RASのマネージャーにされた件【完結】   作:TrueLight

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30.藪をつついて蛇を出す

「チャンネル登録者数10,000人突破☆ おめでとうございますー♪」

「おめでとーありがとー。乾杯!」

 

 RASの中で定番の息抜きになりつつある動画投稿を終え、俺は自室でパレオちゃんとグラスをぶつけ合った。今日は珍しく二人のみ。初めはこの二人だけだったのに、随分寂しく感じるようになっちまったな。

 

 レイヤにロック、マスキングは少し遅れるらしく、チュチュも今日は忙しそうだ。なんでも難航していたMV撮影の日程調整に目途が立ったらしい。先方のスタジオは半年先までスケジュールが埋まってるなんて話だったハズだが、さすがの交渉術だ。出所不明のコネも多分に発揮されてるんだろうが。

 

 まぁそんなわけで、久々にパレオちゃんと二人。Y〇UTUBEに上げた動画ページやそのコメント欄を眺めながら駄弁っているのである。

 

「さすがに伸び悩んできましたが、投稿を始めてからのペースで言えばかなりのものですね♪」

「そう、だよな……。一万ってもう数字に実感が湧かないんだよね」

 

 それなりに人気があったと自負していたバンド活動だったが、俺も当然一万人の前でライブなんざしたことは無い。ネット上で再生するのとライブに足を運ぶのじゃあ全然ハードルが違うだろうけど、少なくとも一万人。このチャンネルの演奏動画を楽しんでくれてる人が居るんだ。凄いのは分かるが、それを肌で感じるのは難しい。

 

「でもでも、どの動画もたくさんコメントをいただいてますよっ☆」

 

 パレオちゃんがタブレットを指し示してくれる通り、投稿動画はどれも大量にコメントが送られていて、一番下までスクロールするには少々時間がかかる。ありがてぇ話だべ。

 

『相変わらず上手い』

『あぁ^~パレオちゃんカワイイんじゃぁ^』

『今日は二人だけか。原点回帰?』

『結局コイツRASのなんなん?』

 

『キャーSOUさん抱いてー! わたしをつま弾いてー!!』

『パレオはRASあるけど、この人はライブとかしてないのかな。 バンド解散したんだっけ? もったいない』

『アンちゃんちょっとそこ代われや』

 

『SOUさんの歌ってるとこまた見れるとか嬉しすぎる』

『再結成待ってます!!!!!』

『RAS専用のチャンネル作ってくんないかな~。コメ欄にファン湧きすぎ。ここSOUさんのチャンネルぞ? ゲスト参加してるからしゃーないけど』

 

 RASのメンバーも含めて正体を明かして動画投稿を続けているが、反応は概ね好意的なものだ。ちらほら俺に対する不穏なコメントもあるけど、これくらいなら可愛いもんだな。もっと拒否反応が出るかと思ってたんだが。俺がSOUってことも知ってる人には知れ渡ったみたいだし、当初の目的は十分達したと言えるだろう。なんとなく始めて理由は後付けだから、目的もクソもないけどね。

 

「パレオちゃん人気だねぇ。そこ代われだってさ」

「ソースさんこそモテモテじゃないですか~☆ 男性にも女性にも♪」

 

 そう、意外なことにそうなのだ。RASのメンバーへの風評ばかり気にしていた俺だったが、俺自身のことを応援してくれる人も意外にいらっしゃったのだ。もちろん一万人もファンが居た訳無いから、SOUを知っているのはチャンネル登録者の中でもごく一部だろうけど。これが世話になった人の耳にちょっとでも入ってくれれば願ったりだな。

 

「そうだな、こんなに人気なら、俺にも春が来るかもな~」

 

 このコメント欄の中からそんな存在が出る(わき)ゃ無いけどな! いつものように適当な軽口を言うと……あり? 反応が芳しくないな。てっきり苦笑されると思ったのに。(悲しみ)

 

 パレオちゃんはきょとんとした様子で俺の顔をじっと見つめていた。

 

「………………えと。あ、あはは~ソースさんは冗談がお上手ですね☆」

 

 お、再起動した。

 

「オイオイ冗談とは失敬な。ホントに俺のことスキーって女の子が居て、もしかすると俺がその子と恋人になる可能性もなくは無いだろ?」

 

 無いけど。そう続けるとパレオちゃんはまたもやビシリと動きを止めた。どした? いつにも増して変だな。(失礼)

 

