光矢と乃亜、二人が掲げたカードケースから光が放たれた。
その光の中でカードケースが展開、巨大化。白地に金のラインが施されたボディーアーマーと鋭角的な肩アーマー、そして金色のヘッドパーツへと変形し、光矢の身体に装着されていく。最後にヘッドパーツを自分の手で被り、ボディーアーマーの中心に5つの光が点灯。バトルスピリッツをサポートし、カードバトラーの命を守る鎧、ライフギアの完成だ。
巨大なクレーター状の大地、バトルフィールドの両端に設置された台座の片側へと、完成したライフギアを纏った光矢が立つ。その反対側の台座には乃亜が立っているはずだ。映像を投影させると、リボンとエプロンドレスを模した赤いライフギアを纏った乃亜の姿が映し出された。その表情はいつになく険しい。
「こんな形であんたとバトルすることになるなんてね。生まれた時から一緒のお姉ちゃんより、会って3日の女の子を選ぶなんて……」
「時間なんて関係ないだろ」
「そうかもしれないけど、お姉ちゃんショック」
やや冗談めかしてはいるが、本当のことだろう。乃亜の緑色の瞳は、今ここにはいない少女に対する嫉妬に燃えていた。
「先攻は俺がもらう。スタートステップ、ドローステップ、メインステップ。
さっそく3コアを支払い、1枚のカードをバトルフィールドに配置する。愁いを帯びた紫髪の少女、ヴィオレ魔ゐがバトルフィールドに舞い降りた。ヴィオレ魔ゐは作品中、主人公の馬神ダンと対立してまで、彼を助けようとしていた。偶然とはいえ、似たような境遇になってしまった光矢がそのカードを使うことに、自嘲気味の笑みを浮かべる。
「同名カードが無いので配置時の
トラッシュへ置かれたカードはゴッドシーカー超星使徒ペルディータ、煌星第三使徒ガニメデ、煌星竜スピキュールドラゴン。
「3枚とも対象カードなのでコア3個をヴィオレ魔ゐに置く。さらにヴィオレ魔ゐのシンボルを赤として扱い、
ヴィオレ魔ゐの隣に現れたのは、日に焼けた肌の精悍な青年だ。
「こちらも配置時の
トラッシュへ置かれたカードは選ばれし探索者アレックス、魔界竜鬼ダークヴルム、ゴッドシーカー超星使徒タルボス。先ほどのヴィオレ魔ゐの
「対象カードは2枚なので、コア2個を
最初のターンにして手札が残り2枚となってしまった。だが、このデッキは手札を増やすことに長けている。まずはフィールドを固める。
「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、メインステップ。私も
乃亜のフィールドに光矢も見慣れた赤い髪の青年が現れる。いつもは後ろ姿しか見えないので、正面からの姿を見るのは新鮮に思えたが、それ以上に光矢は驚く。
「
「そう、光矢の光導デッキ。私が使いやすいよう、手は加えたけどね」
フィールドを挟んで相対するダンと魔ゐ。まるでアニメの再現だが、原作では魔ゐは破れてしまった。勝敗までも再現するつもりはない。
「配置時の
トラッシュへ置かれたカードは樹星獣セフィロ・シープ、光導創神アポローン、魔星人シュタイン・ゴイル。
「対象カードは2枚で
やはり2コアで3枚もの手札を追加できる
「続いて光導創神アポローンを配置。配置時の
案の定、
「対象カードは2枚で光導創神アポローンに2コアを追加。クローズドジェミニが落ちたのはちょっと痛いけど、仕方ないか。魔星人シュタイン・ゴイルをLV1で召喚。
このバトルで最初に召喚されたのは山羊の頭を持った、悪魔のようなシルエットの小型スピリット、シュタイン・ゴイル。最大軽減1コストで召喚でき、スピリットのコアを外したうえ、手札を増やすことまで可能という強力なスピリットだ。光矢自身、光導デッキを使う時にはほぼ毎回お世話になっているが、やはり敵に回すと厄介だ。
「オープンされたカードは天蠍機動スコルビウム。系統:光導なので手札に加えてバーストをセット」
天蠍機動スコルビウムはバーストを持つカード、あからさまな牽制だ。だが、光矢の手札2枚に対し、乃亜は手札が既に6枚。序盤の立ち上がりに関しては大きく差を付けられてしまった。
「アタックステップ、シュタイン・ゴイルでアタック!」
シュタイン・ゴイルが小さな翼を広げて滑空する。迫り来る小さな悪魔を前にして、光矢は一歩足を踏み出した。
「さっそく来たか……ライフで受ける!」
「クッ! けど、ライフ減少によりバースト発動! 選ばれし探索者アレックスをLV1で召喚して1枚ドロー!」
