熱い…熱いよぉ誰か、助けて…
地獄のような現実で、泣くことしか出来なかった私は、魔王の甘言に誘惑されて異世界に転移した。
「あぁ、また失敗だ」
そして、あの冷たい瞳を見て私は死を悟った。
「まて、ゴミかと思ったが、コレは炎への適正がありそうだ」
魔王は言う。お前に少しばかりの猶予をやろう。物として使ってやる。
もしかしたら助けてくれるのかもしれない。安堵した私を嘲笑うかのように、
「お前に肉体をやろう」魔王は赤い化け物を召喚した。
『オォォォ』『ふむ、私が住むにしては随分と質素だが……まぁ良いだろう』
赤い化け物が、体の中に入ってくる。
「熱いッ」
全身を焼けるような痛みが襲い“私”はたまらず悲鳴を上げた。
『ぶひぃぃぃ!!!!おい貴様!ルームメイトを焼豚にするつもりか!!!!』
『……オォォォ?』
『全くこれだから現代の若者と言うものは!家の中で火遊びなんてするもんじゃありません!お外で遊んできなさいっ!』
私が……私で、なくなって「うぷっ……ちょっと吐きそう……オボボボボ」
吐き気を覚えた私は“それ”を我慢出来ず胃液と共に嘔吐する。
『くくくっこのハウスは私一人の物だ!』
それから、どれだけ経ったか。
目を覚ますと既に夕暮れで……心なしか体が軽く、酷い火傷を負っていた筈が嘘のように消えていた。
「……誰もいない?……逃げなきゃ!」
井沢静江(いざわしずえ) 四歳。
冒険の旅が始まる。
「待て、家主どの」
……と、駆け出したのも束の間、謎のピンク色の煙と共に現れたのは「……子豚?」「誰が子豚だ!?」
幼いシズエには、紫色のズボンを履いた喋る子豚以外の何者にも見えなかったが、心外だとばかりに子豚が吠えるので、だったら何なのかと問うた。
「私は――救いのヒーロー『ぶりぶりざえもん』」
「ぶりぶり……ざえもん?」
「あぁ、救いのヒーロー『大賢者』ぶりぶりざえもんだ。」
シズエが復唱すると何か増えた。
「あの……私、早く逃げなきゃいけないんだけど……」
シズエが魔王のいた城から離れて、殆ど時間が経っていない。後ろを振り向けば、まだ一キロも離れていない事が分かる。
魔王が逃げたと、知ったらどうなるか。
ぶるりと震えたシズエは、ぶりぶりざえもんに「しまった!?」
「えっ!何!?」
「もうすぐ『ぶりぶり仮面』が始まってしまう!帰らなければ!……あ、これつまらない物ですが、これからどうぞよろしくお願いしますぅ」
彼は筆で書かれた腕時計を見つめ叫ぶ。
「ぶりぶり……タオル?」
ぶりぶりざえもんがプリントされた梱包タオルを渡され、キョトンとするシズエ。
出だしは可笑しくなってしまったが、今度こそシズエの冒険の旅が始まった。