「私は恋愛で性別や年齢差なんて気にしない人ですけど、ちょっとムードが足りなくありませんか?」
「・・・・・・・」
殺生院唯亜、人生初の校舎裏の呼び出しは同性の方に凄い剣幕で睨まれながらでした。唯一の救いは相手があの校内における絶世の美女たる化野紅緒さんであることぐらい。これでこのまま告白、からのファーストキスまで奪われたら私は観念して化野さんのお嫁さんにもらわれてしまうのかな?ん?この場合はお婿さん?いや、これどちらかというとヤンキーの呼び出しに近い?やだ私美女からカツアゲされてる?感動。
なーんて、そんなわけないのはわかっている。どう見ても昨日のいたずらのせいで、大方昨日の言葉の真意について聞きたいとかそのあたりだろう。別にどうということはない。どうせ化野さんは何も知らない。なんて言ったって私が陰陽師と直接接触したのは、それこそ片手で数えられるぐらいに少ない。情報はほとんどないに等しい。なら私から適当にはぐらかしてあげれば勝手に納得してくれるだろう。でもさすがにそれだと味気ないし、せっかくそれっぽく言った意味がなくなってしまう。どうせならもうすこしかき混ぜてあげてよう。
「愛の告白はもっとかわいい顔で言ったほうがいいですよ。あ、それともカツアゲですか?私お金は買い物以外持たない主義なんで、生憎今は一円たりとも持っていないん-----」
「そんなことは・・・・どうでも・・・いい。」
やや食い気味に言葉を遮ぎる化野さんはわかりやすく私を警戒して睨む。意図せず身体を半歩ずらしいつでも鞄の中をまさぐれるように手を置いて、私が下手な動きをしたらいつでもとびかかれるように構えているあたり相当に鍛え上げられた陰陽師なんだろう。ああ、きっとこの子なら十全に私を殺してくれるんじゃ
『駄目!まだ来てないの!いい感じに煮詰まるまで待ってよゆっちゃん!』
・・・ああ、そうだった。今日は彼女ってことを忘れてた。彼女もまた
「昨日の・・言葉・・・一体どういう意味?」
「さあ、何のことやら。」
「・・・っ!とぼけ・・ないで!!」
「やだ怖ぁい。化野さんはどういう意味だと思いました?」
私たちの間に不穏な空気が走る。まあ私が走らせたんだけど。化野さんはよりいっそう警戒を強めて眉間にしわを寄せている。ああ、なんかこうゾクゾクしてきた。何かの扉が開きかけている予感がするぅ。でもまぁこれ以上話しても私に益がないしこのあたりが限度だろう。
「そんなに睨まないでくださいよぉ。まぁ言ってみれば簡単な話です。向こうに知り合いがいるというだけでしてね。繭良さん・・・
「・・・なにが・・・目的?」
「目的なんてそんな。強いて言うなら、趣味?ですかね。最近推理小説とスパイ漫画にはまってまして、私も日常でそういうことをしてみようと思いまして。それ以上に意味はありませんよ。」
「・・・・・・二度としないで・・・」
「ええ、勿論。満足しましたしもうしませんよ?」
「・・・・・・・」
化野さんはひときわ強くにらみつけるとその場を去っていった。作戦通り。わざと胡散臭く、わざとらしいセリフを吐くことで、化野さんはさらに私を疑い続けることになる。いくら探っても出てこない私の尻尾を追いかけてくれるかもしれない。その姿を想像するとたまらなく滑稽で面白い。彼女はきっといい娯楽になってくれそうだ。あれ?それにしてもどうして化野さんがこんなに気になるんだろう?今までこんなことなかったのに。私がここまで他人に興味を持つなんて、初めてのことで少し困惑気味。まさか・・・
「これが、恋?」
ないない。これはもっと別の感情だ。多分この感情の名前は愉悦、あるいは嗜虐?まあそういうことにしておこう。わからないものは怖いからとっとと忘れてなくしてしまうのが一番だ。
『ゆっちゃんが恋!??詳しく聞かせて!』
しまったうっかり声に出てしまった。あとこの人のせいで一気に冷めた。気持ちを整理したのにかき混ぜてくるな腐れ面倒バカテンション女。ということで、当分彼女は無視することにした。うるさいけど。
『ねー!ゆっちゃん、教えてよー!。恋は作品にはあれば超便利なエッセンスなんだからさー!。いいでしょー!ねー!ねーってばー!もしもーし!ゆっちゃーーーん!!』
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毎度御馴染み禍野某所。足場の悪い場所を敢えて選びながらぴょんぴょんスキップしながら渡り歩く私は、現在彼女のインスピレーションとかいうものが沸き上がるのを待っている最中。本人はあーでもないこーでもないとない頭を捻っているけれど、いくら待ってもでてこないものはでてこないと思う。それよりもこのまま崖下に落ちて頭を打ち砕いたほうがよっぽど有意義だろう。
