嫁はドイッチュラント・第二幕   作:レイギア

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二話投稿です

すっかり遅くなってしまった(焦)


母港の鉄血

ブゥゥゥン....

ブロロロロ...

 

 エンジンが軽快な唸り声をあげ、艦載機が風を切って空を駆ける。

よく晴れ渡った空を堪能するかのように縦横無尽に飛び回り、時には急降下や回転などの動きを加える。

見るものが見れば、その艦載機を操っているものの練度がいかに高いかを推し量ることができるだろう。

 

 

『卿よ。聞こえるか』

 

 

 耳につけた小型の通信機から、艦載機を操り海を駆けるグラーフ・ツェッペリンの声が聞こえてくる。

 

 

「聞こえてるぞ。どうした?」

 

『定期報告だ。こちらは特に異常なし。...呆れ返るほど平和だぞ』

 

 

 どこか気の抜けた、退屈そうな声色だ。

 俺は今、グラーフの操る量産型の艦船に乗り込み母港周辺海域の巡回に出ている。母港では毎日の巡回任務では、練度が低い子たちに付き添いで高練度の子を一隻つけて見回りをさせているのだが、今日は俺が指揮官権限を使ってお供にグラーフを指名し、他の低練度の子たちを引き連れ海に出てきている。

最近は執務続きで部屋にこもることが多く、そろそろ海の匂いが恋しくなってきた。息抜きも兼ねて、グラーフに声をかけこうして出てきている。

 

 船の甲板に立ち、両腕を大きく広げ胸いっぱいに海の匂いを吸い込む。小さい頃から、重桜で暮らしていた頃から嗅ぎなれた匂い。落ち着く匂い。船が波を立てながら進んでいく音も心地良い。

つくづく、自分は海が好きなのだと実感する。

 

 海風を感じながら気持ちよく伸びをしていると、通信機からグラーフの呆れたような声が聞こえる。

 

 

『卿よ... 執務で疲れているのは分からなくはないが、少々気を抜きすぎではないか? 一応、今も出撃中なのだがな』

 

 

 げっ、のんびりしてたのがバレてる。

一体どこから俺の様子を覗いていたのか辺りを見回してみると、一機だけ護衛かはたまた監視かグラーフの艦載機が円を描きながら俺の上を飛んでいた。

 

 

「覗きなんて感心しないぞ。見張っているのか?」

 

『無論、監視だ。指揮官自ら海域に出たというのに、気の抜けた顔をされても他の者達に示しがつくまい』

 

 

 俺の心を覗いているかのようにグラーフの言葉が刺さる。指揮官として海に出ているのだから、自分はともかく他の子から幻滅されるような真似はするなよ、ということだろう。

その言葉にがっくりと肩を落とすと、その様子も見ていたグラーフの笑い声が通信機越しに聞こえてくるのだった。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「おかえり」

 

 

 見回りを終え、鉄血寮の扉を開くと、寮の共有スペースでくつろぐレイシェが出迎えてくれた。一緒に来ていたグラーフは、『海風で髪がベタつくのでな。我はシャワーを浴びてくる』と言ってさっさと風呂へ行ってしまった。

 

 

「特に異常なし?」

 

「ああ、なーんも。今日も平和そのものだ」

 

 

 軍服の前のボタンを開けながら、ソファーに座るレイシェの隣に腰掛ける。

 

 

「ちょっと、だらしないわよ」

 

「いいじゃないか。今更誰も気にしやしない」

 

 

 そもそもこういった堅苦しい服は嫌いなのだ。指揮官という立場上着ざるを得ないが、もうちょっとラフな格好も許してほしいものだ。

俺の言葉に呆れた顔を見せるレイシェ。一方の彼女も、いつものあの鉄血の軍服らしい服装ではなくゆったりとした黒色のブラウスを着ている。人のこと言えないだろう。

 

 

「...あの服、最近胸のところがきついのよ。誰かさんのせいだと思うんだけど?」

 

 

 俺がそれを指摘すると、バツが悪そうにレイシェがジトッとした目でこちらを睨みつけてくる。

...俺のせい? うーん...俺のせいかぁ...

少し恥ずかしそうに胸元を隠すように押さえるレイシェ。

...こういう姿が見られるのならば全然オッケーなんだよなぁ。

 

 

「...」ベシッ!