両足を踏みしめて痛みをこらえ、光矢はバーストを開いた。バースト効果によりフィールドに呼び出されたのは、長く伸ばした紺色の髪をフードで隠した少女、アレックス。ドローかコアブーストを選び、アタックステップを終了させる効果を持つ防御バーストの代表格だ。手札2枚しか無い今、手札を増やせたのは大きい。
「今回はディアナちゃんはいないよ。一人で大丈夫?」
ライフで受けた光矢に対し、乃亜が聞いた。確かに痛みを分かち合ってくれるディアナはここにはいない。だが、
「一人? よく見ろ。俺達はいつだって二人だ!」
そもそもこのデッキはディアナから託された、二人のデッキだ。たとえこの場に居なくても、ディアナは共に戦ってくれていると思える。
「そうだったね、光矢はいつも通りってわけだ。ターンエンド」
「俺のターンだ。ゴッドシーカー超星使徒ペルディータをLV1で召喚。
超星デッキに2種存在するゴッドシーカーのうち1枚、超星使徒ペルディータ。デッキの上から3枚をオープンし、ヴィオレ魔ゐの他にコスト4以上の超星を手札に加えることができる。めくられたカードは超星使徒スピッツァードラゴン、滅神星龍ダークヴルム・ノヴァX、ノヴァドローと3枚とも対象のカードだ。
「ダークヴルム・ノヴァXを手札に加え、残ったカードは破棄」
さらに超星使徒ペルディータには召喚時効果だけでなく、赤と紫のシンボルを追加する効果がある。メインステップ中のみなのでバトルには使えないが、メインステップでのカードの使用を大いに助ける。
「ゴッドシーカー超星使徒ペルディータの効果で赤と紫のシンボルが1つずつ追加される。さらにアレックスのシンボルを紫として扱い、最大軽減2コストで滅神星龍ダークヴルム・ノヴァX、LV2で召喚!」
漆黒の鎧を纏う巨大なドラゴン、滅神星龍ダークヴルム・ノヴァX。このデッキのエースの1体だ。ペルディータのおかげでさっそく召喚できた。探索者アレックスは消滅したが、ダークヴルム・ノヴァXのLV2効果はスピリットを犠牲にするだけの価値がある。
「滅神星龍ダークヴルム・ノヴァXの効果で疲労状態のシュタイン・ゴイルを破壊!」
滅神星竜ダークヴルム・ノヴァXが放った紫色の雷撃が魔星人シュタイン・ゴイルへと直撃、爆発の中へと消えていった。
フラッシュ効果で相手を破壊する効果は他にも多くあるが、メインステップ中に発動できるスピリットはそうはない。さらに、
「アタックステップ、滅神星龍ダークヴルム・ノヴァXでアタック!」
滅神星竜ダークヴルム・ノヴァXの咆哮がバトルフィールドを震わせた。そして漆黒のドラゴンは巨大な翼を広げて飛翔する。ブロッカーも無く、フィールド上のコアが1個だけではスコルビウムがバースト召喚されても
「フラッシュタイミング、光導創神アポローンの
予想通り、乃亜はバーストを使わなかった。代わりに使用されたのは光導創神アポローンの
「ダークヴルム・ノヴァXのアタックはライフで受ける」
乃亜の目前で飛翔したダークヴルム・ノヴァXは、彼女に漆黒の炎を浴びせた。二つのライフが砕け散り、その衝撃に乃亜は後方へと吹き飛ばされる。
「痛った~。お姉ちゃんにも容赦しないんだ」
立ち上がりながら、乃亜はやや大げさに痛がってみせた。
「言っただろ、俺はディアナを守る。そのためなら、誰とだって戦ってみせる」
「一途に思い続けるのは光矢の強い武器だけど、その半分でもいいからこの世界にも目を向けてみない? あんたがディアナちゃんを大事に思っているのと同じように、世界の誰かが他の誰かを大事に思っているの」
「そんなこと、分かってるよ。それでも……、それでも俺はディアナを守りたいんだ。ターンエンド」
やはり光矢の意志は固かった。昔の自分を思い出させるその頑固さに、乃亜は軽く笑みを浮かべた。
「さすが私の弟、そう答えると思ってた。光星姫ヴァージニアをLV1で召喚。召喚時効果発揮でデッキの上から3枚をオープン」
バトルフィールドで長い金髪の少女が祈るように両手を合わせると、デッキから3枚のカードがめくられた。銀河星剣グランシャリオ、水星機アクエリーズナー、魔星人シュタイン・ゴイル。フィールドに滅神星龍ダークヴルム・ノヴァXがいる以上、ブレイヴである銀河星剣グランシャリオは役に立たない。
「アクエリーズナーを手札に加えて残ったカードはデッキの下へ。続いて樹星獣セフィロ・シープをLV1で召喚。召喚時効果でコア1個ずつを追加」
金色の鎧を纏った緑の羊の嘶きと共に、2体のスピリットへとコアが追加された。手札にコアと、乃亜は順調にアドバンテージを稼いでいる。
「さらに水星機アクエリーズナーをLV2で召喚。召喚時効果は……通用するスピリットはいないけど
