古明地さとりの配達報告

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最近、配達アプリのドライバーを始めました。
以前データが唐突に消え、執筆意欲が消し去っていましたが、お酒を飲んでいる時になんとなく思いついたので書きました。
読んでくれたら嬉しいです。


アプリ起動

 

私の名前は古明地さとり。

大した力も持たない、しがないさとり妖怪だ。

「さとり?」「妖怪?」何を言っているのか分からないって?

だが残念。

あなた達が、気付いていないだけで、不可思議な現象、存在は結構在るのだ。

 

私もそうした存在の一つ。

『相手の心を読み程の能力』

こんな呪われた能力を持って生まれてしまった、哀れなさとり妖怪。

 

そんな私は今、小さな手足を必死に動かし、自転車を漕いでいる。

これは、人間が少し前に発明したという乗り物だ。

自身の体重と筋力でペダルを漕ぎ、手に握ったハンドルで舵を取る。

仕組み自体はそう難しくない、人間の子供でも乗ることができる乗り物だ。

必死にペダルを漕ぎ、風に煽られ、汗を流しながら、前に向かって進んでいる真っ最中だ。

 

さっきも言ったが、貧弱とはいえ、私は妖怪と言われる存在だ。

単純な身体能力なら、当然人を上回っている。

今回延期になったと言うオリンピック(人間の喧嘩祭り?)に出れば、大抵の競技で優勝出来るだろう。

移動するだけなら空を飛べばいいし、地面を移動するなら走った方が確実に早い。

にもかかわらず、妖怪の私が汗を流しながら、必死に自転車を漕ぐのにはもちろん理由がある

 

『うーパーいーツ』だ。

 

うーパーいーツとは、有り体に言えば「料理宅配サービス」だ。

自社のサービスでは宅配を行っていない飲食店から注文できるため、たくさんの飲食店をデリバリーで味わうことができる。

スマホ(人間が使う情報端末)のアプリ(良くわからないけど便利)で、簡単に料理とデリバリーサービスの注文ができることから、手軽な食事を楽しめる手段として話題になっている。…らしい。

 

自宅や職場にいながら、あらゆる飲食店を選択できるシステムが構築されていることから、日々の食事を彩るきっかけになるサービス、という触れ込みだ。

 

依頼を受け、飲食店で料理を受け取り、依頼者の自宅、或いは職場、食事を楽しみたい場所に配達する。

 

それがうーパーいーツだ。

 

うーバックと言われる大きなカバンを背負い、自転車を漕ぐ者はうーパー配達員。

或いは、うーパーイーターと言われる。

 

 

かばんを背負い、忌々しい小さな身体で自転車を漕ぐ私もうーパー配達員だ。

妖怪の私が人間に紛れて、働いているのか❔

それには勿論、深い深い理由があるのだが、それを話すのはまた機会としよう。

 

 

気は進まないが、まずは私のうーパー配達員としての日常をお送りしたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4/1(水)

 

本日は寝坊してしまった。

ブースト(エリアごとに、配送料が上乗せされる状態のこと)が付く10時から稼働する予定だったが、起きたら何と吃驚時刻は10時。

だるい身体を動かし、お布団への未練を残しながら、立ち上がる。

顔を軽く水で洗い、髪の毛を整える。

洗面台の鏡には眠そうな私の顔が映っている。

動きやすい服装に着替え、うーパーバッグを背負う。

成人男性が背負っても大きいバッグを、比較的小柄な私が背負うと、中々特異な姿に見られるらしくバックを背負い自転車を漕いでいると、多くの人間の視線を感じることがある。

玄関の扉を開け、クロスバイク(早く漕ぐことが出来る自転車)にまたがる。

情報端末を起動し、うーパーアプリを起動し出発のボタンをクリック。

ピローンと高い音が鳴り、オンラインの状態になる。

後は依頼が来るのを待つだけだ。

 

当然だが、起動した直後に依頼が舞い込む事は殆どない。

暫し待つ必要がある。

そんなときは、加盟店が多い都市部を目指し、ビルや住宅、生活を送る人間たちを横目にクロスバイクを漕ぐ。

信号にひっかりながら、道を進んでいると、スマホから音が鳴った。

依頼が入ったようだ。

 

『2分』

 

すぐさま承諾のボタンを押し、依頼を受ける。

この数字は、自動車(私の全力疾走と同じくらいの速度が出る人間の乗り物)で移動した場合の時間が表示される。

2分の表示であれば、クロスバイクで5分程度だろうか。

地図を見て、ピック(呼ばれた店舗で商品を受け取ること)店舗を確認する。

あぁ、何度も行っているジャンクフード店だ。

 

【…今日はあの店員はいるのだろうか❔

布教に都合がいいから接客のアルバイト選んだと、聞いてもいないのに話してきた妙な雰囲気の変な人間。

いるなら面倒だなあ】

 