 

「いてっ!?」

 

「スケベな顔してるわよ」

 

「くっ... 考えていることがバレた...」

 

「アナタに隠し事なんて無理よ。すぐに顔に出るんだから」

 

 

 両方の手のひらでぐにぐにと自分の顔をほぐす。そんなに俺の表情はわかりやすいのだろうか。

 

 ソファーに体重を預け、深く体を沈める。本来は執務室に戻るべきところではあるのだが、グラーフと連れ立って歩いているうちについつい鉄血寮まで来てしまった。

レイシェと結婚した俺にとっては、鉄血寮というのは第二のホームのような感覚であり、とても居心地がいいのだ。

今日の秘書艦の子にも寮に戻っていいと伝えておいてあるため、レイシェと一緒にくつろがせてもらおう。

 

 

「あっ指揮官! お戻りになってたんですね!」

 

 

 偶然部屋に来ていたキュンネ、ハンス、カール、ヴィルたち鉄血駆逐艦ズが俺を見つけ、一緒に遊べとせがまれる。

この四人は名前の数字が続いていることもあってか、いつも一緒に行動しているイメージがある。四人の中ではハンスが一番見た目が幼い感じがするが、時折しっかりしたところを見せる辺りやはり姉のポジションにいる子なのだと実感する。

 ...彼女たちよりも数字が大きいニーミが鉄血駆逐艦たちの中で一番大人っぽく見えるのは何故なのかという疑問が不意に頭をよぎるが、あまり深くは考えないことにした。姉よりも姉らしい妹なんてこの母港にはザラに居るのである。

 

 

「あらあら、小さい娘たちに囲まれて幸せそうね、お父さん?」

 

「おいおい茶化すなよ... 俺の年齢的には、どっちかというと年の離れた妹のような感じなんだがな」

 

 

 流石にまだここまで大きい娘がいるような年齢でもないため、自分としては兄貴分として振る舞っているつもりである。

 

 しばらくの間遊んでやり、ちびっ子たちも満足して俺の元を去っていたあと、体を動かしたせいかグゥ、と腹の虫が空腹を訴えかけてくる。壁の時計へと目をやると、針は18時を過ぎたころを示していた。夕飯を食べに行くには丁度いい時間帯だ。

鉄血寮からなら、母港の食堂よりもあそこが良いかな...

 

 

「レイシェ、夕飯を食べに行こうか」

 

 

 

 

 

 鉄血寮の隣には、2階建ての小さな建物が隣接して建てられている。外からも入れるようになっているし、寮の中を歩いてその建物に行くことも可能だ。

レイシェと連れ立ってその場所へと向かう。たどり着いたドアの横には、『バー・オイゲン』というプレートがぶら下がっていた。

 ドアを開け中へと入るとチリンチリンと鈴の音が響く。鉄血にあるバーの内装をしたその店には、夕飯時が近いせいか多くの客で賑わっていた。

 

 

「いらっしゃいませー...ってアンタたちね。開いてる席があっちにあるから案内するわ」

 

 

 鈴の音に反応して現れたのはエプロン姿のアドミラル・ヒッパーだった。さっと店内を見回した彼女は、慣れた様子で俺達二人を席へ案内していく。案内された席へ腰掛けると、「注文が決まったら呼んで」と言い残しすぐに別のテーブルへと向かっていった。

 

 

「相変わらず忙しそうねぇ」

 

「繁盛しているのは良いことじゃないか」

 

 

 パラパラとメニューをめくり何を頼むかを考える。ここの料理は非常に美味しいものが多いため、来るたびにどれにするか迷うのだ。

 

 

「...眺めてても決まらないからな。日替わりメニューにしとこう」

 

「私もそうしておこうかしら。ヒッパー! 注文をお願い!」

 

 

 レイシェが声をかけると、「ちょっと待ってなさい!」と返答が飛んでくる。どうやら今日は一段と忙しいようだ。しばらくしてやって来たヒッパーに、先ほど決めたメニューを注文していく。

 

 

「他に注文は?」

 

「特にないわ」

 

「そ。じゃあしばらく待ってて」

 

 

 エプロン姿のヒッパーがパタパタとせわしない様子でカウンター奥の厨房へと引っ込んでいく。厨房では店主のプリンツ・オイゲンが忙しそうに料理をしているのだろう。

 

 

「店員、増やしたほうが良いんじゃないかしら」

 

「俺もそう思う」

 

 

 多くのKAN-SENたちで賑わうこの店は、母港の食堂と合わせて人気のお食事スポットになっていた。昼はレストランとしてランチを、夜はバーとしてお酒を抵抗する店は、アドミラル・ヒッパー級の姉妹たちが切り盛りしている。

