ところで、そろそろ溜まってきたフレポを解放すれば、リリィちゃん来ますかね?
もしくは金フォウ君と夢火も完璧に揃えなきゃ来てくれないとか?
あと最近噂の新聞に色んなサーヴァントの方が載ってますね。そしてアルトリアさんが手にしてる剣がカリバーンってのエモくない? エモーショナルエンジンふるどらいぶしちゃう。
私以外のセイバー死すべし、慈悲はない。
———いや違う、正確には私と『もう一人』。
この世にセイバーは二人でいい。
私と、私の永遠の相棒だけがセイバーであれば良い。
「くぅ……うーん。むにゃむにゃ、私はセイバーのインフレを何とかすべく、過去に飛びセイバーを抹殺する真のセイバー…………はっ、ついうたた寝をしてしまいました」
重い目蓋を開き、両手で両目を擦る。
そして目の前のモニターをまだボヤけてる視界で見つめた。
「おや、うたた寝している間にタイムジャンプは終わってますね。では早速、手近な惑星に着陸して、セイバークラスの掃討を始めましょう———あいたっ!」
すると突然、視界が———いや、全てが揺れた。
そして危険を知らせる猛々しい警告音が鳴り響く。
「な、何事ですか! 予算ケチって操縦席が狭いから、今の謎の衝撃で天井に頭をぶつけました! 帽子が無かったら危なかったですね!」
なんて言っている場合ではない。
急いでこの、如何にも緊急事態だよと煩い警告音を何とかしなくてはならない。
「えーっと、緊急メンテナンスモードに切り替えて…………嘘、私のドゥ・スタリオンⅡ壊れすぎ……?」
どうやら愛機がこの土壇場で故障したらしい。
現に幾つかのパーツが強制パージされ、愛機からボロボロと剥がれ落ちている。
「これは不味いです! やはり予算ケチって色々とガタガタなドゥ・スタリオンⅡでタイムジャンプするのは無理でしたか! と、とりあえず不時着しなくては……!」
操作をオートからマニュアルに切り替えて、操縦桿を握る。
ついでにダメ元でSOS信号も出しておこう。
「うぉぉぉぉぉ! 私の騎乗スキルは伊達じゃない!」
大気圏に突入。
惑星の重力で機体は勝手に落ちるので、私のすべき事は機体を安定させ続ける事だ。
とはいえ、大気圏を突破するなんて既に手馴れたものだ。
例え機体が損傷していても、着陸することくらい朝飯前———
「あ、やっぱり無理ですねこれ」
運が悪い事に、姿勢制御装置もイカレてるようだ。
何とかギリギリまで機体を安定させる事は出来たので、多分このまま地面に衝突しても、ドゥ・スタリオンⅡの装甲なら耐えられるだろう。
だが、その衝撃は———
「っ———! おえっ、吐きそうです……」
凄まじい衝突波と音が響く。
そして、それは己の肉体にも衝撃を与える。
「———探知ソナーは生きてますね…………よし、大気も重力も至って活動可能レベルですね」
肉体に目立った損傷はなし。
不時着したこの星も遠慮なく深呼吸できるくらい安全な環境だ。
ハッチを足で蹴飛ばして、這いずるように外に出た。
「むむ、頭がクラクラします……打ち所が悪かったのでしょうか」
それとも、この照り付ける陽射しが眩暈の原因か。
はたまた落下の衝撃で平衡感覚が一時的にマヒしているのか。
うまく思考がまとまらない頭で、とりあえず状況を理解しようと辺りを見回した。
一見すると、何も無い平和な草原。
しかしこのヒロインイヤーは地獄耳。
そしてヒロインアイは熱光線———ではなく、地獄目だ。
少し離れた丘の向こうで、何者かが戦闘をしているのが分かった。
「あれは……原住生物と———はっ、セイバー!?」
得意の気配遮断でこっそり近づく。
どうやら、この星の原住生物っぽい肉食系っぽい獣に、憎きセイバーとその仲間であろう少年少女が襲われているようだ。
「先輩! 大丈夫ですか!?」
「俺は大丈夫! というかこいつら一体どこから……!」
「おそらく私達のように、先程の落下物と轟音が気になって巣穴から出てきたのではないでしょうか!」
これはチャンスだ。
今なら油断しきっているセイバーをヤレる。
セイバーを排除した後、獣畜生どもを片付けてやれば、少年少女は助かるだろう。
なお、セイバーと共闘するルートは存在しない。
「それにしても……見てて危なっかしいですね。未熟者なのにセイバーとか、セイバーに対する侮辱ですね」
基本の動きは問題ない。
だがあのセイバーは、私からしたら未熟者だ。
剣筋は弱々しいし、太刀筋も悪くはないが良くもない。
だが磨けば確実にセイバーに相応しいウデを身につけるだろう。
まぁ私には及ばないが。
それがあのセイバーに対する私の評価だった。
え、何でセイバーだって分かるのかって?
