東方世変物語 〜lay one's own path for the future〜 作:凱奏
闇が明け光に包まれ出した其の街は、一転して動揺と好奇心が入り混じったざわめきに溢れた。
朝から精を出して道を駆け回り、縦横無尽に紙をばら撒く物書き。
騒ぎの声を聞き、次々と開けられていく民間、出店。
ーーー噂に敏感な野次馬の群れは、騒がしさに拍車を掛ける。
少女は今、離れの屋敷から、
花びらを乱れ舞わせる桜の木を眺めていた、、、。
「『二十人以上の人が失踪、それも全くの音沙汰無く。』か。」
手元には一枚の紙。
色が霞んだその紙の中央には、雑な字でそう書かれていた。
「朝から突然隙間で引き摺り出されたと思ったら、なるほどこれは大事みたいだ。」
幽々子の屋敷を訪れてから数日後、現在紫の住んでいる家に訪れていた。
いや、拉致されていた、が的確かもしれんが、、
紫は険しい表情を浮かべて、腕を組んで壁に寄りかかる。
「この事件、貴方はどう見るかしら?」
「・・・さあ?確かめて見なけりゃ分からないよ。『百聞は一見に如かず』ってね。」
そう言い放って、汚れた紙を放り捨てた。
紫は一瞬、困惑した表情を見せる。
「さ、取り敢えず幽々子の屋敷でいいかな?」
「え、、ええ、そうね、、。」
紫の返事を聞いてから、俺は側に置いた小刀を拾い上げて玄関から街道へと繰り出した。
幽々子の屋敷を目指して、賑わう街道を見渡しながら歩んで行くが、、
やはり今回の訪問は雰囲気が違う。
原因は勿論、失踪事件からくるものだろう。
失踪者が身内にいて動揺し落ち着かなく走る者や、
単なる傍観者、、いや、野次馬たちが道で様々な憶測話を繰り広げている。
「ねえ隼、今日はやけに行動が早くないかしら?」
「ん、そうかい?」
向かう途中、紫が唐突にそう言う。
「まあね、この街には早いうちに来るつもりだったし。都合が良かった、って言い方するのもアレだけどさ。」
「そう、、まあ、良かったわ。説得する手間が省けて。」
「・・・何さ、俺を説得しなきゃいけないなんて思ってたのかい?」
「ふふ、いいえ。冗談よ。」
紫と街の景観を眺めつつ、会話しながら街道を行く。
街並みを作る技術力は進化しても、それを盛り上げる人々は何ら変わっていない。
だからこそ、賑わう街からは新鮮さと懐かしさを感じることが出来る。
けれど、そんな幸福の空間は、いつの時代も大きな一手によって破壊される。
人の嘆きなど聞き流され、無慈悲に其の世界は崩れ落ちる。
果たして現在まで、一体幾千もの人々が、一方的な破壊の犠牲者となったことだろう。
「・・・最悪の場合、このままではこの街は崩壊する。」
ふと、脳内の言葉が声として漏れた。
紫は真剣な顔つきで、足を止めることなく進む。
「だけど誰が手を下すかなんて分からない。悪意かもしれないし、単なる純心かもしれない、、。」
「・・・だったら、関わったからには救わないとね。人間だろうが妖怪だろうが知ったこっちゃないわ。」
紫は右手で、俺の肩を強く、優しく叩いた。
あの巨大桜に近づくにつれて、景観に違和感を感じ始めた。
そして桜の木の下に辿り着いた瞬間、疑問が確信へと変わる。
「・・・ねえ、数日前より、緑が少なくないかしら、、?」
「いや、それだけじゃない、、。この桜、更に華やかになっている。まるでそこらの草木の生気を吸い取ったみたいに、、。」
成長というには早熟が過ぎる。
桜は何に一度程度しか見られないからこそ、満開の瞬間により輝く。
それに周りの草木が枯れ果ててしまえば、華やかな景観から一転して妖しく佇むだけの不気味な桜となってしまうだろう。
「と、とにかく、早く幽々子のとこに行くわよ。」
「あ、ああ。」
俺と紫はほぼ同時に、足取りを無意識に早めた。
幽々子の屋敷へ向かう途中の草木も、桜の木に近ければ近いほど緑が失われているのが明確になっている。
桜を愛した歌聖の死、後を追う慕い人、次々と失踪する街の人々、、そして巨大桜の異様な成長と枯れゆく木々。
これが偶然の出来事であるか否かは、今向かう先で白黒つくだろう。
「・・・紫、覚悟は出来ているかい?」
幽々子の屋敷の前にて、隣で真剣な表情を浮かべる紫に声をかけた。
「ええ、、、さあ、入りましょう。」
紫は重く沈みそうな足を持ち上げて、屋敷の門を跨ぐ一歩を踏み出した。
またまた一週間空いてしまって申し訳ないです、、
この辺りの話は、かなり慎重に構成したくてどうしても時間がかかってしまう、、。