIAは悪くない。人間が自衛のために開発した兵器を悪用したそいつが悪い。
それが真実。マスコミなど簡単だ。圧力をかければ、すぐに黙る。
それでも真実を求める記者は居ない。ヒューマギア暴走の一件で、以前からヒューマギア反対の風潮がある。
ZAIAは正義の会社。飛電インテリジェンスがいくら何を言おうとも、そもそも滅亡迅雷がヒューマギアである限り、何も知らない世間に管理責任を常に問われ、追い込まれている。
垓の計画は滞りなく1000%順調に進んでいる。
いや、それすら既に超過した。
想定していない嬉しい誤算はどんどん増えていく。
レイドライザーは老若男女、多くの人間に安全安心を謳って使えるとアピールしないといけない。
詰まりは、年寄りと子供の実験が足りない。
年寄りは宛がある。澪の祖父。自分も買おうと考えているらしい彼にも与えるとして。
問題は澪以外のモルモットが欲しかったこと。
澪のはスポンサー特権の特注品。テスターとしては澪は上等だが、危険な方向に転がる予定。
彼女は高い確率で、滅亡迅雷に覚醒する。ゼツメライザーのデータを流用した時点でわかってはいた。
ヒューマギアを暴走させる道具を人間に使えるようにして、多少の緩衝材を挟んで安全性を高めていても、アークとのダイレクトの接続は免れない。
根本は弄っていない。機能はそのままにしておいた。
言い換えれば、人間がアークに強制的に脳内を支配される。
生きたまま、生身の脳味噌をヒューマギア宜しく書き換えると分かっていた。
前例のない、予想だけのデータだが垓は確信している。
澪は、完全な人間で唯一滅亡迅雷となり、第三勢力に成長する。
アークの悪意に賛同し、垓の理念を邪魔をせず、寧ろ利用できる都合のいい死地をさ迷う新たな雷として。
緩衝材を挟んで無ければ一度で頭が情報に堪えきれずに死ぬ。
純粋な悪意のみを抽出できるように、アーク制作者の意地を見せた結果。
ある意味では、澪のレイドライザーも垓の満足できる芸術品と言えた。
澪が死にたいと言っているのは垓は早々に承知していた。
だから、思い通りにしてやった。澪は多分それを分かっている。自覚しているだろう。
テスターという名目の実験台。道具にされていると。
賢い娘だ。いや、ずる賢いと言い直そう。
あの悪意はアークに更なる進化を遂げる鍵になる。
(自滅のサンダーボルト……と言うことか。悪くない、そのまま好きに振る舞うといいお嬢さん)
だが、澪には死んでもらっては困る。まだまだ彼女には働いてもらう。
死ぬまで望み通り、躍り狂うがいい。狂気の鳴き声を上げて、凶暴なドードーは敵を啄む。
殺してほしいなら、垓が用意してやる。どうせ死ぬなら役立て、と言わんばかりに。
「レイドライザーのお買い上げ、ありがとうございますお嬢様」
「……ふん。ZAIAが何であろうが、商売なら文句ないでしょ。うちのリリーに手を出す奴はぶっ殺すまでよ」
憎しみを燻らせる面白い女の子だった。
そして、とても危険な女の子。
揉み消しを受けているが、この子は殺人未遂を数回起こしている。
何れも過激派の阿呆が彼女のヒューマギアを正当な理由なく破壊しようとした結果、彼女はスコップで相手の頭を叩き割った。
ヒューマギアを守るためなら、人殺しをいとわない此方も過激派の思考。
今の風潮に真っ向から戦争を挑み、実家が政治家である彼女の家は、大抵の事は消し去れる。
事実それ以外にも自分のヒューマギアの為ならば人を階段から突き落とす、河川に向かって蹴飛ばす、縄で絞殺しようとする、その他諸々。
彼女の両親が将来政治家にしたいから、子供の仕出かした事を黙って消してしまうため、倫理観がまるでない。
敵対したら人間はぶち殺す。未然で防がれるからいいが、既に未遂は何度もあった。
「悪用はしないでくださいね」
「あんたには関係ないわよ。買えば私のものじゃない」
「此方にもイメージがありますので」
「知るか」
ワガママな気質で、典型的な依存型。
垓の敵にしかならないが、生憎と垓はその両親と知り合いであり、彼女の行動は筒抜け。
残念ながら口だけは言っておいたが、何かしても結託した両親が消す。いつも通りだ。
狂っている。この子はまさに頭がイカれている。
「一之瀬杏さん。くれぐれも、悪用は……」
「くどいわよ、おじさん。何かあっても、それは私もZAIAも悪くない。当然のことじゃないの」
一之瀬杏。石動澪の知り合い。
現時点で量産は出来ているうちの一つをお買い上げして、彼女は去っていった。
セットでついているプログライズキーは、澪が以前確保した量産検討用の試作品。
別物で間に合いそうなので、処分も兼ねて売ってしまった。
背後で、バカにするように見送る垓は次に向かう。
どうも、また飛電インテリジェンスのあの男がレイダーを確認をして向かっているようだ。
今回は正式なテスター。文句を言われる筋合いはない。
まあ、兎に角……急いで向かおう。きっと、面白いことが起きているだろうから。
「おのれ、可愛くねえゆるふわゴリラァッ!! 死ねって言ってるだろうが!!」
「うるせえよこの野郎!! あくまでゴリラ固定かテメェは!?」
「喧しい!! このプログライズキー抉じ開け太郎!! ゴリライズ!!」
「言いたい放題言いやがって!! だったらお前のゼツメライズキーも抉じ開けてぶっ壊してやる!!」
「精密機械の扱いも知らない脳味噌筋肉が何言うのさ!」
「独自のロックを刃がかけてるんだから仕方ねえんだよ!」
……何をしているのだコイツらは。
刃はスパーキングジラフに変更して、やる気が失せながらも近寄った。
同レベルの口喧嘩と至近距離で殴りあっていた。
アサルトウルフの蹴る殴るをノーガードで堪えて、ドードーレイダーは相手の首を掴んで放電している。
「ぐぉおおおおお!?」
「どうだ! 少しは効いたかこんちくしょう!!」
野太い不破の絶叫は、聞いていて気持ちのよいモノじゃない。
刃はもう、面倒臭くなってきていた。子供の喧嘩か。戦争の空気など皆無だった。
鼓動が激しく不規則になっているのが心配なので、救急車の手配も変身したまま準備しておく。
白煙をあげる不破は、一度力が抜けるが、
「……まだまだぁ!!」
踏ん張って復活。頭突きをかまして怯ませる。
「んぎゃあ!?」
澪が顔を押さえて一歩下がる。
そこに好機と殴りかかる不破。一応手加減はしているが、何時もよりムキになっているのは気のせいか……?
