RASのマネージャーにされた件【完結】   作:TrueLight

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16.そこで動画投稿です!

「動画投稿?」

「はいっ☆ やってみませんか?」

 

 無事にたえちゃんのサポートギター最後のライブが終わり、ロックの正式加入を以て新生したRASだったが……今までに比べると、ちょっと暇していた。

 

 というのもチュチュがMVの撮影を画策しているらしいんだが、スタジオを借りるのに難儀しているとか。バンドがMVを撮影すると人気になるとかいうジンクスがある場所のようで、なんと半年先までスケジュールが埋まってるんだと。

 

 チュチュが伝手を頼って折衝しているらしいが、さすがに時間がかかるようだ。なのでRASの面々は個人で練習するか、定期的に集まってたまに全員で合わせる、くらいの活動に留まっていた。

 

 もちろん俺も、自室で弾いたりロックの練習に付き合ったりしていたんだが……そんなある日、パレオちゃんが部屋にやってきたのである。ロックはバイトで不在だ。

 

「演奏動画ってことだよね?」

「もちろんです!☆ ……ソースさんは、今すぐバンドを組まれる気が無いだけで、セッションやライブをしたいとは思ってらっしゃるんですよね?」

 

 もしかしなくても、この前の話の続きか。

 

「そりゃあ当然」

「そこで動画投稿です! 例えばソースさんと私がセッションするところを撮影して、Y〇UTUBEに上げるんですよ♪ 直接お客さんは見えませんが、ライブとは違っていつでも誰でも視聴できますから☆ 気に入ってもらえれば感想なんかのコメントもいただけますし♪」

 

 なるほどな。俺もよく見てるけど、言っちゃえば『弾いてみた動画』をやろうぜ、ってことか。……うーん、正直興味はあるなぁ。パレオちゃんは俺を気遣って提案してくれたんだろうし、無下にもしたくない。けど……。

 

「……動画撮ったり、それを投稿したりってのがよく分かんないんだよね……。見る側専門というかさ」

 

 ありがたいけど遠慮する、と。俺が情けなくも断ろうと口を開くと、パレオちゃんは待ってましたとばかりに前のめりに。近い。近いよーパレオちゃん。同級生にも同じ距離感なの? お兄さん心配!

 

「お任せください!♪ パレオは動画投稿の経験がありまぁす!☆」

「マジっすか」

 

 思わず敬語になっちゃうぜ。最近の中学生はそんなことも出来ちゃうんですか?

 

「意外と簡単ですよ? スマホだけでもすぐにアップロード出来ちゃいますから☆」

 

 へぇ~……。そこまで気軽に言われるとその気になっちゃうなぁ。最悪誰にも見られなくても、自分の技術がどれだけ進歩したのかを後々確認できるってのはデカイ。技術が上がれば上がるほど、伸びしろは緩やかになっちゃうしね。視覚的に比較できるのは魅力的だ。

 

「……お恥ずかしながら、パレオの演奏動画の視聴回数はさほどでもなく、コメントもゼロに等しかったです……。でもですね、パレオはこの動画をきっかけに、チュチュ様にお誘いいただいたんですよ!♪」

「マジで!?」

 

 これには心底驚いた。Y〇UTUBEに演奏動画なんてどれだけあるのか見当もつかん。その中から探し当てたとなれば……チュチュ様アンテナ高すぎかよ。

 

「メリットはあれど逆は無いと思いますが、いかがでしょう?☆」

「是非やらせてくれ!」

 

 ここまで言われてやらないなんて選択肢はねぇ! こうして俺はパレオちゃん協力のもと、『弾いてみた動画』を投稿することになった。

 

 とりあえずレコーディングブースから必要な機材をパクっ……拝借して、パレオちゃんの私物らしいスマホスタンドをセット。準備万端ですねパレオちゃん! 最初っから撮る気でいやがりましたね? ありがとうございます!