「…………い、嫌ですよソースさん♪ ソースさんには素敵な方がいらっしゃるじゃないですか~☆」

「やだなぁパレオちゃん。そんな素敵な関係の人はいないぞ~?☆ ……言ってて悲しくなってきた」

 

 俺がわざと悲し気に目を伏せるも、パレオちゃんはまだ硬直したままだった。むぅ、熱演だったと思ったんだが、これは通じなかったか。ぶっちゃけ恋愛願望薄いしなぁ俺。

 

 この話題じゃあパレオちゃんのウケを狙うのは難しそうだな、なんて考えながらグラスの茶をごくごくした。空調のおかげであまり汗をかいていないグラスを机に置けば……おぉ? その代わりと言わんばかりに、パレオちゃんの方がだらだらと結露……じゃなかった、汗を額に浮かべていた。

 

 大丈夫? この部屋ちょっと肌寒いくらいだと思うんだけど。

 

「あ、あぬっ……あのぉ、ソースさん。つくぬことを伺いますぐぁ……」

「ん? うん」

 

 めっちゃ噛むやん。

 

「その……今、お好きな女性とか、いらっしゃらないんですか?」

 

 お? コイバナか? しかもその聞きかた、まさかパレオちゃん、俺を……? とはならない。この青い顔色でそんな勘違いが出来たらそいつは多分ナルシストだな。かと言ってどういう意図での質問なのかはまったく分かんないけど。別に隠すようなことでもない。

 

「残念ながらと言うべきか、居ないねぇ。暇があればギターギターギターたまにお歌の時間だったし」

 

 ライブハウスに出入りする関係で知り合った女の人に声をかけられることはあったが、一対一だとほぼ断ったからな。そういうの(・・・・・)にかかずらってる時間でどれだけ練習できるかがいつだって頭にチラついた。今は当時ほど切羽詰まってないけど。誰にだって胸張れるくらいには俺も上手くなったからな。

 

 そんな風に懐かしみつつ応えると、パレオちゃんはまたしばらく黙り込み……そして、意を決したように口を開いた。

 

「……そ、ソースさんは……。チュチュ様のこと、どう思ってらっしゃいますか? その、す……好き、ですか?」

 

『大好きよ、ソース』

 

 パレオちゃんの問いかけを聞くと同時に、夏祭りのあの日、チュチュがかけてくれた言葉が脳裏を過る。次いで、ここ最近のチュチュの様子も。

 

『今日も一緒に寝ても……えへ。……温かいね、ソース…………ソウ。 あっ、な、なんでもなぃ……っ』

 

Shopping(お買い物)に行くのね? 気を付けてね……いってらっしゃいっ』

 

『ねぇソース。今度メンバーを集めて、Roseliaのライブ映像を鑑賞しようと思うんだけど……研究とかじゃなくてっ。あ、あくまで鑑賞会! それでその、もし私がヒートアップしちゃったら、止めて欲しいの……。っ、うん……Thanks(ありがと)

 

 不安そうに。嬉しそうに。楽しそうに。……幸せそうに。コロコロと表情を変えて、俺の名前を呼ぶチュチュの姿が鮮明に思い起こされる。

 

 チュチュのことが好きかって? そりゃ答えは決まってる。聞くまでもないはずだが……ああ、そうか。

 

 パレオちゃんはチュチュの親友だ。本人たちがどう思っていようと、どんな風に接していても。年が近くて、同じバンドで活動してる二人だ、その絆は他のメンバーとは似て非なるものだろう。

 

 俺とチュチュは最近距離が近いからな、不安に思っても(・・・・・・・)仕方ない。チュチュに危険が迫っていないか、とかな。なら安心させてやろうじゃないか、そもそもチュチュ相手に下心なんて湧かないし。……祭りの日、ちょっと普段とのギャップにときめいたのは秘密にしておこう。

 

「ああ、もちろん好きだぜ! 妹みたいに思ってるからなっ!!」

 

 俺が出来る限りの笑顔でサムズアップすると……あれ? パレオちゃんは愕然とした様子で目を見開き……パタリと、俺のベッドに倒れてしまった。えっ、ナンデ!?

 

 

 

 結局、その後集まったRASのメンバーは、当然パレオちゃんも含めて練習に入ってしまい。それから数日の間、パレオちゃんは俺への態度が素っ気なくなってしまった。すぐに戻ったけど……深く聞いたら藪蛇になりそうだし、チュチュに聞く訳にもいかん。俺がハズイしな。

 

 そんなこんなでこの日起きた、パレオちゃんの不審な態度の謎は迷宮入りしてしまったのであった。

 


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