陣営の垣根を超え愛されているこのお店は、最近加入した北方連合のKAN-SEN達に合わせて向こうのお酒も取り揃えてあった。カウンター横にある棚には、様々な陣営のお酒がずらりと並んでいる。

 

 ただ最近は母港の人数も増えたせいか、忙しくなってきてしまい先程のようにヒッパーが店を飛び回りオイゲンが厨房にこもりっきりになってしまうことも多くなっていた。

手が回らなくなる前に手助けをしておいたほうが良いだろう。

 

 

 

 

 チリンチリン、と鈴の音が響き、また新しいお客が入ってきたことを知らせる。何気なくそちらの方に顔を向けると、レイシェに負けない美しい黒髪を伸ばした長髪の女性が、二人の少女を引き連れて店に入ってきている様子が見えた。

向こうもこちらに気づいた様子で、席へ案内しようとするヒッパーに何かを話した後、まっすぐと俺達の席へと向かってくる。

 

 

「ボウヤ達もここに来ていたのね。相席、いいかしら?」

 

「どうぞどうぞ」

 

「ありがとう。ほら、二人も座りましょう」

 

 

 俺のことをボウヤと呼ぶその女性...鉄血の戦艦であるフリードリヒ・デア・グローセが、一緒に来ていた少女二人へと声をかける。駆逐艦と空母の二人、レギとツェッペリンちゃんは、ぴょこんと俺の隣へと飛び込んできた。

 

 

「あらあら、ボウヤの隣が取られちゃったわ。それじゃあレイシェちゃん。隣失礼するわね」

 

「構わないわよ」

 

 

 グローセがレイシェの隣へと腰を下ろす。俺の両隣にいるちびっこ二人は、すでにメニューへと手を伸ばし目を輝かせながら中を見ていた。

 

 

「プリン! 我はプリンが食べたい!」

 

「待て、小さき友よ。食事を取らずにいきなりデザートというのは行儀が悪いだろう」

 

「うう...じゃあ...」

 

 

 うんうんと唸りながらメニューと睨めっこするツェッペリンちゃん。そんな様子を尻目に「私はこれにしよう」とさっとメニューを選んでいるレギ。二人の様子をニコニコしながら眺めるグローセ。

...親子連れが入ってきたみたいだな。グローセが母親か?

 

 しばらく悩んでようやくメニューを決めたツェッペリンちゃんが元気よくヒッパーを呼ぶ。丁度こちらの料理が終わっていたのか、注文を取るついてに俺とレイシェの分の料理が運ばれてきた。

 

 

「はい、お待たせしました。それで、アンタたちは何を頼むの?」

 

 

 三人がそれぞれ注文を言っていく。ちゃっかりツェッペリンちゃんは注文の最後に二人分のプリンを付け加えていた。

 

 

「小さき友よ。二人分のプリンを頼むつもりか?」

 

 

 驚いた顔をしながらレギが目を見開く。

 

 

「流石に我もそんなことはしないぞ! 2つあるのは、レギと一緒に食べるためだ!」

 

「おお...」

 

 

 驚きで見開かれていたレギの目に、キラキラとした喜びが満ちていく。その様子を見たツェッペリンちゃんも嬉しそうに笑顔をみせ、俺とレイシェ、グローセは微笑ましい光景を目にして思わず笑顔になるのだった。

 

 他愛ない会話をしているとすぐにグローセたちの料理も届き、5人で仲良く料理に舌鼓を打つ。ツェッペリンちゃんが頼んだ二人分のプリンには、シェフが気を利かせたのか小さな鉄血の旗が立っていた。

賑やかさをますバーの空気を楽しみつつ、皆で囲む食事の席を楽しむのだった。

 

 

 

 

 すっかり外も暗くなり、駆逐艦達が眠りにつく時間帯になった頃、オイゲンの店はまだまだこれからという賑わいを見せていた。

数時間前までは厨房で忙しそうに働いていたオイゲンも、ようやくカウンターの方に出てきてやってくる大人組にお酒を提供していた。

レギとツェッペリンちゃんは食事が終わった時点でグローセが寮へと連れ帰ってくれた。今頃は二人を寝かしつけていてくれることだろう。

 

 辺りを見回すと、やはり鉄血寮に隣接しているだけあって、店内には多くの鉄血のメンバーが揃っていた。

カウンター前のテーブルで飲んでいるのは... ビスマルクにティルピッツ、シャルンホルストとグナイゼナウ、それにローンか。

グローセと同じ開発艦であるローンはつい最近俺の母港でもようやく建造することが出来たため、ビスマルクたちがあれこれとこの母港について教えているのだろう。

 

