《PCIU》―ポケモン犯罪捜査課   作:如月射千玉

2 / 2
第1話:ヤグルマの殺人鬼−−−−中編

前回のあらすじ

 

イッシュ地方のヤグルマの森で6人の遺体が発見され、《PCIU》が出動する。

被害者には共通点がなく、強いて言えばヨーテリーを連れていたことだけ。

《PCIU》が分析し、犯人はエスパータイプのポケモンを連れていて、

なおかつ《はっぱカッター》を覚えるポケモンを所持し、地元の人間若しくは付近に仕事場

がある人間だと推定。

警察との合流場所に向かう途中、警部から連絡が入った。

新たな被害者が見つかり、その傍らには−−−−同じく切り刻まれたポケモンの死体が。

 

 

 

 

「‥‥‥どうなっている」

とんぼ返りで再び現場に向かう途中も、一同はしきりに首を捻っていた。

連絡によると、被害者は30代くらいの男性。

他の遺体と同じように手足が切断され、顔半分が抉りとられている。

 

「手口が変わった。ポケモンも殺されているなんて」

エイミーがその整った顔をしかめる。心優しい性格の彼女には、許せないことだ。

 

「さっき見た現場とかなり近いらしい。ルワールとエイミー、現場に行って、

共通点を探れ。周囲の観察も忘れずにな」

 

「−−−−了解」

「解りました」

二人が足早に去っていく。

 

「ヤタケ、私に着いてきて、警察へ来い。被害者遺族から話を聞く」

うす、とヤタケが頷く。踵を返し、二人並んで歩く。

 

「なぁ、ボス。一つ聞いていいか?」

「‥‥‥?まぁ、いいが」

言いにくそうに言葉を濁しながらも、

 

「何で俺たちここまで歩いて来たんです?」

 

「‥‥‥‥‥」

二度手間ではないのか、とは聞かないヤタケだった。

 

 

《sideルワール》

 

僕とエイミーが現場に着くと、既に多くの警官が集まっていた。

鑑識、捜査官の出入りが激しい。

それだけ重大な事件だということで、絶対に犯人を逮捕しなければ、という気になる。

この仕事をしてまだ数年だけど、奥の深い仕事だとつくづく思わされる。

色々な動機で犯行を行う犯人を、その心理を探ることで突き止める。

決して終わりのない仕事でも、生涯をかけてもいいと思える僕の転職だから。

 

「また足跡は見つからないだろうね」

「そうね。先ず、遺体を見よう」

 

制服を着た警官の群れを潜り抜け、一本の古樹の根元に、それはある。

相変わらずの凄惨な遺体だ。血溜まりの池の中にぽっかりと浮かぶように横たわっている。

前の遺体と変化はないように見えるけど、エイミーが何かを見つけたようだ。

いつもの癖が出ているから。(因みに、腕を組むのだ)

 

「何か見つけた?エイミー」

 

「うん。これを見てくれる」

 

エイミーに倣うように屈み、遺体の1ヶ所を凝視する。

切り傷だ。しかし、切断には至らないようで、肉の半ばで止まっている。

それが、頭、身体と無数に点在。

 

「前はこんな傷なかったよね。変化したな」

「でも、最大の変化と言えば‥‥‥‥」

 

エイミーが歩き、倒木の陰で静止した。

やはり、ポケモンだ。身体中のあらゆる箇所を切り刻まれた亡骸。

余りにも過剰に斬られたことで、何のポケモンかすら判別が難しい。

でも、大柄な体躯、身体を覆うように伸びた体毛、髭のように変化した体毛から見るに−−−−

災害時にも活躍するヨーテリーの最終進化形、ムーランドだ。

その栄光を汚すかの如く、彼−−−或いは彼女−−−の亡骸は、血と土にまみれている。

 

「ムーランドだ。恐らく、さっきの彼の手持ちだね」

「でも何で殺されたの?ヨーテリーは眠らせただけだったのに」

「犯人はムーランドに恨みがあるのかな」

「トレーナーよりも傷が多い。本当に恨んでいるのはこっちなのかも」

「そう言えば、足跡も見つからないな」

「ええ。それに、辺りには葉が散らばっている。つまり、同一犯」

 

犯人の心境の変化に焦点を当てるべきか、と考えていると、マック警部がこちらに来た。

 

「この事件とは関係がないかもしれないのですが、気になるものがありまして」

警部に案内されるまま進む。

膝くらいまで伸びた草を踏み、少し窪んだ地面の前で立ち止まる。

 

