東方世変物語 〜lay one's own path for the future〜 作:凱奏
「だ、大丈夫ですよ!きっと、何か見間違えたんです。」
「・・・見間違え、ねぇ。」
いや、そんな訳ない。
確かに見たんだ、
あの風景を。
確かに、聞いたんだ、
あの声を。
「だァァー!もういいや!」
「うわっ⁉︎ なんですか急に!」
俺の大声に、文が反射で身構えた。
「あ、、悪りぃ。偶に出るんだ、これ。」
「はぁぁ、、もうやめてくださいよ!」
まあ、これは先程までの仕返しということにしておこう。
謎の占い屋敷の件は、考えていても仕方ない。
何回入り直しても、あの天井には再び入れなかったし。
・・・忘れよう。
そういえば、
「文は、天魔?の命令で戻らなくて良かったのか?」
「え?・・・ああ、大丈夫です。天魔様に隼さんの案内を任されたので。」
「あ〜、そうなんだ。なんか、悪いな。」
「気にしないでください。ここだけの話、」
すると、文は耳打ちで、
『面倒な山の警備の仕事、さぼれるので。』
と言ってきた。
「お前さ、なんでそんな嫌なのに警備の仕事やってんの。」
「仕方ないんです。私はまだ下っ端天狗ですから。」
「あー、そういう決まりとかあんのか。」
「・・・でも!乗り切りますよ!将来やりたいこととか有りますし!」
「お、いいねぇ。例えば、何を仕事につけたい?」
「そうですねぇ、一番は、やっぱり広報係ですかね!」
広報係?
今で言う、新聞屋って感じか?
だとしたら、向いてるな。
「向いてると思う。文、飛ぶの速いし。」
「ん〜、でも他にも色々あるんですよね〜。」
「へぇ、例えば?」
そんな雑談をしながら、妖怪の山を見てまわった。
勇ましい轟音が辺りを響く。
「・・・文、何処に向かってんだ?」
「それは、着いてからのお楽しみです。」
妖怪の住む家が密集している場所から、文の案内で離れていき、この辺は特に何も無い。
ただ、先程からうっすらと水が落ちる音が聞こえてきていた。
聞き覚えのある音だ。
「予想させてもらってもいいかな?」
そう言うと、文に露骨に嫌な顔をされた。
「なんでそんな嫌な顔すんだよ。」
「・・・」
「あーわかったわかった。じゃあ何も言わないよ。」
めちゃくちゃ嫌そうな顔をするので、黙ってついていく事にした。
それから数分歩いたところ。
「凄いな、、これは。」
「どうです?この山で一番の名所、九天の滝です。」
俺は目の前に広がる、力強い滝に魅了されていた。
過去に滝を見たことがあるが、そのサイズとは比べ物にならない。
「成る程、これが文のサプライズって訳か。」
「?、なんですかそれ?」
「いや、何でもない。」
それにしても、やっぱり何度見ても凄い。
そういえば、回復術はあの滝で思いついたんだっけ?
懐かしい思い出だ。
見てるかな、みんな。
この世界に来てから、何度も辛い思いをしたよ。
でも、
それ以上に、
「楽しいことも、沢山あったよ。」
「・・・あれ?今何か言いましたか?」
「・・・いや、何も言ってないよ。」
独り言は、滝の轟音でかき消された。
「さあ!そろそろ行きますか!」
「え?・・・あ、ああ、そうだな。」
そうして、九天の滝を離れようとした。
その時、
「おい、なんだあれ。」
少し離れた場所で、何者かが何かを放っている様子を見た。
「あれって、何ですか?」
「あれだよ、あれ何やってんの⁉︎」
文に、方向を指差して伝えた。
「あ〜、あれはですねぇ。おそらく弓の稽古場ですよ。」
「弓⁉︎ こんな場所で⁉︎」
「ええ、偶に見かけるんです。私は弓を使うことはないので、参加したことないですけど。」
「まじか。」
先程までで気づいたのだが、ここは気候が荒っぽい。
「あやや〜、今日は一人ですか。」
矢を放つ時、心を落ち着かせる動作。
果たして、鳴り響く轟音の中で、それが出来るだろうか。
そして、更に目を凝らして見ると、
狙っている的は、滝を跨いだ向こうにある。
そんな的を、果たして打ち抜けるのか⁉︎
「さあ、行きましょう隼さん。・・・隼さん?」
「文、、すまねぇ。止めようとはしてるんだ。」
「え?一体どういう、」
「あの弓の稽古、やってきてもいいか?」
「・・・え⁉︎」
あの様子を見た瞬間から、全く鼓動が止まらねぇ!
まるであの空間に吸い込まれていくように、
あの様子に惹かれている!
「でも隼さん、弓使えるんですか?」
「そりゃあね。昔天才に鍛え上げられたよ。」
だから、
「試してみたい。どれだけ通用するのかを。」
言い終わる前、既に足は動いていた。