丸みを帯びたロボットのようなスピリットは、先ほど光星姫ヴァージニアの効果で手札に加えられた水星機アクエリーズナーだ。残るコアは4個、ちょうど水星機アクエリーズナーを召喚したうえ、LV2を維持できる。これで重装甲:赤、白、紫を付与された乃亜の光導スピリットが滅神星龍ダークヴルム・ノヴァXの効果で破壊されることは無くなった。
「このままターンエンド」
スピリットは3体だが、光矢の残りライフは4。超星デッキのライフを中途半端に削ったところで回復される以上、アタックしても仕方ないと判断したのだろう。
「俺のターン。魔界竜鬼ダークヴルムをLV1で召喚。召喚時効果でライフを減らして2枚ドロー」
全身に不気味な鬼の面を纏った紫の竜が咆哮する。痛みと共にライフの輝きが一つ失われたものの、これで手札は5枚となった。
「ダークヴルム・ノヴァXをLV3にしてターンエンド」
だが、光矢もアタック宣言をしなかった。水星機アクエリーズナーの重装甲で大半の効果が通用しない今、ライフをすべて破壊できる布陣が整うまではアタックはできない。
「アタックしてこないなら、私から行くよ。魔導双神ジェミナイズXをLV3で召喚」
二つの顔と四つの腕を持つ黄色い道化師の姿をしたスピリット、魔導双神ジェミナイズXがフィールドに降り立った。そして四本の腕を怪しく動かし、バトルフィールドに魔方陣を描き出す。
「召喚時効果で光星神ゾディアック・レムリアをLV1でノーコスト召喚!」
魔方陣から黄金の翼を持つ白いドラゴン、光星神ゾディアック・レムリアが出現した。維持コスト確保のためにヴァージニアは消滅するものの、スピリットの展開とライフ貫通を併せ持つこのスピリットの召喚は、このターンにアタックすると宣言しているも同然だ。
「続いてジェミナイズXの星界放発揮。
さらに魔導双神ジェミナイズXが黄色く輝き、それに呼応して
「アタックステップ、ゾディアック・レムリアでアタック。LV2アタック時効果でダークヴルムを破壊して、ゾディアック・レムリアは回復」
黄金の翼を広げて光星神ゾディアック・レムリアが上昇し、翼から黄金の光を放射した。光を受けた魔界竜鬼ダークヴルムは爆散してしまう。
「つづいてゾディアック・レムリアのアタック時効果発揮。手札の磨羯邪神シュタイン・ボルグXをLV2で召喚して、ライフを破壊。さらにシュタイン・ボルグXの召喚時効果発揮。トラッシュのアクエリーズナーを手札に戻す」
光星神ゾディアック・レムリアの翼にある山羊座の紋章が紫色に輝き、山羊の頭を持つ紫色のスピリット、磨羯邪神シュタイン・ボルグXがフィールドへと降り立った。さらに黄金の翼から放たれた光の奔流が光矢を呑み込み、ライフを打ち砕く。
「自分の使っていたコンボを喰らうっていうのは効くな……」
残りライフ2。焼かれるような全身の痛みに苛まれながらも、光矢は手札から1枚のカードを引いた。光星神ゾディアック・レムリアのアタック時の処理は完了して、次は光矢のフラッシュタイミングだ。
「マジック、ブリザードウォールを使用! このターンの間、俺のライフは1しか減らない」
荒れ狂う吹雪が氷雪の壁となり、光矢を覆う。だが、ブリザードウォールで防げるのはアタックによるダメージのみ。光星神ゾディアック・レムリアのライフ貫通効果をもう一度使われては、ライフを守り切れない。
「そしてゾディアック・レムリアのアタックはダークヴルム・ノヴァXでブロック!」
舞うように飛翔する黄金の翼の前に漆黒の翼を広げ、滅神星龍ダークヴルム・ノヴァXが立ちはだかった。光星神ゾディアック・レムリアが膨大な黄金の光の奔流を放ち、滅神星龍ダークヴルム・ノヴァXを呑み込む。だが、滝のような光の奔流に逆らい、突き進んだ滅神星龍ダークヴルム・ノヴァXは逞しく黒い腕を伸ばし、光星神ゾディアック・レムリアの頭を鷲掴みにした。そのまま滅神星龍ダークヴルム・ノヴァXは加速、光星神ゾディアック・レムリアをフルパワーで大地に叩きつける。
磨羯邪神シュタイン・ボルグXの召喚でLV1、BP7000に下がった光星神ゾディアック・レムリアに対し、ブリザードウォールでコアを使いつつも滅神星龍ダークヴルム・ノヴァXもLV2を維持しており、BP10000。BPに勝るそのまま滅神星龍ダークヴルム・ノヴァXは光星神ゾディアック・レムリアをバトルフィールドに押し付けたまま、大地を砕きながら加速。バトルフィールドの端、壁に突き当たってようやく手を離した滅神星龍ダークヴルム・ノヴァXは空中に飛んで一回転し、漆黒の炎で光星神ゾディアック・レムリアを焼き尽くした。