「こちらです」

それは、一言で言えば布団のようであった。

草や葉を糸で縫い合わせたような、繊細な技巧を感じさせるもの。

警部がそれを捲る。隠されていたものが露になり、思わずあっ、と声が漏れる。

恐らく野生のポケモンだろう。小さな虫ポケモンが、一塊に集まっている。

エイミーによると、クルミルというポケモンらしい。

このヤグルマの森においては、多く生息しているとの事。

ぐったりと倒れ、瞳を閉じていることから見て、生きていないのは一目瞭然。

 

「‥‥‥何だ、これ」

「これも、犯人が?」

僕と警部の疑問の声を、ばっさりと否定したのはエイミーだ。

 

「いや、違う。これを見て」

エイミーがクルミルの身体を指さす。

殴打され、引っ掻かれたような痕跡が見てとれる。

ただ、雑然とした戦闘痕だ。

足跡も、僕たちが来た方へと続いている。

 

「犯人は犯行の時は残酷だけど、理性がある。これは犯人がやったんじゃないと思う。

引っ掻き傷がそれを物語る。遠距離技を持っている犯人が、 

わざわざ物理技を使う必要はないでしょう。更に、この爪痕から見て、大柄なポケモン。

また、足跡がある。四つだから、四足歩行のポケモン。多分だけど、ムーランドよ」

 

淡々とした論理的証明が、エイミーの得意な分析方法だ。

恐らく、彼女の主張は正しい。

 

「そういうことか。さっきの遺体のムーランドがやったんじゃない?

それで、あちらへ歩いていく。そして、犯人に殺された」

 

しばらく考え込んでいた警部が、言葉を発した。

「じゃあ、犯人はこれがきっかけで被害者を−−−?」

エイミーが頷く。

 

「そして、犯人のポケモンも特定できる」

クルミルの亡骸を隠していた布を持ち上げる。

 

「確か、こうやってクルミルの服を作るんでしょ?−−−−−ハハコモリは」

「そ、そうか!何故気づけなかったんだ」

警部が頭をがりがりと掻きむしる。

本気で悔しがっているようだ。

 

「亡骸を気の毒に思って、こうやって隠してあげたんだ」

そう思うと、ある程度の納得がいく。

その優しさが、怒りに変わったのだとしたら−−−−−?

同胞を一蹴し、あまつさえ命まで奪った人間を、許せないと思ったのか。

 

「ハハコモリが犯人の手持ちで、被害者を殺しているのもハハコモリだと?

でも、トレーナーの指示とは言え、命を奪う命令に従うのでしょうか?」

マック警部の質問はある意味では正しい。

心優しいポケモンが、殺人鬼に変貌するなんて、善良な人間は信じられないだろう。

 

「これは、ハハコモリからしたら復讐だ。同胞を殺した、被害者への」

「だから、シリアルキラーの犯人にも平気で従うんです」

 

ポケモンだって、心がある。人と同じように、悪意に染まることもまた。

だからこそ、止めないといけない。

その優しい心が完全に、壊れるまでに。

 

 

 

《side???》

 

また一人、ニンゲンを切り刻んだ。

とても良い気分だ。

我が同胞を、容赦なく襲い、その命を奪った。

私は主の手持ちで、主の許可なしに殺生はできない。

でも、我が主は、どこまでも寛容だった。

あの日以来、共にいる、我が主。

その他大勢のニンゲンとは違う。

あの方こそ、仰ぐべき者だ。

でも、まだ気持ちは治まらない。

どれだけ切り刻んでも、切り刻んでも、この炎は消えることがない。

なら、そうだ。もっと、切り刻めばいいのだ。

今日も、主が私に指示を出す。愚か者を粛清するために。

今宵も我が刃が、ニンゲンを切り刻む。

その血が、悲鳴が、死が、同胞に対する唯一の償いだ。

 

 

 

《sideヤタケ》

 

ボスと共に向かった警察署は、人の往来で慌ただしい。

そんな中でも、一際異彩を放つのが、うちのボスだ。

やはり、ボスは常に冷静だ。

時として、感情がないのかと思うくらいに。

リーダーとして、時に非情な決断をしないといけないせいか、仕事以外で接点が少ない。

だから、ボスの私生活は謎のベールに包まれている。

幸い(?)なことに、遺族の方がまだ来ていないので、雑談がてら話している訳だ。

 

「なぁ、ボス。最近、何か悩みはないのか?」

そんな俺の言葉にボスはきょとんとして、

 