だって私のセイバーレーダーに反応してるし、私と似た顔だし、剣を持っているし———はて、あの剣何処かで……?
「———! マスター! 『宝具』の使用許可を! 一掃します!」
「うん! リリィ、全力でお願い!」
どうやら切り札を使うようだ。
しめしめと、切り札を使ったその瞬間。
その無防備な背中に一撃くれてやろうと己の得物を強く握り込む。
「選定の剣よ、力を……邪悪を断て———!」
———あれ? あの、剣は……?
「『
———何故。
何故あの剣が。
『カリバーン』が此処に?
『ご主人、俺はご主人の剣で良かった』
『俺たちは永遠の相棒だな!』
『ご主人よ、新しい身体を用意してくれたのは嬉しいが、出来れば女性型じゃなくて男性型が……というかこれご主人のコピーじゃん。まさか手抜きじゃ———あ、何でもないです。嬉しいですはい』
『ねぇご主人、コスモカルデア学園の学費の請求が何故か俺に来たんだけど。え、お金が無い? アルバイトは? ……クビになった? じゃあもう退学するしか……え、俺はたくさん稼いでるから、少しくらいお小遣いをくれ? ついにダメ人間の発言が……!』
『え、二人で最強のセイバーを目指そう? でもご主人、俺を手放したからもうセイバーじゃなくて、アサシンに戻って———いや、そうだな。いつか『グランド』になれるくらい、二人で最強になるか……え? さっそく特訓? まだこの新しい身体に慣れてないからまた今度に……ダメ? そんなー』
私の剣。
私の相棒。
私にセイバーを魅せてくれた大切な友。
今は離れ離れになっている彼が此処にいるのは実に不思議だが、そんな事は『どうでも良い』。
問題なのは、あの未熟者が私の相棒だという事実だ———!
そして気がつけば、不意打ちも忘れ私は飛び出した。
『ねぇなにあれ、なにあれ。何か奇抜な格好したマスターが襲ってきたんだけど!? まさかあれが黒化ってやつ? 最近流行のオルタナティブってやつ!?』
「お、おおお落ち着いてくださいカリバーン! 『ネロ』さんや『ジャンヌ』さんのように、ちょっと似た顔の英霊の方かもしれません! あの、良ければ真名を教えて頂けないでしょうか?」
「相棒の顔まで忘れたと言うのですか!? 私は『ヒロインX』! カリバーン! あなたの相棒であり、あなたの稼いだ収入で日々を暮らすベストパートナー! いつも仕送りありがとうございます!」
『意味不明! 余計に分からなくなったぞこんちくしょう!』
「いつの間に働いていたのですかカリバーン! ずるいです! 私も一緒に働きたいです!」
『働いた覚えも、誰かを養ったりした事なんてないわ! グラマス! 『ヒロインエックス』って名前の英雄っていたか!?』
「えっ、えっとー……マシュは何か知ってる?」
「ごめんなさい先輩。私も聞き覚えはありません……ですが『ヒロイン』———何故かこの身に滲みるような言葉です……」
混沌ここに極まれり。
ここにいる誰もが混乱している。
サーヴァントの同一人物が別の側面、クラスを得て召喚されることはそう珍しいことではない。
例えばカルデアの古参の一人である、メディアというサーヴァントがいる。
彼女は『裏切りの魔女』という側面が強い状態で召喚されたサーヴァントだ。
そのため、その全盛期に最も相応しい姿形、能力を持って現界している。
『マスター、あなた本当に才能ないわね。でも、教えがいがあるから、許してあげるわ』
『きゃー! 可愛い! ねぇ、次はこっちを着てみて? あなたの剣と共同製作した奴よ———あ、逃げないで! お菓子、美味しいお菓子もあるわよ!』
そんなカルデア生活をそれなりに満喫しているメディアさん。
そんな彼女にも、実は『別の自分』がいるのだ。
『サーヴァント、キャスター。メディアです。あの、よろしくお願いします』