「アタックでは、あと1個しかライフが減らない……。なら、ターンエンドかな」
どちらにしろライフを削り切れないのなら、アタックをする意味も無い。乃亜はターンエンドを宣言するしかない。
「俺のターン。超星使徒コーディリアをLV2で召喚。召喚時効果でトラッシュからガニメデを手札に戻す」
金色の杖を持つ白いドラゴン、超星使徒コーディリア。トラッシュからの回収効果と破壊、コア回収と煌臨もこなす超星デッキの中心となるスピリットだ。煌星第三使徒ガニメデを回収したことで破壊効果も発揮できたのだが、乃亜の光導スピリットは全て重装甲:赤が付与されているので通用しなかった。
「さらにマジック、ノヴァドローを使用。ヴィオレ魔ゐのコアを使ってデッキから3枚ドロー」
余ったコアを使い、手札を増やす。バーストもあからさまだ。どうせボイドに送られるならと、躊躇なく
「アタックステップ開始時、コーディリアにトラッシュのコア5個を戻す。この効果でコア4個以上を戻したので、ソウルコアをトラッシュに置いたものとして、超神星龍ジークヴルム・ノヴァXを煌臨!」
超星使徒コーディリアが煌めく光に包まれる。光が弾け、白い鎧を纏った巨大な赤いドラゴン、超神星龍ジークヴルム・ノヴァXがフィールドに舞い降りた。
「ジークヴルム・ノヴァXの煌臨時効果発揮。ライフを5まで回復!」
光矢のライフギアが再び5つの光を取り戻す。
フィールドに2体のノヴァが並び立った。滅神星龍ダークヴルム・ノヴァXの効果により二体のノヴァは相手の効果を受けないという強力な耐性を持り、超神星龍ジークヴルム・ノヴァXは強力なアタック時効果で相手のライフを破壊できる。
「ジークヴルム・ノヴァXでアタック。アタック時効果発揮、超界放! ヴィオレ魔ゐのコア4個をジークヴルム・ノヴァXに置き、乃亜のライフ2個を破壊する!」
超神星龍ジークヴルム・ノヴァXの咆哮がバトルフィールドを震わせる。そしてヴィオレ魔ゐから赤と紫の光が放たれ、超神星龍ジークヴルム・ノヴァXに力を与えた。
「熱いけど……そのアタックもらったよ! バースト発動、天蠍機動スコルビウム! ヴィオレ魔ゐのコア全てをボイドへ送り、スコルビウムはLV3で召喚!」
だが、乃亜はひるんだ様子も無くバーストを開いた。光矢の予想した通りのバーストだ。マジックカードを無効可できるヴィオレ魔ゐのコア除去を優先したのも想定通りであり、だからこそ光矢もヴィオレ魔ゐのコアで超界放を使った。
そして召喚される鋭角的なシルエットのスピリット、天蠍機動スコルビウム。魔星人シュタイン・ゴイルの星読で手札に加えていたカードだ。
「ジークヴルム・ノヴァXのアタックはスコルビウムでブロック! ターンに1回回復して、BPを+5000!」
乃亜と超神星龍ジークヴルム・ノヴァXの間に割り込んだ天蠍機動スコルビウムは長大な槍を叩きつけた。とっさにかわす超神星龍ジークヴルム・ノヴァXだったが、白い鎧に天蠍機動スコルビウムの鋭い蹴りが突き刺さった。巨大な翼を広げて地面に激突するのを食い止めるも、天蠍機動スコルビウムが槍を振り被って追撃してくる。超神星龍ジークヴルム・ノヴァXは後ろ向きに飛びながら炎のブレスを吐いて牽制するも、天蠍機動スコルビウムは槍を盾にして炎を防ぎ、一気に接近した。
天蠍機動スコルビウムLV3のBPは14000であり、効果で19000にまで上がっている。超神光龍ジークヴルム・ノヴァXのBPは18000、このままではBP勝負で破壊されてしまう。
「フラッシュタイミング! マジック、ソウルクランチを使用! このマジックを無色として扱い、スコルビウムとアクエリーズナーのコア1個ずつをリザーブへ!」
本来、乃亜の光導スピリットは水星機アクエリーズナーにより重装甲:紫が付与されており、紫マジックであるソウルクランチは通用しない。だが、無色として扱う効果により重装甲をすり抜けてコアを外すことができる。しかも水星機アクエリーズナーがLV1に下がったことにより、重装甲を付与する効果が消えた。
天蠍機動スコルビウムもLV2でBP11000となり、効果で上昇した分を含めてもBP16000。
BPが逆転した超神星龍ジークヴルム・ノヴァXは、突き出された槍を白刃取りで受け止めた。そのまま槍を挟んで天蠍機動スコルビウムを振り回し、逆に大地へと叩きつける。
「なら、私もフラッシュタイミングをもらうよ。マジック、ヴィエルジェウィッシュを使用。ジークヴルム・ノヴァXを手札には戻せないけど、ライフを1個回復させる」