 

「曲はいかがなさいますか?☆ ソースさんが以前弾いていた曲ですか?♪」

「いや、やめとこうかな……というか、え? 弾けるの?」

 

「頑張りました♪」

「すげぇなオイ」

 

 ホンマかいな……。改めて。チュチュは凄い面子を集めたもんだと思うわ。俺が弾いたのはギターで演奏できる範囲だけだし、楽曲本来のキーボードパートとは当然違うだろうけど。それでも『弾ける』って断言できるレベルまで持ってくのは普通じゃない。やべぇ……ワクワクすっぞ!

 

 パレオちゃんとならどんな曲が良いか……いや、どんな曲が弾きたいか。ギターとキーボードだけで十分表現できる曲、という前提で選ぶべきなんだろうが、最初からこれは俺の自己満足。それにパレオちゃんが付き合ってくれてるだけなんだ。

 

 なら好き勝手に、俺の演りたい曲を。

 

「……『READY STEADY GO』いける?」

「ラルクさんですよね? いけます!♪」

 

「よし――演ろう!!」

 

 そして俺はギターを掻き鳴らし、パレオちゃんは指を躍らせた。

 

 

・・・

 

 

「……おぉ~。ちゃんと上がってらぁ」

 

 興に乗って十数曲も演奏しちゃったが、無事投稿できたのは三曲ほどだけだった。うん、俺が暴れて顔が映っちゃったせいだね! ごめんね!

 

「……改めて見ると、ソースさんもおかしいですよね☆ ロックさんとは違った方向に、ですけど♪」

「誉め言葉と受け取っておこうか」

 

「そうしてください☆ ……一つの楽器で、こんなにも鮮やかな音って奏でられるんですね……フィル・インがこれだけあって、このクオリティ……」

 

 パレオちゃんは投稿したばかりの動画を眺めながら、ぽつぽつと口を開いた。うーん、恥ずい!!

 

「ロックさんが『演奏を成り立たせるギター』だとしたら、ソースさんは……『演奏を彩るギター』って感じ……ですねっ♪」

 

 神妙に呟いたと思えば、声を跳ねさせて振り返るパレオちゃんにドキッとした。主にテンションの上下的な意味で。

 

「そう言われると悪い気はしないね。ありがとぉ」

 

 そう、俺にはロックみたいに『他のパートも同時に弾く』ような真似は出来ない。けど……『ギターの音を増やす』ことは可能だ。音と音に隙間があれば、その寂しさを埋めるように指を走らせる。フィル・イン……メロディ間の空白を埋める即興の演奏だ。主にドラムスに使われる言葉だけど。"オカズ"なんて言われたりもする。

 

 一歩間違えば音の響きの余韻やメロディそのものをぶっ壊す行為だが、そんな段階はとっくに過ぎていた。何度もバンド追い出されたっけなぁ……。

 

 まぁ結局、俺が一番気持ちの良い演奏をしてるってだけだ。

 

「でも身体を動かし過ぎですよっ?☆ せっかく手元から上は見切れるようにセッティングしましたのにぃ」

 

「うぐぅ……すんません。つい楽しくなっちゃって……」

 

 演奏に夢中で身体がリズムを刻むこと、あるよね? もっと言えばステップ踏みながらヘドバンばりに頭振りつつ爪弾いちゃうことも……無いですか? 無いですね。……いやあるだろ!!(断言)

 

 ともかく暴走したのは事実だ。俺が頭を下げると、パレオちゃんはくすくすと笑みを浮かべる。

 

「いえいえ☆ 楽しんでいただけたなら提案した甲斐がありました♪ 私も凄く楽しかったですっ☆ ……また、一緒に撮ってもいいですか?」

 

 上目遣いで言わんでも、こっちからお願いしたいくらいなんだが。ねぇ、ホント普段からそんな仕草するんじゃないわよ? お母さん心配だわ!

 

「ぜひ頼むよ! 俺の演奏を褒めてくれたけどさ、それはパレオちゃんが居てくれたからなんだ。今日は俺ばっかり選んじゃったし、演奏したい曲あったら教えてね?」

 

「かしこまりましたぁ☆ 楽しみにしてますっ♪」

 


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