太陽の日差しに、3つの瞳を細めながら、ペダルに力を籠め、移動を開始する。

今日も一日頑張ろう。

 

店舗(あの店員は居なかった)でドロップ(依頼の商品を受け取ること)を終えると、もっとも大事な作業に取り掛かる。

うーぱーバックに商品を入れる作業だ。

ただ入れるだけでは、移動の際の揺れ、振動で商品が崩れたり、零れたりしてしまう。

緩衝材(私物のタオル)を隙間にいれ、商品を固定する。

暖かい物、冷たい物は当然分ける。

どんなに早く届けても、商品の状態が悪ければ意味がない。

届けた際の商品の状態は8割バックへの入れ方で決まるといっても過言ではない。

仕切りやタオルを使って確実に商品を収納していく。

 

バックに商品を入れ終えたら、配達開始だ。

店舗の対応の評価(良いか悪いか)を選択しドロップ完了のボタンを押すと、依頼者の住所(配達先)が表示されるので、そこを目指して移動する。

この移動はGPS(位置情報システム❔なんだそれ)で依頼者に表示されている。

道に迷ったり、違う場所をうろうろしていると、依頼者か連絡が来ることもある。

大抵、大丈夫ですか❔等、心配の連絡だが、早くしろとクレーム(殺し合いではない争い)が来ることもあるので、極力迅速に配達する。

 

 

配達先付近に着いたら、自転車から降り配達場所へ向かう。

ここで重要なのは、配達先が一軒家かアパートか、マンションか、或いはお店か道端かを予め確認しておく事だ。

部屋番号があれば、アパートorマンションなので目印になる。一軒家やお店、道端だと、地図の表示と依頼者の名前が手掛かりになる。

到着したら、バックから商品を取り出し、依頼者に手渡す。

毎日配達していると、今回のように以前に行ったことのある配達先であることも偶にある。

前回と同じファミレス(家族向け洋食屋)の同じ料理、キノコたっぷりクリームスープの注文だ。

 

 

【汁ものは零れやすいので、配達に気をつかう。あまり受けたくない依頼だ。

それにしてもこの家からは不思議な感覚を感じる。妖怪か、そういう存在かだろうか❔或いは私と同じ…かな❔】

 

 

この依頼者のように、『玄関先の人形の隣に置いて欲しい』とアプリにメモの通知がある場合もある。その場合も指示通りに置いて配達完了のボタンを押せばオッケだ。

多少不安だが問題ない。

先ほどの店に対する評価と同じく、依頼者に対する評価を選択し、配達完了のボタンを押した時点で、依頼は完了。報酬は確定する。

報酬は基本的にピック店から配達場所への距離で金額は推移する。一件300円から600円程度であることが多い。

そこにブーストとクエスト(一定の時間帯に、一定の回数の配達を行う事で追加報酬を得られる制度)の報酬が追加される。

 

 

朝から夜まで自転車を漕ぎ、本日の稼ぎは1万円ほど。

オンライン時間(依頼を受け付けていた時間)は、11時から21時の約10時間。

依頼の入らない時間は、食事をしたり、買い物をしたり、休んでいたので、実働は8時間ほどだろうか。

これを多いと取るか、少ないと取るかは人によるだろうが、私にとっては大金だ。

日によって依頼の数は増減するが、体力は問題ないので、毎日働けば月20~30万の稼ぎになる。

人との接触は最小限、自分の好きなタイミングで、好きな時間だけ働くことが出来る。

私の様な他人嫌いにはもってこいの仕事だ。

 

本来なら現代の人間社会で働きたくなくが、そうは言っていられない。

この社会ではいかに妖怪といえど、お金がなければ生きていけない。

人を食べるのはリスクが高すぎるから、人間と同じ手段で食料を手に入れなければならない。

身体は人より頑丈とはいえ、快適な場所で生活したい。

ふくふかのベッドで寝て、広い湯舟に浸かって、きれいな部屋でくつろぎたい。

これを1人で手に入れるには、どうしてもお金がいる。

 

以前は私が妖怪であること、さとり妖怪であることを生かして、お金を得ていた時期もあったが、一度大きな痛い目を見てからはやめた。

心を覗いて、弱みを握り、脅迫し、逆上した相手には、妖怪の肉体を以て屈服させる。

ひどく簡単に莫大な額のお金が手に入ったが、どこの世界にも調停者はいるようだ。

 

今はこうして全うに働いて、お金を得ている。

 

 

 

 

うーバーいーツ。

 

約束があるので、暫くは『アイツ』と『貴方たち』に、私のうーパー配達員としての生活をお送りしたいと思う。

 

 

それではまたそのうちに。

 

 

 

 

 

 

 



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