RASのマネージャーにされた件【完結】 作:TrueLight
「よっ、と。まだ機材あった? ロック」
「いえ、これで最後です。ありがとうございます!」
なんのなんのと手を振って強がりつつ、俺はミネラルウォーターを呷ってその辺の椅子に腰を下ろした。うん、さすがに腰にきたわ。
場所は
なんでも翌日ポピパ主催のライブがあるらしく、機材搬入を手伝って欲しいってロックに頼まれたんだ。わざわざ俺に声をかけるだけあって男手は少なく、場所も地下なんで運搬作業が女子には辛そうだった。
「ソースさんのおかげで間に合いました! 本当に助かりました……」
「こっちこそ、声かけてもらえて良かったよ。最近はこういう作業にもなかなか縁が無かったしな。久しぶりに良い汗かいた」
RASのライブはチュチュがしっかりスタッフを確保してたし、俺の出番は皆無だったからな。俺はこういう裏方作業が割と好きな方だった。
ワンチャン別のライブハウスで世話になったスタッフとか居ないかなーって期待もあったけど、さすがにそんなことは無かった。
「そう言ってもらえると……。予想以上に慌ただしくなってしまいまして」
「だろうなぁ……」
学生の主催ライブ、しかも5つものガールズバンドが対バンするらしい。それぞれ学校もあるだろうし、家の事情だってあるだろうからな。普通のライブじゃ当日搬入当日リハなんてザラだけど、学生さんじゃそうもいかんだろう。
ライブハウスの連盟がバックアップしてるらしく、前日から
っつーか連盟が学生バンドの活動を後押ししてるって相当恵まれてるよなぁ。……まぁ、チケット代やらグッズの販売収益は全部連盟が持ってく形になるんだろうから、Win-Winの関係と言えるんだろうけど。これも時代というやつか……。
「あれ、音無さん?」
「ん? やあ、たえちゃんか。ポピパの皆も久しぶり」
こんにちはーと声を揃えてくれるポピパの面々。息ピッタリねぇ君たち。文化祭のも良かったけど、きっと魅力的なライブになることでしょう!
「何してるんですか?」
「あー……、ちょっとロックに話をね」
「機材の搬入を手伝ってもらってたんです!」
うむ、気を遣わせまいと誤魔化しを図ったが、ピュアッピュアなロックのおかげで失敗に終わったわ。
バイト代を払うと言われたんだが俺はそれを固辞したので、完全にボランティアなんだよね。真面目な子はロックみたいに気にしちゃうかも知れんと考え、良かれと思っての嘘だったけど。純真なロックの前だとそれすら悪いことのように思えて来るわ。
「そうだったんですか? ありがとうございます!!」
とは香澄ちゃん。彼女が頭を下げると、皆も倣ってお礼を言ってくれた。……変に畏まったりしない100%本心の感謝だった。『ごめんなさい』より『ありがとう』とはよく言ったもんだ。一日の疲れも癒えるというものよ!
搬入作業は三時間あったかどうか程度だけどね! 若干腰をヤッたんだ、これくらいは受け取っても罰は当たらんだろう。
「うん、どういたしまして。ライブ頑張ってね」
ポピパの子らと挨拶してると、ぞろぞろ女の子たちが足を踏み入れてきた。共演するバンドのメンバーたちだろう、その視線が俺に集まる。気まじぃ……。ま、男は俺しか居ないししゃーないね!
「……音無さん、良かったら明日、来てくれませんか?」
チュチュの飯も用意せにゃならんし、そろそろお暇しようかと席を立つと。たえちゃんがちょいちょいと袖を摘まんできた。
「うーん……そうだな、お邪魔するよ」
なんか予定あったかなーと考えてみたが、特に無かったわ。っつーか、たえちゃんから主催ライブやること自体は聞いてたし、興味もある。チケットの取り置き頼めるか聞こうとも思ってたくらいだ。……ただ、今日ロックから聞くまで忘れてたよね!
いや忘れてたっつーか、普段平日だろうが休日祝祭日だろうが、やってること変わんないから、今日が何日とかの感覚が無くなってくるんだわ。家事をこなして、定期的にチュチュの様子を見に行って、暇な時間はギター弾くかパレオちゃんお勧めのアニメを見る。
そんなこんなやってたら、いつの間にかポピパの主催ライブ前日だったのだ。仕方無いってことにして!