これで乃亜の残りライフは2つになった。その時点で光矢は乃亜が手札にクローズドジェミニを握っていることを悟った。
なら、バトルを強制終了させられる前にできる限りのことをする。
「フラッシュタイミング! アクセル、アスガルディア! BP12000以下のスピリット全て破壊する!」
光矢の背後に銀を中心としたメカニカルなドラゴンのシルエットが現れる。煌星第一使徒アスガルディアのアクセル効果で上空から隕石が雨のように降り注ぐ。効果によりBP16000となった天蠍機動スコルビウム以外の、すべてのスピリットを破壊した。
「アクエリーズナーの重装甲:赤をLVを下げることで解除したうえで、効果でBPの上がったスコルビウム以外を全滅……。やるじゃない」
フィールドを更地にされつつも、乃亜はどこか楽しそうな笑みを浮かべている。背負ったものも大きいとはいえ、やはり強い相手とのバトルを楽しんでいた。それは光矢としても同様だ。乃亜とここまで真剣にバトルしたのは、おそらく初めてのことだ。ディアナのためということは忘れてはいないが、乃亜との駆け引きに確かな喜びを感じていた。
「重装甲で油断したな」
「なら、私ももう一度フラッシュタイミング! 超神光龍サジットヴルム・ノヴァをスコルビウムに煌臨!」
炎のブレスを跳躍してかわした天蠍機動スコルビウムが煌めく光に包まれる。そのまま空中で光が弾ける。逞しい四本の脚と二本の腕を白い鎧で覆い、金色の剣を持った巨大なドラゴン、超光神龍サジットヴルム・ノヴァが光の中から姿を現した。
「サジットヴルム・ノヴァ……、乃亜らしいな」
乃亜の一番好きなスピリット、超神星龍ジークヴルム・ノヴァと光龍騎神サジット・アポロドラゴンの要素を引き継いだスピリット、超光神龍サジットヴルム・ノヴァ。煌臨とアタック時効果のタイミングが難しく、光矢はデッキには入れていなかったが、乃亜は相手ターンにうまくタイミングを合わせることでその弱点を補っていた。
対戦相手が超光神龍サジットヴルム・ノヴァとなったが、バトルは継続している。超神星龍ジークヴルム・ノヴァXは飛翔して、超光神龍サジットヴルム・ノヴァへと爪での追撃をかける。繰り出される爪を二度三度とかわしていく超光神龍サジットヴルム・ノヴァだが、LV2のBPは15000しかなく、天蠍機動スコルビウムのBP+5000の効果も消えている。このままでは煌臨した甲斐もなく破壊されるだけだが、
「さらにフラッシュタイミング! マジック、クローズドジェミニを使用してこのバトルを終わらせる。さらに
やはり持っていた。このターンでライフを削り切ることはできなくなった。
「なら、滅神星竜ダークヴルム・ノヴァXでアタック!」
だが、残りライフ1までは追い込める。
漆黒の巨大な翼を広げて滅神星竜ダークヴルム・ノヴァXが飛翔。超光神龍サジットヴルム・ノヴァの直上を通過し、乃亜へと迫りくる。
「なら、そのアタックはライフで受ける!」
せっかく煌臨させた超光神龍サジットヴルム・ノヴァを失うわけにはいかない。
逞しい腕から繰り出された爪の一撃。乃亜のライフが打ち砕かれ、衝撃に吹き飛ばされる。残りライフ1となってしまったが、滅神星竜ダークヴルム・ノヴァXはダブルシンボル。本来であればこの一撃で終わっていたところを、クローズドジェミニの効果で耐えしのいだのだ。
ボディーアーマーで点灯する最後のライフを抑えながら立ち上がる。痛みに顔をしかめながらも、乃亜は不敵な笑みを光矢に向けた。
「これ以上は減らせないね。どうする?」
「分かってるよ。ターンエンドだ」
「私のターン。水星機アクエリーズナーをLV2で召喚」
先ほど、磨羯邪神シュタイン・ボルグXの効果でトラッシュから回収していたスピリットだ。再び光導スピリットに重装甲が付与されてしまう。
「続いて龍星皇メテオヴルムXをLV3で召喚」
赤い翼を持つスマートなオレンジ色のドラゴン、龍星皇メテオヴルムX。スピリット全てに相手へのブロック強制とライフダメージ効果を与える激突Xを与える、攻撃的なスピリットだ。超光神龍サジットヴルム・ノヴァといい、乃亜は光導デッキをかなり攻撃的に調整しているようだ。
「さらにサジットヴルム・ノヴァを最高LVにアップさせて、アタックステップ。超神光龍サジットヴルム・ノヴァでアタック!」
超光神龍サジットヴルム・ノヴァは背中から二対、腰から一対の光の翼を展開し、バトルフィールドを駆け出した。その巨大な四本の脚が大地を踏みしめるたび、地響きが起こる。
「アタック時効果、界放!