「どういうことだ?話の趣旨が見えないのだがな」

「我らがリーダーが悩み事をしてほしくないのは俺たちの総意なんだよ」

「まぁ、いいか。良く聞いてほしんだ、ヤタケ」

いつも険しいボスの顔がいっそう険しくなる。

一体どんな悩みなのか、とこちらまで息が詰まる思いだ。

鋼鉄の女と一部界隈で有名な(うちのチームだけだ)ボスの悩みとは。

 

「−−−−そんなに私に魅力がないか?」

 

空気が凍り付く。

思考が停止する。

沈黙。

 

「え?」

「この前昔の友人に誘われ、パーティーに行った。合コン?とか言うらしいが」

「はぁ」

「友人はお世辞にも美人とは言えない。しかし」

「‥‥‥‥しかし?」

「奴の周りには男が群がり、私の周りには一人もいない」

なぜか哀愁の漂う声音で言うもんだから、こっちまでいたたまれなくなる。

 

「私を見ると、男は逃げていくのだ。電光石火の勢いでだ」

その剣呑なオーラは、有象無象においては威圧感を与えるらしかった。

若干顔のパーツが鋭いせいで、近づき難い印象を与えているのだろう、多分。

 

「‥‥‥まぁ、男が世の中全てじゃないぞ、ボス」

「女に生まれたからに、一人や二人男が欲しいのだ。いつまでも一人は嫌なのだ」

意外な独白だった。

完璧超人を地で行く彼女に、欠点というか悩みがあるとは。

 

「良かったら、俺の知り合いを紹介してやるよ」

「それは遠慮しておこう」

「何でだ?」

「私は細身が好きなのだ。筋肉ゴリラに興味はない」

やはり、ボスはボスだ。

良くわからないし、男の趣味も謎だ。

 

「‥‥‥っと、雑談はこれくらいにして。遺族が来た」

一つ咳払いをして、空気を切り替えていく。

遊びは終わりだ。

今回来て頂いたのは、新しい被害者の姉だ。

両親は既に死亡し、独身だったようで、唯一の身内だ。

俺とボスは立って彼女を迎えた。

目が真っ赤に腫れ上がっていることから、道中泣いてきたのが容易に察せられる。

 

「今回はご足労頂き申し訳ない。私はエル、こちらはヤタケ。国際警察だ」

「‥っ、はい。こちらこそ、すみません。弟の事件を捜査して頂いて」

椅子に座って、とジェスチャーで促し、浅く腰掛ける。

被害者の姉は、リンダと名乗った。

 

「弟さんは、どんな人間だったか教えてくれるか」

「‥はい。弟は、何というか、少しばかり乱暴な人間でした」

「と言うと?」

リンダは、一瞬躊躇するような仕草を見せたが、すぐに口を開いた。

 

「勝負が好きで、道で目が合ったトレーナーに勝負を吹っ掛けて‥‥。

野生のポケモンにも乱暴で、止めてと言っても聞かないんです」

「では、恨みも買いやすかった?」

リンダが頷く。

 

「最近弟さんに変わった様子はあったか?」

「い‥‥いえ。すみません、最近ほとんど会えていなくて。姉失格ですよね」

目の端に涙が滲む。それを拭うのを見て、胸が苦しくなる。

何度見ても慣れない光景だ。

俺は、改めて犯人を捕まえる決心を固める。

いくら被害者が善人ではなかったとしても、殺していい謂われはない。

 

「約束する。俺たちが必ず犯人を捕まえる」

 

話が終わり、俺たちは部屋を後にした。

リンダ一人が残った部屋から、嗚咽混じりの悲痛な叫びが聴こえてくる。

俺たちの前では気丈に振る舞っていたが、ついに心の堤防が決壊したのだろう。

 

「被害者はお世辞にも善人とは言えなかったらしい」

「情報があまり得られなかったから、ルワールたちからの連絡待ちだな」

頭を軽く振り、部屋の椅子に座り込む。

目立った情報が乏しく、八方塞がりになっていたところで、連絡が入った。

 

『ルワールだよ。犯人のポケモンを特定した』

「ほう。聞かせてくれ」

『犯人の手持ちはハハコモリ。現場の状況から見て間違いない』

「何か特徴があったのか?」

 

俺の質問から少し間を開けて、

『遺体とは離れたところに、クルミルの亡骸があった。それには、

植物や糸で作った布団がかけられていて、亡骸を隠したと思われる。

それを行う習性を見せるのはハハコモリだ』

 

「俺たちも少し発見だ。一番新しい被害者、乱暴な人間だったらしい」

『なるほど、これで動機が解ったかもしれない』

「まとめると、被害者はクルミルを痛め付け、命を奪った。

今回の犯行は、その復讐ということか」

 

エイミーの声に変わって、

『恐らく、被害者のポケモンにも関わりがあるのだと思います。

被害者はどれも、ヨーテリーや、その進化形を所持していることから見ても』

 

どうにも納得がいかなかった。

ポケモンを殺すのと殺さないの違いは何なのか。

 

「結局、何でポケモンは殺された?」

『−−−−多分だけど。犯人はムーランドに自分のポケモンを殺されたんじゃないかな?

