RASのマネージャーにされた件【完結】   作:TrueLight

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10.君のギターが欲しいんだ

「今日はよろしく頼むよ」

「任せてください!」

 

 明くる日。俺はたえちゃんに連絡をとって合流し、朝日さんが住み込みでバイトをしているという銭湯に来ていた。たえちゃんだけでなく、彼女のバンドメンバー全員でだけど。もともとポピパの皆も朝日さんに用があったらしい。さすがに全員は車に乗せられないので、俺も彼女たち同様久々の電車移動である。こっちが頼んだんだから文句はない。

 

 ちなみに花園さんの呼び名がたえちゃんに変わってるのは本人の希望だ。彼女たちと合流し、それぞれメンバーが自己紹介をしてくれた時。香澄ちゃんだけ名前を憶えていたから、思わずそのまま呼んでしまったのだ。すると花園さんに言われた。

 

『香澄は香澄ちゃんなのに、私は花園さんなんですか?』

『あっ、おたえ拗ねてるー♪』

『つーん』

 

 という流れでそうなった。真面目な子だと思っていたけど、たえちゃんは友達といる時は結構お茶目らしいな。レイヤと二人きりの時もそんな感じなのかも知れん。

 

「それじゃあ私たち、外で待ってるので!」

 

 ポピパの皆の用件が終わり、たえちゃん以外のメンバーは気を遣って出てくれた。彼女たちはどうやら、文化祭で世話になった朝日さんに改めて感謝と謝罪を伝えに来ただけだったらしい。なんや、いろいろ心配してたけど良い子たちやないかい……。

 

「や、悪いね時間とらせて」

「いっ、いえ! それで、どのような……?」

 

 俺が声をかけると、銭湯の番台をしている朝日さんはおずおずと返してくる。視線は俺と隣のたえちゃんを行き来していた。

 

「単刀直入に言うと。朝日さん、君をバンドに勧誘しに来たんだ」

「……バンド、ですか?」

 

「そ。たえちゃんがサポートやってるバンド、知ってる?」

「は、はい。RAS……RAISE A SUILEN(レイズ ア スイレン)さん、ですよね。……えっ?」

 

 そこでふと気づいたように朝日さんがたえちゃんを見つめると、たえちゃんも肯定するように頷いた。まぁパッと見、俺がRASの関係者には見えないよな。男だし。

 

「俺は一応、RASのマネージャーをやっていてね。それで……文化祭の日、君の演奏を見た。正直驚いたよ……まさかライブが終わった直後に、別のイベントでRASの曲を演奏してる人がいるなんて」

「っ! ごっ、ごめんなさい!! 勝手に弾いたりして……!」

 

「いや、謝らないでくれ。怒ってなんか無いからさ。むしろ逆でね……今言った通り、勧誘に来たんだ。RASのギター担当に、君を」

「私が……RAISE A SUILEN(レイズ ア スイレン)さんの、ギターに……?」

 

 またもたえちゃんに視線を投げかける。まっ、彼女はたえちゃんがRASのサポートだと知ってるしな。

 

「……私は、次のRASのライブでサポートを辞める。その話を昨日、RASの皆に相談したあと、音無さんから連絡があって。改めてロックを紹介して欲しいって」

「へっ? でも……」

 

 朝日さんの反応だと、たえちゃんが自分を俺に推したと思ってる感じだな。

 

「勘違いしないでくれ。俺は別に、たえちゃんから君を推薦されたから誘ってるんじゃない。文化祭の日、君の演奏を見て。その時には既に考えてたんだ」

「私が辞めるって気づいてたんですか?」

 

「初めからサポートって話だったろ? ダブルブッキングの件もあったし、可能性は高いと思ってたよ。 君が辞めると言うなら、契約期間後にこちらが引き留めるのも難しいしね。割と最初から、たえちゃん以外のギター探しは急務なんだ」

 

 驚いたように問いかけるたえちゃんにそう返すと、当日の事を思い出したか、彼女は恥ずかしそうに俯いた。せやろな、言っちゃえば自分の力を過信したが故の黒歴史だし。

 

「気にするなとは言わないよ。スケジュール管理も、それを関係者に伝えるのも。仕事としては当然のことだ。でも、たえちゃんはサポートギター初だったろ? 初めて何かに挑戦する時、それを完璧にこなせる人間なんてそう多くない。うちのボスの暴走もあったしな……。今後に活かしてくれればいいさ」

「……ありがとう、ございます」

 

 言い終えてたえちゃんの頭をなでると、彼女はより顔を赤くして俯いてしまった。ヤベっ、ついチュチュを撫でた時の感覚で。……お、怒ってはいないっぽいかな?

 

 とりあえず手を離して朝日さんに向き直り、場を仕切り直す。

 

「それで、どうだろうか。RASのギター、興味ない?」

「でっ、でも……私なんかじゃ、たえ先輩の代わりには」

 

「たえちゃんの代わりじゃないよ」

「っ?」

 そこは重要なところだ。勘違いされたまま頷かれても困る。

 

「君のギターが欲しいんだ。たった一日で『R・I・O・T』をモノにした、君の才能と実力が」

「……!」

 

「こういう言い方もなんだけど、君の自己評価には興味が無い。それを決めるのは君じゃない(・・・・・)よ。RASを間近で見てきた、俺が欲しいと思った(・・・・・・・・・)。あとは君に……、その気があるかどうか。たったそれだけだ」

 

 ――どうする?

 

 視線で真っ直ぐに問いかける。……正直、答えは分かってるんだ。動揺で泳いでる双眸。その奥にある思い……誰よりも知ってる。

 

 毎朝風呂場で顔を合わせることになる、鏡の向こうにいる男と同じ眼(・・・・・・・・・・・・・)だ。さぁ、答えは――。

 

「……やって、みたいです……!」

 

 そうこなくっちゃな。

 

 


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