「フラッシュタイミング、ブリザードウォール! このターンの間、俺のライフは1しか減らされない!」
再び光矢のライフを吹雪の壁が守った。先ほどの超界放のおかげで、コアも潤沢にある。これで超光神龍サジットヴルム・ノヴァのアタックを受けても残りライフ1、次のターンが回ってくる。
だが、乃亜は余裕の笑みを返した。
「違うでしょ。スピリットのアタックでは、1しか減らされない」
効果ダメージであれば、ライフを減らすことができる。ちょうどアタック中の、超光神龍サジットヴルム・ノヴァのように。
「だからフラッシュタイミング! アクセル、光導女神グラン・リリアを使用! サジットヴルム・ノヴァを回復させる!」
「なっ!?」
「サジットヴルム・ノヴァの次の界放であんたのライフ全てをもらう。終わりだよ!」
このバトルで超光神龍サジットヴルム・ノヴァを処理しない限り、このターンで敗北する。だが、光矢のスピリット全ては疲労状態でブロックすらできない。
「いや……、ここで終わらせてたまるか! フラッシュタイミング、ダークヴルム・ノヴァXにガニメデを煌臨!」
滅神星竜ダークヴルム・ノヴァXの漆黒のボディが光に包まれ、次の瞬間には薄緑色の小型のドラゴン、煌星第三使徒ガニメデへと姿を変えた。
「ガニメデの煌臨時効果発揮、ダークヴルム・ノヴァXをLV2で召喚!」
わざわざ4コストしかないガニメデを煌臨させた理由。それは煌臨元カードを1コストで再召喚できる効果があるからだ。ガニメデを消滅させつつ、再び大地を踏みしめる滅神星竜ダークヴルム・ノヴァX。もちろん回復状態であり、ブロックが可能だ。
「けど、ダークヴルム・ノヴァXじゃサジットヴルム・ノヴァは止められないよ!」
最高LVの超光神龍サジットヴルム・ノヴァのBPは30000。滅神星竜ダークヴルム・ノヴァXのBP10000をはるかに上回っている。
光矢の手札にはもう防御マジックは無い。だが、ディアナと一緒に行ったカードショップでデッキ調整した際に入れたカードがある。
「フラッシュタイミング! 超龍騎神グラン・サジット・ノヴァを超煌臨!」
天空から光の柱が降り注ぐ。超煌臨、トラッシュのコアを光導か超星のスピリットに戻すことでカードを重ねる、煌臨の派生効果だ。激しい光の嵐の中で、超神星龍ジークヴルム・ノヴァXは逞しい四本の脚と二本の腕を金縁の白い鎧で身を包んだ赤いドラゴン、超龍騎神グラン・サジット・ノヴァへと姿を変えた。
「うそっ!?」
「グラン・サジット・ノヴァの煌臨時効果で回復! そしてブロックだ!」
超龍騎神グラン・サジット・ノヴァは虹色の巨大な翼を広げ、超光神龍サジットヴルム・ノヴァの前に立ち塞がった。超光神龍サジットヴルム・ノヴァは巨大な弓から光の矢を射ったが、超龍騎神グラン・サジット・ノヴァは右の手甲を変形させた剣でその光の矢を弾き飛ばした。そのまま接近し、右手の剣を振り下ろす。超光神龍サジットヴルム・ノヴァも弓を巨大な剣へと変形させ、その斬撃を受け止めた。一瞬の膠着、超龍騎神グラン・サジット・ノヴァは後ろ脚をブースターのように変形させ、さらに勢いを増した。
劣勢となった超光神龍サジットヴルム・ノヴァは3対の翼を展開して上空へ離脱するも、二本脚となった超龍騎神グラン・サジット・ノヴァも虹色の巨大な翼とブースターの力でそれを追う。そして空中で再び剣と剣とがぶつかり合った。二度、三度とぶつかり合う度に生じた激しい衝撃波がバトルフィールドを揺るがす。だが、三度目の衝突でとうとう超光神龍サジットヴルム・ノヴァがバランスを崩した。そこへ超龍騎神グラン・サジット・ノヴァがブースターを全開にし、疾風の速さですれ違いざまに翼の一つを斬り裂いた。。
超龍騎神グラン・サジット・ノヴァは左の手甲を変形させ、弓へと変えた。片方の翼を失い、自由が利かなくなった超光神龍サジットヴルム・ノヴァへ向け、右手の剣を矢としてつがえて放つ。
超光神龍サジットヴルム・ノヴァは中心を射抜かれた。超龍騎神グラン・サジット・ノヴァと目を合わせ、静かに頷いた超光神龍サジットヴルム・ノヴァは、そのまま空中で爆散した。
超龍騎神グラン・サジット・ノヴァのBPは32000、超光神龍サジットヴルム・ノヴァのBP30000すらも上回っていたのだ。
「まさか、あんなカードを仕込んでいたなんて……。ターンエンド」
超光神龍サジットヴルム・ノヴァが破壊されたことで、乃亜のフィールドに残るスピリットは2体のみ。ブリザードウォールの守りを突破できるスピリットは存在しない。
「俺のターンだ。滅神星龍ダークヴルム・ノヴァXを最高LVにアップさせて、アタックステップ。ダークヴルム・ノヴァXでアタック!」
漆黒のドラゴンが翼を広げ、咆哮とともに強く大地を蹴って飛翔。もはや手札の無い乃亜は、フィールドにいる2体のスピリットブロックするしかない。