「今からでも取り置きお願いできそう?」
「そんな! 私が用意するので」
「はは、ありがと。でも、他のRASのメンバーも誘いたいからさ。取り置きだけお願いできれば、明日受付で直接買うよ」
「……分かりました」
すごーい不承不承って感じだけど、たえちゃんは頷いてくれた。女子高生のお小遣いでは、何枚もチケットを用意するのは厳しいだろうしな。チュチュのかーちゃんから不相応な金を貰ってる俺は割と懐に余裕があるんだ、これくらい問題ねぇっす。ロックはスタッフとして参加するだろうから要らんとして、五枚分確保をお願いしておこう。
「RASと言いましたか……?」
「ん?」
ふと聞こえた声の方を見ると……言い方はアレだが、ちょっとキツそうな女の子が歩み寄ってきた。
「急にすみません。
「ええ、まあ。マネージャーの音無と言います。形だけ、だけどね」
『マネージャー?』『RASの……』『へーっ!』
それを聞くと、周りの他の子たちもぽそぽそざわめき出す。マネージャーが居るガールズバンドなんてそう無いだろうしな。しかも野郎だ。
「君は?」
「
「
氷川さんが続けると、
「すみません、
浅く頭を下げつつも俺への質問を止めない氷川さんの様子に、湊と呼ばれた女の子は仕方ないと口を
「そうだね。RASのって言うより、俺のチャンネルのゲストって感じなんだけど」
あれをRASの公式と捉えられるのはちょっとマズイからな。一応そこは明言しておく。すると……。
「っ! で、では貴方は!」
「えっ!? お、おう?」
俺のチャンネルという部分に反応してか、氷川さんは凄い剣幕で俺に顔を寄せてきた!
「貴方は
『
『誰?』『さぁ……?』『あっ、動画の人!』
周りが騒がしくなったわ。しかし、ちらほらと俺のことを知っててくれてる人も居るようだ。俺、というよりバンドの方かもだけど。
「えっと、ハイ。元
氷川さんは一瞬喜色を浮かべたが、すぐに気落ちした様子を見せた。
「元、ということは、やはり……」
……うん、本当にありがたい話だ。氷川さんは、
解散については俺も急に知らされたし、まともにラストライブすら出来なかったからな。ライブの宣伝用に使ってた
「……色々あってね」
詳細は言わないがな! 絶対に! 絶対にだ!!
「そうですか……。ギターは、続けていらっしゃるんですよね?」
「もちろん。今はバンド組んでないから、動画投稿くらいしか活動してないけどね。ギターをやめる気はないよ」
「……そうですか。安心しました」
彼女の気持ちは読めないけど、氷川さんは俺の言葉に微笑んでくれた。
「私は、貴方を尊敬しています。『自分の音』を持っている、貴方を。ライブ中に誰よりも……
その言葉に、少しだけ胸が痛んだ。応援してくれていた子から客観的に聞かされると、思い出しちまう。ああ、やっぱ
「そう言ってもらえると嬉しいよ。動画、見てくれたのかな?」
「……はい。どの動画も、とても楽しそうでした」
「そっか……ありがと。これからも投稿してくから、良かったら覗いてみてね」
「もちろんです。私も楽しみにしていますので。……すみません、湊さん。準備に移りましょう。では、失礼します」
氷川さんは一度俺に頭を下げると、バンドメンバーにも謝りつつリハの準備に入った。それを機に、俺と氷川さんの様子を見守っていた他バンドの女の子たちも続く。
すれ違いざまに何人か握手を求めてくれた子が居たが、彼女たちも
でも……うん。声をかけてくれたロックに感謝だな!
「んじゃあ、俺はもう帰るよ」
「えっ!? リハーサル、見ていかないんですか?」
「もう手伝えることも無さそうだし、お姫様の夕餉も近いから。楽しみは明日にとっておくことにするよ。客入りまでにトラブったら連絡してね。早めに来て手伝うからさ」
「あ、ありがとうございます! お疲れ様でした!」
チュチュや他のRASのメンバーが誘いに乗るかはまだ分からないけど。今から明日が待ち遠しいな。
人が増えてより慌ただしくなった
「……あっ、スーパーのタイムセール終わってる……」