丁度崖の側面から生えるように建っている廃墟になった家の壁に降り立ったところで崖下に人影が見えた。数は二人。どちらも男、一人は背が低くアホ毛のがあり、うちの学校の制服を着ていて、対する人は少し背が高く短髪に後ろに布でぐるぐる巻きにした二房の長髪でバーテンダーみたいな感じの落ち着いた服を着ていた。二人はしばらく険悪な雰囲気で話をしていたが、やがて制服の子が右腕をケガレのそれに変化させると、バーテンダーが小石を宙に放り投げた。小石はまるで弾丸並みの速さで制服の子にむかっていき、地面が爆ぜた。・・・わぁお。小石一発一発が大砲並みの威力を誇るとかあのバーテンダーさんはただものじゃない。私が食らえば間違いなく禍野の塵となるはずだ。いいなぁ。
戦況は依然制服の子が劣勢、小石は石を持つかの如く逃げる制服の子を追いかけ、その威力で周りごと制服の子を吹き飛ばした。と思いきや制服の子は巨大な岩を飛ばしその後ろに付いた。当然バーテンダーは岩をいともたやすく破壊する。がその砕かれた岩を陰に制服の子は右腕を振りかぶっていた。きまった。陽動に気を取られて反応の遅れたバーテンダーは動けず、拳が直撃・・・しなかった。制服の子は途中で拳を止めたのだ。そのまま吹き飛ばせばよかったのに。あーあ、そうこうしているうちに相手に右腕の武装を解かれて霊符を破かれてしまった。あとみぞおちに蹴り入れられた。自業自得とはいえ、かわいそう。
とそこでもう一人、今度は女性が乱入してきた。あれ?もしかして化野さん?なんでこんなところに?まぁいっか。化野さんと制服の子とバーテンダーはしばらく話し込んだかと思うと、なんと化野さんが制服の子に剣を突き付けたではないか。なんだか修羅場の予感・・・。ワクワク。
『きったぁぁぁぁぁっぁあっぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!』
「げハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
うるっさ。外も中もうるっさい。周りには先ほどの戦闘に釣られて木っ端ケガレがたくさん寄ってきていた。んでこのタイミングで私の中の彼女もまた何かが来たらしい。ともかく私の周りはとんでもなくやかましい。
『来たわ!来てしまったわ!この熱量は今すぐに形にしないと!ゆっちゃん!お願い!替わって!』
「ああ、はいはい。」
化野さんたちを見ればちょうど扉らしきものを開いて現世に帰っていくところだった。これで遠慮なく死ねる。私は躊躇なく崖下めがけて飛び降りた。一瞬の浮遊感。すぐに落下が始まり、地面が迫る。そして、
ぐちゃり
一瞬の暗転。私は今死んだ?いや、死んでない。なんてったって私は五体満足でこうして地面に立っているのだから。でも既に体の主導権は彼女に移っていた。つまりまた
普段の私がしない爛々とした輝きを湛えた瞳といつもの媚びるような笑みからうれしさと楽しさが入り混じる歓喜の笑みを放ち、今が最高に楽しいと体全体で訴えるように彼女は曇天に己の叫ぶ。
「我が名は
礼夏が勢いよく手を振り上げると、彼女の手には真っ赤に濡れた指揮棒が握られていた。そして彼女の前に炎が吹き上がる。辺り一帯を埋め尽くすほどに広がった炎は、やがて揺らめきながら人の形をかたどっていく。手にはそれぞれバイオリンやトランペットなどの炎で形どられた楽器を持っている。やがて炎の勢いが収まるころには、彼女の前には一つの
これが礼夏の武器であり能力。彼女の振るう指揮棒は炎によって彼女の思い描いた理想の楽団を創り上げることができる。理想の楽団なので楽器はその都度違う今日のような管弦楽団形式もあればギターなどのバンド形式なんかもあり、彼女が思い描く種類は多岐にわたる。
「レッツ!ミュージック!!」
合図とともに礼夏が指揮棒をふるえば始めにバイオリン奏者が弦を弾き始め、それに他の楽器が続くことで店舗が激しく力強い曲が流れ始める。音に反応したケガレがこっちによって来るが礼夏は気にせずに、むしろより激しく指揮棒を振り回す。さながら一流の指揮者のように炎の楽団を操るさまにケガレたちはまるで感動したかのようにその動きを止めて見入っていた。
そうだったらとっても感動的なことだけど、現実はそう甘くはない。礼夏は音に乗せて三種類の呪力を放っている。言わばこの演奏は
一に『客寄せ』と呼ばれる弱い呪力が広範囲に発せられ、それに反応した周りのケガレが砂糖につられた蟻のように集まってくる。こうして礼夏の近くに集まってきたケガレを出迎えるのは足止め用に『
こうして周囲を静かな地獄に変えながら騒々しい演奏は
天若正弦=バーテンダー いや私服がそれっぽいなって思って。
マスター、かんそうのカクレル一つ