『マスター、パンケーキはいかかですか?』
『こらー、そこの方達! ケンカはいけません! えーい! 仲良くなーれ!』
———そう、
第三特異点でその存在は初めて確認されていたが、そんなメディアさん十四歳が最近カルデアに正式に召喚されたらしい。
ちなみに、実際に召喚の場に偶々立ち寄っていた大人メディアさんは、同じくその場にいたクーフーリンの槍を強奪し、『自害しろキャスター』と意味不明な発言を繰り返しながら己の霊核に突き刺そうとするという珍事件があったりもした。
まぁ、なにが言いたいかというと、多数の英霊が集うカルデアや、様々な時代を駆け巡るレイシフトの先で、そういった別の自分に会う事もあるだろうという事だ。
実際、宝具としてカリバーンを手にしているこの
最初の特異点でも、エクスカリバーという別の聖剣を宝具としているアーサー王が居たことも記録されている。
だから、いつか———カリバーンという聖剣の結末を知っている
そうなったら、もう隠し通せない。
残酷な真実を突き付けてしまう。
だが、全ては自分で撒いた種。
その時が来たら、成すべきことをする———そんな覚悟をカリバーンは抱いていた。
「アサシンと思ったうぬが不覚よ! セイバー……ホームラン!」
「くっ……! 強い———!」
覚悟を…………
「リリィさん! と、取り敢えず加勢します!」
「えぇい、邪魔をしないでください盾子! というかうちのカリバーンと一体どんな関係ですか!? 私に黙って友達作るなんて許せません! えぇ、決して友達が少ないからって逆恨みしているわけではありませぬ!」
……果たしてあれをアルトリアとして認めて良いものだろうか。
何か全体的に世界観というか、存在そのものが別時空のような……自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。
しかし先程からカリバーンの名を呼んでいるし、持っている剣も記録でみたエクスカリバーとやらに似ている。
となると、あのヒロインエックスとやらが、正真正銘アルトリアだという可能性はあるし、アーサー王として国を治めていた時代は、意外にもあんな感じだったのかも———
「あうちっ……!?」
「あ、ご、ごめんなさい。思わず脛に私の足が当たって……」
「くっくっくっ……迷わず人体の急所に蹴りを入れるとは———見ないうちに成長しましたねカリバーン。では次はこちらの番です……ヒロインの雷(支援砲撃)、見せてやろう!」
「何かミサイルみたいのが何処からともなく降ってきた!?」
「先輩、リリィさん! 私の後ろに……!」
———うん、無いな。
あれが王様やってたら、一晩で国が滅びそうだ。
しかし何処となく、アルトリアっぽさを捨てきれない。
一体何者なのだろうか。
「ところでその衣装可愛いですね! もしかして次に出演する映画の衣装ですか? 良いなー私も着てみたい!」
『さっきから会話が成り立たないな……錯乱してるのか……? グラマス、取り敢えず一旦落ち着かせるぞ!』
「ど、どうやって!?」
『決まってるだろ、
「失礼しました、知り合いと似てたものでつい、斬りかかってしまいました」
「ご、誤解が解けたようで何よりです……」
「……とんだ失態を晒しました。よくよく考えればここは過去の世界、カリバーンがいる筈が———いや、もしかして過去のカリバーン本体だったり? いかんヒロインX、タイムパラドックスだ! 的な感じでゲームオーバーエンド? でも元よりタイムパラドックスを起こしに来たようなものなのでセーフセーフ」
マシュとアルトリアの二人がかり、それにマスターの支援があってようやくこのサーヴァントを止められた。
霊基反応はアサシンらしいが、本当にアサシンなのかっていう程手強かった。
というか真正面から剣を振り回すアサシンとは……?