「そのアタックはメテオヴルムXでブロック!」
オレンジ色のドラゴンが滅神星竜ダークヴルム・ノヴァXの進路を塞ぐ。滅神星竜ダークヴルム・ノヴァXは脚の爪で龍星皇メテオヴルムXの頭を捉えて空中で回転、大地へと叩きつけた。
「今度はグラン・サジット・ノヴァでアタックだ! アタック時効果でターンに1回、回復!」
「アクエリーズナーでブロック!」
四本の脚で駆けてくる超龍騎神グラン・サジット・ノヴァに対し、水星機アクエリーズナーは右手に持った銃から水の奔流を発射した。だが、超龍騎神グラン・サジット・ノヴァは左の手甲でそれを受け止めつつ接近、そのまま右手の剣で水星機アクエリーズナーを胴体から両断した。
「最後だ。超龍騎神グラン・サジット・ノヴァでアタック!」
超龍騎神グラン・サジット・ノヴァが虹色の翼を広げて飛翔した。空中で左の弓を変形させ、右手の剣をつがえている。と、同時に光矢のライフギアの両肩のアーマーが弾け飛び、変形して左手に装着、弓となった。光矢と超龍騎神グラン・サジット・ノヴァは共に弓を構え、乃亜を狙う。
「ここで私に勝っても、ディアナちゃんを助けられるわけじゃない。分かってる?」
「ああ」
「光矢が戦う相手はグラン・アヴィドの皆……、運命といってもいいかも。勝ち目の見えない戦いだよ」
「運命が敵だっていうのなら、戦う。そして、勝ってみせる。ディアナを守るために」
光矢は一切揺るがない。その決意の固さを、乃亜はあらためて思い知る。その頑固さに呆れながらも、乃亜はアタックを受け入れるかのように両手を広げた。
「なら、最後まで戦い抜くことだね。アタックはライフで受けるよ」
光矢が構えた右手を解放した、と同時に超龍騎神グラン・サジット・ノヴァが右手の剣を矢として放った。その剣は同時に最後のライフを貫き、ライフギアの光がすべて消える。身体を穿つような激痛に乃亜は膝を着くも、光矢の方に顔を向けた。
「光矢の勝ち、だね」
ライフギアが解除され、元のホールに戻された。光矢は膝を着いたままの乃亜に右手を差し出す。その手を借りて、乃亜は立ち上がってから大きく伸びをした。
「あ~あ、まさか負けるなんてね」
「乃亜だって迷ってたんだろ。わざわざ自分のデッキじゃなくて俺のデッキ使ったりして」
その問いに乃亜は答えるつもりはなかった。本気じゃなかった、迷いがあったから負けただなどというのは相手に対しての侮辱でもあり、何よりみっともないと思う。ただ曖昧な笑顔を浮かべ、勝利の証としてのデッキを差し出す。
「負けは負けだよ。はい、返すね」
「ああ。お帰り、俺のデッキ」
中身が若干変わっているが、光矢の光導デッキには違いない。後で調整をする目的つもりだが、まずは受け取ったデッキをそのままカードケースに入れる。
「あとこれ」
そう言って乃亜が何かを投げ渡した。慌てて受け取り、確認する。タグの付いた、何かの鍵のようだ。
「何これ?」
「飛行艇の鍵だよ。ここを出るのに使って」
「飛行艇っていっても……。俺、そんなの操縦できないぞ」
そもそも飛行艇などここへ来るときに一度乗っただけだ。そんなものだけ渡されたところで……、
「召喚したカードバトラーに支給されるものだよ。全自動のAI制御だっていうから大丈夫でしょ」
「全自動って言っても……」
「あ~、もう! ぐだぐだ言わないの! ほら、ディアナちゃん来ちゃったじゃない!」
「え!?」
言われて乃亜が指し示した方、ホールの入口を見る。確かにディアナが入口にもたれかかっていた。
「光矢……、やっと見つけた……」
そう言って儚げな笑顔を浮かべる。体調は見るからに悪そうだ。光矢は慌てて駆け寄り、倒れそうになっているディアナを支えた。
「ディアナ! なんで……!」
「起きたら、光矢がいなかったから……」
それで一人で城の中を探し回っていたらしい。知らない場所で無茶なことを……。相当無理をしていたのか、安心したのか、ディアナは光矢の腕の中ですぐに寝息を立て始めた。
「ほら、早く行って。でないと他の誰かに捕まるかもしれないでしょ」
「分かったよ」
このバトルは乃亜と行ったもの。別の相手にバトルを挑まれることもあり得る。光矢は急いでディアナを背負った。見た目相応に軽いとはいえ、背中に確かな重みと柔らかさ、そして体温を感じた。生まれが少し違っていても、ディアナは確かに生きている。そう思える。
「そっちじゃない。こっち来て」
乃亜はホールの奥へと光矢を呼んだ。壁に向かって何やら操作すると、壁の一部が開いて下りの階段が現れた。
「何これ?」
「隠し階段。ここは元々魔王の城だったんだから、隠し通路があってもおかしくないでしょ」
隠し階段には足元に微かな照明が付いていた。だが、暗すぎてどこまで続いているかも分からない。