ヨーテリーを殺さず、被害者を殺しているのは、トレーナーである被害者を殺すことで、

進化をさせないようにしているから』

 

それまで意見を黙って聞いていたエルが、口を開く。

「ハハコモリにクルミルを隠させていることから見て、心優しい性格だ。

ムーランドにならないように、ポケモン自体を救っている気なのかもしれない。

ムーランドになったら、恨みを制御できないんだろう」

 

ついに犯人の動機が見えてきた。

やはり、俺には理解し難い。

大抵、理解できる動機のやつは犯罪を起こさないものだが。

 

「更に詳しくまとめたい。今すぐ戻ってきてくれ」

 

『『了解』』

 

 

 

《side???》

 

当てもなく森をさまようと、一人の女を見つけた。

流れるような美しい黒髪が、生暖かな風に揺れている。

それを茂みの陰から見つけたので、《サイコキネシス》を使うように指示を出す。

一瞬の浮遊感の後、宙に浮いている。

女の行動をこのまま待つ。

何かに気付いた女が、ポケモンをモンスターボールから繰り出した。

ヨーテリーの進化形、ハーデリアだ。

その憎き姿を見る度に、激情が胸を焦がし、怒りの炎が焼く。

ハーデリアが飛び出してきたクルミルを攻撃した。

飛びかかり、鋭い歯で噛みついたのを見るに、《かみつく》だ。

あっという間にクルミルが倒れ、必死で遁走する。

あの愚か者を消す決意を固め、ハハコモリを出す。

悪いのはヨーテリーを進化させたトレーナーだ。

罪は、罰しなければなるまい。

『《はっぱカッター》』

刃のように薄く尖った葉が、女の体を切り裂く。

血飛沫が飛び、土や木々を汚す。

飛び散った腕が、こてんと地面に落ちる。

そんな主の末路を眺めていたハーデリアが悲しげに嘶く。

すべては、お前の救済のためなのだ。

だから、また。ハハコモリに指示を出し−−−−−−−−

 

 

「では、まとめよう」

エルが、全員を見渡して告げる。

今ある情報から分析した人物像を、淡々と述べていく。

「犯人はこの残酷な手口から見るに男性。年齢は十代半ばから二十代前半。

この年代と推測した理由は、性的要素のない犯行で、一見すると緻密だが、

大分杜撰な犯行だからだ。

ヤグルマの森に精通していることから、地元の人間、或いは、近くに職場がある。

ことによると、森に住んでいるかもしれない。

犯行の手口は残酷そのもので、激情と使命感に突き動かされている。

しかし、普段は温厚で慈悲深い人間。ハハコモリを手持ちに連れていることから、

ポケモンに対する愛情はかなり深い。今回の犯行も、それに起因してのことだろう。

犯人はヨーテリーを連れた人間を襲う。そして、その人間が森のポケモンを倒すと、

それに復讐している。ヨーテリーが生かされ、トレーナーが殺されているのは、

ヨーテリーを進化させないためだ。ヨーテリーが進化してしまえば、怒りの対象にしか

ならないからで、犯人なりの優しさだ。もし進化したら、そのポケモンごと殺す。

そうしなければ、ポケモンを救えないと考えているはずだ」

 

疑問を述べたのはルワールだった。

 

「ハハコモリとトレーナーは、どういう関係性にあるのかな?」

 

「‥‥‥‥これは俺の意見だが、」

と声を発したのはヤタケで、考えをまとめる仕草をして、口を開く。

「ハハコモリもトレーナーに復讐している。

進化していることから見ても、強い信頼があるのが解る。

互いに互いの行動を許し合っているんじゃないか?

犯人は、ハハコモリに殺害の指示をすることを。

ハハコモリは、トレーナーを殺すことを。

歪んだ信頼関係がある」

 

話を聞いていたエイミーが、マック警部に声をかける。

 

「ヤグルマの森に住んでいる人はいますか?そもそも、住むのに適した環境?」

「‥‥難しいですね。でも、広い森ですからね、一人や二人住んでても気付かんでしょう」

 

「問題は、どうやって犯人を突き止めるかだ」

エルが全員を見回す。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。