東方世変物語 〜lay one's own path for the future〜   作:凱奏

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花弁の斬風

 

 

 眠り静まり返った夜の街。

ーーーその一角、土煙と共に轟音と暴風が巻き起こる。

 

命の削り合い、死戦。

戦の夜は佳境に入る。

 

 

 

「ーーーはああッッ!!!」

 

 

妖怪桜の攻撃の矛先を予測し続け、ただ作業の如く行動を繰り返す。

 

だが、全ては対処しきれない。

回避先に偶然刺突を合わせられれば、多少の傷は覚悟して動く。

 

紫へ矛先を向けないよう引きつけ役として巻き起こす風撃も、連発させれば腕に相当な反動が返ってくる。

 

 

「くッ、、拙いな、、!!」

 

 

ここまでで既に十発以上は放っている。

が、感情を持たない妖怪桜が攻撃の手を緩めることは決してない。

 

 

幾度となく繰り返し襲い掛かる猛攻。

俺は出来るだけ左右交互に地面を蹴って躱し、避けきれない太枝の薙ぎ払いは小刀を滑らすようにして対処する。

 

 

 

「全く逃やしないんだから、少しばかりお茶しながら話でもしないかい?」

 

 

時間稼ぎに挑発を仕掛けてみるも、無慈悲にも奴が求めるのは生気、即ち命のみ。

 

間髪入れず、急所へと襲い掛かる乱撃。

 

 

「ま、そりゃあ乗ってはくれないよねッ!!」

 

 

奴の攻撃を心臓命中寸前で捌く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、攻撃の手が止まる。

しかしこれはただ矛先が変わったに過ぎない。

 

 

「ッ!!ーーーそりゃあッ!!」

 

 

まるで空気を引っ張り上げるように空間を切り裂き、より強力な暴風を巻き起こす。

その風は形を形成し、竜巻となり妖怪桜と俺の周りを覆いその場を留まる。

 

大量の花弁が散る、、

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、稲妻が走ったのような衝撃と反動が右腕を襲う。

 

更に激痛は右腕だけでは止まらず、全身を荒らしながら駆け巡る。

 

 

「ア、アがぁッ、、!!!」

 

 

口内から飛び出す血反吐。

心拍数は急激に加速していく。

 

 

身体は既に限界を迎えていた。

 

ただ自身、この鴉天狗として身体を知り得ていなかった。

この身体を前の身体と無意識に錯覚し、知らず知らずの内に自身を破壊していた。

 

当然、相応の反動は不可避だ。

 

 

「ーーーッッ!!!」

 

 

そんな状況の中、妖怪桜はより一層血気盛んに命を刈り取りに迫る。

 

俺は身体を投げ出して、地面を転がりながら回避する。

 

 

「よっ、、と、、」

 

 

口元に付着した血を拭い、ふらつきながらもその場で立ち上がる。

 

瞼が重く、視界が朦朧としている。

一瞬気を抜けば、その場に崩れ落ちて絶命しかねないほどに身体は衰弱しきっている。

 

だが、、

 

 

「ーーーっと、、危ないな、、。また死んじまったら、、みんなに怒られちまうからなぁ、、」

 

 

 

 

姿が過ぎる。

 

だが走馬灯ではない。

 

記憶、、いや、多少なりとも妄想が混じっているかもしれないが、、

 

 

 

 

 

一気に真横を人が駆け抜ける。

 

よく知る親友、友人から、、少しの関わりしか持たなかった全ての人々が、、

 

この光景は、、何処かで一度見た景色だ、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほら、どうする?このまま死ぬかい?』

 

 

 

もう何度も聞いた声。

 

ぼやけているが、誰かなど直ぐに理解できる。

 

 

 

「ーーーいいや、今度は死なないさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、意識と激痛が戻る。

 

その直後、妖怪桜の三連撃。

俺は一瞬反応が遅れ、咄嗟に小刀で防御する。

 

 

「ーーー!」

 

 

が、小刀は呆気なく手から弾かれて地面を転がっていく。

 

武器を失い、防御手段は無くなった。

攻撃を全て躱す体力も残されてはいない。

 

 

格好の的となったこの身体に、妖怪桜はトドメの一撃を突き刺す。

 

 

ーーーほんの一瞬、、笑みが溢れた、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、妖怪桜の攻撃は漆黒の旋風によって弾かれる。

その直ぐ直後、一身の弾丸が再び夜を突き抜ける。

 

間髪入れず、勢いを増しながら巻き起こる黒き竜巻。

 

 

「ーーーさ、仕切り直しだ。」

 

 

その右手には、一枚の桜の花弁が親指と人差し指の間に挟まれていた。

それ以外、身体の何処にも武装は見当たらない。

 

 

隼はその花弁を、先程までの小刀のように振るい旋風を起こす。

 

ただ花弁を振り回している訳ではない。

 

花弁が一瞬、横が一本の線となり、柔らかな刃と成った瞬間。

その状態を保持し、空間に一線の亀裂を斬り込む。

 

 

「ーーーはあッ!!」

 

 

休息のない妖怪桜の猛攻。

その一撃一撃に対し、花弁の刃で往なしきる。

 

しかし花弁が硬化した訳ではない為、一度防御や旋風を起こせば容易く破れ去る。

 

 

が、花弁が一枚破れるや否や、直ぐ様散り逝く花弁を手に取り、次の攻撃に備える。

 

この瞬間、隼の目の奥には何も映ってはいなかった。

ただ真っ黒な視界の中、妖怪桜の枝と周りを散る花弁だけを感覚で読み取り続ける。

 

一切の無駄を捨てた、完全集中状態。

 

 

 

いずれ痺れを切らした妖怪桜は、全方向から刺突や薙ぎ払いを混ぜた総攻撃で襲い掛かる。

 

その全ての攻撃に対し、花弁で空を斬り旋風を巻き起こし、、

 

 

直後、その衝突は、巨大な漆黒の竜巻へと昇華する、、!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、その竜巻の天井から鴉天狗が飛び出す。

黒き翼を羽ばたかせ、地面を目掛けて急降下。

 

そのまま寸前で身体を捻り、地面を擦りながら降り立つ。

 

 

「ーーー紫ッ!!」

 

「ええ、準備完了よ!!」

 

 

直後、その周辺を巨大な結界が覆う。

地面に紫色の稲妻が走り出す。

 

 

「さあ、覚悟しなさいッ!!」

 

 

 


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