「この奥に飛行艇があるって。鍵を押せばタラップが降りるから、乗り込んだ後はAIの指示に従って」
「ありがとう。けど、なんでここまでしてくれるんだ?」
乃亜と光矢はディアナを賭けてバトルをした。ここまで助けてくれるというのは敗者の義務を超えているように思える。
「この世界を救いたいのは本当だよ。でも、ディアナちゃんに幸せになってほしい気持ちもあるの。もちろん本気でバトルしたけど、光矢が勝ってくれて正直ほっとしてる。
私はグラン・アヴィドを救う方法を探す。だから光矢は……」
「ああ。ディアナは必ず俺が助ける。助けてみせる」
光矢は暗い道に一歩足を踏み出した。ディアナを背負っていることもあり、一歩一歩確かめるようにして歩を進めていく。
「負けちゃダメだよ、光矢」
二人の背中はすぐに暗闇に消えてしまった。乃亜は呟くようにして、エールを送った。
長い階段を向けた先には格納庫らしき空間があった。足を踏み入れた瞬間に照明のスイッチが入ったのか、途端に目の前が明るくなった。暗闇に慣れた目が眩んでしまう。
目を細め、光の先を見る。どうやら中型トラック程度の大きさの飛行艇がライトアップされているようだ。近づくと自動的に搭乗口が開き、タラップが降りてきた。そのまま飛行艇に乗り込む。
まずはディアナを後部座席に横たえた。そんなに重くはなかったとはいえ、かなりの長時間背負い続けていただけに解放されたような気分になる。
ディアナが目を覚まさないことにほっとしながら、操縦席らしきシートに座る。
「鍵は……、ここか?」
鍵穴らしき箇所へと鍵を差し込む。パネルに光が灯った。
「おはようございます。マスター、ご用件は?」
凛とした女性の声。どこかに人が隠れていたのかと一瞬驚くものの、肉声ではなかったことに気付く。
「ひょっとして、この飛行艇のAIか?」
「はい。私は
「急いでここから発進して!」
「了解しました」
エンジンに火が入ったのを感じた。機体全体が振動し、少しずつ上昇を始める。
隠し階段を閉じてしばらく後、
「逃げたんだね、光矢君」
「脱走者がいるのに、
後ろからの声に対し、乃亜は振り返ることもなかった。肩をすくめている様子が目に浮かぶ。
「いちいち僕が命令しなくても勝手に動いているよ。勝手といえば、乃亜ちゃんもみたいだけど」
「そうだね。負けちゃった。ごめんね」
「仕方ないよ。僕だってあの子を犠牲にしようだなんて気が乗らなかったし、正直ほっとしてる」
その言葉に、乃亜は初めて振り向いた。テンはしてやったり、といった風な表情をしていた。
「意外に思った? 僕だって乃亜ちゃんに似た女の子を死なせたくはないよ。けど、まさか乃亜ちゃんが倒されるだなんてね」
「で、どうする? 追いかける?」
「脱走者として指名手配はかけておくよ。でないと示しがつかないからね」
脱走したまま、放っておくわけにはいかないというのは分かっている。もし光矢を追わなかったとしたら、
「グラン・ソウルコア……ディアナちゃんのことは?」
「当然、極秘だよ。
安心した。ただ脱走者として追われるだけなら、光矢はそうそう負けないだろう。
「僕たちもあの子を助ける方法を探してみるよ。あの子のためならどこまでも強くなれそうな光矢君を倒すより、その方が早そうだ」
またも肩をすくめるテンに対し、乃亜は笑顔を見せた。乃亜だってディアナを助けられるものなら助けたい。
「なるほどね。なら、私にも手伝わせて」
「ありがとう。当てにしてるよ、乃亜ちゃん」
再び乃亜と共に戦うことができる。ただ敵を倒せば済んだ昔と違い、どうすれば解決するのかも分からない厄介な問題ではあるものの、その事実にテンは確かな喜びを感じていた。
飛行艇が高速でグラン・アヴィドの空を飛ぶ。だが、乃亜の言っていた通りに全自動のAI制御だったために光矢には何もすることがなかった。だから、ディアナが目を覚ましたのにもすぐに気づくことができた。
「おはよう、ディアナ。よく眠れた?」
猫のような手で顔をこする。その表情に我慢の様子は見えず、すっかり元気になったようだ。
「うん……。どこか行くの?」
「分からない。けど……」
寝ぼけているのか、とろんとした目で見つめてくる。光矢はディアナの両肩を抑え、目を合わせた。そして笑いかける。
「どこだって、俺はディアナの傍にいる」
ディアナも笑顔を返してくれた。まさしく花の咲いたような笑顔だ。
これから何をすればいいのかは分からない。どうすればディアナを救えるのかも分からない。まさに暗闇の中を手探りで進むことになるだろう。だが、そんな暗闇でもディアナと二人で歩くことができるのであれば、きっと……。
希望をもって進むことができる。
これにていったん完結となります。
もし機会があれば続きを書くかもしれないので、その時はよろしくお願いします。