ローンの建造には色々と不安もあったのだが、今となってはそれも杞憂に終わった。まあローンについては、いずれどこかで話のネタにでもさせてもらおう。

 

 

 少し離れた席では、シュペーとシーナが一緒の席でなにやら楽しそうにお喋りをしていた。

二人共あまり喋らないタイプのはずだが、付き合いも長いからか結構二人で楽しそうにしているところを見ることがある。普段二人がどんな話をしているのか気になるところだ。

ぼんやりと眺めていたらたまたまこちらを向いた二人と目があったので手をふると、二人も笑顔で手を振り返してくれた。

...最も、二人共口元が隠れているためその表情は若干分かりづらかったが。

 

 

 端っこの方では、シャワーを浴びてこちらに来ていたグラーフが、北連のガングートと一緒にジョッキを酌み交わしていた。

いつの間に仲良くなったんだ...?

遠目から見ると見た目がそっくりなため、取り敢えず黒がグラーフで白がガングートだろうと大雑把に判断する。あの二人の間にツェッペリンちゃんが加わったらややこしいことになりそうだ。

 

 

「どうだった? 今日の料理の味は?」

 

 

 不意に声をかけられ、音のする方を振り返ると、仕事が一段落したのかオイゲンがビールグラスを片手に俺達が座るテーブルへと近づいてきていた。

 

 

「美味しかったよ。また腕が上がったかな?」

 

「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。少し味付けを変えてみたのよ」

 

 

 そのままスッ...と俺の隣へと自然な様子で座ってくる。こういうときは大抵俺をからかいに来ているときである。

 

 

「相変わらず指揮官はお茶しか飲まないのね。たまには私達と一緒にビールでも飲みましょう?」

 

 

 良いお酒、揃ってるわよ? とオイゲンがこちらを覗き込むが、手を横に振りやんわりと断る。

 

 

「あまり好きじゃないんでな。それに、俺が飲んだらどうなるかなんて、オイゲンならとっくに知ってるだろう?」

 

「あら、それが狙いなんじゃない。指揮官が酔っ払って寝ちゃったところで、私が持ち帰って可愛がってあげるのよ」

 

「計画を立てるのは良いけど、それを堂々と私の目の前で話すのもどうなのかしらぁ?」

 

 

 レイシェが呆れ顔で首を横に振るが、オイゲンはそんなレイシェの反応も楽しんでいるような素振りを見せる。

 

 

「いっそのこと、三人で楽しむ? 私は一向にかまわないわよ?」

 

「お生憎様。この人は私の旦那よ。誰かに渡す気なんてさらさら無いわ」

 

「あら残念。それなら、せめて晩酌ぐらい付き合って頂戴?」

 

 

 オイゲンがどこからかビールの瓶を取り出してくる。先程持っていたグラスの分も加えて、今夜はまだまだ飲むつもりのようだ。

 

 

「明日はお店も休みだから、思いっきり飲むつもりよ」

 

 

 グイッとグラスの中のビールを飲み干し、プハァっと大きく息をつく。空になったグラスにすぐに次のビールを注いでいき、どんどんと飲み進めていっていた。

 

 

「おいおい、あんまり羽目を外さないでくれよ?」

 

「良いじゃない。たまには、ね?」

 

「ま、付き合ってやるわ」

 

 

 レイシェ差し出したグラスへと、オイゲンがビールを注ぎ込んでいく。

俺もお茶が入ったグラスを持ち上げながら、三人て乾杯をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでね! 毎日大変なのよ! お客も多いし、人手が足りないの!!!」

 

「うん、分かってる。分かってるからもうちょっと声量抑えようか」

 

「お姉ちゃんも手伝ってくれてるからまだいいけど、そろそろなんとかしないと不味いの!」

 

「そうだな、こっちで良さげな娘に声かけてくるから、頼むから絡みつくのはやめてくれ!」

 

「オイゲンも酒癖悪いんだから。隣に座られた時点で覚悟しておいたほうが良かったわね」

 

「ぐおおおおこの酔っぱらい離れねぇ...! ヒッパー! ヒッパーーー!!!」

 

「何ようるさいわね。オイゲン、こっちよ」

 

「お姉ちゃ~ん」

 

「おお、ヒッパーにオイゲンが抱きついていった...」

 

「オイゲンも妹ってことね」





【挿絵表示】

バー・オイゲンの様子はだいたいこんな感じ
本当はもっと広いのですが、家具の数や配置センスに限界があったので大体のイメージだと思ってください

こっそりローンが初登場です
彼女に関するお話は、また今度に

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