そして本当に何者なのか。
今はブツブツと何か独り言を言っているが、その横顔は紛れ間なくアルトリア。
もしやこの特異点の影響か何かで、霊基に何かしらの異変が起きたアーサー王が召喚されたとか……?
「……ところでそこのカリバーンに似た剣を持った君」
『カリバーンに似てるって、紛れもないカリバーンなんだけどな……』
「わ、私ですか?」
「えぇ、先程から言いたい事があるので、率直に言います。それでもセイバークラスですか?」
「は、はい。未熟者ですが、これでもセイバークラスの末席に身を置かせて頂いてます……」
「正直に言うと、今の君ではセイバーに相応しくありません。宝の持ち腐れならぬ、カリバーンの持ち腐れですね」
「そ、それは……その通りだと思います———」
エックスとやらの言葉にリリィはしゅんとする。
『おいヒロインエックスとやら、いきなり不躾だな。勝手に襲いかかってきておいて、その次には貶しの言葉か? いくらあんたがアルトリアだろうが、そうでなかろうが、俺の
柄にもなく感情が振り切ってしまっている。
多分動揺が抜け切れてないのだろう。
「何を馬鹿なことを、私は『アルトリア』などという名ではありません。顔が似てるだけの別人です。そして悪口を言ったつもりは決してありません。あえて現実を突き付け、事態の重大さを知ってもらおうとしたまで」
「えっと……ヒロインXさん? ではどういう意図があったのでしょうか? そしてできれば、正体と目的を教えていただけないでしょうか。それが出来なければすぐに帰ってください。私たちは鍛錬で忙しいので」
「意外と容赦ないこと言いますねこの盾子……まぁ良いです。改めて私は『ヒロインX』。ここには使命を背負ってきました。そして絶体絶命のピンチに現在進行形で陥っているので、あなた方に協力してもらおうかと」
ヒロインXは平原の向こうを指差す。
「あそこに私の故障した宇宙船が墜落してます。あなた方には宇宙船の修理の為、この世界に散らばったパーツと、『アルトリウム』を集めてもらいたいのです」
「う、宇宙船!?」
「つまりさっきの飛来物はヒロインXさんの宇宙船だったという事ですね。凄いです、宇宙船って実在していたのですね!」
『つまり宇宙から来たサーヴァント……? なにそれ怖い』
英雄の座に時間の概念はなく、過去や未来様々な英霊が召喚されると聞いた事はあるが、まさか宇宙のサーヴァントもありとは……
もしくは、宇宙や宇宙船に関して何か関係があるわりと近代的なサーヴァントなのだろうか。
それが偶々アルトリアと似た顔だったというだけで……しかしあの強さやカリバーンの名を知っていたことも考慮するとその可能性は———
ダメだ、考えれば考える程謎が深まる。
「その代わりといっては何ですが、その鍛錬とやらを手伝いましょう……特に君をよりセイバーに相応しくするため、この私があなたの師になってあげます。宇宙船が直るまでの間、みっちり鍛えてあげますとも!」
「え、ですが……よろしいのですか? 会って間もない、見も知らぬ未熟者の為に師になるなど———」
「えぇ、酔狂と思うならそれでも結構。私は単にギブアンドテイクな交換条件を提示したまで。要らないなら私はそれで構いませんが、どうしますか?」
「———で、でしたらお願いします! 私はもっともっと強くなって、最高最善の王になりたいのです!」
「よろしい! ならば今から私のことはX師匠と呼ぶように!」
「はい、X師匠! やりましたよカリバーン! 頼りになる師がまた一人増えました!」
『……マスターの師って、もしかして変な輩しか出来ない運命なのか? まぁケイの奴はわりと普通かもしれんが———』
カリバーンの脳裏に映ったのは、ある魔術師の姿。
見た目とは裏腹に、剣を持てば「柄ではないんだけどね」とかほざきながら、達人もびっくり仰天する程の腕前を見せつけてくる。
「先輩、何やら話が進んでしまったようですが、どうしますか?」
「うーん……まぁ困ってるみたいだし、助けてあげようか。それに———宇宙船、俺も触ってみたい……!」
「ああ! 先輩の目がキラキラしてます!」
セイバーウォーズの元ネタの例の映画なんですけど、実はまだ一回も見た事がないという