「どいつもこいつも俺をゴリラ呼ばわりしやがって!! 何処がゴリラだって言うんだ言ってみろ!!」
「不破、落ち着け……」
刃が知らぬ間に何があった。子供相手に激怒している不破は、よろめいた澪をひっ掴んで引き寄せ怒鳴った。
仲裁するように、刃が彼の手を取るが、
「怒った顔が威嚇するゴリラそのものなんだよ!!」
澪も負けじと怒鳴り返して、今度はもっと強く電撃を通り越して雷撃を流した。
放電の音が周囲に響き、スパーキングジラフのおかげで刃は大丈夫だが……。
「んぐぁあああああああ!?」
不破、再度の電流に絶叫。これは痛い。
刃は知らないが、雷相手の時も何度か電撃を浴びているものの、その時も重傷だった。
今回は至近距離で、尚且つパワーアップしたドードーレイダーの攻撃は、性能の上がってないアサルトウルフには前回以上によく通る。
勝手に胸部のアーマーに充電される刃に、澪はあまり気にしてないようだった。
「刃さんもこいつゴリラだって思うよね!? ゴリラの癖にアークのリングつけやがって! 滅亡迅雷にゴリラは要らねえってアークも言ってる!」
「澪ちゃん、その辺後で詳しく聞かせてくれないかな?」
やっぱりアークに接続しているのか、それらしい事を言う澪に、約束は取り付けた。
不破をこの際使わせて貰おう。穏便な解決にはゴリラの犠牲がつきものだ。
「別にいいけど、どう思う!?」
「単細胞のゴリラだろうな」
「刃ァッ!!」
澪の様子も落ち着いてきている。問題はゴリラ……じゃない、不破と喧嘩していること。
さっさと同意してこの拍子抜けの茶番を終わらせよう。
ゴリラが吠えているが、ぶっちゃけ野良犬よりは好評だと思うのは刃の気のせいか。
「お前を信用はしているが、それとこれとは話が別だ。言わせてもらえば毎度お前が力ずくで破壊していたプログライズキーを修理していたのは私なんだぞ不破。教えたはずだ、プログライズキーの使い方」
「そんなもんまどろっこしくて読んでいられるか!」
「……前にもそう言ったなお前」
一緒に組んでいた頃が懐かしい。
指図をするな、俺がルールだ、俺は自由にやる。
そんなことばかりを言う男だった。刃が上司だったのに歯向かってばかり。
挙げ句にはプログライズキーを変身する度に破壊しては、悪びれずに返す。
やり方教えたのにまどろっこしいと抉じ開けるし。
「思い返してみたがお前はウルフじゃないな。やっぱりゴリラだ、抉じ開け太郎」
「お前まで言うのかそのフレーズ!?」
割りと語呂が良い、抉じ開け太郎。
組み合っている澪と不破、刃。
丁度その頃、見慣れた高級車がこっちに来たのが見えた。
不味い。垓が発見して追いかけてきたようだ。
「時間切れか……。済まない不破。ここは一度黙って犠牲になってくれ。後で詫びる」
「あぁ!?」
垓の登場を察知して不機嫌になる彼に先んじて謝る。
澪に同時に最大火力でぶちこむと提案した。途端に慌てる不破。
「何でそうなる!?」
「諸々後処理の都合だ。本当に悪い、このまま転がっていてくれ。……澪ちゃん!」
「えっ? 殺していいの?」
「このゴリラがその程度で死ぬわけがない。次回に回そう」
約束は次回にしようと反故にしないで保留にしておく。
すると、落ち着いた澪は渋々従った。逃がさないように掴んだまま。
「分かった。じゃあ、遠慮なく死ねゴリラ」
「はぁ!? おい、流れが見えない……」
「悪い、本当に悪かった不破」
スパーキングブラスト!
ゼツメツボライド!!
銃口をアサルトウルフの胸部に押し付ける刃。
レイドライザーの赤いボタンを押す澪。
莫大な深紅の雷撃を放ったドードーレイダーの攻撃をスパーキングブラストで吸収、一体化して理不尽に不破にぶつけた。
言うなれば、仮面ライダーとレイダーの合わせた必殺技。
結果、不破は死ぬ。
「ぐわああああああああ!!」
……彼方にまで吹っ飛ぶアサルトウルフ。
断末魔をあげながら、空中で大爆発。見事に綺麗なお星様になってしまった。
内心土下座の刃と暴れてスッキリした澪は変身解除。
で。
「澪ちゃん!?」
澪はそのまま、昏倒してしまった。
倒れる澪を助け起こす刃。向こうで呻く不破さんは……尊い犠牲なので割愛。
意識を失い、垓が駆けつけ事情は後でいいと言われるまま、澪は医者に澪は担ぎ込まれるのだった。